15.神楽を望む繁華街 【下】
【STAGE:第一混合繁華街】 【SIDE:女神、ハニエラ、シニエラ】
「僕らも、けっこう長く旅をしてきたんだね」
「え、シニエラがそんなこと言うなんて・・めずらし~・・・」
珍しく不安げな表情で、銀髪の少女はそう言ったのだ。
「今更何が怖いというのです、シニエラ」
これは嘘だ。
“何が怖い”って、私は全て怖い。
戦うことも、自ら敵の城へと向かっていくのも。
「死ぬことなんて微塵も怖くないんだよ、女神様」
・・そうだ。
どれほど能力を使うのが怖くても、敵たちが血を流して倒れていくのが怖くても。
不思議と、自分の命が消えるのは、そう恐ろしいものでもない。
「・・・でもね」
彼女は、傍にあった花壇の端に腰かけ、心底不安そうに俯いた。
「仲間が死ぬのが何より怖いんだ」
それは恐らく、無愛想な彼女の本音なのだろう。
きっと、1度目の旅でも深い傷を負っていながら、ハニエラと共に、私のために目覚めてくれたのだ。
成り代わった私と共に、亡き仲間を報いるために。
「・・それは私も同じだよ、女神様」
涙を堪えたような笑顔で、もう一人の天使もそう言った。
「誰かを失うというのは、自分を失うことより恐ろしいものですよ」
ですが、と私は微笑みながら付け加える。
「自分を失えば、誰かを守ることも、庇うこともできません」
神妙な面持ちで、二人の天使はじっくりと話を聞いていた。
人通りも徐々に消えていく繁華街の隅で、静かに声を張る。
「だから、死なないでください」
私だって、そう簡単に死ぬわけにはいかない。
「当たり前だよ、女神様っ」
「僕らは、あなたのために生きているんだから」
“そんな簡単には、死ねない”と。
二人がそう言った。
「・・さて、そろそろ皆さんも見終えた頃でしょうか」
「そうだね~・・・あ、エリタとレギート!」
長々と喋っていると、既に二人も合流していた。
「ただいま帰りましたわ、女神様」
「皆がまだなら、もうちょっと俺らで遊んでてもよかったんじゃない?」
「あなたは調子に乗るタイプですもの、一向に私のことを考えてくれないでしょう」
クスクスと笑いながら話すエリタを前に、シニエラが耳打ちをしてきた。
「ねぇ、女神様」
「ええ、怪しいですね」
「あれは・・確実に」
「「リア充だ・・・!」」
もう、確実である。
詐欺師が見せる嘘めいた笑みではなく、糸目が見せる感情のない笑顔でもなく。
二人が見せたのは、本当に幸せそうな笑顔だ。
疑わずとも、これは口を出すものではない。
「ただー、女神様ー」
「あぁ、皆さんほぼいらっしゃって」
イレイと婆やも、何やら光るカチューシャやストラップを持ち、目が痛いくらいピカピカしていた。
「なかなか眩しいね~、どこで売ってたの?」
「至るところに売っておったわい・・この機械少年に買わされてのう」
機械少年とか言うなよ。
映画でそういうのありそうじゃん。
「わー、遅れてすいません、皆さん・・!」
「ごめ、ん゛ね・・・・?」
ローズマリーを肩車して走ってきた霞が、ため息まじりに息をついた。
「かっ、霞くn」
「これで全員集合だね、女神さmむぐ」
「シニエラ・・・・!よりによってあなたが・・」
「ごめんごめん、つい反射的に」
ハニエラは言葉を遮られ、シニエラの胸倉を容赦なく掴んでいる。
さすがハニエラ先輩、実力行使。
「では改めて・・揃いましたね、皆さん」
目配せをして、全員集合を確認。
「ここから先は、本当に危ない場所だと聞きました」
ここから北上する、【悪魔神楽】や【双子たちの古城】がそうだ。
その向こうに聳える【魔王城】の傘下だろうか。
「命を落とすというのは、致し方ないことなのかもしれません・・・が、」
さっきのように、真剣な目つきで。
「できるだけ生きてみましょう、皆さん」
「おーーーっ!!!!」
「そう来なくちゃね、女神様」
北上するというだけで、何となく緊張してきた。
「では、行きますか・・・・・【悪魔神楽】へ」
そして、想像を絶する惨劇は、もう目の前まで迫ってきていた。