12.琥珀と白衣
【STAGE:白き灰の病棟】 【SIDE:女神、シニエラ、霞、イレイ】
とにかく誰か見つけるまで、渡り廊下から看護室まで、足がもげるほど歩き続けて1時間半。
誰も、見つからない。
「それはさておきおはようございます、シニエラ」
「おっはようございまーすウェーイ」
「ウェーイ」
「ウェーイ」
というやり取りも、1時間半繰り返している。
「全ッッ然見つからないじゃないですかイレイ、もう私たちの足は限界ですよ」
「俺もそろそろ足が全壊しそうなんだけどさー、絶対いるはずなんスよー・・」
とは言うものの、一向に見つからないのだが。
院長室だってトイレだって見て回ったし、いそうなところはもう・・。
「!・・・屋上だよ、女神様」
「ほいきた出発!!」
「そいきた集合!!」
「しゅっぱつかくにーん!!」
「「「「うぉぉぉおおおぉぉぉぉぁあああああぁぁあぁぁあ!!!!!」」」」
まさに低級悪魔のような雄叫びをあげて、私たちは走り出した。
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熱い叫びを冷ますような、静かな風が吹く屋上。
墓場を一望できるその眺めは、はっきり言って不穏だった。
そしてその屋上に寝そべる、白衣の男。
「・・あなたが、元ヤン囚人あがりの」
「うわー、大当たりだよ」
飄々とした糸目がこちらを向いて、へらりと笑った。
シニエラ様の予想は的中だったらしい。
「その通りだよ女神さん、俺がその元ヤン囚人あがり兼医者だ」
白衣が映える褐色の肌に、クルミ色の癖毛。
糸目を開くと分かる、琥珀色の美しい瞳。
これは余談だが、昔、南の地方では、エルフの目玉が高級な妙薬として使われていたらしい。
婆やがいつの間にかこいつをローズマリー状態にしていたり、詐欺師がその目玉を売りに出したりしないかが心配だ。
ああ見えても仲間思いな二人だし、大丈夫だと信じたいが。
「シニエラ、他を呼んできてください」
「御意」
やけに変わった返事をするようになったな、この子。
「そして本題ですが、元ヤン囚人あがり兼医者さん」
「遠路遥々何の用ですか、女神さん」
「私たちと共に旅をしてほしい」
「ふーん、いいよ」
あ、軽い。
しかもOK。
やったじゃん。
「あなたのおかげですよ、イレイ」
「おー、さすが俺!テン上げっスわー」
・・相変わらず8割は理解できないが、まぁよしとしよう。
「あなたのお名前を」
「レギート=イレンジェ・グロスカ。光栄だねー、そこらの女がハエに見えるほど麗しいよ、女神さん」
「それはありがとうございます。ちなみに、言葉より物のほうが嬉しいです」
「おーおーキツい性格してんねー、あいにく貧乏なもんで」
砕けているというか何というか、新鮮な奴だ。
なんか好き。
素で好き。
「あ、発見してんじゃん女神様っ!」
「僕のおかげだよハニエラ、聞いて、僕のおk」
「な、何てこと・・エルフではありませんか、早く言ってくださいまし!!」
「エリタ、調合の準備じゃ」
「待て待て待て待て待て薬品厨ども」
真面目に待って、君たち。
私、ちょっと信じてたんだけど。
「何ですか女神様、エルフの瞳は貴重で・・」
「そうですのよ、いい獲物を見つけてくれましたわ・・♪」
「ちげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーよ」
せめてセリフだけにして、エリタ。
指を折りながらニヤニヤするのはやめて。
「とりあえずその欲望は置いといて・・。仲間に入ってもらったんですよ」
「あら、そうでしたの?・・・・・・チッ」
「おーいおいおいおいおい詐欺師この野郎」
ちょっと腹黒さ出てきてるよね。
徐々に真っ黒になっていくんじゃないの?
「それなら仕方ないですねぇ・・」
婆やも渋々納得し、調合機具を片付けていた。
「エルフという種族もい畳まれますね、レg」
「ちなみにお嬢さん、俺の眼っていくらくらいでー?」
「そうですわね・・・貴族なんかの薬剤師を相手にすれば、ざっと数千万・・いや数億」
こら詐欺師。
勝手に見積もるな。
そして被害者も乗っかるな。
「これだけ歩いて仲間を見つけ出したんですから、もう少し気を遣いましょうよ」
「これは偽名でしょ?俺は君の本当の姿が見たいな」
「うふふ、口だけですのね」
・・もう、何も言うことはない。
優しい言葉をかけてやったのに、詐欺師を口説いてる医者なんてもういなかったのさ。
偽名使われてるけど。
「しかし女神様・・これから北上する【悪魔神楽】は本当に危ない場所だと・・・」
「・・・・分かっています。仲間と己の命を失う覚悟は、とうにできていますから」
婆やが、神妙な面持ちで話しかけてきた。
「ねっ、その前にさ!ここの繁華街でパーッと遊んじゃおうよ~♪」
「暗い雰囲気になっていても仕方ないですし、よければ皆さんで・・」
「そっスよ女神様、俺らはまだバリバリのゆとりなんスから、遊ばないとー」
そう言って三人が指さす場所が、【悪魔神楽】の前の【第一・第二混合繁華街】だ。
どういうところかは知らないが、“繁華街”というのだから、それは賑やかな街なのだろう。
「そうですね、少し寄り道していきましょうか」
「おーーーっ!!!」
こういうのは、転生前以来なのかもな。