クラン大陸編⑥―ハイデルの町・商業ギルド―
これからは短めになります。
よろしくお願いいたします。
「店を開きたいって?」
「はい。それで物件も探しています」
「それでどういったものを売るつもりで?」
「調味料や香辛料を…」
「ふむ。では、種類と商品の確認をさせてもらいます。それを踏まえた上で物件の紹介をさせてもらいます」
「はい。お願いします」
塩・砂糖・コショウを始め醤油や味噌、唐辛子系やカレー粉の原料となるスパイス類などを出していく。
職員が品質をチェックしていくが、最初の『塩』で騒ぎが起きたのは言うまでもない。
すぐに、ギルド長が呼ばれた。
「俺はこの商業ギルドのギルド長を務めてる『イアン』だ。アンタらとんでもないモノを売りにきたもんだな」
「で?商品に間違いないんでしょう?良い物件を紹介してもらえると助かるんだけど…」
「アンタら、この塩はいくらで売るつもりだ?」
「1キロ当たり銀貨10枚よ」
「安すぎだろっ!これだけの良質の塩ならキロ金貨1枚が妥当だろうが」
「本来ならそうすべきかもしれないけど…今は短期間で稼がないといけないのよ」
「リンゾの町の復興だったか…?理由が理由だし協力すべきか…。そうなると、リザーナ…ジバットを呼んでくれるか?」
「分かりました。少々お待ちください」
リザーナと呼ばれた女性が席を立ち、別室へと向かう。
「砂糖にコショウ…他の香辛料や調味料も一級品ばかり…か。まったく、喜んで良いのか悪いのか…」
「粗悪品を売っているお店には悪いけど、この町…いえ、この大陸にとっても貢献できる品になると思うわよ」
「確かに…恩恵の方がはるかに多いだろうなぁ…」
「ギルド長、お連れしました」
「イアン、何か用か?俺はこれから色々と周らねぇとよぉ…」
「まあ、待てジバット。お前さんに良い話があるんだ。奥の部屋についてきてくれ。アンタらもな」
香辛料を仕舞いギルド長について歩く。
奥の部屋に通されると、高級そうなソファが並ぶ部屋だった。
「まあ、掛けてくれ」
「…で、良い話ってなんだ?店を手放さなくていい方法でも見つかったのか?」
「そいつはこれから話し合いで決まるんだがな」
「出来れば自分たちで売りたかったんだけど…?」
「正直に聞くが、アンタらには時間が無いんだろう?そうなると、1つの場所だけでなくこの大陸中であの調味料や香辛料を売る気じゃないのか?なら、信用のおける人間に代理で売ってもらうのはどうかって話なのさ」
「その相手が、このジバットさんだと?」
「ジバットは、このハイデルで魚介類を売る商売をしていたんだが…」
「ああ。シーサーペントの群の件ね」
「やはり知っていたか。そのシーサーペントのせいで漁に出られなくなってな。コイツのところは特に庶民のために安値で売っていたもんでな…」
「なるほどね。良心的にやってきたことが逆に自分の首を絞めたわけね」
「しかも、魚市場も少ない水揚げで獲れた魚介類を売るとなるとどうしても高値になるからな…」
「頑なに安く売ろうとすれば爪弾きよね」
市場の人たちも生きていかなくてはいけない以上、今の状況で今まで通りの価格で販売することもできない。
なのに、販売側が元の値段で売ろうとすればどこにしわ寄せがいくのか?
一目瞭然であるわけで…。
「お人好しで頑固…嫌いじゃないわ」
「じゃあ?」
「ちょっと待ってくれ。俺はこの嬢ちゃんたちの売り物を確認していないんだ。悪いが、商品を確かめさせてくれ」
「商人なら当然ね。これよ…」
「塩か…―――っ!?」
ペロッと舐めて、ジバットの表情が変わった。
他の調味料や香辛料も確かめていく。
「アンタら…これをいくらで売るつもりだ?」
「キロ銀貨10枚よ」
「冗談だろう?」
「悪いけど本気よ。儲けるために売る気はないの。多くの人に買ってもらうのが目的だから…」
「だが…いくらなんでも採算が合わないんじゃないか?」
「そこは考えなくて良いわ。独自のルートで作っているから…。それよりも、物によって値段が変わるから全てがキロ銀貨10枚とはいかないわ」
「それはそうだろうよ。しかし、問題そこじゃない。他の業者はどうするつもりだ?こんな値段で売られたら潰れちまうぞ」
「どうするのが良いと思う?」
「…どうやら、俺を試しているみてぇだな?」
アタシの含みのある笑みにジバットが正面から受ける。
「全店舗でも売らせる。それが理想的だ」
「言っておくけど、どこで売ってもキロ銀貨10枚のまま。これは譲れないわ」
「しかしそれでは…」
「どこかにしわ寄せがいくってことよね。普通に考えれば販売側が痛手を食うわけだけど…させたくはないわよね?」
「そうだな…」
「そこで、本店以外では数を限定して卸すことにするわ。それで、儲けの4割を販売店に渡すってことでどうかしら?」
「あえてこちら側がしわ寄せを被るのか?」
「それでも十分何とかなるわ。それでどうなのかしら?」
「良いだろう。ちなみに俺たちの給料は?」
「同じ4割よ」
「良いのか?」
「もちろんよ。アタシのモットーはいつもニコニコ明朗企業よ」
この世界、ブラック企業はダメである。絶対。
人を大切にできない企業をアタシは認めない。
「それより…魚が少ないとなると肉の需要が上がるわけよね…」
「普通に考えてそうだろうな」
「ギルド長、精肉店の状況はどうなのかしら?」
「肉の需要が増えたが…ハッキリ言って不足気味なのが現状だ」
「じゃあ、肉も売りましょう」
「あ、あるのか?」
「そうね。オーガーの肉なら300体分はあるわね」
「…アンタら…本当に何者なんだ?」
「ただのお節介焼の冒険者よ」
正直なところ、アイテムボックス内の全てのモンスターの数は2000以上はあるわけで…。
食べるとなれば、何年かかるか…。
なら、いっそ売ってしまえばと考えたのである。
「精肉店に肉を卸てくれるならありがたい」
「解体と値段はそちらに任せるわ」
「それで、売る肉の種類だが…」
「角イノシシが300頭、ボルッドゥが150羽、オークが500頭、ローグリザードが200匹、ジグスネークが120匹、ブレイウルフが150匹、ゴルキャットが180匹、ダスベアーが80頭、コボルトが260体、ホーンマンティスが170匹、アーマードアントが120匹、オーガーが300体ってところね」
アイテムボックスを確認して言うと、ギルド長とジバットは口を開けてあんぐりしていた。
「アンタら…本気で何者だ?」
「普通の冒険者よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「いや…レベルいくつなんだ?」
「22だけど?」
「十分ベテラン冒険者並みじゃねーか。年齢いくつだよ」
「17歳よ」
「あ…あり得ねぇ…」
「上手にレベルを上げる戦い方ってのがあるのよ」
「おい。あれは上手なってレベルじゃないだろう?」
「地獄のシゴキだったわ…」
「大げさねぇ、2人とも」
「何だ、その笑顔は!?」
「悪魔の笑みにしか見えないわ」
文句を言うユズルたちに笑顔で応えるアタシ。
2人はそんなアタシをジト目で見るのだった。
「お前らも苦労すんな…」
「非常識を常識にしちまう…怖いもんだな」
なんか言いたい放題言ってくれるじゃない。
これは後でお仕置きね。
「…で、どのくらい渡したらいいかしら?」
「とりあえず、オークと角イノシシにボルッドゥを頼む」
「全部?」
「とりあえず、角イノシシを100頭分とボルッドゥを100羽、オークを200頭で頼む」
「ここで出すわけにはいかないわよね?」
「ギルドの裏にある解体場で出してくれ」
「了解」
言って席を立ちあがるアタシ。
それを見て、慌てたのはジバットだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…店の件はどうする?」
「解体場に置くもの置いたら見に行くけど?」
「じゃあ、任せてくれのか?」
「任せるには任せるけど…従業員は揃っているのかしら?」
「全員出勤しているが?」
「じゃあ、集めといてくれる。挨拶したいし」
「分かった」
「お店にはギルド長に案内してもらうわね」
「ああ。分かったぜ」
ジバットは急いで店に戻っていく。
アタシたちは商業ギルドの裏に行き、解体場に入る。
「おやっさん。大量のモンスターなんだが、解体を頼む」
「おう。どん位あんだい?」
「角イノシシを100頭分とボルッドゥを100羽、オークを200頭だ」
「こりゃあ、大仕事だな。ブラン、タージたちを呼んできてくれ」
「はい。親方」
いかにもベテラン職人と言った感じのオヤジさんに言われ、ブランと呼ばれる女性が驚く様子も見せず解体場を出ていった。
「アンタら、荷物はここに出してくるか?」
「一気に全部出していいの?」
「1種類ずつ頼む」
言われたとおりにする。
まずは角イノシシを出す。
それをオヤジさんは自分のアイテムボックスに入れていく。
それを見てアタシは安心してボルッドゥとオークを出した。
「…数は合ってるな。あとは解体してからだ」
「んじゃ、リザーナを呼んでおく。金額は、全ての解体が終わってからだが良いか?」
「お願いするわ」
「まあ、この量だと1週間はかかるが…?」
「こっちも色々とすることがあるし、大丈夫よ」
本来なら急いで次の町に行きたいところだが、そうもいかない事情がある。
町を復興させるために、人手を集めなくてはいけないし、店をある程度見届ける必要もある。
「ギルド長。リンゾの町の復興のために大工を集めたいんだけど…?」
「何人いるんだ?」
「そうね。集められるだけ集めてほしいんだけど」
「大工だけで良いのか?」
「冒険者も集めたいけど、これは冒険者ギルドで頼むんでしょう?」
「そうなるな」
大工募集のクエストを発行して、アタシたちはジバットの店に行くことになった。
ジバットの店は、港町を一望できる丘の中腹にあった。
海が見えて、潮風が心地よかった。