クラン大陸編⑤-パパワルの森での出会い-
「アタシはイズミ。リンゾの町で冒険者をしている者よ」
「仲間のユズルだ」
「同じくリリヴェルよ」
振り向いた先にいたのは冒険者3人と子供が1人いた。
「俺は・・ロウ。ナザーリィ大陸から来た冒険者だ」
「仲間のフィリィ」
「拙者は、ルジャでござる」
ロウと言う男は地面に膝をつき、片腕を庇っていることから怪我をしていることが分かる。
人間に見えるがなんとなく『違う』と言う感じがする。
フィリィは女性だが、耳の長さからエルフかな?
ルジャは黒装束に身を包んだ『忍者モドキ』。あの目・・獣感が半端ない。
子供は・・目も合わそうとしない。
見た感じネコ科の獣人っぽいが・・。
「まあ、とりあえず怪我の治療が先ね」
アタシはロウの容体を診る。
見た感じ肩口の嚙まれ傷だけのようだが、血の流れ具合やロウの息の荒さから普通の怪我じゃないことが分かる。
「ユズル。噛み跡を切り取って頂戴」
「削ぐ感じか?ちょっと厚くか?」
「念のためにちょい厚で」
「分か―――った」
嚙み口をを取り除く。血が勢いよく流れ出す。
「ちょ、ちょっと!?」
「慌てない。まずは・・キュア(治癒魔法)」
傷の部分に青光が灯る。
血はまだ流れている。
顔色に赤みが差していく。
ん。これでいい。
「続けていくわよ・・ヒール(回復魔法)」
ここで、傷を防ぐ回復魔法をかける。
流れる血が止まり、肉が増え・・肌が構成されていく。
完全に傷が塞がったところでアタシは身体全体にヒール(回復摩)をかける。
これで体力の回復もするだろう。
「これでもう大丈夫よ」
「あの・・さっきはなんで・・?」
「あれって、オーガーの噛み跡でしょう?」
「そうだけど・・」
「噛み跡の大きさはそれほどでもないのに血の流れや顔色の悪さからして毒素があったのは分かったから傷跡を切り取って、先ずキュアで毒素を身体から抜く必要があったのよ」
「それってヒールだけじゃダメなの?」
「身体に毒素がある状態で傷を塞いでも毒は消えないでしょう?治療は的確にしないと命とりよ?」
「そういうことだったのね・・」
キュア(治癒魔法)とヒール(回復魔法)がある時点で使い道が違うことが分かる。
だからこそ、ちゃんと理解した上で使ったわけだ。
「見た感じ、オーガーにやられるようなレベルとは思えないんだけど・・?」
「俺たちだけならな。モンスター討伐で路銀稼ぎをしていたらこの子を見つけて・・」
「なるほど。子供を庇って噛まれたわけか・・」
「そんなところだ」
「コラッ!助けてもらったら礼を言う」
「――な、なにすんだよ!別に頼んだわけじゃない」
「どういう経緯であれ、助けてもらったら感謝するのが筋ってものよ。アンタがどんな扱いを受けてたとしてもね」
「・・・ありがとう」
納得はしてないようだが、一応礼を言う子供。
こんなモンスターの徘徊する森の中に子供が普通いるはずはない。
とすれば、結論は1つしかない。
「名前はあるの?」
「・・ない」
「行く当ては?」
「・・ない」
「なるほど・・。どうする?2人とも」
「「良いんじゃない(か)」」
「じゃあ、決まりね。名前は・・『ユート』でどう?」
「・・ユート?」
「アナタの名よ。今からそう名乗りなさい」
アタシはユートの頭を撫でて笑う。
フフ・・生意気そうな面しちゃってカワイイわねぇ。
「おい。その子をどうするつもりだ?」
「どうするも何も森に置いておけないでしょう?連れていくのよ」
「お前が養うと言うのか?」
「人出は欲しかったしね。衣・食・住は保証するわ。まあ、ユートが嫌なら無理強いはしないわ。嫌がるヤツにかける時間も暇もないしね。手を取るかは今ここでユートが決めなさい」
慈善事業はアタシはしない。
生きるために働くのが当たり前の世界。
手を振り払うなら、覚悟はできていると言うことだから・・。
「奴隷・・か」
「生きていく上でする最低限の仕事はしてもらうけど、奴隷扱いはしないわ。まずはこの世界で生き抜く術を身に付けなさい。将来、アナタがしたいことが見つかるまで生かしてあげるわ」
「・・分かった」
「素直でよろしい。そっちの3人はどうするの?」
「どうするって・・」
「ロウの容体も気になるでござるし、いったん町に戻るでござるか」
「わりぃな・・」
「じゃあ、ちゃっちゃと森を出ましょう。アタシたちも今日は宿屋でゆっくりしたいわ」
「ということは、別の町から?」
「リンゾの町からね。ハイデルの町では物売りと人員と物資の確保に行くのよ」
「人員と物資の確保?」
「今、リンゾ町はモンスターの被害でほぼ壊滅的でね。町の復興には人手がいるのよ」
「なるほど・・でござる。今のハイデルなら給料さえ払えば人員の確保は難しくないでござるよ」
「だが・・そんな町で何を売ると言うのだ?」
「良質の塩などの調味料や香辛料を・・ね。丁度良いわ。お昼にしましょう」
そう言ってアタシは『握り飯』を取り出した。
シンプルに塩で握ったものだ。オカズにはウインナーと甘い卵焼き・・と、こちらもシンプルなのにしてみる。
「お・・美味しい」
「う・・うめぇ・・」
「これは塩が違うでござるよ。これほど美味しい塩は初めてでござる」
「モグモグ・・」
ロウたちは味に驚きながら食べる。
その横でユートが一心不乱に食べている。
アタシたちも食事を済ませる。
慣れ親しんだ味だが、こうも喜ばれると素直に嬉しかった。
「後・・2時間ほどで森を抜けられるわ」
「フィリィはエルフなので森には詳しいんでござる」
「へー・・便利ねぇ」
「ロウたちは路銀を稼いだら次の大陸か?」
「そのつもりではいるが、あいにく長居しそうでな・・」
「どういうこと?」
「シーサーペントの群れが出て3ヶ月ほど足止めされるようでな」
「それはご愁傷様ね。こればっかりは天災と思うしかないわね」
船旅の中で最も困るのは天候不順ではあるが、海ではモンスターの大群も天災の部類に入る。
特に大型のモンスターによる海域滞在はどうにもならない。
滞在理由は様々だが、一番多いのが餌となる食料が取れることでもあった。
彼らも生きているのだからしょうがないと言うところである。
「じゃあ、あなたたちもアタシたちのところで働いてみない?」
「それは願ってもないけど・・」
「良いのでござるか?」
「さっきも言ったけど、人員の確保も急務なのよ」
お金の問題はこの4日間のレベル上げでも分かるようにすでに地球で使ったであろう金額をはるかに上回るだけの金額を手にしていた。
レベルの低いモンスターだと金貨2~3枚、ちょっとレベルの高いモンスターで4~5枚、オーガーあたりで金貨が8枚増えていた。
しかも、複数を相手にするとボーナスが貰え、また種族がバラバラだとボーナスの割合も変わっていた。
気づけば金貨で5千枚まで増えていた。
そこに来てドロップされる素材の数々で食料も潤っていた。
ただでさえ、いろんな種類のモンスターと戦ったこともあり種類も豊富にあるのだ。
もちろん、食料系だけでなく物作りに必要な素材も種類多く集められたと言うわけだ。
今、アタシたちのアイテムボックスは色んな意味で潤っていた。
「そうね。日給で金貨3枚、それとは別に衣・食・住の提供でどうかしら?」
「至れり尽くせりだが・・好条件過ぎないか?」
「そうね。逆に怖いくらい・・」
「ぶっちゃけ、それだけ人材不足ってことよ。それに、アタシたちは大陸中の町を周らないといけないから信頼できる冒険者も必要になるわけよ」
「町の復興となると物資の搬送や人員を送り届ける『護衛』ってところか?」
「主な仕事はそうなるわね」
「ほかにも?」
「適材適所だけど、町ごとにお店を出すつもりだから従業員としての働き手も欲しいところね」
「なるほど・・。店の護衛も兼ねての働きでってことか・・」
「そういうことね」
正直、物が物だけに盗人が現れる可能性は高い。
そうなると腕の立つ人間を店番に置きたいと思うのは当然と言えよう。
そうなると信用が置ける人間が好ましいし、だからこそ見合った給金を払うことが信頼のバロメーターとなると言えるだろう。
「だが、簡単に信じていいのか?」
「森に置き去りになった子供を、怪我してまで守るお人好しを信用しない方がおかしくない?それに騙されたらそん時は自分の目の悪さを恨むわよ」
「そこまで言われては断れんでござるな」
「そうね。期待に応えてあげましょうよ」
「なら、こちらの素性も明かしておくとしよう。俺は『ライカンスロープ』のロウだ」
「私はエルフ族のフィリィ」
「拙者は、妖狐族の忍・ルジャでござる」
「ライカンスロープって人狼のことだっけ?」
「ああ・・。月の光を浴びると人狼化する」
「了解」
「・・それだけ・・か?」
「ほかに何かあるの?」
「いや・・ライカンスロープと聞けば嫌がるかと・・」
「アタシ、先入観で相手を見ないし、種族で差別もしないわ」
「ま、種族の違いなんて中身と関係ないしな」
「そういうことね」
同じ種族の人間の中にだっていけ好かない奴なんてざら。
たかが見た目の違いで好き嫌いを言うようならそいつの方がよっぽど信用できない。
「とりあえず、町に着いたら泊まる宿を決めて物件探しに行きましょう」
「予算はどれくらいだ?」
「金貨千枚までね」
「屋敷でも買う気か・・?」
「あくまで予算と言う意味よ。相場も良く分からないしね」
できれば機能性の高い物件が好ましいからねぇ。
それに場所も大事だし・・。
できれば防犯処置が施されていれば問題ないわけで・・。
「商売するなら、『商業ギルド』で申請しないとな・・」
「それって、申請代金が必要かしら?」
「ギルドに入会しないで店を開く場合は年間費を取られるはずだ」
「入会するとどうなるの?」
「他のギルドに入れなくなるというデメリットがあるな。特に冒険者を続ける気なら入会するのは止めておいた方が良いだろうな」
「なるほどね。まあ、冒険者ギルドに入会してるから商業ギルドは年間費でやっていくってことで・・」
「問題は人手だな。できれば信頼のおける商人が雇えればいいんだが・・」
「まあ、商品は本物なんだからやりたがる商人は多いと思うけど・・」
「後は信頼が置けるかどうかだな」
「それが1番の問題よ」
物が物だけに商売にすればとんでもない利益を生むのは確実だ。
それだけに悪用されるわけにはいかないわけで・・。
塩などの調味料は丁寧に作れば誰でも不純物のないモノが作れるはずなのだ。
にもかかわらずそれをしないと言うことは・・技術以前にこだわりも誇りも持っていないことを意味するのだ。
もっとも、それはこの大陸だけかもしれないが・・。
「その辺りも含めて『商業ギルド』に相談してはどうだ?あと簡単な人手としては『奴隷』を雇うのが定番だな」
「販売はプロに聞けってか・・もっともね。でも人手に奴隷って・・」
「なんか、いろいろとなぁ・・」
『奴隷』て馴染みがない分、どうも倫理的に引っかかるのよね。
「まあ好き嫌いはあるだろうな。しかし、誰もがみな『奴隷落ち』したくてなったのではない。已むに已まれぬ事情でという者がほとんどだ」
「犯罪者が奴隷になるんじゃないの?」
「犯罪者は罪人だからな奴隷と言う立場にはなれん。と言うよりも、我々一般人の生活に関わることもできないからな」
「じゃあ奴隷って・・・?」
「・・田舎じゃ奴隷がいないとは聞いていたが、ここまで何も知らないとはなぁ・・」
「小さい町で細々と暮らしてたから疎いのよ」
「確かに、奴隷とは無縁の暮らしでござろうなぁ・・」
う・・ごめんなさい。
本当は異世界人なんで知らないだけです。
・・とはさすがに言えない。
「それじゃあ、この世界の奴隷制度について教えよう」
「お願いするわ」
この世界アミルティアでは、『国』が管理する都市に町や村に住む住人に対して『税収』を納める様に決められている。
しかし、毎年のように災害やモンスターの襲撃などで税金を払えない住人が出るのだ。
それにより、免除されると言うことができず、その代りに作られたのが『奴隷制度』である。
奴隷落ちすることで『仕事』を斡旋してもらい税金を払うという風になっているのだ。
個人的に仕事を持たない者は奴隷落ちを進んでして働き場所を確保している者も多い。
なぜなら、奴隷は仕事量はあるものの『衣・食・住』は保証されていることや休日もちゃんと与えられるからだ。
「要するに人として最低限の保証がされる・・と?」
「そういうことだな。ただし、小さい町や村になると奴隷制はあまり使われない」
「どうして?」
「開拓中の町や村は災害やモンスターによって壊滅してしまう場合が多いので、その度に奴隷落ち扱いすると開拓者が集まらなくなるといけないから、3年間は国から援助金が貰え、そのあと5年間は税金が免除されるんだ」
「なるほど・・ん?」
リンゾの町って確か開拓の町だったはず・・。
じゃあ、税金免除の話は・・。
「あの腐れ町長~・・。騙しやがったなーっ」
「確か、リンゾの町は開拓の町だったな。となると5年の免除期間中かもと言うことか・・」
「いや・・確か、開拓8年目だったと聞いているぞ。本来なら、今年を乗り越えれば正式に町として登録されるはずだったらしいが・・」
「運悪くモンスターの大発生で町が半壊状態になったと言うわけか・・」
「じゃあ、町が復興できれば・・」
「正式に町として認められるだろうな」
こうなりゃ、意地でも町を復興させちゃる・・。
「ハイデルの町が見えてきたわよ」
「建物が見える~。やっと野宿から解放されるわ」
フィリィの言葉にリリヴェルが本音を漏らす。
まあ、一度フカフカなベッドを味わえば土の上で寝る冷たさと土の固さは身体に堪えると言うもの。
よく、焚き火で暖を取ながら~・・というシーンを見かけると思うが、アレだけで温まるわけもなく・・。
まして、火の番なんて1日目で満足してしまうほどの苦行。
出来ることなら野宿なんてしたくない・・と言うのが本音だ。
・・やっぱ、『簡易コテージ』を用意するべきだったと反省する次第である。
まあ、それでも火の番だけはしないといけないんだけどね。
そう言えば、獲得ポイントはアレから一度も使ってなかったっけ・・。
一度落ち着いたら、スキルや魔法を覚えたほうが良いかもね。
すでに今持っている魔法やスキルは極めたと言ってもいいだろうし、オリジナルで作るにしてもポイントを残しておけば試すこともできるのだから、補助的な魔法で使えるモノがあれば面白いと言うもの。
「宿屋だが、俺たちが借りているところでまず聞いてみるか?」
「そうね。それが良いわね」
なんとなくだが町並みが見えると足早になる。
5分ほどすると城壁が見え、門へと続く道に出たのだった。
門の周りには、人の姿が見える。
けっこうな賑わいだった。
「冒険者の姿がほとんどだな」
「まあ、ここで足止めを食らって俺たちと同じように路銀稼ぎに出ている連中だろう・・」
「まあ、裕福なパーティばかりじゃないからそれも仕方なしよね」
シーサーペントの弊害を受けた冒険者は多い。
これなら、報酬次第である程度人手集めも楽かもしれない。
30分後、門ついたアタシたちは冒険者カードを提示し町の中に入る。
ただし、リンゾの町と違うのは町に入るのに入町料を払う必要があったことだ。
まあ、一人当たり銅貨10枚なので安いモノなのだが・・。
ただし、それはアタシたちのように金持ちならということ。
宿屋の1日の滞在料が銀貨1枚で、まあまあと言うのだからある意味『高い』と言わざるを得ない。
アタシたちはロウの案内で宿屋に着くと何とかチェックインできた。
ギリギリ一部屋だけ残っていたらしく、2部屋を男女で分けることで同意したのだ。
荷物を置き、お風呂でサッパリしたところで商業ギルドへ向かう。
この世界にはどうやら不動産屋はないらしく、お店の物件も商業ギルドで請け負ってくれるとのこと。
あちこち回らなくてすむのは楽でいい。
「商業ギルドに行くわよ!」
ついにハイデルの町での一歩を踏み出したアタシたち。
期待と不安に胸を膨らませ、歩き出すのだった。
ハイデルの町に到着しました。
次回からは大きく活動されて行きます。