クラン大陸編④―開店―
昨日はっゆっくりと体を休めて、アタシたちは朝食を済ませると町長の家に来ていた。
「店を開きたいだと?」
「ええ。調味料や香辛料を売る店なんだけど。店を開く許可と場所。あと信頼できる人も紹介してもらいたいんだけど・・」
「お前ら・・今この町の状況が分かっていっているのか?」
「重々承知の上で頼んでいるのよ。それに、認めてもらえるなら町の復興にも強力させてもらうわ」
「具体的には?」
「資金の提供、他の町に行って大工や冒険者や資材の手配に協力するわ。ただし慈善事業じゃないからそれなりにこちら側の利益も貰うつもりだけど・・」
「なにが欲しいというんだ?」
「そうね。復興に協力ができたことを目に見えるような形で示せたら、向こう5年間の税金の免除でどうかしら?」
「・・・良いだろう。しかし、こちらに有利な条件にも思えるが・・?」
「その辺は、この町を拠点とする冒険者の義務ってことで納得して頂戴」
「よかろう。・・ついてくるがいい」
50代後半くらいの若い町長の後に続き歩く。
見れば見るほど町の状況は芳しくない。
住人はいるもののみんな表情は暗い。
この状況はハッキリ言ってよろしくない。
う~ん・・どうするべきか?
「ユズル。お店を見たら一度家に戻って食料を持ってきてくれない?」
「・・炊き出しでもするのか?」
「まずは住人の活気を取り戻すのが先と思っただけよ。頼める?」
「分かった。だが、一応こっちでも食料の確保を頼むぞ」
「オーケー」
まあ、この町で手に入れられる食料には限りがあることはユズルも理解はしているだろう。
それでもすべてを『善意』で施すことはよくない。
一度施しを受けると人はそれを当たり前だと感じてしまうもの。
それは危機的な状況で『誰かが助けてくれる』・・と言う安易な考えにいきついてしまうことにも繫がるわけだ。
だからこそ、自分の身はいざとなれば自分で守るというくらいの気構えがなくてはならないのだ。
まあ、こういう世界だから当然なのだが・・。
「ここでどうだ?」
「・・比較的にみて手直しも楽そうね?」
「・・全体的に木材で作られているから外装は大丈夫そうだな。あとは支柱・・大黒柱がどうなっているか・・だな?」
「そこはユズルに任せるわ。町長さん、人材だけど・・」
「うむ。まずはこの家の持ち主の親子なんだが・・・」
「あの・・町長様。こちらの方たちは?」
「おおっ。居たのかい?ナユラ。子供たちは一緒かね?」
家の中から出てきたのは、30代くらいの女性だった。
でも、顔は痩せこけて服装もツギハギだらけだった。
『ザ・貧乏』を地で行く感じの女性だった。
「え・・ええ。いますけど・・」
「それは良かった。出てきてもらえるかな」
ナユラが呼ぶと怯えたように3人の子供が出てくる。
「お。おはようございます・・」
「「・・ございます」」
まだ遊び盛りと言った感じの子供が3人顔を出す。
1番上が女の子で下二人は弟・妹である。
3人とも下着姿としか思えない薄着であった。
「アタシの名前はイズミ。みんなの名前を教えてくれるかしら?」
「か・・カレア・・です」
「トビー・・です」
「ミカ・・です」
おうおう、怯えとるのう。
こんなチャーミングなねーちゃんを見てビビるとはカワエーのう。
「実はだな。ここに居る者たちが店を開きたいと言っておるんだが・・」
「この店を手放すつもりはありません!」
ナユラが叫ぶ。
まあ、急に来て大勢で取り囲んで『お店を開きたい』などと聞けばそういう態度に出るのは普通の反応だろう。
「誤解しないでくれ、ナユラ。店を奪うつもりはない。まずはこちらの話を聞いてくれぬか?」
「・・分かりました」
「ここで、調味料や香辛料を売るお店を開きたいの。それで、店を維持してくれるまじめな働き手も一緒に欲しいって話なんだけど・・。私たちの本業は冒険者だし、他の町に行って商品を売るのに専念したいから、店を任せたいんだけど・・どうかしら?」
「・・お店を一軒任せる・・と言うお話ですか?」
「もちろん、ちゃんとした働きをしてもらえないと困るわ。帰ってきて店が潰れていたら嫌だしね」
「売る商品の確認をさせてください。それから決めさせてもらいたいのですが・・?」
「もちろんよ。こちらも家の状態を確認させてもらいたいんだけど・・いいかしら?」
「カレア。案内して差し上げて」
「・・はい。こちらです」
「悪いな。頼むよ」
カレアに続くようにユズルが家の中に入っていく。
アタシは見本として持ってきた調味料やら香辛料やらを取り出す。
「試してみて」
「では・・」
結果から言うと店を開くことに了承が得られた。
と言うより、ぜひやりたいと言われた。
まあ、分かるけどね。
町での売値を聞いてやる気も出たようで、表情が生き生きとし始めている。
とは言っても、健康状態も清潔保持も及第点以下なのは変わらない。
まずは『衣・食・住』の充実を図るべきだろう。
「イズミ。家の方は少し手を加えれば良さそうだ」
「じゃあ、さっきの手はず通り取ってきてくれる?」
「分かった。ロックは、町長さんと一緒に大工のところに行ってこの店を優先して改築してもらってくれ」
「おう。了解だ」
「ナユラさん。食材の売っているお店に連れてってもらえる?」
「こちらです」
「リリヴェルは子供たちの相手をお願いね」
「任せて」
それぞれに自分のすべきことに行動する。
アタシは、食材や料理道具を買い集めていく。
ついでに薪や水瓶なども買っておいた。
ユズルは屋敷に食材を取りに行き、ついでに固形のシチューの素も持ってきてくれた。
ロックは町長とともに大工を連れてきてくれたのですぐに家のチェックを頼む。
リリヴェルは子供たちと追いかけっこをして遊んでくれている。
その間にアタシたちは料理に取り掛かる。
釜土を借りて寸胴鍋でシチューを作っていく。
冒険者から買い取った獣肉をミンチにし、卵・塩・コショウ・パン粉を入れてかき混ぜてかtらフライパンで焼いていく・・100%獣肉ハンバーグの出来上がりだ。
ソースには、濃厚ソースにケチャップを加えた簡単なものにした。
ついでに、焼き上げる前のパンのタネを使って、形を手のひらに乗るくらいの大きさの円形に整えて油で揚げる。
砂糖をまぶして『揚げパン』の出来上がりだ。
「町長さん。町の人たちを集めて頂戴。料理を振る舞うから」
「わ、分かった・・」
一度作った料理をもう一度作り始める。
あ~あ・・今日はこれで終わりね・・。
・・まあ、みんなの笑顔が見れたからいいとしよう。
結局、5回繰り返すことになり、『収穫祭』並みの大騒ぎになったのは言うまでもない。
お店の改築には3日かかり、その間はナユラ一家はアタシたちの家で住むことになった。
服を新調するついでに、お店で着る服も作る。
冒険者を雇い、お店とナユラ一家の護衛を頼むことにしたり、森での食糧確保や素材・鉱石採取のクエストの発注などを出して冒険者が働けるようにした。
料理を振る舞ったことで、調味料や香辛料の取引はすでに始まっている。
料理の味が格段に上がったことで、活気も上がり始めていた。
しかし、根本的な住居問題や食料不足は否めない。
農家や家畜産業はようやく進み始めたが、実質的な結果が出るにはまだまだ時間がかかる。
とりあえずだが店の責任者にロックを置き、ナユラ一家に委託するという形をとることにしてアタシたちは隣町の『ハイデルの町』を目指すことにした。
『ハイデルの町』は、リンゾの町から北西にある『港町』だ。
クラン大陸1の大きい町で、大陸を行き交う旅客船はここに集まる。
そのためか、数多い種族が集まっている。
でも、『ある不満』からただの通過点のような扱いにしかなっていない。
その『ある不満』とは・・『料理の味』である。
高級料理店や高級な宿屋では満足の行く料理は出るが、当然値段も高額である。
しかし、一般的な店では味の落差がヒドイのだ。
その原因は調味料や香辛料である。
どうしても質の良い調味料や香辛料は高額になってしまう。
とは言っても、イズミたちが売ろうとしているモノに比べればどうしても不純物の雑味は残っている。
それでも、この世界では高級品なわけで・・。一般に出回るモノはそこに2・3の雑味が入っているのでどうしたって料理の味に満足することはないのだ。
特に辺境の大陸である『クラン大陸』はその味ランクが最低なため通過点的な扱いになっていた。
逆を言えばこの立地の条件だからこその戦略でもあるわけだ。
「今日で4日目・・。まさかこんなに強くなれるとは夢にも思わなかったわ」
「やり方よ、や・り・か・た。ただ闇雲に戦っても実力には繋がらないってことね」
「どういうこと?」
「同じモンスターを相手に戦い続けても『本当の実力』は上がらないってことだな」
「簡単に言えばそういうことね。詳しく言うと色んな相手と戦うだけでもダメ、ランダムに・・実力差も考えて波を作るように戦うのが効果的な実力上げに繋がるのよ」
「・・波?」
「同じモンスターだけでも、レベルの低いモンスターだけでも、レベルの高いモンスターだけでもダメなのよ。レベルの低いモンスターと戦ったら次はレベルの高いモンスターと戦う、物理攻撃の得意なモンスターと戦ったら次に魔法攻撃が得意なモンスターと戦う・・みたいに変化を付けて戦うってことなのよ」
「変化のある戦いをすることで戦いの幅・・臨機応変な対応が身についていくと言うわけだ」
「さらに応用としては、そういう幅のあるモンスターとの混同戦が普通にできるようになったら最低限の実力がついたという証になるわ」
「冒険者って・・そんなに大変な職業だったのね・・」
まあ、本来ここまで考えて戦う冒険者は少ないだろう。
これも、引きこもりながらゲーム三昧に生きたことで『行き着いた』のがこの方法だった。
アタシたちのような引きこもりゲーマーは漫然とゲームをしているわけではない。
結局のところ、ゲームの世界に入り込み、本物を体験したい気持ちでやり込む。
所詮はゲームという考えはなく、ゲームの持つ世界を隅々まで味わいたいと考えて、その世界に入り込んでやり込んでやり込んで・・その結果が今のアタシなのだ。
「冒険者の行き着く最後なんて戦いの中で死ぬこと・・なんて言う人がほとんどでしょう?でも、アタシは違うわ。冒険者はもっと貪欲に生きるべきよ。そして、どんな戦いにも動じない強靭な心と奇跡の一手を生み出すたゆまぬ努力・・・それがアタシの目指す冒険者の生き方よ」
冒険者として生きる以上は、最善を尽くすべき。
これこそがアタシのモットーである。
生半可な強さなどいらない。
ひたすらに最強の道を行くのみ・・だ。
「さて、今日中には『パパワルの森』を出たいわね」
ハイデルの町まではリンゾの町から歩いて7日ほどの距離があり、その間に『パパワルの森』を通らなければならない。
森に入ったのは2日前で、モンスターを狩りまくりながら北上していく。
知識通りなら、今日中には森を出れるはずである。
「だな。できればもう少し余裕を持って旅をしたかったが・・今は、優先すべきことがあるからな」
「まあ、それでも戦いながら進むけどね」
「そこは妥協しないのね・・」
正直、レベルだけで言えばロックを追いつく勢いでLV.20台を突破していた。
この旅を終えてリンゾの町に戻るころにはロックのレベルは追い抜いているだろう。
驚いたのは『経験優遇の能力』が働き、リリヴェルのレベルの上がり方を変えていた。
アタシたちと同じ勢いでレベルが上がったのだ。
『絆』の判定の振り幅の広さ・・どうなっているのやら・・。
まあ、『嬉しい誤算』ではあるけど・・。
「それにしても・・なんで新しい技や魔法を習得しないんだ?」
「理由は2つあるわ。1つはロックの言っていたことで試したいと思ってね」
「試す?」
「自分で『技』を作ることができるか?ってことよ。技を教えてもらうことで習得できるなら、自分で作るのもありじゃない?」
「そういうことか・・。確かに理屈は通っているな。しかし、その割には技作りしていないよな?」
「それはもう1つの理由からよ」
「そう言えば、理由は2つあったんだったな」
「もう1つの理由も簡単。技や魔法を極めるってことね」
「「極める?」」
技や魔法は習得して終わり・・と言うのは素人の考えだ。
甘々である。
「いい?技や魔法は習得してからが本番よ。『使える』と『使う』じゃ意味が全然違うの。技にしても魔法にしても特性、使用範囲、使用レンジ(距離)、応用度をちゃんと掴みきれて初めて『使える』ようになるわけ。例え相性の悪い技や魔法でも使い方1つでピンチをチャンスに変える逆転の一手にだってなれる。だけで、ただ使うだけで満足していると思わぬ落とし穴に引っかかることもある。だからこそ、『極める』ことが大事なのよ」
コマンドで『技』や『魔法』を選んで使うだけのゲームとは違う。
自分の身体を使って実際に『やる』というのは全然違うんだよね。
だからこそ、VRMMOゲームが出たときのアタシの・・いやアタシたちゲーマーのテンションは一気にMAXになった。
初めこそ仮想空間での身体の稼働には多くの制限があったが、最新のVRMMOゲームでは本当の身体を動かしているような感覚を味わえるようになり、そうなると色々な意味で『不満』が感じられるようになっていった。
そこには『ゲーマー』と言う枠を超えて『冒険者』としての自分を極めようとする意識が芽生え、いつしか『伝説の冒険王のパーティ』と呼ばれるようになった。
『モンスター・サーガ・オンライン』の『剣王・シオウ』と言えばその筋では超有名人で名が通っている。
まあ、結構恥ずかしいこともやっても来たなぁ・・懐かしい思い出よね。
「何だろう・・。冒険者になりたいと言ったあの時の自分を恥ずかしく思うわ・・」
「俺もこれほどとは・・考えが甘すぎたのかもしれないな」
「まあ、別にすぐさま強くなれなんて言わないわよ。ただし、心構えだけは忘れないでね」
武器を構え、森を歩くこと10分。
アタシは『あること』に気づいた。
「この錆びた鉄の臭い・・・血の臭いだわ」
「・・どうやら戦闘中みたいだ。どうする?」
「間に合うか分からないけど、助けに行きましょう」
「じゃあ、お先に行きわよ」
リリヴェルがご自慢の羽を振るい飛んでいく。
アタシとユズルも後を追うように駆け出した。
「・・近いわね」
「人間らしい気配が3つ。モンスターの反応5つ・・うち2つはかなり大きいぞ?」
「このまま風下をキープしながら近づくわよ」
「了解!」
なるべく草むらを避け土の上を駆けていく。
風下を取って走るのも同じ理由で、臭い・音を相手に察知させにくくさせるためである。
「――・・イズミ。オーガーが2匹もいるわよ。あとはボブリンが3頭」
「ボブリンはリリヴェルの魔法で牽制。オーガーはアタシとユズルが引き受けたわ」
「お任せ!」
「了解だ!」
リリヴェルが戻ってきて報告する。
アタシは駆けながら支持を出した。
「ボブリンは戦ったことがある相手だから良いとして、オーガーって初めてだから油断しないようにね?」
「気配の感じからして・・巨体なのは間違いないな。牽制の魔法を頼む」
「オーケー」
魔力を貯めた左手をいつでも解き放てる用意をしたところで、視界に移ったのはモンスターの姿だった。
赤土色の肌、剝き出しの牙に禿げ上がった頭に小さな角が見えた。
「あれがオーガー・・」
駆ける足を止めることなくオーガーに接近する。
ここは、一気に突っ込んで相手の寝首を掻くのが効果的だろう・・。
「―――ファイアボール(火球魔法)!」
言葉の後に火球が生まれ、アタシは巨体の胴体に向かって放った。
このタイミングなら避けようがないだろう。
1体のオーガーの胴体にファイアボール(火球魔法)が当たり、その衝撃でバランスを崩したオーガーがもう1体のオーガーを巻き込んで倒れる。
すでにユズルの間合いはオーガーたちの至近距離に詰めていた。
「―――・・一刀両断斬り!!」
縦に一文字の斬撃を放つユズル。
気合の籠った一刀は2体のオーガーを切り裂いていた。
「風の精霊・シルフよ!我に力を・・シルフィ―バ(弱風刃精霊魔法)!!」
透明な三日月形の真空の刃が同時に3つ放たれてボブリン3頭を襲う。
断末魔を上げてボブリンは真っ二つになってその場に倒れた。
「あっけなかったわね。もう少し手応えがあると思ったんだけど・・」
魔力吸収路をオーガーたちに向けると、身体から黒い光が浮かび上がり魔力吸収路に吸い込まれていき、同時にオーガーたちの遺体は土に溶け込んでいった。
「レベルアップしても攻撃力が上昇しているのかがいまいち分かり難いんだよなぁ・・」
「筋肉が分かりやすく付くわけでもないからね。ステータスにも明記されないし」
普通のRPGなら力とか素早さとかが分かりやすく表示される・・が、現実問題として基礎体力を上げるトレーニングをするわけでもないので数値として上昇だけする・・と言うのはありえない。
では、レベルとは何を意味しているのか?単なる経験の積み重ねに過ぎないということなのか?
武器や防具のように鉱石の質や強度によって攻撃力の高い武器や防具ができるという風に分かりやすければ問題ないのに・・。
そんな都合の良い話などあるわけもなく・・。
「とにかく、まずは・・・」
アタシは背中に感じる視線に耐え切れず振り向くのだった。
それぞれのレベルのみ書き込んでおきます。
イズミ:LV.22 ユズル:LV.23 リリヴェル:LV.20
詳しくは次回で。