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ユズル、異世界を生きる

よければ、ブックマークと評価をお願いします。

ようやくもう1人の主人公が動き出します・

応援、よろしくお願いします。

精進して執筆します。

 ユズルがこの世界に来てまず驚いたのは、イズミのスペックの高さであった。

 ゲームヲタクと言っていたが、豊富な知識はゲームで培われたと言うよりもちゃんと現実を理解している上でのモノだと言うことがすぐ分かった。

 一見すると奇想天外と思える発想も、現実を理解した上で生み出された『策略』と言って良いだけの計算しつくされた計画ばかりだった。

 一度、理解できると手を貸したくなるのは彼女の魅力も加味されているだろう。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆



 ~ユズルの気持ち~


 イズミといると退屈しない。戦い1つ取ってみても彼女には理論があり、聞いているだけで思わず納得してしまう。彼女は『女性』としてではなく『人間』として魅力を持った女性だった。

 俺の価値観などあっという間に破壊するこの『破壊神』は、きっとのこの世界を変えるだろう。

 俺はそれを隣で見ていく。いや…支えていけたらと思う。


 これは『恋』などではない。俺は初めて『人』を『好き』になれたのだ。この気持ちが『愛』に変わり、『恋』になるかもしれないが…今はまだ、ただ『イズミ』と言う『人間』を『純粋に好き』であれれば良い。


 これが、ここまでの旅で得た俺のイズミへの思いだった。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆



 ユズルは実は影の功労人だ。

 暴走しがちなイズミを軽くいなして落ち着かせる妙技はコミュ力の高さを感じさせた。

 また常識人なので、リリヴェルの普通の悩みにも対応できるし、周りへの配慮も自然と対応するので、イズミとは違った意味で人気がある。

 まあ、ユズルにしてみればイズミの手助けをしているに過ぎないのだが、出しゃばらない態度が好感が持てるともっぱらの評判である。

 だが、ユズル自身は自分の評価などどうでもいいというのが本音である。

 彼にとっては、自分の評価がイズミのプラスになるならそれでよかったのだ。


「ユズルって、自分では何かしたいことないわけ?」


 イズミに言われて、正直なところ自分では何かをしたいと言う気持ちが無いし、考えてもないことが改めて分かった。

 ユズルにとって世界などどうでもよく、結局イズミを中心に行動しているだけだった。

 彼がそうなったのは『過去の記憶』のせいであろう。

 記憶と言っても抽象的なものであり、具体的に何があったのかは思い出せない。

 ユズルにとって『人』とは、裏の顔を持つ者でしかない。

 醜く、汚い…それが『人』と言う生き物であり、彼は嫌悪している。


「イズミはどうしてそこまでやるんだ?彼らだって善意のみで動くわけじゃないぞ」

「…そんなのあたりまえでしょう?この世の中善意だけで渡り歩けるほど平和じゃないわよ。みんな、大なり小なり『闇』を抱えているものよ」

「じゃあ、裏切られることも…?」

「まあ、あるでしょうね。やられたら、きっちり倍返しするけど」

「人間不信にならないのか…?」

「…逆に聞くけど、綺麗すぎる人って信用できる?」

「え?」

「アタシは無理だわねぇ。『心が綺麗』って言葉にすると良いように聞こえるけど、それって一度でも汚れたらどうなると思う?それに、無菌室で育てられて綺麗な物しか見ない人が物事の本質を見抜けると思う?アタシは綺麗な物も汚い物も知って、それとうまく付き合ていくことが大事だと思うの」

「それは…」

「確かに譲れない部分はあるから、自分が無理と思う人と付き合う必要は無いと思うわ。でも、醜いだの汚いだのだけで人を嫌うのは間違いね」

「……」

「人は善意も悪意も持っている…だから『人』なのよ。アタシはそんな『人』が好きよ。欲望も野望も持たない人なんて魅力ないじゃん」

「そうか…そうだよな」


 俺の中にある記憶の断片。それは、人の悪意ばかりが目立っていたような気がする。

 だが、逆を言えば俺自身がその悪意に飲まれてたんじゃないか?悪意が悪いものと決めつけ、嫌悪していた。でも、善意が絶対に正しいわけじゃない。そのくらいのこと分かっていたはずなのに…。


「アンタはもう、この世界の住人。確かに『地球』には行けるけど、それはあくまでも『オマケ』みたいなものよ。ここで、生きていくんだから『過去を引きずるな』よ」

「…ああ。そうだよ。俺はもうこの世界の人間なんだ。過去の幻影に惑わされる必要はないんだ…」

「アタシは過去の記憶を自分のために使ってる。アンタもそのくらいの度量を見せなさいよ」

「…過去を捨てるんじゃなくて、過去を利用する…か。イズミはやっぱり面白いな」


 常に俺の上を行く女。

 俺はイズミを改めて好きになった。


「俺はどうしてこんな簡単な答えに気づけなかったんだろうな…」

「考え過ぎなのよ、アンタは。もっと気楽に生きなさいよ」

「気楽にか…。じゃあ、俺もいっちょやってみるか」


 俺の中の霧が晴れた。

 その瞬間、何かがしたい…そんな意欲が出てきた。


 この世界に来て、俺はただの傍観者だった。

 だが、これからは違う。

 俺は、俺の人生を生きる。


 まずは手始めに『屋台』をやってみようと思う。

 この世界に来て、香辛料や調味料の質の悪さは料理の味にも多大な影響を及ぼしていた。

 だが、それ以上に料理のレパートリーが少ないのだ。単純な煮込み料理や焼き料理などはあるもののちょっと手間のかかるような料理は無いと言うのが俺の印象だった。

 リリヴェルが俺たちと旅してるときに食べていた食事で最も気に入っていたのが『ハンバーグ』だった。

 そして、この世界にはまだない『軟らかいパン』を作る。俺がやりたい屋台は『ハンバーガー専門店』だ。

 そのためには…。


「うん?パン屋を紹介してほしい?」

「はい。屋台をやりたいんのでどうしても必要で…」

「屋台か…まずは申請をしてもらえるか?」

「もちろんです」


 屋台を出すための申請用紙を書き込んでいく。

 そこで、ギルドマスターのイアンが俺に言った。


「君が自分から何かをやると言い出すとは思わなかったよ…」

「ちょっとした心境の変化ってやつです」

「…フフ」

「何ですか?」

「いや…良い目になったと思ってよ」

「…ありがとうございます」


 そう言って、申請用紙をイアンに出す。


「それで、屋台はこっちで手配するか?」

「いえ…こちらで用意します」

「んじゃ、場所代だが…」


 屋台は、イズミに頼んでネット注文で頼んでいる。

 この世界には無い太陽光発電システムを搭載した鉄板とオーブン付きのキッチンの屋台。

 ちょっと値は張るが、イズミからも快くOKを貰えた。


「それで、パン屋だが…ちょっと頼むがある」

「…え?はい。何でしょうか?」


 イアンが深刻そうな顔での頼み事。

 嫌な予感がしていたが、今はそれも楽しめる余裕がある。


「実はな…俺の知り合いに良いパン職人がいたんだが…」


 話はこうだ。

 イアンの知り合いの『リゴール』というパン作りの名人がいた。

 しかし、寄る年波には勝てず腰を痛めて一線を退いた。

 娘の『イリア』が跡を継いだが、味までは至らず店は徐々に傾きだしたと言う。

 彼女自身は、やる気も根気もある。だが、実力が圧倒的に足りていない。

 そこで、今回の俺の話しである。

 俺が作りたいと言った『パン』。これが、彼女の店の起死回生になるんじゃないか?と言うことだった。


「どうだ?」

「分かりました。まずは彼女の腕前を見させてください」


 正直な話…俺の持ってきた『秘策』を使えばこの世界で『パン革命』を起こせるだろう。

 でも、いや…だからこそ『イリア』と言う女性のことを知っておきたいのだ。


「じゃあ、早速行くか」

「お願いします」


 俺は歩き出す。

 ここから…だ。ここから、イズミと俺の異世界冒険が本当の意味で始まったんだ。

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