ぜんりょくきょうそう!
「おーほっほっほ!ここをとおりたくば、わたくしとしょうぶしなさい!」
ぷかぷかゆらゆら進んでいると、探すまでもなくありすの方から声をかけてきた。
けれど、突然の出来事に咄嗟に反応できるわけでもなく。俺たちを乗せたボートはそのままぷかぷか流れていき――
「って!ちょっとまちなさいな!どこいくんですの!まって、まってー!」
ありすが大きな声で呼び止めるも虚しく、ボートはどんどん流れていってしまい――
ってそうじゃないし!
俺は慌ててボートから降りプールに入って、ボートをプールサイドへと寄せていく。……乗っている2人、さきくんとみづきは手伝ってくれなかった。
どうにかプールサイドにたどり着き、ボートから降りると、ぜいぜいと肩で息をするありすの姿があった。
「やっと……おいつきましたわ……こんどこそ、ぜぇぜぇ、しょうぶですの……」
なんだかかわいそうになってくるが、先にありすに何をしたいのかを聞くことにする。
「それで、しょうぶってなにをするの?」
「ふっふっふ、よくぞきいてくださいましたわ!」
復活早いなぁ、なんて考えながらありすの話を聞いてみると、ありすのいたゾーンには25m……と大人と同じようにはいかないが、それでも10mくらいはある競泳プールがあった。子どもの身長でも足が付くくらいに浅いプールだけれど。
そんなプールでやることといえば、もちろん一つしかない。
「どっちがはやくむこうがわにつくか、きょうそうですわ!」
やっぱりそうだよなぁ、なんて思いつつ俺は勝負を了承した。ありすのことだ。勝負が終わるまで、てこでもこの場を離れようとしないだろう。
それぞれのレーンに入って、泳ぐ準備をする。ふと横を見ると、浮き輪につかまったありすの姿があった。
「っておよげないの!?」
「わたくし、このすがただとうまくおよげませんの」
俺はなるほど、と思った。
確かに、普段の身体と勝手が違い、走るのが遅かったり、転んでしまったりということがあったと思う。ならばこそ、泳ぐのだって勝手が違うのではないだろうか。
そういえばこのプールにやってきてからというもの、まともに泳いだことはないことに気がついた。溺れたり流されたり、水を被ったり、波に引かれたり……。
「ちょ、ちょっとたいむ!」
俺は競争が始まる前に、タイムを取った。
「いったいなんなんですの」
「まだおよいだことなかったから、ちょっとれんしゅうさせて」
俺がそう言うと、ありすは不承不承了承してくれた。
ふう、と一息つき、手を伸ばして、足で思いっきり壁を蹴った。
すいーと進み、クロールの形に手を動かし、脚をバタつかせ、そのまま沈んでいった。溺れそうになったので、その場に立ち上がる。
無言でプールサイドに上がって、りんの元へと歩いていく。水がぽたぽたと滴る音だけがする。誰も、何も言わなかった。
「りん」
「うん、なにもいわんでええよ。ほら」
俺はりんから浮き輪を受け取ると、それを装備して、ありすの横のレーンに入った。
「……それじゃあ、きょうそうしよう!」
「なにをなにもなかったみたいなかおをしてますの!?」
他のみんなは空気を読んでくれたが、ありすだけは誤魔化しきれなかったようだ。
「ありすはのりわるいなぁ」
「あなたがそれをいいますの!?」
「まぁまぁ、そんなことよりきょうそうしよう?」
「そんなこと!?」
ありすはぎゃーぎゃーと叫んでいたが、無視して泳ぐ体勢をとる。次第にありすも静かになっていき、文句のありそうな顔をしていたが、競争をする気になったようだ。
「それじゃーいくでー。よーいどん!」
りんの合図で、2人で同時に水を蹴る。
ばしゃばしゃばしゃばしゃ。全力で足を動かし、どんどん進んでいく。きっと外から見たらゆっくりとしたスピードなんだろうけれど、本人たちはそれはもう一生懸命だ。
「ま、け、ま、せん、わー!」
ありすが気合の入った掛け声で、スピードアップする。けれど、俺も負けるつもりはない。
「まけ、ない、もん!」
ばしゃばしゃばしゃばしゃ。そして、壁に手をタッチ。横を見れば、壁に手をつけたありすの姿が。
「どっちがさき!?」
「どっちがさきですの!?」
2人揃って、プールサイドにいるみんなに聞いた。
けれど、みんな苦笑している。なにがおかしいのだろうか。
「あんな、ふたりともどうじにごーるしたで」
俺はありすと顔を見合わせる。そして2人で笑いあった。このゲームには、ちょうどいい結果なのかもしれない。




