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8話:おともだちをつくろう!

  俺が『ようじょ・はーと・おんらいん』をプレイし始めてから、早いもので1週間が過ぎた。気がつけば毎日ログインしている。月本も同じだ。

  今日は何をして遊ぼうかと、まるで本当に子どもみたいに考えながら昼飯を食っていると、隣に月本がやってきた。


「よぉ」

「……ん」


  口の中に物が入っているので、手振りで挨拶する。月本もさっさと飯を食べ始めた。ふと、前から疑問に思っていたことを、いい機会だと月本に聞いてみることにする。


「そういえばさ」

「うん?」

「クエストとかって発生の方法ってわかってるのか?」

「いや、かなり複雑にランダム化されているらしい」


  月本が言うには、『ようじょ・はーと・おんらいん』で使われている管理用のPCは普通のPCとは違う、所謂スパコンを使っているらしく、処理速度が段違いらしい。それによって、クエストの分岐や、発生タイミングなどが、完全にランダムになっているらしく、もはや運ゲーだとも言われているそうだ。クエストを発生させるにしても、態度やなんかで、別のクエストになったり、クエスト事態が発生しなかったりと様々らしい。


「けど、中には固定で発生するものもあるらしくってさ。そういうのは競争率高いから、見つかっても独占されて広まらないんだけどな」

「へぇ、そういうこともあるんだな」


  俺が食べ終わって一息ついていると、月本はもう食べ終わっていた。食べるの早くね?いや、俺も食べるのは遅いんだけどさ。


「今日な」

「ん?」

「俺、ログイン出来そうにないんだわ」

「……マジか」


  月本がログイン出来ない。それはつまり、るながいないということだ。非常に困ってしまった。るながいないということは、1人で遊ばなくてはいけないということだ。誰か他に友達でも作れよなんてツッコミを受けそうだが、人見知りなのでそんな簡単に友達ができていたら苦労はしていない。


「いやいや、ひなちゃんならともかく、お前がそんなに残念そうにするなよ」

「……そんな顔してたか」

「してたしてた」


  してたか。なんか、最近現実の方でも子どもっぽくなってきてやしないだろうか。……いい年なのに情けないな。


「まぁ、俺もインできないのは残念なんだけどな。……あのアホがポカしなけりゃ残業なんてなかったのに……」


  どうやら、月本の部署の誰かがやらかしてくれて、今から残業確定らしい。ご愁傷様だ。


「というわけで、今日はひなちゃん1人で頑張ってくれ」

「いや、いっそインしなけりゃいんじゃね?」


ーーーーーー


  なんて言っておきながら、ついログインしてしまった。日課になってしまっていてて、月本がこないことも忘れて普通にゲームを起動していた。慣れってのは恐ろしいね。

  大分スカートにも慣れてきたので、1人で歩いても大丈夫。……というわけでもないので、スカートの裾を押さえてモジモジして歩いていた。

  もじもじとことこ。滑り台をすすーっ。もじもじてくてく。

  うーん。いつもるなと一緒だから張り合いがないというか、なんだかつまらないというか。もういっそ本当にログアウトして今日はお休みにしてしまおうか。

  そんな、もやもやとした、微妙な葛藤に苛まれながら歩いていると、気になるものを見つけた。室内で遊ぶ幼女たちの中で、ただ1人で絵本を読んでる幼女を見つけた。

  水色の髪をショートカットにして、服装は俺と同じ、初期装備の半眼の幼女は、ただジーっと絵本を読み続けていた。

  俺もその幼女の横に座って、絵本を読むことにした。1人で遊んでいる子の横なら、こっちも1人で遊んでてもさみしくないはず。

  ストンと足を伸ばして座って、絵本のページを開く。これは、シンデレラか。うへぇ、ガラスの靴とか歩きにくそう。かぼちゃの馬車はさすがにダサいんじゃないかと思う。久しぶりに読んでみると、絵本も結構面白いな。


「……あの」

「ふぇ?」


  割と集中して絵本を読んでいたら、水色幼女に話しかけられた。何か気に触るようなことをしただろうか。


「……できれば、ほかのところにいってほしい、です」

「えぇ!?」


  水色幼女は淡々と俺にそう言った。なんとも寂しい発言だ。


「いいじゃない!ちょっとよこでえほんをみるぐらい!」


  俺はほおを膨らませてぷりぷりと怒った。……うん、なんで怒ったんだろうな、俺。


「……えぇぇ、ごめん、でも……」


  水色幼女はおろおろして謝ってきた。なんかこっちが悪いことをした気分になる。いや、実際こっちが悪いんじゃないだろうか。そう思うと非常に申し訳ない気分になってきた。


「えぇと、ごめんなさい。わたしあっちにいくから……」


  そう言って俺が立ち上がろうとすると、NPCの保育士のお姉さんが近づいてきた。


「あ、そこの子達。お魚さんにご飯あげておいてもらってもいいかな?」


  お姉さんがそう言うと、俺と水色幼女の前にウィンドウが現れる。これって……

横を見れば、水色幼女があちゃーという顔をしていた。そして訳を説明した。


「……ここ、『おてつだいクエスト』はっせいぽいんと。ほうしゅうはやすいけど、まいにちかならずはっせいする」


  俺はなるほどと思った。つまりこの水色幼女は、自分の見つけた『おてつだいクエスト』を独占したかった訳だ。それは悪いことをしてしまった。


「……ごめんなさい」


  俺はしゅんとして、水色幼女に謝った。


「……ん、いい。どうせいつかばれるとおもった、から」


  水色幼女は怒ってはいなかったようだ。それどころか、一緒にやろうと、台座や餌を用意してくれた。立ち上がった水色幼女は、俺の背よりもげんこつ1つ分ぐらい小さかった。ちんまりしていて、かわいいと思った。

  2人で魚のいる水槽に、パラパラと餌を落としていく。その餌を見つけた魚が、パクパクと餌に食いついた。

  俺はその様子をおーっと感心しながら見ていた。この身体だと、些細なことでも全てが新鮮に感じてしまう。横を見れば、さっきまでのやる気の無い半眼と違って、キラキラとした目で魚を見る水色幼女がいた。


  ・おてつだいくりあー!

  2ぺたがおくられました!


「おさかな、すきなの?」


  俺が水色幼女に話しかけると、ハッとして、さっきまでの自分の様子を見られたことに、恥ずかしくなって顔を赤くした水色幼女は、


「……おさかなだけじゃなくて、どうぶつはなんでもすき。ここだと、このおさかなしかかってないから、えさやりはわたしがやる」


  そう言って、半眼に戻っていた。俺はそれがおかしくてクスッと笑った。水色幼女はむっとした顔になる。


「ごめんね。なんか、おかしくて」

「……しつれい、です」


  この子、ちょっとかわいい。なんというか、妹とかがいたらこんな気持ちになるのかもしれない。


「じゃあ、ここのことはひみつにするから」

「……いいの?」


  確かに待っていれば2ぺた貰えるのは楽かもしれない。けれど、それよりも。


「また、いっしょにあそんでくれる?」


  俺はにっこり笑って言った。

  水色幼女はビックリした顔をして、しばらくしてからこう言った。


「……みづき。わたしの、なまえ」


  これは、そういうことでいいんだろうか。友達になってくれるという事だろうか。


「わたしは、ひな。よろしくね、みづき!」

「……よろしく、ひーちゃ」

「ひーちゃ?」

「……げんごもじゅーるが、なまえをよぶときだけへんになる。ひとりでいたのはそれもりゆうだけど、ひーちゃなら、いい」

「そ、そうなんだ」


  なんにせよ、このゲームを始めて、初めてるな以外にフレンド登録ができた。

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