おぼれてしまって
ビーチバレーで遊んで、少し休んでから波のプールをあちこち探したけれど、るなもありすも見つからなかった。
いったいどこに行ったのだろうと思うけれど、とりあえずこの周りにはいないだろうから、またボートに乗って流れるプールをゆらゆらと進んでいく。
ゆらゆらぷかぷか。波を緩やかに進んでいくのも悪くはないのだけれど。
「ちょっと、せまいんでもうちょっとそっちいけないっすか?」
「……もうむり。さきがそっちにいくべき」
2人に囲まれて身動きの取れない俺は何も言えないが、この状況は如何なものか。助けを求めてりんの方を向いてみると、1人浮き輪で流れるりんは悠長に手を振ってきた。……わかっててやっているに違いない。ろぜったさんも同じように、こちらを微笑ましく見ている。どうやら、俺に助けはやってこないらしい。
「りんー!ちょっとなんとかいってよー!」
「まーまー、たのしそうでええんとちゃう?」
そう他人事のように言うりんには、何も期待できそうになかった。
両側からぎゅうぎゅうとくっつかれて、いやくっつかれること自体はいいんだけど、ボートが揺れて危ないっていうか、もう、落ちる、まず……
どぼーん。
ボートがひっくり返って、そのままプールに沈んでしまう。
ごぼぼがばば。突然の出来事に、うまく息ができない。少し水も飲み込んでしまったようで、すごく苦しい。ゲームなのにこんなに苦しいのか、なんてどこか冷静に考える自分もいるが、どうにもいかないようだった。
ごぼごぼと苦しいのが、ざばぁと引き上げられる。
「げほ、ごほ、ごほ」
「大丈夫?苦しくない?」
咳き込むのをどうにか抑えて、目を開いてみれば、目の前にはNPCのお姉さんがいた。水着……というよりは救命胴衣を着けていて、ライフセーバーとかそういう役割なのだろうか。
お姉さんは俺たちには見えていない専用のウィンドウを操作しているのだろうか。空中でしきりに手を動かし、ホッとした顔になるとこちらを向いて話し始めた。
「うん、脈拍その他問題なし。ゲームの中とはいえ、溺れたりするとやっぱり危ないし、現実の身体の方にも影響出たりしちゃうから、気をつけてね?」
「は、はい」
お姉さんは笑顔だったけれど、どこか迫力のある声でそういった。……多分NPCじゃなくて、中にちゃんと人が入ったスタッフだったんだろうな。そうじゃないとウィンドウなんて出せないだろうし。
「あっちの子達にも注意は終わったから、後は危なくないように楽しんでね。じゃあね」
お姉さんの示す方向には、しょんぼりと項垂れて怒られているみづきとさきくんの姿があった。
怒られているのはかわいそうかな、何て思ったけど、本当のプールとかだったら危なかったんだし仕方がない。
とぼとぼと歩いてくる2人を、りんが慰めていた。
「まーまー、やってしまったんはしょうがないやん?」
「……でも」
「ひなちゃんをきけんなめに……」
なんだか落ち込み方がおかしかったので、ここは俺が一言言ってあげないと。
「ふたりがぶじでよかったよ。でも、あーいうのはあぶないから、めっ、だよ」
人差し指を立てて、俺は2人に言った。……なんか、言いたかったことと違う。溺れた影響で、どこかの再現モジュールに変な影響がでてる?いや、いつも通りといえばいつも通りなのか。
でも、俺にまで言われた2人は泣きそう……というか、ついに泣き出してしまった。
そんな2人をなだめてから、再びありすとるなを探しに向かうのだった。




