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きがえたら、あつまって!


  更衣室から出て、いざプールの方へと行ってみる。目の前に広がる光景に、俺たちは目を輝かせていた。


「うわぁぁ……!」


  施設全体を環状に周る、流れるプール。波を打つプールもあれば、時折噴水から勢いよく水が吹き出す、膝までも水のない浅瀬のプール。ウォータースライダーも、長い長い迫力のあるものから、それこそすべり台程しかないものまでさまざまだ。さらには、ゴムボートに乗って滑り降りるものまであり、プールと言うよりはもはや遊園地と言ってもいいほど、数多くの遊ぶためのものがそこにはあった。休憩のための施設も揃っており、自販機売店はもちろん、サウナや水着のままで入れる温泉などもある。

  これは、確かにお金を払ってでも入る価値があるのかもしれない。その証拠に、多額のゲーム内通貨を払う施設のはずなのに、あちこちに子どもの姿が見受けられる。


「にゃー、ひとおおいわねー」

「にんきしせつですし、とうぜといえばとうぜんですわね」


  るなとありすが、そんな話をしていた。確かに、これだけの設備が揃っていれば、多少無理してでも行きたくなるというのが道理だろう。後から聞いた話では、入場料は1000ぺた必要なんだとか。1回の『おてつだいクエスト』が大体10ぺたから20ぺたなので、100回も『おてつだいクエスト』行えば入れるから、特別高級というわけではないのだけれど、貧乏性の俺にはやっぱり高級施設に感じてしまう。

  けれどせっかく来たんだし、今日はそういうことは気にしないで楽しもうと思う。けれど、まだ全員揃っていない。


「なにからあそぼうか」

「まって、まださきくんがきてないよ」


  俺たちはみんな同じ更衣室だったが、男の子のアバターのさきくんだけは男子更衣室に行っているため、完全に別行動だ。どこに行ってしまっているのか、一向に姿が見えない。


「どこか、めだつところにいたほうがいいかな?」

「でも、へたにうごくとはぐれるんとちゃう?」


  俺はさきくんを探しに行こうと思ったけれど、りんが言うことももっともだ。これだけの広い施設、下手に動き回ると、みんな迷子になってしまいそうだ。

  どうしたものかと考えていると、るなが何かを思いついたかのようなポーズをとる。


「そうだ!あれがあるはずだよ!」


  そう言うと、どこかへ向かって歩き出するな。俺たちは、一先ずそれについていくしかなかったのだった。


――――――


「いくらなんでもあんまりっす!」


  ようやく合流できたさきくんが、抗議の声を上げてくる。

  るなのとった方法というのが、以前もしたように、迷子センターの放送を使うという内容のものだった。そのおかげで、すぐに合流はできたものの、まるでさきくんが迷子になっているかのような放送が、施設全体に流れてしまっていたのだった。そのせいで、さきくんが顔を真っ赤にして怒っているのだけれど。


「あんなはずかしいことするなんて、ひどいっす!」

「ごめんってばー。でも、すぐにごうりゅうできたしよかったよね!」

「ちょっとははんせいしろっす!」


  相変わらず悪びれもせずに謝るるなに、さきくんは相当ご立腹だ。ここは俺がどうにかするしかないか。

  とりあえず、他のメンバーには先に遊んでるように伝えた。ありすなんかは、しかたないですわね、といった様子で他の子たちを連れて先にプールへと向かっていった。


「さきくんさきくん」

「きー!……なにっすか」


  俺が話しかけると、むすっとした顔でぶっきらぼうに返事をするさきくん。なんだか、ちょっとかわいい気がする。

  さきくんの気がそれた隙に、るなも何処かへと走り去っていった。……なにも言ってないのに逃げやがって……。それよりも今はさきくんだ。


「ようがないなら、いまははなしかけないで……」

「わー!ある!ようならあるよ!」


  ここでるながいないのがばれたら、また怒り出してしまうに違いない。どうにか気をそらさないと……。けど、話の内容も特に思いつかない。うぅ、困ったなぁ。

  って、あれ?なんだか、さきくんの顔が赤いような……。


「あの……ひなちゃん?みずぎ、それしかなかったんすか……?」


  水着、といえばそうだった。今の俺の格好は、スクール水着だったんだ。着ている俺自身も恥ずかしいんだけれど、この格好の俺と一緒に歩いたり遊んだりするさきくんはもっと恥ずかしいのかもしれない。

  さきくんはといえば、膝ぐらいまである海パンに、クリーム色のパーカーを羽織っている。男の子だし、そんなに着飾ったりはしないよね。


「うん……みんなはそれぞれかってたんだけど、わたしはよういしてなくて」

「いや、いいんすけど、ああもう!」


  さきくんは急に叫んだと思ったら、着ていたパーカーを脱いで、俺に着させてチャックを全部締めた。


「これ!ぜったいぬいだらだめっす!いいっすね!」


  すごい剣幕で言うさきくんに、俺はこくこくと頷くことしかできなかった。

  さっきまでさきくんが着ていたからか、少し暖かい。男の子用だから、腕まくりをしないと手が隠れてしまう。股下は丸見えだから、これはこれで恥ずかしい気がするけれど、スク水丸出しよりはマシなのかも?さきくんの優しさに甘えてしまうことにしよう。

  さきくんはパーカーの下には、水着なのだから当然なのだけれど何も着ていない。子どもなのだから筋肉がついているとかそういうことは無いのだけれど、やっぱり女の子とは違うんだなぁ、なんて改めて思う。


「あの、あんまりみられるとはずかしいっす」


  そう言って、上半身を隠すような動作を見せる。

  一体全体、なんでさきくんが照れてるんだろうなぁ……。

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