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れっつおきがえ!(ぷーるばーじょん)まえ

  あぁ、その場所は、神聖不可侵な場所なのではないのだろうか。本来の俺であれば、立ち入ることなど到底許されない場所に、俺は連れてこられている。

  周りには、きゃっきゃうふふと、幼女、幼女、幼女。当たり前だが、女子更衣室というこの場所と、『ちゃいるど・はーと・おんらいん』の中というこの環境のせいで、ここには幼女しかいやしない。

  そんな場所にいるのだと思うと、なんだか申し訳ないやら気まずいやらで、今すぐにでもこの場から逃げ出したくなってしまう。


「やっぱりわたしかえ――」

「だめですよー」


  今来た道を逆走しようと、後ろを向いて駆け出そうとすれば、すぐ後ろにいたろぜったさんに捕まってしまう。

  ぎゅっと強く抱きしめられると、みんなのいる方へと引き戻されてしまう。胸の柔らかい感触に、息が詰まりそうになる。どうにか脱出しようと、もがもが暴れてみるものの、ろぜったさんの力が強く、抜け出せる気が一向にしなかった。


「あら、もうおしまいですか?」

「もがもが」

「あら?」


  ろぜったさんの胸元の埋め込まれているので、まともに喋ることすらままならない。結局、みんなの前に戻ってくるまで、俺はその状態を維持されたままだった。


「えいっ」

「ぷはっ、くるしかった……」


  唐突に離されて、よろけそうになりながら前を見ると、そこにはるながいた。


「もー、なにしてるのひなちゃんは……」


  両手を腰に当ててこちらを見るるなの姿は、いつもとも、昨日とも打って変わった、なんとも可愛らしい姿だった。

  長い金髪を、白地にカラフルな水玉のシュシュでひとまとめにしてポニーテールをつくり。水着は、昨日着ていたスクール水着ではなく、胸元に大きくリボンのついた、オレンジ色のビキニだった。パンツの方にはフリルがついていて、まるで、隠しきれていない短いスカートのようだった。足元にはビーチサンダルまで用意してあり、まさにプールで遊ぶぞ!といった装いだ。

  そのあまりの変わりっぷりに、俺は言葉が出てこなかった。いや、似合ってるし、すっごくかわいいとも思うのだけれど、そういうことでもなくて……


「どうしたの、へんなかおして……って、これ?これは、きのうちょっと……ね」


  どういうことかと聞き出してみれば、昨日ありすがプールに行くと言った後、結構遅い時間だったのですぐに解散になったのだけれど、その後もログインし続けて、水着を買っていたらしい。……みんなには内緒で、だ。


「なんでそんなことしてたのっ」

「だって、おこづかいもけっこうあったし、びっくりさせようかなー、って」


  るなは小首を傾げて、きょとんとした顔でこちらを見ていた。

  確かにびっくりはしたけれど、それ以上に、なんだろう。ずるい、だなんて思ってしまう。

  水着を着ることには、やっぱり抵抗はあるのだけれど、それ以上に、自分だけそんなかわいい格好をして、ずるい、という気持ちの方が強くなっている。

  俺が1人で、むむむむーと唸っていると、奥から別の人影が見えてくる。


「なんや、ひなちゃんまだきがえてへんの?」


  そう言いながら現れたりんの水着も、昨日着ていたスクール水着ではなく、新調した新しい水着だった。

  りんが着ているのは、深い青色の、マリンボーダーのタンキニだった。タンクトップと短パンのようなその水着は、水着と言うよりは普段着に見えてしまうものの、普段から活発に動くりんにはよく似合っている。いつものサイドポニーを留めているシュシュも、いつもと同じものではなく、るなが今使っているものと同じデザインのものだ。多分だけど、お揃いで買ったのだろうか。


「なんやのひなちゃん、そんなじろじろみんといてやー」


  たははとりんは笑うが、困っているというよりは、新しい水着を自慢しているように見える。

  そういうことをするなら、誘ってくれてもいいじゃないかよ……。なんで先にそういうことしちゃうかなぁ……。

  あまりにも悔しいのと、疎外感で寂しい気持ちになっていると、今度はみづきがやってくる。


「……ひーちゃ、にあう?」


  現れたみづきもまた、新しい水着だった。ヘソ出しのビキニスタイルだけれど、るなと違って、トップスには白地のフリルがふんだんにあしらわれ、パンツ周りには、かなりミニ丈ではあるけれど、水色のスカートを履いている。もじもじと、少し恥ずかしそうにしている様子も含めて、とてもかわいらしく思う。思うのだけれど。


「みづきも、あたらしいみずぎなんだね……」

「……うん、ひーちゃにほめてもらいたくて」


  随分とかわいいことを言ってくれるものだと思ったが、今の俺はそれどころではなかった。

  るな、りん、みづき。みんなそれぞれ、自分の水着を買って用意していた。それぞれの個性が出て、よく似合っていてかわいいと思う。

  けれど、けれどだ。俺自身は、何も用意していない。そもそもプールに行くというのも、こんな立派な場所に行くなんて思っていなかったし、すでにスクール水着ではあるけれど、水着を持っているのだから、新しいものを買うなんて、誰が予想できるのだろうか。

  そんなことを思いながら、落ち込んだポーズをとっていると、るなが、肩をポンポンと叩く。


「おんなのこは、おしゃれのためにうごくものなのよ」


  落ち度は俺にあると思うが、ドヤ顔で、しかも中身は男のるなに言われたことに、憤慨した俺のことを、誰が責められると言うのだろうか。

  俺は悪くないのだと、声高らかに叫びたいと思うのだった。

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