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れっしゃにのってむかうのは


  がたんごとんと列車が走る。線路の繋ぎ目に車体が乗るたびに、がたん、ごとん、と音を立て、時折それすらもかき消す大きな音で、汽笛がぴーっとけたたましく鳴る。SLの形を模したそれは、蒸気機関で動いているというわけではなさそうだったけれど、まるで本物のように、しゅっぽしゅっぽと音を鳴らして走っていく。どうやら、遠くへと移動をするときには、こういった乗り物が用意されているようで、この列車もその一つのようだ。

  普通の、一般的に走っている列車と違い、子ども用に作られているそれは屋根や壁はなく、あるのは跨ぐように座る椅子と、落ちないように捕まる手すりだけなので、揺れた拍子に落ちてしまわないか心配だ。もっとも、そんな落ちるようなスピードが出ているわけでもないのだけれど。

  それでも、大人の身体であればなんでもないような揺れも、この子どもの、女の子の身体だと、なんだかすごい揺れているように感じてしまう。遮るものがない分、直接当たる風は、そのスピードと相まって今日の暑い日には随分と心地よく感じられる。


「もっとすぴーどでないのー?」

「ええやんええやん、ゆっくりでもたのしいしなー」

「あなたたち……すこしはしずかになさいなさいな」


  先頭車両に座るるなは、身を乗り出しながら、能天気にもっとスピードを出せとせがんでいる。その後ろに座るりんは、相変わらずマイペースに楽しんでいるようだ。

  その後ろの車両、黙って座っていると優雅に見えるありすがいて、その後ろにはろぜったさんも控えている。さすがに、列車に乗りながら日傘をさすようなことはしていない。

  一方の俺たちはといえば、さらにその後ろの車両に、みづき、俺、さきくんの順番に座り、俺の前にすっぽりとみづきが収まって座り、同じ手すりを一緒に掴んでいる。その後ろの席に、さきくんが座っている形だ。

  この席を決めるときにも一悶着あり、さきくんもみづきも、俺と一緒に座りたいと言っていたのだけれど、列車の構造上、一緒に座れるのはみづきぐらいであり、後ろの席に座るということで、しぶしぶ納得してもらった。

  ……ただ、やっぱりどこかむすっとした顔になっている。


「さきくん、きげんなおして、ね?」


  俺は首だけを後ろの方へと向けて、さきくんに話しかける。身体を後ろに向けてしまうと、みづきが列車から落ちてしまうからだ。


「……べつに。きげんわるくないっす。ふつーっすよ」


  とかなんとか言いながら、頬をぷくーっと膨らまして、やっぱり機嫌が悪そうだった。

  話し方のせいだろうか、性別は違うはずなのに、仕事の後輩である岬のことを思い出してしまう。全然別のことなのだけれど、以前に、岬が買っておいていたお菓子を俺が食べてしまい、そのせいで、その日1日岬が拗ねてしまって、機嫌がずっと悪いことがあったっけ。なんだか、怒っている時の態度が、その時の岬に似ていて、おかしくなって少し笑ってしまう。


「ふふっ」

「なんっすかっ、なんでわらってるっすかっ」

「えっとね、りあるのしりあいのこに、なんだかおこりかたがにてるなっておもって……ふふっ」


  俺がそう言って笑うと、さきくんは少し驚いたような顔になり、けれどすぐに、なぜだか笑い出してしまった。

  一頻り笑った後に、身を乗り出して、食いつくように俺に質問をしてくる。


「そっすかそっすか!ちなみに、そのしりあいのこは、おんなのこっすか?」

「もぅ、あんまりそういうこときいたらだめだよ!」

「ちぇっ、わかったっすよー」


  さきくんはそう言うと、手すりから手を放し、頭の後ろへと持ってくと、口笛を吹くような動作をして見せた。口笛の音が出ていないから、どこか締まらない感じになっているけれど。

  さきくんとの話が終わり、前を向きなおすと、


「……ひーちゃ、ちゃんと、ぎゅっとして?」

「してるよ?ほら、ぎゅー」


  手すりにはつかまりながら、ぎゅーっとみづきを抱きしめると、ふんすと鼻息を鳴らして満足そうな態度を見せた。なんだかよくわからないが、機嫌が直ってなによりだ。

  後ろのさきくんもなんだか上機嫌だし、2人ともこれから遊びに行く場所に行く前に機嫌が直ってなによりだ。

  ところで、


「ありすー」

「なんですのー?」


  前の車両に座るありすに、俺は大きな声で話しかける。声を大きくしないと、列車の音で聞こえないからだ。みづきがちょっと迷惑そうな顔をしているけれど、こればっかりは仕方がないから、我慢してもらうことにする。


「これって、どこにむかってるのー」


  昨日ありすがプールに行くと言っていたけれど、具体的なことは何も聞かされていないのだ。どこに行くかなんて、検討も付いていない。

  けれど、俺がそう聞いた時、ありすはこちらを振り返り、まるで信じられないといった顔でこちらを見てきた。


「あなた……ここまできてわかりませんの?……まぁいいですわ、もうそろそろみえるころですし」


  なんだか失礼なことを言われたような気がしたけれど、その瞬間に見えたその光景は、そんな考えを一瞬で吹き飛ばしてくれた。

  そこに現れたのは、今までこのゲームで遊んできて見たことがない、巨大な、巨大な施設だ。まるで野球ドームぐらい大きそうなそこから、たくさんの楽しそうな子どもの声と、流れる水の音が聞こえてくる。


「さぁ、あのぷーるでおもいっきりあそびますわよ!」

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