いざしゅっぱつ!
明くる日、ログインしてありすの指定した場所に集合してみると、すでにみんな集まっていた。
今回、みんなを誘ったありすは、ろぜったさんのさす日傘の中で優雅に立っていた。そのローズゴールドの長い髪をふぁさっとなびかせる仕草は、もはや堂に入っていると言える。
そんなありすに飛びかかって抱きつこうと、虎視眈々とるなが狙っている。それを後ろから、りんがぽけっと見ていた。なんとなく目が会うと、ふりふりと手を振ってくる。
そんな様子を、俺はみづきを抱きかかえなが見ていた。すっかりこのポジションが気に入っているのか、俺の手を前に引っ張り、体重ごと俺に預けたまま、みづきは動こうとはしなかった。
それから……
「なんでさきくんまで!?」
「えーっと、やっぱり、おじゃまだったっすかねぇ」
そう、照れたような困ったような顔をして、さきくんは頭の後ろをぽりぽりと掻いていた。こんなことを思うのは変かも知れないけれど、そういった表情も、なんだか可愛く見えてしまう。男の子をそんな風に思うなんて、いよいよ心まで女の子になってしまっている気もするが、そう思ってしまうものは仕方がないと割り切ることにする。思うこと自体は、悪いことではないのだから。
だからというわけでもないけれど、俺は別に、さきくんがいたところで気にはしない。
「ううん、そうじゃないけど、でも……」
なんだかうまく言えずに、口ごもった言い方になってしまった。
ただでさえ女所帯な――其の実、中身は全然女所帯ではないのだけれど――集まりなのに、男の子1人というのは、居心地が悪いんじゃないのだろうか。なんて心配をしているのだけれど。
けれど、そんな俺の心配をよそに、るながあっけらかんと笑いながら、
「だいじょうぶだって!ねー、さきくん」
と、さきくんの方へと笑いかけていた。いつの間にか、りんもこちらの方を向いている。
「せやせや、うちらはきにせーへんでー」
「うん、ぼくはだいじょうぶっすよ。けれど、ぼくがまざって、みんなはへいきかなって」
なんて、寂しいことを言うさきくん。
「へいきっ、さきくんがいても、へいきだよ」
俺は両手をばたばたとさせながら、大丈夫だということをさきくんに伝える。って、なんでこんなに一生懸命伝えてるんだ俺は。
「……ひーちゃ、ぎゅってしてなきゃ、や」
「え、あぁ、ごめん」
なぜか急に拗ねたみづきを、俺はぎゅっと抱きなおした。すると、みるみるうちにみづきは上機嫌になっていく。なんだかよくわからいが、機嫌が直ってよかった。
一方で、なぜかさきくんが不満そうにしているけれど。
「えっと、なんだろ」
「な、なんでもないっす!」
そう言うと、さきくんはそっぽを向いてしまい、目を合わせてくれなくなった。なにか、機嫌を損ねることを言ってしまっただろうか。
そんなことを考えていると、ありすが手を叩き、全員の注目を集める。
「それじゃあ、みなさんでいくということでいいですわね?じゃあいきますわよ」
てくてくと歩き始めるありすに、俺たちはついていった。
ありすには日傘を持つろぜったさんが付き従い、その後ろから、るなとりんがぎゃーぎゃーとうるさく付きまとい、時折ありすが我慢しきれずに怒っている。
そのさらに後ろに、俺とみづきとさきくんがついていく形になっている。……なぜか、俺を真ん中にして3人で仲良く手をつなぎながら、だ。
「ねぇ、なんでわたしがまんなかなの?」
どうしてこんなことになっているのかと、俺は2人に聞いてみる。すると、2人は同時に、
「……ひーちゃがまいごにならないように」
「ひなちゃんがまいごにならないようにかな」
なんて失礼なことを言ってくれた。2人の前で、迷子になんかなったことないのに。
というか、仲良く同じこと言ったのに、急にいがみ合うのはやめてくれないかなぁ。
「さきくん、そんなにちいさいこをにらんじゃだめだよ。みづきも、そんなかおしないの」
俺がそう注意をすると、2人は急に大人しく……どころか、まるで意気消沈したかのように静かになった。
「ひなちゃんにおこられた……」
「……ちいさくないもん……」
反応はそれぞれだけど、静かになってくれてよかった、のかな?
というか、落ち込むのはいいけど、歩くペース遅くなって遅れちゃう!
見れば、前を歩く4人との距離は結構離れていて、走らないと追いつけないんじゃないかというぐらいまで離されていた。万が一はぐれてしまうと、どこに行けばいいのかわからなくなってしまう。
「ほら!ふたりとも、おいていかれちゃうからはやく!」
俺は真ん中にいるのをいいことに、2人の手を引き駆け出し始める。
2人とも急に手を引かれたことにより、わわっと慌てたけれど、なんとか走り出してついてきた。
とててててー、と急いで走る。3人で仲良く手はつないだまま、一生懸命に走った。急ぎすぎると、一番歩幅の小さいみづきが転んでしまうので、それには気をつけながらだ。
やっと追いついたと思ったら、ありすが腰に腕をやり、仁王立ちで待っていた。
「おそい!ですわ!」
「ごめんなさい」
どうにか追いつくと、そこが目的の場所だったようで、ありすたちを少し待たせてしまったようだった。
俺は頭をぺこりと下げて、謝った。するとありすは少し慌てて、わかればいいのですわっ!なんて腕を組んで顔を逸らした。なんというか、ちょろいなぁ……。
「……ごめんなさい」
「ごめんね」
俺につられて、みづきとさきくんも謝る。
「なんですのっ、わたくしがわるいみたいじゃないですの!」
「ほらー、そんなぷんすかしないのー」
「せやでー、にっこりえがおやでー」
拗ねるありすに、るなとりんが囃し立てる。なんだかおかしくって、俺はくすっと笑ってしまう。
「まぁ、いいですわ。ちょうどきたみたいですし。いきますわよ!」
そう言ったありすが指差す先には、遊園地なんかにありそうな、子ども用の列車が止まっているのだった。




