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みずかけあいのおさそい


「おーっほっほっほ!あいかわらず、さみしいあそびばっかりですのね!」


  俺たちがビニールプールでぷかぷかと遊んでいると、突然、頭のてっぺんからでているような笑い声が耳に入ってくる。

  声の主の方を見てみると、そこに立っていたのは青と白のエプロンドレスで身を包んだ、ローズゴールドの長い髪の幼女、ありすがそこに立っていた。いつも着ているエプロンドレスも、夏仕様なのか、パフスリーブの半袖になっている。

  その後ろには、同じデザインだけれど色違いの、ピンクのドレスに身を包み、同じくピンク色の髪をツインテールにまとめた幼女、ろぜったさんが、ありすに日が当たらないように日傘を持って、従者然として立っている。


「ありすー!やっほー!」


  ばしゃんと水しぶきをあげて、るながありすに抱きつこうとプールから飛び出していく。そのるなの立ち上げた水しぶきが、残った俺たち3人の顔にかかる。

  ゲームの中とはいえ、目や鼻に水が入ると現実のそれと同じように苦しさなんかを感じるので、不意打ちはやめてもらいたい。


「ぎにゃー!ぬれるからちかよらないでくださいまし!」

「そんなこといわいでさー!ねーってばー!」


  抱きつこうと駆け寄るるなから、全力で逃げようと走り出すありす。なんというか、本気の全力疾走だ。


「……わたしも、おいかける」

「やめなさいって」


  みづきもプールから出て追いかけようとするのを、俺はみづきを捕まえて止めた。

  この子はいい子だと思うけれど、たまにるなの真似をして悪ノリしようとするから、目が離せない。まったく、手間のかかる妹分だ。

  追いかけっこをする2人と、それに乗っかろうとする子と、それを止める俺。その様子を、ニコニコと笑顔のまま見つめるろぜったさんに、俺は話しかけた。


「あの、あっちのふたり、とめなくていいんですか?」

「いいんですよ。あれで、ありすちゃんもたのしんでますから」

「そう、かな?」

「そうなんですよ」


  普通に、濡れるのが嫌だから逃げているようにしか見えない。というか、あの状態で抱きつかれようものなら、俺だってまずは逃げる。そこに楽しさとかは、ないんじゃないかと思う。少なくとも、俺にはそう見えた。

  しかしそれでも、ろぜったさんはその様子を楽しそうだと言い切って、特に止める様子もなく彼女たちを見つめていた。


「ところでなー、なにか、ようじがあったんとちゃうー?」


  ビニールプールの中で、まるでおっさんが温泉にでも使っているようなだらけきった態度で、りんが話しかける。外が暑いから、プールの中が気持ちいいのはわかるんだけれど、そのとろけたような顔は、真面目に話をしようというようには見えなかった。

  みづきが俺の腕の中から離れると、りんの横で同じようにだらっとプールに体を浮かべる。……大人しくしている分には困らないから、ひとまず放っておこう。

  改めて、なんで2人がここに来たのかを、ろぜったさんに尋ねてみる。

 

「あのふたりはほっといて、それで、きょうはどうしたんです?」

「それは、ありすちゃんのくちから……ほら、もうつかまったみたいですし」


  見れば、満足げに手を引いて歩くるなと、びしゃびしゃに濡れて、半泣き状態で手を引かれて歩くありすがいた。なんというか、ご愁傷様である。

  こちらの方まで来ると、るなはジャンプしてプールに飛び込み、一際大きい水しぶきを立ち上げた。もちろんそれは俺たちにも襲いかかる。

  突然のことに俺は対処できず、顔にかかった水が、思いっきり鼻の中に入ってしまい、たまらず咳き込んでしまう。


「ごほ、けほっ、なにするのさ!」

「えっと、ごめん?」


  とぼけて謝るるなに怒りつつも、大して反省しないんだろうなと諦め、周りの様子を見てみると、りんはしっかりと鼻を摘んで守ってあり、みづきもそれを真似していたのか平気そうだった。

  ろぜったさんは、しっかりと、その手に持つ日傘でガードしきっており、傘以外には水滴1つついていなかった。……本当に、何者なんだろうか。

  最後にありすなんだけれど……、1番水しぶきを浴びてしまっていたのか、髪も服も、全部がびしょ濡れになってしまっていた。髪から、ぽたりと水が滴り、呆然としたまま固まって動かない。


「あ、ありす、だいじょうぶ……?」


  俺は堪らず、ありすに声をかけた。

  声をかけてからほんの数秒動かないままだったが、動き始めたと思ったら、手元をせわしなく動かして何かを操作している。おそらく、ゲームのシステムメニューを動かしているんだろう。そして、ありすの身体がぴかっと光る。

  すると、先ほどまでとは一転して、俺たちが今着ているのと同じ、紺色のスクール水着を身に纏った姿へと変わっていた。右手首には髪をまとめるためのシュシュをつけている。

  水着から覗かせるその手足は、俺たちとそう変わらないはずなのに、白い肌のせいでどこか華奢にも見えた。


「るぅぅなぁぁぁ!」


  けれど、そう見えるのは見た目だけで、あれだけの目にあわされたのだからもちろん怒り心頭なわけで。

  ずんずんと進んでプールに入ると、その手で水をすくって、るなの顔へと投げつけた。


「わぷっ、この、やったな!」


  負けじとるなも、ありすの顔に水をかける。

  俺は巻き込まれないようにプールから出て、遠巻きにその様子を見ていた。みづきも巻き込まれたくなかったのか、今は俺の横にいる。りんはプールの中にいたままだったけど、上手いこと水をかわしていた。ろぜったさんは相変わらずニコニコと見たままで、時折飛んでくる流れ弾を、日傘で弾いている。

  しばらくそんなやりとりが続き、ありすとるなが疲れてプールでだらっとし始めたところで、俺はありすに、改めて聞いてみた。


「それで、きょうはなにしにきたの?」

「そうでしたわ。あした、みんなでぷーるにいきますわよ!」


  ん?と、いつもの4人が同時に首をかしげるのだった。

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