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みずぎをきるよっ


  みーんみーん。蝉の声がよく響く。じりじりと、陽の光が肌にあたり焼けるような暑さを感じる。まさに夏真っ盛りといった気候だ。

  夏風邪でダウンしていた俺だったが、2日も寝て休めばもう充分に健康だと言ってもいい。もう会社にも復帰して普通に仕事をしている。……岬からは相当心配をされているが。今日も俺の部下、後輩として俺の仕事を先回りして行ってくれている。……若干過剰すぎて、暇を持て余す程度には。

  今日は、風邪が治ってから久しぶりに『ちゃいるど・はーと・おんらいん』にログインしている。ゲームをしていてまた体調を崩してしまわないように、念のために数日日を空けてからのログインだから、この幼女の姿も久しぶりだ。

  そういえばと、ここ最近よく考えるのは、風邪の看病をしてくれた女の子、水無月さんのことだ。……結局のところ、あの子は一体何だったんだろうか。悪い子ではないのだと……思う。けれど、その行動にはどうにも不審な点が多すぎる。助けてもらっておいて、こんなに警戒しているのは失礼なのかもしれないが、警戒しておくに越したことはないだろう。次に会うときも慎重に対応しないとな。


「……ひーちゃ?ぼーっとしてるけど、だいじょうぶ?」


  俺がそんな考え事をしていると、 みづきがひょっこりと顔を覗かせた。まるで眠たそうに半分しか開いていない目は以外と大きく、水に濡れている水色の髪は艶やかで。VRゲームの中のはずなのに、なんだか女の子特有のいい匂いまでしている気がする。

  なんだかよくない考えを持ってしまいそうになるが、首をブンブンと振って考え直す。みづきは妹分なのに、そういう目で見るのはよくない。


「だいじょうぶ。かんがえごとしてただけ。……あっついねぇ」

「……ひーちゃも、おいで?」


  一緒に行こうと言わんばかりに、みづきは手をこちらに差し出した。

  向こうを見れば、るなとりんが気持ちよさそうにビニールプールに浸かっている。これだけ暑いんだし、プールの水はさぞ冷たくて気持ちがいいんだろうなぁ。

  けれどだけれど。やっぱり、『あれ』を着るのは躊躇うというか、なんというか。

  うむむむむと唸っていると、みづきが耳打ちをしてくる。


「……みんなきてるからへいき。だいじょうぶ」


  それだけ言うと、みづきはにっこりと笑った。

  この場でわがままを言っているのは俺だけだし、そろそろ腹をくくるとしよう。みんなで遊んでいるのに、俺だけがわがままを言っていると後々空気が悪くなってしまうかもしれないし。……まぁ、このメンバーならそんなこともないとは思うけれど。

  俺は意を決してシステムメニューを開く。絶対に着ることはないと思っていた『あれ』をリストから探し、見つけたら着るように操作する。選び終われば、俺の着ているワンピースが光に包まれ、気がつけば俺の着ているものは、いつの間にかスクール水着に変わっていた。

  スクール水着。そう、スクール水着。紺色で、肌にピチッと張り付くように、そして、何と言っても足や腕が無防備にさらされ、大事なところは守られてはいるが、逆に強調されているような。そんな衣装を、俺は身にまとった。胸には大きく、『ひな』と書かれたゼッケンまで付いている。

  なんだか、いつものスカート以上に心許ない服装に、もじもじとしていると。


「……ひーちゃ、ぐっじょぶ」


  みづきがサムズアップをして、まるで鼻血でもだしそうな顔でそういった。……みづきってこんな子だっただろうか。風邪引いてからちょっと日を空けてログインしたから、前からこんな感じだっただろうか。そんなことはなかったはずだけれど。

  意を決してプールの方へ向かおうと思ったが、みづきがちょっとまってと言わんばかりに、座るように床を指差す。なんとなく見ていて微笑ましくもなり、それに従って座る。するとみづきは俺の後ろへと回って、髪を弄り始めた。

  何が楽しいのか、鼻歌交じりに俺の髪を結い上げていく。ねじねじと、俺の長い髪を三つ編みにしていく。髪を弄りたかっただけなのかなぁ、なんて思っていたが、そこからなんと。その三つ編みをくるっと丸めて一括りにして、頭の後ろにお団子を作ってしまった。髪ってこんな風にできるんだ。うなじが出ているから、さっきよりも風通しが良くて気持ちがいい。みづきすごいな!


「ありがとう!みづきじょうずだね」


  俺は思った通りに、みづきのことを褒めた。すると、みづきは照れて恥ずかしそうにして俺に言った。


「……ひーちゃはかみがながいから、いろいろできてたのしい。またやってもいい?」

「うん、またおねがいしようかな」


  俺は素直にそう言った。するとみづきは、表情こそそこまで変化はしていないものの、なんだか周りに花でも飛んでそうな、とても嬉しそうな様子だった。


「ひなちゃーん!みづきー!はやくおいでー!」


  プールの方からるなの声が聞こえてくる。見れば、るなは両手を広げてブンブンと振っているし、りんも軽く手を振っている。

  俺はそれに応えるように手を振り返してから、みづきの手を引いて歩き出した。


「じゃあいこっか。せっかくみづきにかみがたかえてもらったし、みんなにみてもらわないとね」

「……うん」


  その後見てもらった髪型は大絶賛で、るなもりんも、やってもらおうかなぁなんて言っていた。

  みづきはそれにすごく照れていたが、妹分が褒められていて、俺も悪い気はしなかった。


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