おばあさんのだがしやさん
翌日。仕事を終えてログインすると、いつもの場所でみづきが待っていた。
「おまたせ。もしかしてまった?」
「……ううん、いまきた」
適当に挨拶をしてるなとりんを待つ。そう時間も経たないうちに2人ともやってきた。
「またせちゃった?」
「おまたせーやでー」
集まったら早速移動を始めた。みんなで手をつないでテクテクテクテク。
商店街は特にいつもと違う様子はない。……わけでもなかった。プレイヤーだろうか、子どもたちがちょっと懐かしいおもちゃを使って遊んでるのが見える。メンコだったり、ベーゴマだったり。今まではなかったおもちゃだ。
「なーなー、それどこでてにいれたん?」
りんがいつの間にかその子たちに近づいていって情報を聞き出そうとしていた。こういう時は頼りになるなぁ。
「むこうのじゅうたくがいにだがしやができてて、そこでうってるんだよ」
「そか、ありがとなー」
りんがトテトテと走って戻ってきた。
「じゅうたくがいのほうになんかあるみたいやなー。いってみよか」
りんがそう言って、先頭に立って歩き始めた。俺たちもみんなそれについていく。
テクテクテクテク。テクテクテクテク。
歩いていけば、特別クエストのおばあさんの家の近くまでやってきていた。けれどなんだか様子がおかしい。なんでだか人が多く集まっている気がする。いったい何があったんだろう。
そう思って近づいてみると、おばあさんの家が昨日までと姿が全然変わっていた。外観が完全に昔ながらの駄菓子屋さんに変わってしまっている。
ワイワイと子どもたちで賑わう中をかき分けていくと、奥には昨日も会っていたおばあさんが、今日は子どもたち相手に駄菓子やおもちゃを売っている。なんでどうしてと思ってしまう。
とりあえず時間を置いて、他の子が引くのを待つ。幸いにも、ものの数分で子どもたちはおもちゃで遊ぶためにどこかへ行ったようだ。
「おばあちゃん!」
俺は思わずおばあさんの元に駆け寄った。おばあさんが昨日までのおばあさんと別の人になってしまったようで、どこか怖かった。
けれど、おばあさんは近づいてきた俺の頭を優しく撫でて、
「おやおや、ひなちゃん。どうしたの?」
と話してくれた。そのおばあさんの様子は、昨日までのおばあさんと同じだったので、俺はとても安心した。
その様子を、るながニヤニヤしながら見ていた。みづきとりんは店内を物色している。
「ひなちゃんあまえんぼうなんだー」
「ちがうしっ。そんなんじゃないしっ」
やーいやーいひなちゃんのあまえんぼー、と俺のことを小馬鹿にするるなに対して俺が取っ組み合いの喧嘩を始めようとすると、おばあさんが制止してきた。
「喧嘩はだめよ?女の子なんだし、お友達同士だから仲良くね。るなちゃんも、あんまり人のことからかったりしたらだめよ?」
おばあさんの言葉には不思議と説得力があり、気がつけば俺もるなも手を止めて聞いていた。
おばあさんが言い終わるとるなは、
「ひなちゃん、ごめんね」
と言って謝ってきた。俺も、
「こっちこそごめんね」
と謝った。そして、
「じゃあ仲直りの握手ね」
おばあさんが言うので、その通りに握手する。これで仲直りだ。
すると、おばあさんが何か持ってきて、こちらに手渡してくる。渡されたのは10円で買える棒状のお菓子だ。いろんな味があって子どもの頃はよく食べていた記憶がある。ちなみに渡されたのはコーンポタージュの味だ。たこ焼きとかそういう味の方が好きだけどそれは言わなかった。
「それ食べて、仲良くするんだよ」
「ありがとうおばあちゃん!」
おばあさんの好意をありがたく受け取ることにし、俺はお菓子を開けて食べることにする。子どもの手にはちょっぴり大きな棒状だけど、中は空洞になっているのでそんなに量が多いわけでもない。一口食べる。さくり。もしゃもしゃ。
ちょっとチープな味だけど、子どもの舌には悪くない。もさもさもさもさ。どんどん食べ進んでいってしまう。
「んん!んぅ!」
突然るなが苦しみ始めた。どうやら口の中の水分がなくなってうまく飲み込めなくなったようだ――って助けないと!
「これ飲みなさい!」
そう言っておばあさんはコップに入った水を差し出した。るなはそれを慌てて受け取り、ごくごくと飲み干していく。
「ぷはー!たすかったぁ」
どうやらるなは大丈夫なようだ。とはいえ俺ももう喉が渇いてしかたがない。
「おばあちゃん、わたしもおみずもらっていい?」
「あぁ、そうだねぇ。喉に詰まったら大変だものねぇ。……そうだわ、良いものをあげる」
そう言ってお店にある冷蔵庫からあるものを取り出した。それは、今でこそあまり見ないが、昔は結構売っていた瓶のラムネだった。
「こっちの方が甘くて美味しいから、こっちをお飲み。みんなの分も出してあげるからねぇ」
おばあさんはみんなにラムネをご馳走してくれた。さっそく開封する。
ラムネのふたを開けると、ふたに玉押しが付いているのでそれで瓶の中のビー玉をぐぬぬと押し込む。もともとの身体なら簡単に開けられるのだけれど、幼女の身体にはそんな動作も一苦労だ。ぐっと押し込めばポンと小気味好い音がなって、ラムネが飲めるようになる。
ふたが開いたそれを口に当てて、中に入った液体を流し込む。……しゅわしゅわで甘くて美味しい。
どうやらみんなもそれは同じなようだった。みづきが妙に苦戦していたので開けるのを手伝ってあげる。
「……ひーちゃ、ありがと」
「どういたしまして」
みんなでラムネを飲んで、笑いあったのだった。




