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6話:おてつだいをしよう!

「それで、どこにいくの?」


  その日の仕事を終えて家に帰ってきた俺は、さっそくドリームギアを起動し、『ようじょ・はーと・ おんらいん』にログインする。

  月本、もといるなもすでにログインしていて、きゃいきゃいと手を取り合って合流した。……昨日居酒屋で2人で飲んでいたとは思えない光景ではあるが、ゲーム内だし気にしないでおきたい。それから、相変わらずのたどたどしい、舌ったらずな話し方で、俺の手を引くるなに話しかける。


「あそこ!」


  そう言ってるなが指差す先には、保育園の中の施設があった。まるでクラス分けでもされているかのように何個もある教室や、この幼女の身体からはとても広く見える体育館など、色々な施設が建物の中にはあった。

  保育園の中にるなに手を引かれて入っていく。どうやら建物の中では靴を脱がないといけないらしい。本当に、よく凝ったゲームである。

  るながしゃがんで靴を持つ。俺は普段と同じように、腰だけ曲げて靴を取ろうとした。


「ちょっ!ひなちゃん!ぱんつ!ぱんつ!」


  俺はハッとして、その場にしゃがみこむ。るなが周りから隠すように手をバッと広げて俺の前に立った。周りには幼女しかいないはずなのに、パンツを見られたかもしれないと思うと恥ずかしくてたまらなかった。ちょっと涙目にもなった。


「もー、ちゃんとちゅういしなきゃだめでしょー」

「だってぇ……」


  そりゃあ普段はスカートなんて間違ってもはいたことはない。間違えようがない。だから、この失態は仕方がないはずなのだ。

  それなのに、なぜか泣きそうになるのを抑えることができない。よくできた感情モジュールだ。まるで、俺自身が本当に幼女になってしまったような錯覚に陥ってしまう。

  そんな俺を、るながよしよしと頭を撫でて慰めてくれた後、優しく手を引っ張っていってくれる。なんか、ちょっとお姉さんって感じだ。まったくの同期で同い年のはずなのになんでだろうな。

  連れてこられたのは、給食室とでも言えばいいのだろうか、おばさんのNPCがなにか料理を作っている場所だった。当然それらもこの身体から見ればとても大きなものに感じる。


「おばさん!なにかおてつだいありますか!」


  るなが元気よくNPCのおばさんに話しかけた。俺はそんなるなの後ろに隠れて、顔だけをひょっこりとのぞかせた。おばさんはにっこりと優しく微笑むと、


「そうだねぇ、それじゃああそこのお皿をこの布巾で拭いてもらおうかねぇ」


  と言って、テーブルの上を指差した。

  それと同時に、目の前に『おてつだいをしますか?』というシステムウィンドウが表示される。突然だったので、俺は小さく「わわっ」と両手で口元を抑えるようにして驚いた。どうにも、仕草まで幼女のそれになってしまっている。

  このゲームは幼児体験をして遊びまわるというのが主な目的なので、本当にプレイヤーが自由に動き回れるゲームなのだけれど、このクエスト、まぁ『おてつだい』が発生することがあるそうだ。

  それは、先ほどのるなのようにNPCに話しかけて自発的に発生させることもできるし、NPC側から話しかけられて発生する突発クエストの様なものもあるらしい。


「『はい』をえらんだらおてつだいがはじまるよ。はやくやろっ」

「う、うんっ」


  俺は恐る恐るシステムウィンドウにタッチして『はい』を選ぶ。るなはもうさっさと押してしまったらしい。すると、視界の左上に『おてつだいちゅう』という表示がちらつく。見えなくなるように意識すると、すぅっと消えていった。

  るなに手を引かれてテーブルの前に立つ。テーブルは今の俺たちの身体と丁度同じくらいの大きさで、そのままだと何にも見えない状態だ。おばさんが足元に台座を用意してくれる。その台座に乗ると、テーブルの上の皿が見えた。

  10枚ぐらいだろうか、目の前に皿が積み重なっている。るなはさっそく、横にあった布巾で皿の水気を取っていく。俺も、真似して皿を拭いた。

  ふきふき。

  ふきふき。

  元々の自分の身体であればそんなに大きくない、中皿ぐらいの大きさでも、この身体だととても大きな皿に見える。そんなお皿を、るなと2人でふきふきしていく。

  ふきふき。

  ふきふき。

  ふと横を見れば、「たのしいね!」と言わんばかりに、るなが笑顔を見せてきた。俺もにっこりと笑い返す。

  ただお皿を拭いているだけ。普段でも自分で飯を作ればやっている作業なのに、なんだか楽しくなってくる。気がついたら全部のお皿が拭き終わっていた。おばさんがそれに気がつき、こちらへと近づいてくる。


「まーまー!偉いわねぇ。お手伝いができるなんて、本当偉いわぁ」


  そう言うと、その大きな手で、俺とるなの頭を撫でた。幼女の身体には少し強い力だったけれど、どこか暖かさを感じる。

  何かをやって褒められるなんていつ以来だろうか。ここ最近は、仕事もうまくいかないことが多く、上司に怒鳴られてばかりだったと思う。

  ただ皿を拭いただけでオーバーに褒められた。

  でも、それがすごく嬉しかった。

  撫でられた頭を両手で押さえて、えへへと笑っていると、いつの間にか左上のアイコンが出てきていて、『おてつだいせいこう!』に変わっている。そのアイコンをタッチすると、


  ・おてつだいくりあー!

  15ぺたがおくられました!


  と表記される。ぺたと言うのがこの世界でのお金になるらしい。


「おてつだいするとね、おかねがもらえて、そのおかねでふくとかがかえるんだよ!」


  るながそんなことを説明してくれた。

  なるほど、こうやってお金を稼いで、自分のアバターに個性を出していくのか。俺もるなも、今はまだ初期装備のスモックにスカートだ。そう考えると、もっとこのお手伝いをしたくなってくる。


「あら、乳幼児用のリンゴがないわ。……丁度いいわ。あなたたちに、お使いに行ってきてもらおうかしら」


  奥にいた別のおばさんがそう言うと、再びシステムウィンドウが表示される。

  俺はるなと顔を見合わせると、せーので『はい』を押した。

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