いべんと、ひとりで。
ただ1人残されてしまい、ぽやんとその場に佇む俺。
いつまでも残り続けていても仕方がないので、いい加減に『おてつだい』を探すとしましょうかね。
保育園をでて、てくてくと歩く。
てくてくてくてく。
しばらく歩くと商店街。おじさんおばさんたちが今日も元気に客引きをしている。
「お嬢ちゃん!どうだい!魚買っていくかい!」
魚屋のおっちゃんが叫べば。
「うちの野菜の方が美味いよ!買っていかないかい!」
八百屋のおっちゃんも負けじと叫ぶ。
なんとなく、こっちに向かって叫んでいる人が多いように感じる。そのせいか注目されているような……。
「きゃー!あの子ちょーかわいー!」
「あ、ほんとだー!かわいー!」
なんか、女子高校生っぽいのまで出てきた。あんなNPCもいるんだ。
というか、かわいいとか言われると、照れる。恥ずかしい。
顔が真っ赤になる。なので俯いて、早歩きでその場を逃げるように後にする。
とはいえ幼女の足なんてたかが知れているので、たいして距離を稼げるわけもなく。
あんまり進んでないのに、いく先々でいろんな人に見られている気がする。いく先々でかわいいだのなんだの言われている気がする。まぁ、俺も近所で子どもを見かけたらかわいいとか思わないわけでもないからわからないでもないけれど。
あーもう!
俺は走ってその場を後にした。
ーーーーーー
ぜーぜーと息を吐く。
逃げて逃げて走ってきたけど、ここどこだろう。
街の中なのは間違いないけれど、住宅街?一軒家が立ち並ぶ場所に出てきた。
うーん。遊び場所にはならなさそうだし、何か意味のあるマップなのだろうか。
人通りも少ないし、『おてつだい』がありそうな気配もない。
けれど意味がないマップなんてあるのだろうか、なんてデバッガーみたいなことを考えながらてくてくと歩いていると、おばあさんが1人、荷物を持って道路を渡ろうとしているのが見えた。
両手に荷物を持つおばあさんは、腰が悪いのか荷物を持つのが大変そうに見える。
それを見た俺は、何も考えずおばあさんに近づいてこう言った。
「にもつ、もちます!」
結構大きな声で言ってしまったのが少し恥ずかしく。
おばあさんも突然だったので少しびっくりしたようにして、すぐににっこりと笑って「ありがとう」と小さい荷物を渡してきた。
視界の左上の方に、薄っすらと『きんきゅーくえすとはっせいちゅう!』と書かれている。
なんの考えもなしに行動してしまったが、まさか『おてつだい』になっているとは思わずビックリしてしまったが、すぐにそこから意識を外す。するとすぅっと視界の端の文字は消えていった。
受け取った荷物は野菜と果物が幾つか入っているエコバックで、大人の俺の意識から見れば取るに足らない荷物なのだけれど、今の幼女の身体で見れば結構な大荷物だ。
それを両手でうぐぐ、っと持ち上げ、うんしょうんしょと普段よりもさらにおぼつかない足元で、よたよたと歩いて運ぶ。
おばあさんも時折こちらを心配そうな目つきで見ているが、こっちだって一生懸命なのであまり気にする余裕がない。
10分ほど歩いて、おばあさんの家にたどり着いた。
「ありがとうねぇ、疲れたでしょう。お茶でも飲んでおいきなさい」
おばあさんにそう誘われたが、流石にそこまではと思い辞退しようとしたが、手を引かれて家の中に連れてこられた。おばあさんの力は案外強かった。
居間のちゃぶ台の前で正座でそわそわしながら待っていれば、おばあさんが麦茶とお菓子を用意してくれた。梅雨ももう終わりそうな今時期、だんだんと暑くなってきた日に、冷たい麦茶はとても美味しかった。
お菓子はどら焼きだったり串団子だったり、コンビニで売っているような和菓子が多かった。今の子どもはどうかは知らないけれど、俺はこういう和菓子は嫌いではない。相当断ったのだけど、「食べるまで返さないぞ」とでも言いたそうな目で見られるので、仕方なく食べたらとても美味しかったので、子どもらしく遠慮なく食べた。今は子どもだしいいよね。うん。
食べながらおばあさんがいろいろ話をしてくれるのを聞いていた。その間も手と口を動かしながら。
「そういえば昔、おじいさんと一緒に宝物をどこかに埋めたっけねぇ。懐かしいねぇ。あれはどこに埋めたのかしら……」
「そうなんですかぁ」
やばい、和菓子美味い。ぱくぱく、ごくごく。手が止まらない。なんか、重要そうなことを言っていた気がしないでもないが、聞くの3割、食べるの7割ぐらいの意識しかない。
おばあさんは生暖かい目でこちらを見ている。……昔、自分の婆ちゃんにもこんな感じで優しくしてもらったっけ。最近は仕事で会う暇がなかったけれど、今度休みができたら会いに行こうか。うん、そうしよう。
おばあさんが話し終わり、俺も食べ終わったところで「ごちそーさまでした」とお礼をして出て行こうとしたところ。
「あぁ、そうだわ。町内会長さんからね、今週お手伝いをした子どもが首からカードをぶら下げていたらこれを貼ってあげてくれなんて渡されていてね」
そう言って俺の首からぶら下げられていた『おてつだいかーど』にシールを2枚、ぺたり。
「おばあちゃんのお話聞いてくれたから、おまけだよ」
そうおばあさんは優しく微笑んでくれた。
はっ、と視界の端に意識を向けると、『くえすとくりあー!』の文字が、2つ。
もしかして、何か特別なクエスト引いてた!?やばい、あんまり話聞いてなかったぞ!?イベント中なのにレアクエストみたいなのやってる俺ってなんなんだ!?
俺が変に慌てていると、おばあさんは、
「また遊びにおいで。お菓子用意しているからね」
と言ってくれた。俺は、安心とお菓子という単語に反応して。
「またくるね!」
と元気よく返事をして、おばあさんお家を後にするのだった。




