いべんとすたーと!
朝、会社に出勤するまでの間。いや、もっと言えば昨日ログアウトしてからずっとなんだけれど。とにかく憂鬱だった。
……なんで昨日はあんな真似をしてしまったんだろうか。
まるで、そう、嫉妬しているような。
なーんであんなにアリスに嫉妬したんだろうなぁ。今となってはよくわからん。自分の感情のはずなのにな。
思うところとしては、子どもって一番が好きだからか。それか、るなを取られると思ったのか。はては両方か。
大人に戻った今だと全然全くわからんのだけれど。
そんなことを考えていた矢先。
「よ、よぉ」
「お、おう」
……月本に出くわした。
凄く、気まずい空気が流れる。ただひたすらに気まずい。
すると、月本が口を開いた。心なしか早口で。
「いや、うん、わかってる。わかってるから。あっちでのなんか感情が暴走したことぐらいわかってるから。俺も拒否はしてないし。ただ、あれとこれが同じと思うとなんか思うところがあるというか?いや、嫌じゃなかったんだけどさ?くっついてるのとかいっつもみづきにしてたし?それが俺の方にも来ただけだし。だから俺は何にも気にしてな……いってぇ!」
長々と言い訳じみたことを言い始めてウザかったので、とりあえず蹴り飛ばしておいた。
人のことあれだのこれだの言ってんじゃねぇよ。
まぁ、蹴り飛ばしたのが良かったのか、その後は特に普通に話した。
あれは一時の気の迷いだったのだろう。そういうことにしておこう。……これから先も迷い続けてそうな気がするけれど。
ーーーーーー
そうしてインした今日この日。
今日からついにイベントが始まる。『ちゃいるど・はーと・おんらいん』で初めてのイベントだ。
年甲斐もなくワクワクしている自分がいる。……あれ、今は幼女になっているからワクワクしててもいいのか?もうわからんねこれ。
とにかく、改めて発表になったイベント内容を確認してみる。
・『おてつだい』をたくさんしよう!
うーん、アバウト。運営仕事しろって言われてそう。
・期間中『おてつだい』をすることで、『おてつだいしーる』が貰えるよ!
うん。1番と2番の説明逆なんじゃないかな。後、システムウインドウに書いている方は全部ひらがなだから、ちょっと読みにくい。
・『おてつだいしーる』を『おてつだいかーど』にいっぱい貼ろう!
・全部埋まったら素敵なプレゼントがあるよ!
これは昨日アリスに聞いてた内容と同じだね。というか、この内容が全てだよな。
とにかく。期間中はなるべく『おてつだい』をやってシールを貰って、カードいっぱいにすればいい。ということだ。
一先ずシステムウインドウを操作して、目の前に『おてつだいかーど』を出してみる。
文庫本ぐらいの大きさの厚紙で、首からぶら下げられる紐も付いている。
なんか、小学校の時の夏休みに、朝ラジオ体操をしていたことを思い出す。
夏休みでゴロゴロできるのに朝6時に起きて行って、近所の爺さん婆さんと一緒にラジオ体操をしたっけ。
そんで終わった後にスタンプだったりシールだったり貰うんだよな。
あー、なんか懐かしいなぁ。
そんな風に昔を思い出して懐かしんでいると。
「みんなかくにんした?」
とるなが声をかけた。
俺も、みづきもりんもこくこくと頷いた。
「じゃあ、いべんとはそれぞれがんばるってことで。さいしゅうびにみんなでいっしょにごーるしよう」
とりあえず前半はバラバラにやって、だんだん集まって行って、最後は4人みんなで一緒に『おてつだい』をやろうという事だ。4人一緒にできる『おてつだい』なんてあるんだろうか?まぁそれはりんが見つけてくれるだろう。
「じゃあかいさん!」
「はやい!」
対して会話もせず、るなはたたたー!とどこかへ駆け出してしまった。よっぽどイベントが楽しみだったのだろうか。
「じゃーうちもいこっかなぁ」
「りんはどうするの?」
「ほかのみんなといっしょにやるよー。いっしょにくる?」
りんから誘われたけれど、断った。いきなり知らない人と一緒なのはハードルが高い。
ほんじゃー、とりんもどこかへ行ってしまった。
「……わたしもいく」
「みづきもいくの?」
「……ちょっとあてがある」
「どこ?」
「……ひみつ」
みづきもとことことどこかにいってしまった。
……なんか、このゲームで1人になるのって初めてかもしれない。確か最初の頃に1回あったけど、あの時はすぐみづきと仲良くなったし。
ちょっと寂しい気がするけれど、頑張ろう。
俺も、きょろきょろとことこ、『おてつだい』を探して歩き始めた。




