21話:あたらしいおともだち?
「それで、これはいったいなんのさわぎだったんすか?」
後からやってきた男の子は俺たちの方に、そう説明を求めてきた。男の子は白に近いグレーの髪をビシッと整えて、けれど服装は初期装備のスモッグと短パンを履いていた。……そうか、男の子は短パンなんだ。ちょっと羨ましいな。ってそうじゃない。
そんなことを考えているうちに、ありすがこそこそと説明をしている。
「と、いうわけでしてよ」
「そっか、そうだったんすね」
男の子は納得したように、うんうんと頷いている。そして、相手の子へと振り返った。
俺のいる位置からじゃ顔は見えないけれど、なんとなく、怒っているような、そんな気がする。
「きみ、おんなのこだけしかいないのに、こんなにたくさんでかかって、はずかしくないっすか?」
「ううう、うるさいな!きみには、かんけいないだろう!」
正論を言われて、盛大に慌てる相手の男の子。
というか、女の子だけって言われるのは、むず痒いというか、嘘をついているような罪悪感というか。けれど、それを今言ったところでどうしようもないし。結局のところ、俺は黙って様子を見ているしかないのだった。
「かんけいなくないっす。いじめとか、ひとのいやがることはよくないっす。みてないふりなんて、できないっすよ。だから、かんけいなくなんてないっす」
なんだか、いやに熱の入った声で、相手の男の子ににじり寄っていく男の子。相手の子は、なんだかタジタジだ。周りを囲んでいた子も、どうしていいのかわからずに困っている。
けれど、あんまり追い詰めると、人は何をしてくるかわからない。相手の男の子は、手を力一杯握りしめると、それを、男の子めがけて打ち付けようとしてきた。
「あ、あぶない!」
咄嗟に声が出た。るなもありすも、驚いてしまって動けないでいる。けれど、男の子はこちらに振り向くとニコッと笑って。
パシんっ!っと、いい音がしたと思ったら、相手の子の拳を、見事に手のひらで受け止めていた。
「なんてことないっす。……ぱんちってのは、こうやるっす、よっ!」
受け止めていた手の、反対の手をギュッと握ると、そのまま相手の子に殴り付けようとする。
「やめてっ!」
確かに、最初にちょっかいをかけてきたのは相手の方だった。嫌な思いをしたのも本当だ。けれど、暴力で解決は、違う。このゲーム「らしく」ない……と思う。
そう思ったら、自然と声が出ていた。
ピタッと、相手の男の子の顔の目の前で止まる拳。俺の気持ちが伝わったのか、暴力は振るわれずに、寸止めで終わっていた。
掴んでいた手も離し、相手の子を解放すると、その子はぺたりと尻餅をついた。
「こんかいは、これでみのがしてやるっす。けれど、つぎはないっすよ」
男の子がそう言うと、周りの子たちも含めて、相手の子は一目散に逃げて行ってしまった。
彼らの姿が見えなくなったと思ったら、男の子はその場にへたり込んでしまった。
「だ、だいじょうぶ?」
もしかしたら、どこか怪我とかしてしまったのだろうか。心配になって駆け寄ってみる。
すると、男の子はまた、こっちに向かってニコッと笑って。
「だいじょうぶっす。……ちょっと、こわかったっすけどね」
ふぅ、と息をはいて、すっと立ち上がる男の子。そして、なぜか俺の頭を撫でてくる。男の子の指が、手が、この世界ではやたらと伸びた俺の黒髪の隙間を抜けていく。
身長は同じくらい、ちょっと向こうの方が大きいかな?というぐらいの差しかないのに、なんだかその手は大きく感じられて、撫でられるのが、とても自然に感じた。
だけれど。
「あの、はずかしいから、やめてほしい……」
「……あ、あぁ、ごめんっす」
俺がそう言うと、男の子は慌てて俺の頭から手を離した。
なんで俺は、こんな生娘みたいな反応してるんだ!実際身体は、生娘の身体をしているんだけれど!
さっきから、周りのペースに飲まれすぎだ。ちょっと落ち着こう。
すーはーすーはーと息を吸っていると、後ろからドンっと、るなが抱きついてきた。
「ひなちゃんへんなことされてない!?」
「されてない、されてないから」
なでなではされたけどな。けれど、それは別に変なことじゃないし。……違うよな?
「うっそだー、さっきあたまなでられてたでしょ」
って見てたのかよ。じゃあ、ちょっと助けてくれたってよかったじゃないか。
見ればありすも来ていて、男の子にお礼を言っている。
ありすの丁寧な、スカートの裾を軽く持ち上げた優雅なお辞儀に、男の子はタジタジだった。
「あら、そういえば、たすけていただいたのに、おなまえをきいていませんわ」
そう言えばそうだった。今の今まで落ち着いて話すことなんてできなかったし、名前すら聞いていなかった。っていっても、すぐに人の頭を撫でてくるナンパやろーと、仲良くする気は無いけど。でも、助けてもらったわけだし、名前ぐらいは聞いておかないと。
なんて考えていると、ありすが俺たちの分まで紹介を始めている。
「わたくしはありすですわ。あっちのきんぱつがるなで、くろかみがひなですの。あなたのおなまえも、おきかせねがえませんこと?」
ありすは自分の名前と、俺たちの紹介をしてから男の子に向き直った。普段は高飛車だったり、ちょっとアホっぽいところがあるけど、なんだかんだで育ちがいいというか、しっかりした一面もあるよなぁ。
男の子は、ありすの紹介を聞いてから、改めて名乗った。
「ぼくは、さき。これからも、よろしくっす」
そう名乗ってから、その男の子……さきは、手をそっと差しのばしてきた。仕方がないので、俺はその手を受け取って、しっかりと握手をしたのだった。




