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20話:そのおとこのこは

  男の子が、ニヤニヤ?ニタニタ?とにかく、なんだか嫌な目つきでこちらを見ている。見れば、その周りにいる子達も、皆同じように嫌な目をしていた。突き刺さる視線が、いやに気持ちが悪い。

  いつの間にか、俺たちを取り囲むように、移動をしている。嫌な視線が、周りをぐるっと取り囲んでいる。


「……いきなり、ぶしつけですわね。いったいなんなんですの?」


  ありすは、まっはびーとるを虫かごに戻しながら、男の子にそういった。男の子は、別の子から虫かごを受け取って、その中身を見せてくる。その中には、まっはびーとるよりも更に立派なツノを持った、大きな大きなカブトムシがいた。カブトムシだからカサカサと動く、でいいんだろうけど、そいつはまるでドシンとでもいいそうな、重厚な身体をしている。前翅は黄色味を帯びており、どう見ても日本で見かけるような生き物の色をしていない。アマゾンとか、そういった場所で生きていそうな生き物だった。

  その大きなカブトムシを見て、るなとありすがひそひそと話している。そのひそひそに、俺も聞き耳をたてる。


「あれって、もしかして」

「ええ、へらくれすおおかぶとですわ」


  虫に詳しいな、ありす。虫に詳しい女の子って、なんだか珍しい。いや、中身は女の子じゃないかもしれないし、そうだとしたら普通なのかもしれないけれど。

  それはさておき、ヘラクレスオオカブトって、世界中で一番大きなカブトムシじゃなかったっけ。なんで、そんなものを持っているんだ。


「ふふっ、けっこう、たかかったんだけどね。でぱーとで、うっていたんだよ」


  あー、たしかにデパートって、たまにそういうのも売っていたりした気がする。特に夏休みとかになると、よくカブトムシやクワガタが、幼虫からだったり成虫も売っていたのを思い出す。

  って、懐かしいなー、なんて思っている場合じゃない。あんなカブトムシが相手じゃ、まっはびーとるもすーぱーぎろちんも勝てるわけがない。どうにかして逃げないと。

  けれど、相手の子たちの集団は、俺たちを囲んで逃がそうとはしてくれない。じりじりにじりと、近づいてくるようだ。

  俺は咄嗟に、るなの後ろへと隠れた。……なんだか情けないのだけれど、この身体だとこういったことが、怖くて怖くて仕方がない。今だって、

  るなはと言えば、中心になっている男の子を睨みつけている。ありすも同じような感じだ。


「おんなのこによってたかって、ひきょうじゃないの?」

「まったくですわっ」


  るなとありすが、相手の子たちに文句を言う。外野の子たちは怒っている様子だったが、中心の男の子は気にも留めていないようだった。……なにか、突っ込むべきセリフがあった気がするが、今はそれどころじゃない。


「それで、ぼくのへらくれすとは、どっちがたたかってくれるのかな?」


  相変わらずの、気持ちが悪いくらいにニタニタした顔で、勝負をしたがる男の子。周りの子たちも、同じように、こちらを嘲笑うかのような顔だ。ニタニタニタニタと、気持ちが悪い。

 

「しょうぶはいいのですが、あしたにしてくれませんこと?わたくしのまっはびーとるは、もうおつかれですの」


  見れば、ありすの手に持つ虫かごの中で、まっはびーとるがだらしなく休んでいた。カゴに入った大きめな木の枝の上で、足をだらしなく伸ばしている。……なんだか、こいつが本当にカブトムシなのか、怪しくなってくる見た目だ。


「うちのすーぱーぎろちんも、つかれてるしね」


  るながそう言ったので、るなの持つ虫かごの中も見てみる。……いない?どこに行ったのかと思っていると、るなの髪の中から2本のハサミが飛び出てきた。るなにしがみついていた俺の、目の前に急に現れたそれに、俺は驚いてしまった。


「きゃぅ!?」

「あ、すーぱーぎろちん。ちゃんと、むしかごにもどりなさい」


  その声を聞くや否や、ブブブと羽音を立てて、おとなしく虫かごへと入っていくすーぱーぎろちん。……さっきから、なんでこんなに聞き分けがいいの?こいつら本当に虫なんだよね?下手なペットなんかよりも、何倍も聞き分けがいい。

  そんな漫才じみたことを繰り広げていたら、相手の子たちも苛立ってきているようだった。


「ぼくは、いましょうぶをしろといってるんだ。いいから、そのくわがたと、かぶとむしをだしな!」


  そう言って、るなの腕を掴んで引っ張る男の子。るなが引っ張られそうになるので、ガシッとるなをつかんで引っ張り返す。

  小さい子どもの身体とはいえ、そこは男の子と女の子。相手の方が、微妙に力が強い。少しづつ、少しづつだけど、じりじりと引っ張られていく。


「ちょっと!いたいんだけど!」

「るなになにするの!」


  るなと揃って、男の子に抗議をする。ありすも横から、おやめなさいと言っている。しかし、男の子は知らぬ存ぜぬといった様子だ。

  なかなか思い通りに、るなを捕まえることができないからか、ついには大声を出すようにまでなった。


「ぼくのあいてをしないのがわるいんだ!いいから、はやくしろ!」


  男の子はさらに力を込めて、るなの腕を引っ張る。るなの声が、段々と悲痛な叫びになっていく。見かねたありすが、るなの腕から男の子の手を外そうとするけれど、がっちり掴んで離さない。


「いたい!いたいってばぁ!」

「るなをはなしてっ!」


  どうにかしてるなを助けたいけれど、ここで俺が手を離せば、るなが相手に捕まってしまう。それは、避けなければならない。だけど、このままじゃどうにもできない。

  そんな時だった。


「いいかげんにするっす。いたがってるじゃないっすか」


  そう言いながら、るなの手を掴む男の子に手刀をして、割って入ってくる男の子が1人。男の子と目が合うと、彼はニコッと、微笑みを返すのだった。

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