表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/91

18話:そうだんと、むしとりと

「ってことが、あったんだけど」

「なんでそれを、いまここでいうのかなぁ」


  珍しく晴れ模様だった日に、俺とるなは今、保育園の裏山に作った秘密基地のそばに来ていた。

  秘密基地にはしばらく来ていなかったけれど、雨で濡れてダメになっていたりといった様子はなかった。一回作ったものは、システムで保護されていたりするのだろうか?その辺りは考えてもわからないし、考えたところで意味はない。とにかく、無事だったことだけ喜ぼう。

  そんな秘密基地のそばで何をしてたのかというと、虫取りだ。6月だと、虫取りには早いんじゃないかとも思うが、前に、カブトムシを捕まえたという子がいることをりんから聞いて、もしかしたら裏山にいるんじゃないかということで、るなと一緒に、木に蜂蜜を塗って、何か来ないか待っているのだ。

  ちなみに、るなが虫取りの提案をした段階で、りんとみづきは、「無理」と一言残して、2人でどこかに行ってしまった。

  そんなわけで珍しく、今日はるなと2人っきりだった。なので、せっかくだから前にあったこと、風邪で倒れた日に、水無月さんと岬が押しかけてきたことと、その2人が今度泊まりにくるかもしれないということ、それから、水無月さんにご飯をご馳走になったことなどを、相談してみようと話を振ってみたのだけれど。


「というか、それってふつうのおとこのこからみたら、ずいぶんうらやましいはなしじゃないの?」

「でも、わたしそんなきはないし、どうしたらいいかわかんくて」

「まって、やっぱりこれいじょうはやめよう」


  うん、俺も止めた方がいい気がしてきた。この女の子の話し方で、こんな話するのは、話す方も聞く方も地味に辛い。結局、明日にでもどこかで話を聞く、ということで落ち着いた。

  みーんみーんと、蝉が鳴く声が響く。外に出ていると、あまりの暑さに汗をかいてしまう。


「あーつーいー」


  るながお腹を出した、だらしがない格好で寝転がる。あまりにも暑いので、秘密基地の中で涼んでいるのだ。秘密基地に冷房がついているわけではないので、もちろん暑さはそう変わらないのだけれど、日陰になっている分、多少はましだった。

  今のるなの格好は、だらしなさを極めたような格好をしており、ショートパンツとキャミソールだけだ。横には、虫取り用の網とカゴが投げられている。それよりも気になるのは、格好よりもその見た目だ。


「ところでるなー」

「なーにー」

「なんでひやけしてるの?」


  昨日の今日で、なぜか肌を黒く日焼けしているのが、気になってしょうがなかった。みんなであったときに誰も突っ込まなかったから、今まで聞けなかったけれど。


「じつは、はだのいろをかえられるおみせがあるのよ」

「そんなのまであるのっ!?」


  服屋が豊富だったり、髪型を自由に変えられたり、キャラメイキングに命かけすぎなんじゃないだろうかこのゲーム。でもまぁ、キャラメイクにこったゲームだったら、肌の色を変えるぐらい普通にあるか。現実でも日焼けサロンとかあるぐらいだし。……そう言うと、子どもの見た目とずいぶん合わない。

  しかし、なんというか。たまに、るなの肩からキャミソールの紐がはらりと落ちるのだけれど。それがなんというか、色っぽいというか。しかも、芸が細かいことに日焼けあとが、おそらくは前に来ていたスクール水着の日焼けあとにしてある。いろいろ狙いすぎなんじゃないだろうか。


「……ひなちゃんのめが、やらしー」

「そ、そんなにみてないしっ」


  見てない、見てないったら見てない。そんなことよりっ。


「そろそろ、むしあつまったかなぁ?」

「はなしそらした……でも、そろそろいいかもね。みにいこー」


  秘密基地から出て、少しだけ歩いたら、蜜を塗ってあった木がある。そーっとそーっと、近づいて見てみると、たくさんの虫がわらわらと集まっているのが見えた。


「これは、きもい」

「うん……ちょっときもちわるいね」


  本当の子どもだったら喜んだのかもしれないけれど、俺たちの中身はいい年をした大人だ。その感覚で見ると、集まり過ぎてしまった虫の大群は、思ったよりも気持ち悪かった。


「これは、みづきたちこなくてせいかいだね」


  心からそう思う。特に、りんは虫が苦手だからなぁ。

  しばらく見ていたけれど、アリとか蝶々ばかりで、珍しい虫はいそうにない。


「かぶとむしなんていないじゃん!」


  なんてるなは怒っているけれど、そもそもどこにいるかなんてのは聞いていないわけだし、こんなすぐ近くにいるとは思わないんだけれど。

  そんなるなをなだめていれば、ぶぶぶぶと、何か羽音が聞こえてくる。

  飛んできたそれは、蜜のところへと到着すると、他の虫を蹴散らし、1匹だけで悠々と蜜を舐め始めた。甲虫独特の黒々とした身体。けれど、そいつの角は1本ではなく、ハサミのような顎が2本生えている。


「くわがただ!」

「おおきい!」


  突如現れたそいつに、俺たちは驚いた。もともと狙っていたものではなかったけれど、それと同じくらい人気のある虫だ。

  るなは、虫取り網を構えると、そーっとそーっと木に近づく。クワガタは蜜を吸うのに夢中で、逃げる様子を見せない。それなら好都合だと言わんばかりに、虫取り網を一気に木に叩きつけた。そして、そのままスライドさせて、今度は地面に叩きつける。木には、クワガタの姿は見えない。


「るな……つかまえられた?」


  俺はとててと、るなの元へと駆け寄った。るなは網の中を確認している。

  そして、クルッと振り向いて、ニッコリと笑顔を見せる。手には、逃げようと必死に動くクワガタの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ