表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/91

16話:あまやどり

  『雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。自由とはそういうものだ。』

  なんて、よくも言ったものであるが、実際のところとして、雨の中なんかで踊りたくはない。それもまた、自由なんだろうけど。

  だって、雨が降ってる中に向かって行ったら、服とか靴とか全部濡れるだろう?肌にくっついて、気持ち悪いんだよなあれ。靴も、ぐっちょぐっちょに濡れると気持ち悪いんだよなぁ。

  まぁ、なぜそんな話をしているのかといえば。


「もーやだー!かえるー!」

「いーからはしりなさいー!」


  現在進行形で、雨の中をみんなで全力疾走しているからであった。これは、自由なのだろうか。


ーーーーーー


  遡ること、30分ほど前。

 

「ひーまー。ひーまーなーのー」


  寝っ転がりながら、手足をジタバタもぞもぞさせて、暇だ暇だと騒いでいるのはるなだ。

  今日も、雨がざーざーと降っているので、保育園内で遊んでいるのだけれど。 動き回ったり、暴れまわったりするのが好きなるなは、体力を持て余しているようだった。

  寝っ転がったまま、もぞもぞと動き回るるな。何故か、平泳ぎの真似までし出した。


「……るーちゃおもしろい」

「まねしようとしなくて、いいからね」


  そんな、るなの真似をしようとするみづきを抱き止めつつ、今日も平和に過ごしていたのだけれど。


「お、あめやんだんとちゃう?」


  と、窓の外を眺めていたりんが言った。

  床でじたばたしていたるなが、ガバッと起き上がって窓に張り付く。


「ほんとだ!やんでる!」


  目を輝かせながらそう言うるなに、俺は釘をさす。


「やんだけど、くもってるから、おそとはいかないよ?」

「えー!いーこーうーよー!おそといこうよー!」


  さっきよりも、激しくジタバタするるな。完全に駄々っ子のそれである。……なんか、いつもの月本を思い出して悲しくなってきた。


「うちも、おそといきたいわぁ」


  りんが便乗してきた。なんで引っ掻き回すタイミングで入ってくるかなぁ、この子は。

 

「……おそと、いく」


  みづきがふんすと、鼻息を鳴らす。

  気がつけば、みんな外に出る準備を始めていた。

  多数決だと、俺の負けだから仕方がない。この状況で1人で待っていられるほど、俺は達観はしていないわけで。


「じゃあ、いくわよー!」

「ちょっ!まって!」


  そうして、駆け出すみんなを追いかけるように、雨に濡れた道を走っていくのだった。


ーーーーーー


  そうして出てきて割とすぐに、再びざーざーと降り出した雨に濡れられ、走り回った俺たちは、いつか遊んだ公園のトンネルの中に逃げ込んだ。

  それぞれ、スカートやTシャツの裾をぎゅーっと絞って、少しでも水気を取ろうとする。


「そや、きがえたらええんとちゃう?」

「それだ!」


  るながシステムウインドウを開き、着替えを選択する。

  すると、るなの身体がピカッと光り、いつの間にか着ているものが変わっている。

  いつも着ているTシャツとショートパンツから、ジーンズ生地のスカートと、別のTシャツに変わっていた。……髪や身体は濡れたまま。

  服は綺麗になったけど、髪がびしょ濡れのままで、るなはうなだれている。


「……かみがぬれてきもちわるい」

「さすがにたおるとかないしなぁ」


  みづきも、ぶんぶんと頭を振っている。……子犬みたいだな。

  それでも、着替えないよりはましだと思い、みんな着替えをした。当然、髪や身体はびしゃびしゃだ。

  雨音は次第に勢いを増していき、ざーざーとした音だけが響いている。そんな中、外に出るわけにもいかず、トンネルの中で雨宿りをする。

  急に、ピカッと眩しい光が見える。瞬間、ゴロゴロゴロと、大きな音も。遠くで、大きな雷が落ちたようだった。

  その光と音に、思わずビックリして、るなの服を掴む。

 

「ひいっ!」


  るなも、雷にビックリしたのか、悲鳴をあげていた。るなの小さな身体が、ぷるぷると震えている。

  俺は、そんなるなに恐る恐る声をかける。


「だいじょうぶ……?」


  するとるなは、俺の方をキッと睨んで怒鳴り散らした。


「あんたが、きゅうにふくをひっぱるからでしょうが!」


  いやだって、雷が怖かったし、しかたないじゃない?そんな言い訳もるなには通じず、普通に怒られてしまった。その間も、るなの服を掴む手を離せなかったけれど。

  よくよく見れば、俺の服の裾もみづきが掴んで。俺の反対側から、りんがるなの服を掴んでいた。

  まるで、雨に濡れて冷えた身体を温めようと、誰からとも言わずみんなで身体をくっつけあった。


「みづきあったかい、ひながいっつもぎゅーってするのわかるきがする」

「……るーちゃはくっつきすぎなの」

「るなちゃんもあったかいでー」

「りん、もっとこっちにおいで」


  とにかく、みんなでくっつけあう。

  ぎゅーで、ぎゅーで。ぎゅーっだ。

  ざーざー。ざーざー。とくん、とくん。

  雨音と、くっつけあっている誰かの心臓の音だけが、聞こえてくる。

  誰かの髪が、鼻にひっかっかってムズムズする。


「くちゅんっ」


  おもわず、くしゃみがでてしまった。……それも、かわいらしい声のくしゃみが。

  身体は冷えたはずなのに、カーッと顔が熱くなる。


「ひーなちゃん、かわいいくしゃみだね……くしゅんっ」

「……るーちゃもかわいいの……へくちっ」

「あはは、ほんまやなぁ……んっくしゅ」


  みんなでくしゃみをしたら、なんだかおかしくなって、大笑いをした。

  ふとトンネルの外を見れば、いつの間にか雨は止んでいて、遠くの空に大きな虹がかかっている。


「ふわぁ……」


  この身体から見るそれは、とてもとても大きくて。すごくすごく美しいものに見えた。


「おそとにでてよかったでしょ?」


  そう言ったるなの顔は、ニカっとしたドヤ顔で。その顔が、ちょっとうざかったけれども。

  こういうのも、自由でいいのかもしれない。そんな風に思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ