15話:おままごとをしよう!
季節は移り変わって6月。世間一般では、梅雨と呼ばれる季節になったわけだが、あいも変わらず俺は、俺たちは、『ちゃいるど・はーと・おんらいん』にログインして遊んでいた。
結局あの後、岬からも水無月さんからも、何か呼ばれたり、お泊まりの催促があったりということはない。けれど、このままでは済まないだろうなというのだけは、ひしひしと感じている。
誰かに相談できればいいんだろうけれど、未だに何もできないでいた。
しかし……
「にゅおー」
「りん、はりついってたってあめはやまないの、わかる?」
「るなちゃんかて、おんなじかっこしてるやないの」
「わたしはいいの、むにゅー」
問題児2人が、窓に張り付いて外を見ている。顔がガラスで潰れそうなほどに、窓に張り付いている。
そう、季節は梅雨。雨が降りしきる季節。
現実と同じように、ゲーム内の世界でも雨が降りしきっている。今日は特にひどく、土砂降りの大雨だ。
現実にも今日は土砂降りなので、実際の天気と連動しているのだろうか。
「はぁ、これじゃ、あそとにいけないね」
「……えほんも、ほとんどよんだ。つまんない」
問題児たちのことを馬鹿にできないぐらいには、俺とみづきも暇を持て余しているわけで。
今は、俺が足を伸ばしたその間に、みづきがすっぽり収まって、一緒に絵本を読んでいたところだ。間に収まっているみづきの顔が、どことなく笑顔になっている気がする。……なにがそんなに嬉しいのだろうか。
ふと、りんがこっちを見てくる。
「ひなちゃんとみづきちは、なかええなぁ。まるでしまいやん」
「ほんとよねー」
いつの間にか、るなもこっちを見ていた。そして、ちょっと悪巧みをしている笑顔を見せた。
「しまい、かぞく……そうだわ!」
あぁ、あれはいい予感がしない。そんな気がする。
そして、るなは思いつきを言い放った。
「おままごとをしましょう!」
ーーーーーー
こうして、突発的に始まったおままごと。 まずは、くじ引きをして役を決めることになった。
配役は、お母さん、お父さん、その子ども。そして……
「なんで、なんで、わたしがぺっとやくなの……」
床に手をついて、がっくりと項垂れているるな。
「はっはっは、どんまいるなちゃん。うちのかぞくのぺっとになりぃな!」
そしてこの煽っている関西弁が、お父さんだ。大黒柱がこんなので、酷く行き先が不安である。
「……わくわく」
そして、このかわいいのはお母さん。めちゃんこかわいいお母さんだ。
そんなわけで、消去法で子ども役が俺になる。まぁ、クジで決まった配役に、文句を言ってもしょうがない。
りんが、項垂れているるなの肩に手を置いて、話しかける。
「そんなぺっとのくじをひいたあなたに、すぺしゃるぷれぜんとやでー!みづきち!」
「……あいあいさー」
そう言うと、みづきはお気に入りのうさぎさんリュックから、何かを取り出した。青い狸が何かを取り出すような音楽を口ずさみながら。
「……ねーこーみーみー」
独特のイントネーションと共に取り出したのは、猫耳のカチューシャだ。
さらに、尻尾もセットで出してきた。
「これで、かわいいぺっとさんのできあがりやでー!」
りんとみづきが、猫耳と尻尾を持ってるなににじり寄る。
みづきが攻めに転じているのは、珍しいからしばらく眺めていよう。
「それみずいろじゃない!わたしにつけてもにあわないからなしなし!」
そう、りんとみづきが手に持つ猫耳と尻尾は、綺麗な水色をしている。まるで、みづきの髪の色のように。
るなの抵抗虚しく、猫耳と尻尾は無事装備された。水色だった猫耳と尻尾は、装備されると同時にすうっと、るなの髪色と同じ金色に変わっていく。
「これが、れいねおねーさんのしんさく!『しぜんにかみのけとおんなじいろになる、どうぶつかちゅーしゃ』や!」
すごい技術だけれど、名前がそのまんま過ぎてださい!恐らくは、別にちゃんと名前があって、りんが適当に喋っているんだろう。
猫耳が、自動的に色が変わるだけでもすごいのだけれど、それ以上にすごいのは猫耳と尻尾が、まるで本物のように動いていることだ。
りんがるなに近づこうとすると、これ以上何かされてたまるものかと、るながふしゃーと威嚇をする。尻尾をぴーんと上に立てて。
後で聞いた話だけれど、感情を読み取って、それに適した動きを自動で行うらしい。本人の気持ちとかも隠せなくなるので、隠し事はできなくなるが、まるで本当に耳と尻尾が生えたような、そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。
まぁ、るなは元々自由奔放で猫っぽい子だったので、十二分に似合っている。俺は、それを暖かい目で見ていた。
「にゃによう……そんにゃめでみるなぁ」
るなを見ていると、にゃんにゃんと喚きだした。……言語モジュールにも影響が出るのだろうか。まぁ、似合ってるしいいか。
「じゃあ、じゅんびもできたしはじめよーか」
りんがそう言って、おままごとを始めたのだった。
ーーーーーー
「ただいまー、かえったでー」
「おかえり、おとーさん」
りんが帰ってきた。仕事帰りのお父さんという設定だ。
俺は、玄関で出迎えてあげた。
「おー、ひなーかえったでー、きょうもえーこにしてたかー?」
「うん、るなとあそんでたよ」
「そーかそーか」
そう言って、りんは俺の頭を撫でた。背が同じくらいだから、ちょっと背伸びをしているのが可笑しい。
「にゃ、にゃー」
後ろからるながやってきた。四つん這いで。
尻尾がゆらゆらと揺れている。撫でて欲しいのかな。
「るなーかえったでー、ほらごろごろ」
そう言うとりんは、るなの顎の周りを撫でた。
るなはキッと、猫扱いするなとりんを睨んだが、最終的にすごい気持ち良さそうな顔をした。これは猫耳のせいなのか、りんの撫で方がうまかったのか、判断はつかなかった。
「……おかえり、おとーさん」
「ただいまやでー、おかーさん」
そう言ってひょっこり現れたのはお母さん役のみづきだ。
「……おとーさんのぶんのごはんは、てーぶるのうえにあるから。ひーちゃは、もうねるじかんだから、はやくねなさい」
「「「!?」」」
不意打ちだった。
りんかるながボケ始めると思ってたから、最初から覚悟はしていたけれど、まさかの、みづきからボケ始めた。
これには流石のりんとるなも、驚きを隠せていない。
「えと、その、お、おかーさんにばんしゃくつきあってほしいなぁ……なんて」
おぉ!切り返した!がんばれお父さん!
「……わたしも、あしたはあさはやくからぱーとだから、もうねます。ほら、いくわよ」
俺の背中を、ぐいぐいと押すみづき。 設定が重い。あのりんですら、ぽかんとしている。
「る、るな。いっしょにねよう」
「にゃ、にゃあ」
俺はこの空気に耐えられずに、るなに助けを求めた。
るなも同様で、俺に擦り寄ろうとした。その時だった。
「……るーちゃは、ぺっとようのべっとがあるからこっち」
と、別に分けられた場所に、るなが引きずられていった。
閉じ込められたわけでもないのに、その場から動けなくなるるな。
りんも、テーブルのところで1人座っている。
俺は、みづきに抱き枕にされている。
どうして、こんな状況になってしまったのか。
「すとっぷ!すとーっぷ!」
りんが叫んだ。
「みづきちのなかのせってい、どうなってるん!?」
りんはみづきにそう聞いた。さすがに今回は俺もおかしいと思った。
いつもは真面目な子なのに、今日は明らかにおかしい。
「……いっつも、りーちゃとかがすきかってやるから、おどろかせよーとおもって。どっきりせいこう」
そう言って、みづきはにっこりと笑った。
いつも、問題児組がいろいろやるから、逆に驚かせてみたくなったということらしい。
楽しかったのかもしれないけれど、こういうドッキリはできれば勘弁してほしい。
以前に感想欄でいただいた、「おままごともして欲しい」というのを元に話を作りました。
他にもなにかして欲しいというものがあればやってみたいと思います。
話が纏まるかどうかと、作者的にピンとくるこないがあるので、全部を拾えるとは限らないですが。
それでもよければ、感想などにやってほしいことを書いていただければと思います。




