13話:見えないところで修羅場模様
ガチャリ。バタン。ドアは閉められた。岬が、ドアを閉めて帰っていったからだ。状況に追いつけずに、考えるのが遅れてしまう。
どうにか、短い時間でフリーズから脱した俺は、大声で岬を引きとめようとする。
「ってちょっとま、ごほっ、ごほっ」
けれど、風邪の影響か思いっきり咳き込んでしまう。水無月さんに支えられて、座らせられる。
「……とりあえず、引き止めてきますから。小日向さんは、横になっててください」
そう言って、水無月さんも外へと向かっていった。情けないことに、俺は家の中で待っているしかなかった。いつまでも玄関先で座っているわけにもいかないので、布団に戻って横になる。
……まぁ、風邪引いて早退したってのに、家の中に知らない女の子連れてきていたら、そりゃあ不審に思われてもしょうがないよなぁ。実際には、連れてきたんじゃなくてついてきたんだけど。それでも、拒否はしっかりしておくべきだったか。今更だし、思ったところで、起こってしまったことはどうにもならない。
ほどなくして、2人が戻ってきた。何があったかはわからないが、一触即発な状態だ。起きて迎え入れようとするが、手で制止させられる。枕元に2人が座った。……今日に限って岬のスーツがタイトスカートだから、アングルがまずい。なるべく意識しないようにしつつ、誰かが話し始めるのを待つ。
「……先輩が、風邪引いてるのをいいことに、女の子を家に連れ込むゲスじゃないことはわかったっす」
ぐぅ、岬の言葉の節々に棘があるのだが。いや、俺が悪いのか?俺は悪くないと思うんだけど。
その時、水無月さんが岬にツッコミを入れる。
「……岬さんって、小日向さんの前だとそういう喋り方なんですね」
「……うっさいわよ」
珍しいな俺の前なのに素で話す岬を見るのは。それにハッと気がついた岬は顔を少し赤らめて目をそらした。俺はそれがおかしくて、少し笑ってしまう。
「笑うなんて酷くないっすか!」
「ごめんごめん、岬のそういうのって珍しいからさ」
俺がククっと笑えば、水無月さんもおかしかったのか少し笑っていた。出会って1日と経っていないけれど、彼女はあんまり笑っていることが少なかったので、これも珍しい気がする。これは、指摘するにはまだ心の距離が近いわけじゃないから放っておくけど。
話が先に進まないので、こっちから話題を振ることにする。
「それで、岬はどうしたんだ?特に、連絡とかしてなかったはずだが」
「してないのが問題っすよ。メールしたのに、返事がないから心配になって見にきたっす。それなのに女の子を連れ込んでるし……」
「それ誤解だって言ったよね!?」
俺が起き上がりながら慌ててそう言うと、岬は笑いながら答える。
「冗談っすよ。冗談。それで、倒れて動けないならご飯でも作ろうかと思ってきたっすけど、そんなに心配いらないみたいっすね」
「そっか。心配かけてすまんな」
「いいっすよ。先輩と私の仲っすから」
俺と岬は顔を見合わせながら、クスッと笑いあった。そこに、水無月さんが割って入ってくる。
「……それで、岬さんはご飯を作りに来たんですよね。作って早く帰ったらどうですか?」
「そっちが帰るなら帰るっすよ。まさか泊まろうとか思ってなかったっすよね」
岬がそう言うと、水無月さんは吹けない口笛をぴしゅーぴしゅーと鳴らしていた。……案外お茶目なのかこの子。というか、泊まろうとしてたってそれって問題なんじゃ。
「いや、さすがに未成年の子は泊めたりできないんだけど」
「……じゃあ未成年じゃなければいいんですよね。私、21なので問題ないです」
そう言って、カバンの中から免許証を取り出して見せる水無月さん。すぐには計算できないけれど、今年に入ってきた高卒の子よりも生年月日が上だから間違いないのだろう。……これは、墓穴を掘ったか?
「そういう抜け駆けは、許さないって決まったっすよね」
「……決めたのは、話した前なのでノーカウントですし」
やいのやいのと揉め合う2人。俺は話についていけないが、とりあえず、いい予感がしないことだけはわかる。そんなわけで、ちょっと話をそらして、どうするか考えよう。
「とりあえず、飯にしないか?俺も少しなら食欲あるし……」
「わかったっす!」
「わかりました!」
そう言うと、2人で台所に立って料理を始めた。喧嘩しながら料理してるんだけど、怪我だけはしないでほしい。……というか、聞くに堪えないから、寝たふりをして、どうするか考えながら待っていよう。そう思った俺は毛布を頭まで被って、寝たふりをするのだった。
――――――
「……それで、どうするつもりなんですか?」
「……どうするもなにも、あなたが帰るなら帰るし、泊まるなら泊まるか、無理やり連れてくわ」
岬と水無月は小日向に聞こえないように、なるべく小声で会話をする。どちらも、そこそこに料理スキルはあるので、作業が止まることはない。
「……じゃあ、どうせなら泊まって行きましょうよ。小日向さんが本当にキツそうなら帰りますけど、結構元気そうですし。……というか、私的には倒れそうになっているところを見ている分、放っておくほうが不安なので、最初から泊まるつもりでしたけど」
鍋に火をかけ、お湯を沸かしながら不敵に笑う水無月。その笑みは、先ほどまでのあどけなさが残る少女の笑みではなかった。岬はその笑みに、どこか得体の知れないものを感じる。
「あなた、本当に何考えているわけ。目の前で助けたからって、ここまでするなんて、普通じゃないわ」
岬は小日向の部屋に連れ戻されるにあたって、一連の経緯は聞いていた。だからこそ、目の前の少女の行動の意味がわからなく不気味だったので、小日向を守る意味でも戻ってきたのだけれど。
……思えば初手で逃げたのは失敗だったと、今更ながらに冷静になった岬は考えた。
水無月は、その岬の言葉に、あっけらかんとこう返した。
「……言ってませんでしたっけ。私、小日向さんとは春先からですけど、そこに置いてあるVRゲームで、一緒に遊んでるんですよ。もっとも、向こうは私の正体を知らないですけどね。……私が知ったのも偶然ですし。知り合いだったら、助けたいって思うのは自然じゃないですか?」
ますますもって意味不明な水無月の言動に、岬は余計に混乱するのであった。




