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4話:いっしょならこわくないっ

「ふえぇ!?」


  とかわいらしく叫び声をあげた俺は、その自分の出した声に恥ずかしさを覚えてしまい、その場にへたり込んでしまった。

  顔が熱い。恥ずかしさのあまりに絶対顔が真っ赤になってしまっている。心なしか、目に涙まで潤んできている気がする。何が悲しいというわけでもないのに、涙が出てくるのを止められそうにない。頑張って止めようとはしているが、これ以上何かあれば完全に泣いてしまいそうだ。


「ちょっ、ひなちゃん、おちついて。ねっ?」


  るなが俺のことを慰めようと必死だ。

  俺は見た目は強面で女性からは怖がられるのだけれど、実際のところは人見知りで恥ずかしがり屋だ。弄られたり、初めて会った人の前なんかだと、耳まで真っ赤になって恥ずかしがる。その度に「似合わねー」とさらにからかわれるのだが。

  そういった部分が、この幼女の体だとどうにも表面に出てきてしまうようだ。強面という殻が奪われてしまったからだろうか。だからと言って、泣く、ということはないのだが、感情モジュールが暴走気味なのか自分自身でもわからない俺の本心からなのか、自然と目から涙が溢れ出てくる。どうにも止められそうにない。

  るながわたわたと、「だいじょうぶ?だいじょうぶ?」と心配してくれている。そんなるなの様子を見ていたら、自然と涙も止まっていた。ちょっと泣いたら、すっきりした気がする。


「……ごめんね。もう、だいじょうぶだから」

「ほんとに?むりだったら、ろぐあうとしてもいいんだよ?」


  きっとるなは、俺がこのゲームを生理的に受け付けないと判断したのかもしれない。

  俺はそれを否定するように、首をぶんぶんと横に振った。長い黒髪が、俺の顔に俺の顔にぺちぺちと当たる。慣れない感覚がとても鬱陶しい。


「ほんとにだいじょうぶ。はずかしすぎて、なみだがでてきただけだから」

「だいじょうぶならいいけど、いまからそれじゃあ、さきがおもいやられるよ」


  るなはやれやれといった様子で手を横に持ち上げお手上げのポーズをとった。月本がよくやるそのポーズをるながやってることに俺は思わず吹き出してしまう。


「げんきになったなら、だいじょうぶだね!じゃあ、さっそくあそぼう!」


  そういうと、るなは俺の手を取って駆け出した。ふにふにとした柔らかい手が、俺の手を包み込む。俺も引っ張られるようにして駆け出す。走るとスカートが翻りそうになるので、もう片方の手で押さえながらるなの後についていく。

  駆ける2人の姿は、元気な、遊ぶのが楽しみで仕方がないといった様子の幼女と、初めて訪れた場所に、恥ずかしがってしまい友達に手を引かれている幼女だった。片方は同僚で、もう片方は俺なのだが。

  そんな同僚、もとい元気系幼女に手を引かれて、引っ張られてきた場所は、滑り台だった。滑り台。公園とかでよく見る、階段を上って上がり、斜面を滑り降りる、どこの公園にでもあるあれだ。目の前にあるそれは、横に象の絵が描かれてあり、象の鼻の部分が斜面になっていて、幅が広く2人同時に滑っても平気そうな、保育園なんかにありそうなものだった。


「えっと……これって……」

「ん?すべりだいだよ?」

「いや、わかるよ?」


  そんなことは見ればわかる。俺の見た目は今は幼女だが、中身まで幼女になったわけじゃない。というか、本物の幼女だってあれが滑り台だってわかるだろ。

  るなは俺の手をつないだまま、滑り台に向かって歩き出す。


「あれであそぶよ!」

「え!?ちょっと、えぇ!?」


  いやいやいや、ちょっと待ってほしい、いや待ってって!そりゃあ他から見ればただ滑り台で遊んでいるだけの幼女だ、何にもおかしなところはない。

  だがしかし、中身は27歳会社員男性 (独身)だ。滑り台で遊ぶのは、きつい。精神的に、きつい。

  そんな俺の内心をしってか知らずか、るなは俺を引っ張って、滑り台の階段を上っていく。カツンカツンと、鉄製の階段を上る音がする。階段の段数だけで言えば、20段もないぐらいの、俺の元々の身長と同じか少し低いぐらいの滑り台のはずなのだけれど、やけに高く感じる。なんというか、嘘かも知れないけれど、ちょっと怖い。


「る、るなぁ、て、はなさないでね?」


  手すりの横から下を覗き込めば、地面がものすごく遠い。落ちたらひとたまりもないだろうことは明白だ。まるで谷底を見ているような、とでも言えばその怖さが伝わるだろうか。落ちるのが怖いので、片方の手はるなの手をぎゅっと掴み、もう片方の手で手すりを掴む。下からパンツが覗き込まれそうになっているけれど、そんなことを考えている余裕がないほどに、怖い。


「ひなちゃん、こわがりすぎじゃない?べつに、てははなさないけど」


  るなが若干呆れ顔だ。しかし怖いものは怖いのだ。現実の俺は高所恐怖症とかそういうわけでもないけれど、これも感情モジュールが過剰に働いているせいなのだろうか。

  そうこうしている間に、滑り台のてっぺんにたどり着いた。るなと2人で斜面のスタートの位置に座る。そうなると、強制的に下を覗き込むことになるわけで、かなり急に見える斜面が俺たちの前へと広がっている。


「た、たかいぃ……」

「ほら、いくよっ!」

「ちょっ、ちょっとまっ、きゃぁぁぁぁ!」


  るなが俺の手を引いて滑り台を滑る。手を引かれているので、俺ももちろん一緒に滑ることになる。


「きゃぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁ!」


  ぶわぁっと風が顔に当たる。大したことないはずなのに、その風圧に俺はぎゅっと目を瞑る。その緩やかな斜面を、お尻がすすーっと滑っていく。時間にして、10秒も滑ってはいないだろう。あっという間に滑り終わってしまった。到着点の砂場に、ととっ、っと着地する。


「たのしいでしょ?」


  るなが笑顔で俺に話しかけた。とってもかわいくて、気持ちのいい笑顔だ。俺はこくこくと頷いた。俺の心の中に、不思議な感覚が残る。

  だって、ただ滑り台を滑っただけのはずだった。ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。それなのに。


「ねぇ、るな。……もういっかい……」

「うんっ。いいよっ」

「つぎもいっしょにすべろっ」

「もー、ひなちゃんはこわがりだなぁ」


  俺は、るなにずっと手を繋いでもらったまま、何10回と滑り台を滑った。きゃーきゃーと叫びながら滑った。ただそれだけのはずなのに、楽しかった。童心に返ったような、不思議な気分だった。

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