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3話:ようじょになっちゃった!

「……んぅ」


  目を覚ますと、ベンチのようなものに腰掛けていた。随分大きいベンチなのか、足がぶらんぶらんと宙に浮いている。周りを見れば、幼稚園か保育園だろうか。大きな建物に、滑り台やブランコといった遊具。そしてそこで遊ぶ、たくさんの、幼女。


  幼女。

  幼女。

  幼女。


  何処もかしこも幼女だらけだ。砂場で大きな山を作って遊ぶ幼女。ブランコをこいであどけない笑顔を見せる幼女。ちょっと目を凝らせば、室内で積み木やぬいぐるみといったおもちゃで遊ぶ幼女。絵本を読んでいる幼女など様々だ。

  そこで俺はここがどういう世界なのかを思い出す。これがゲームの、「ようじょ・はーと・おんらいん」の中なのだと。幼女だらけという異質感を除けば、なんら現実と変わらないその光景に、俺は感動すら覚えた。なんとなく、絶対に届かない空へと手を伸ばしながら、ぽつりと呟く。


「これが、げーむの……っ!?」


  その感動を言葉にしたその瞬間に、自分の声に猛烈な違和感を覚える。

  舌ったらずな喋り方もそうだが、何よりも声が高い。まるで子どものような声の高さだ。自慢をするわけではないが、俺の地声はかなり低い。なんせバリトンボイスだ。萌えソングなど歌った日には大事件である。そんな俺が、あどけない幼女の声で喋っているのは、なんとも滑稽だろうか。滑稽を通り越して、信じられない気持ちでいっぱいだ。

  声がこれなのだから、もちろん見た目も先ほど見た画像の幼女の姿になっているのだろう。見た目はさっきキャラクター作成画面で確認をしているからなんとなくわかってはいるのだけれど、もう一度鏡か何かで自分自身の姿を確認したい。周りには鏡のようなものは無さそうなので、あの建物の中だったらあるんじゃないかと思って、ベンチから降りて立ち上がろうとする。座っていたベンチが大きく感じていたのは、身体が小さくなっているためだったようだ。俺はベンチからピョンとジャンプするように降りた。

  降りてから改めて辺りを見回してみれば、周りの建物や遊具、普段見ている物でさえも随分と巨大な物のように思えてくる。まるで、小人になったような、いや、自分自身の視界が本当に低くなっているのだ。

  考えてみれば当たり前のことで、元の俺の身長が180cmあるのに対して、子どもの身長なら100cm有るか無いだろう。この身体の身長がいくつなのかはわからないが。

  ぶわぁっと吹く風が顔に当たる。まるで本当に外に出て風が吹いてきたみたいなリアリテイを感じる。空から放たれる陽の光は今の時期の春の陽気のように暖かく、時折吹く風が心地よい。こんなところまでリアルに再現してるんだなと感心する一方で、太ももにひらひらと何かが当たる感覚を覚える。ふと足元を見てみれば、


「す、す、す、すかーとっ!?」


  あまりにも自然に今の姿になっていたので服装にまでは気がつかなかったのだけれど、今の俺は膝上までの長さしかない、短いプリーツスカートをはいていた。よくよく見れば周りの幼女たちもみんなスカートをはいている。

  そりゃそうだよな、幼女なんだし。幼稚園児らしく、スカートにスモックを着て、胸元に自分の名前の書かれた名札をつけている。当然俺も同じ格好をしている。初期装備というやつなのだろう。

  だけれど、俺のようなごつごつした男性がスカートをはくのはおかしいだろう!?なんて考えるが、今の俺の姿もまた幼女になっているので、見た目としてはスカートをはいていることは何もおかしくはない。そして、もしかすると中のパンツまでも女児用のものなのかもしれない。いや、これだけ凝ったゲームだ。間違いなく子ども用のそれになっていることだろう。

  そう思うと途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。スカートの端を抑えてぷるぷるわなわなとしていると、後ろから声をかけられた。


「こんにちは!おなまえおしえて!」

「ひゃう!?え、ええっと……」


  うおっ!幼女に話しかけられた!通報される!って今は俺もその幼女だし、相手も本物じゃなくてアバターの幼女だ。きっと中身はおっさんに違いない。

  俺に話しかけてきたその幼女は、金髪のほんの少しだけウェーブがかかった長い髪。まつ毛も長く、ぱっちりと大きな目に、ぷにぷにして柔らかそうなほっぺた。小さい手をふりふりとこちらに向けて小さく振っている。

  まさに美少女ならぬ美幼女とでも呼べばいいだろうか。とてもかわいい幼女だった。そんな美幼女はこっちを見るなり、笑いをこらえながらこう言った。


「あははっ、どうようしすぎ。わたしだよ、わ・た・し」

「?わたしっていわれても、んん?」


  目の前の幼女は胸元についた名札を見せてきた。赤いチューリップを模した名札には、平仮名で「るな」と書かれている。そんな名前の知り合いはいないが、ハンドルネームであるだろうから、なにかの法則がないか考える。るな……ルナ……ルナティック……月……え……嘘、だろ?いやけれど、俺の知り合いでその法則に従って、しかもこのゲームをやっているやつなんて、他にいない。だから思わずその名前を呟いてしまう。


「もしかして、つきも……」

「あー!あー!ほんみょうは、だめ!」


  目の前の幼女は大慌てで俺の口を手で塞いだ。ぷにぷにと柔らかい手が俺の口元を覆う。

  自分でも失敗したとは思う。ゲームを始める前に月本に、「VRMMOも基本的にはネトゲと同じだから、リアバレとかには注意が必要だからな」と念を押されていたのにもかかわらずこれだ。

  けれども、これではっきりとした。目の前の美幼女こそ、俺をこのゲームに誘った張本人である、月本健二に他ならなかった。

  それにしたって……


「うわぁ……るな、はないわぁ……」

「う、うるさいなっ。あんただってにたようなもんでしょっ!なによ、ひなって!」

「みょうじからとったの!」

「みょうじぃ?あ、ああ、そういうことかぁ」


  月本、もといるなは合点がいったようになるほどなるほどと頷いていた。うんうんと頷いているるなはかわいいけれど、なんとなく違和感がある。


「つき、じゃなくって、るな。しゃべりかたがいつもとちがうよ?わたしもだけど……っ!?」


  俺は、「喋り方がいつもと違うぞ?俺もだけどな」と言ったつもりだった。というかそう言ったはずだった。けれども、実際に口から出た言葉は、舌ったらずな女の子のような口調で喋っていた。俺が混乱していれば、るながちょっとまってて、となにやらメニューを開く動きと、キーボードを操作するような動きをしていた。その直後にメールが届く。ドリームギアはスマートフォンと連動させることができ、メールのような連絡を取るアプリをゲーム内で開けるようになっている。

  俺はシステムメニューを開く。メニューの項目に気になる点が幾つもあったが、それはおいおいるなに説明してもらうことにしよう。まずはるな、もとい月本からのメールを見る。


『喋りにくいからこれはメールで説明する。このゲームの中だと、言語モジュールなんかに干渉がかかって、動きや喋りがかなり制限される。世界観を壊さないためにな。だから、幼女のような喋り方しかできないし、動きも幼女のようになるからな』


  といった内容の文章が、俺の目の前に表示される。その内容に俺はおどろいてしまい、「はぁ!?」と叫びたかったが、


「ふえぇ!?」


  と、かわいらしい幼女の叫び声がその場に大きく響くだけだった。

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