32話:ようじょたちのひみつきち ご
うーん……なんか、すごく気持ちいい……。ふぁ……なんかぎゅってしてる……まぁいいかぁ……ぎゅぅ……
「ふふひいはらはらしへー!」
「ふぇ!?」
目がさめると、何故かるなをぎゅっと抱きしめていた。俺の腕は、るなの頭を抱えて離していなかった。俺は慌てて、るなの頭を離す。
「うわぁ!?ご、ごめんなさいっ!」
「ぷはぁ、いきぐるしかったぁ」
るなはすーはーと、大きく息を吸っていた。俺はその様子をじっと見て、るなが落ち着いてからそっと声をかけた。
「ごめんね?」
「ねぼけてただけだから、いいけどさぁ……うしろにもいるし」
るながそう言って、後ろを指差す。するとそこには、すやすやと寝息を立てるみづきがいた。
それから、俺の後ろにも違和感が。振り返ってみると、りんががっちりと俺をホールドして離さない。あ!ちょっと!抱きつくのはまぁいいけど!足絡めるのはやめて!なんか笑いながら寝てる!?きもちわるっ!
「やっ!ちょっと!やめ、んっ!」
「うわぁ……ひなちゃんえっろぉ……」
「いいからたすけ、ひゃん!おへそ、さわるなぁ!」
寝ボケてるのか、りんの手がごそごそと俺のお腹周りを弄る。くすぐったくて、なんか変な感じがして気持ち悪い。見かねたのか、るなが助け舟をだす。
「てゆーか、りんちゃんおきてるでしょ」
「ばれた?ばれへんとおもってんけど」
「ばれるにきまってんでしょ」
アッサリと白状するりん。後ろにいるから顔は見えないけれど、たぶんきっとテヘペロみたいな顔してるに違いない。
というか、なんでやられた俺よりも、るなの方が不機嫌になっているんだろうか。
ちょっと、いやかなりイラっとしたので、寝たまま肘をりんのお腹にぶつけてやった。りんはぐふっと声を出し、俺から離れた。
「ちょ……いたいやん……」
「りんがわるいんです」
「りんちゃんがわるいんだから、もんくいわないの」
「ひどないっ!?」
「ひどなくないですー」
というか、さっきのってセクシャルハラスメント違反じゃないの?あ、幼女同士のくすぐり合い扱いで、セーフですかそうですか。
これ相手がレイネお姉さんだったら?セクシャルハラスメント違反になるんですかそうですか。
「ところで、いつからおきてたの?」
「るなちゃんがもがもがいってるあたりからやなぁ」
「ほとんどさいしょからじゃない……」
るなが、ため息を吐いた。俺もため息を吐きたい。わちゃわちゃと言い合っているうちに、みづきも起きた。
「……みんな、うるしゃい」
「「「ごめんなさい」」」
とにかく全員で謝った。
ーーーーーー
全員で、ぞろぞろと秘密基地から出た。
改めて、俺たちの作った段ボールハウス、もとい秘密基地を見てみる。
大人の考え方で見れば、なんだこれっていう代物だ。段ボールに落書きして、それに布をかぶせらだけのものだから、酷いなんてもんじゃない。
けれど、今はみんな幼女、子どもなのだ。何か満足感のような、達成感のようなものを感じる。
他のみんなも同じなのだろうか。みんなでじっと秘密基地を見ていた。
やっぱり、みんな感動のようなものがあるのだろうか。
「りんちゃんがかいたの、ださくない?」
「それよりも、なかにしくもんひつようやん?ってださいってなんやの!」
「……るーちゃのも、ひどいとおもう」
「なかわるいねみんな!?」
なんというか、俺の感動を返せ。
みんな自由すぎるというか、辛辣すぎないかな?
もうちょっと仲良くしようとは思わないのだろうか。いや、喧嘩するほど仲がいいのか?……喧嘩ですらなくて、ただの罵り合いのようにも聞こえるけれど。
やんややんやと、騒いでいるとカエデの木の裏側から、「なにようるさいわねー」と声が聞こえてきた。
現れたのは2人の影。
どちらも見知った顔で、1人は青と白のエプロンドレスに、ローズゴールドの長い髪。もう1人はピンクのツインテールに、先の幼女とお揃いなのだろうか、ピンクと白の同じデザインのエプロンドレスを着た幼女だった。
「ちょっと!うちのうらでなにをさわいで……ってあんたたちは!」
「あれ?ありすとろぜったさん?」
前に何故か公園の占拠を行い、缶蹴りで勝負した幼女であるありすと、そのありすを慕う従者のような幼女、ろぜったさんがそこにいた。
ありすは俺たちを見つけるなり、指をさして騒ぎ立て、ろぜったさんはスカートの裾を摘んで、ぺこりと優雅にお辞儀をした。
「えと、ふたりは、どうしてここに?」
「あちらのほうに、ひみつきちをつくってましたの」
チラリと、ろぜったさんは俺たちが作った秘密基地を見た。
「なんというか、にたようなことをかんがえるのですね」
「ありすたちもひみつきちつくってるんだ」
「そうなんですよ」
うふふと笑って、俺に話しかけるロゼッタさん。本当人格者だよなぁ……。
一方で、ありすはるなと言い合いをしていた。
「ふんっ!だっさいひみつきちね!」
「なにおー!ださいのは、りんのかいたところだけだし!」
「ださいってみとめてんじゃないのよ!」
「なちゅらるにうちのことでぃするのやめにしーひん?」
「……りーちゃ、どんまい」
りんが1番、被害を被っていた。
ろぜったさんは、ありすちゃんがごめんなさいと謝っている。なんというか、本当にありすの保護者みたいだ。今度から、心の中でお母さんと呼ぼう。
ありすはるなに食って掛かって、手は出さないものの、おでこをぶつけ合ってぐりぐりとしている。
掴み合いの喧嘩になる前に、ろぜったさんが提案する。
「まぁまぁ、ありすちゃん。どっちのひみつきちがすてきか、るなちゃんたちにもみてもらいましょうよ」




