31話:ようじょたちのひみつきち よん
「おーきなくりのー」
「かえでのきやで?」
「……あのさぁ」
またしても、るなとりんがアホなことをやっている間に、作るものはさっさと作っておこう。
段ボールを広げて、広げて、広げ……て……?……んん?
「るなー?」
「だからあんたは……ってどうしたの?」
「だんぼーる、ひろげてどうしたらいい?」
「え?……わかんにゃい」
舌をぺろっと出してるなは笑って言った。
ぺちん。俺が、るなにぱんちした。
ぱすん。みづきが、るなにぱんちした。
すぱーん!りんが、るなにハリセンでツッコミをした。
「りんだけいたいっ!?」
俺とみづきのぱんちは痛くないと申すか。
まぁ、ぱんちした手が痛かったんですけどね……。手首が、くにゃってなった。みづきも痛そうにしていたから、お互いになでなでしあった。
それはさておき、この大きな段ボール、一体全体どうしようか。
考えていると、みづきがうさぎさんリュックからハサミを取り出した。
「……いりぐち、つくる?」
「それしかないよねぇ」
「わたしがやる!」
るなはみづきからハサミを受け取ると、段ボールに向かってちょきちょきとハサミを入れた。
段ボールに歪な形の入り口が出来ていく。本人的には、アルファベットのUを逆さまにした形に切りたかったようだ。
「できた!」
「いや、できてないから。これ、みづきでも、はいれるかびみょうだから」
るなが作った入り口に、ツッコミを入れる。
何を思ったのか、りんがその入り口に身体をねじ込んだ。
「ねぇ、りんはなにしてるの」
「いやな、うちみたいにほそかったら、いけるんじゃないかとおもってな?」
「ほんとなにしてるの……」
なんだこいつら。自由人しかいないのか。
とりあえず、邪魔なりんを引っ張り出しした。引っ張られる時に「あーれー」とか言っていた。
るなからハサミをもらい、入り口をちょきちょきした。
「ひなちゃん、ひなちゃん」
「るな、なに?いま、はさみつかってるんだけど」
「さっきのいりぐちのきったの、ぼっこつけたらけんみたい!だんぼーる!ばすたーそーどー!」
「はぁ?」
るなが自分で切り取った段ボールに、ガムテープでどこから拾ったのか、棒をつけて振り回していた。
ちょ!あぶなっ!?ぶつかる!ぶつかるから!?
「……るーちゃ」
「え?なに?」
みづきが、どうやって近づいたのか、るなの服の裾を引っ張る。
「……せいざ」
「あ、はい……」
るながみづきに、本気で怒られていた。だんぼーるばすたーそーどは没収された。
俺は入り口を作り終わった段ボールを、どうにか設置した。
段ボールの中に入ると、天井が開けている。ぶわぁっと風が吹き、木々が揺れてさわさわと葉っぱの音がする。
そんな光景を楽しんでいると、上にバサッと布生地が被せられた。
「できたわ!」
「うまくいったなぁ」
段ボールから外に出ると、るなとりんが布生地を段ボールに被せていた。みづきがガムテープでぺたぺたと布生地を固定していく。
なんというか、これは……。
「ほーむれす……?」
「いわないでよ……」
るなにも自覚はあったようだ。
秘密基地というよりは、ホームレスが段ボールを寄せ集めて作ったみたいなものになってしまった。これじゃあホームレス幼女だ。
「……これつかう」
みづきがうさぎさんリュックからクレヨンを取り出した。これで絵とか描けば、少なくともホームレス感はなくなる。みづきさんマジ有能。
みづきからクレヨンを受け取ると、みんな思い思いに何かを描き始めた。
俺は何を描こうかな?髪留めにもいる、ひよこでも描こう。黄色のクレヨンをぐーで握って、段ボールにぐしぐしと描いていく。鉛筆とか持つように、持てないんですよこれが……。
「あはは!へたくそー!」
「るなもにたようなもんじゃない!」
俺の描いたひよこを笑ったるなが描いていたのは、なんというか、ただの丸?だった。それも凄い歪な。ぐにゃぐにゃと曲がっていて、丸なのかどうなのかも怪しい。
「で、それはなにをかいたの?」
「みたらわかるでしょ!つきよ!つき!」
いやいやいや。誰がわかるんだよそれ。しかも月ならせめて、三日月にするとか、もっと工夫しようよ。
るなはキーってなりながら、周りに星を描き始めた。それもぐにゃぐにゃだから、何か言われるまで、まったくわからなかったけど。
俺もひよこを何匹か書いて、ちょっと他の様子を見てみる。
隣の面に、みづきが何かを描いていた。
誰か顔のような……ぴこぴこと触覚の生えた顔。ふと思って自分の頭に手をやってみる。ヘアゴムでくくった触覚が生えている。ということはこれって。
「これ、わたし?」
「……うん。これがひーちゃ。こっちがるーちゃ」
思った通り、俺の顔だったようだ。隣には、金髪の女の子の顔。みづきも言うようにるなの顔だ。
「……あと、わたしと、りーちゃもかく」
「うん、がんばってね」
コクリと頷き、ふんすと鼻息を鳴らして、水色のクレヨンで再び描き始めた。
りんはどうしてるかなーと見てみると。残っている面を見たら、いなかった。
段ボールに絵……というよりは、文字らしきものが書かれている。『ひみつきち』と書かれていた。……そのまんますぎる。
その文字の横にはハートとか星とかでかわいくしてあった。
それを描いた本人はどこにいったのかと思えば、段ボールの中で寝ていた。すぅすぅと寝息を立てて。手には、クレヨンが握り締められたままだった。本当に自由だなぁ。
余った布生地を持ってきて、りんに被せてあげた。なんとなく一緒に横になる。段ボールの中は微妙に保温されていて、春の陽気が心地よくなってきた。
そんなに時間も経たないうちにるなとみづきもやってきた。
しーっと人差し指を口に当てて、静かにするようにジェスチャーをする。るなはこくりと頷き、みづきは両手で口を塞いだ。
そーっと、4人でゴロンと寝転んだ。すでに1人寝ているから、誰も喋らない。
そのうちに、こくりこくりと船を漕いで。いつの間にか意識がなくなっていた。




