表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/91

18話:バレていた正体★

  結果だけ言うと、失敗だった。

  ラーメン屋に入った瞬間に、なんかもう雰囲気がヤバイ気がしたのだけれど。普通の注文をしたのに、大盛りみたいな量の野菜が乗ったラーメンがやってきた。つーか麺が見えなかった。ヤサイマシマシなんて頼んでない。全部食べたら吐きそうだった。岬が半分残して、それも食べた。限界だった。


「うぅ……もう無理……吐きそうっす……」

「お前残してただろうが……うぷ……」


  2人でラーメン屋を出て、近場のベンチで休む。途中の自販機でスポーツドリンクを買って、それを飲んで一息つく。もちろん岬の分も買って渡してある。


「ふぅ……もう動きたくねぇな……」

「そうっすね……あと、あそこはもう行かないっす……」

「それは同感」


  決して不味かった訳ではないのだけれど、量が多すぎる。やけ食い目的でもない限り、行くことはないだろう。

  それにしたって、腹が重い。重すぎて、この後何かする気にならないな。今日はログインしないで、そのまま寝ようかな。仕事の疲れもあるし。

  そんなことを考えながら、夜空をぼーっと見上げてみる。街明かりのせいで、星はほとんど見えない。


「あの……先輩……」


  岬が何か言おうとしたところで、俺のケータイがけたたましく鳴った。


「悪い、岬何か言ったか?」

「あ、いえ、先に電話どうぞっす」


  岬に手でゴメンと謝り、電話に出る。着信の表示は月本だったが、電話に出たのは鈴宮だった。


『あー!小日向くーん!今いつもの店で飲んでるやんかー!おいでーなー!』


  電話の向こうから聞こえる鈴宮の声は酔っ払いのそれであり、完全に絡み酒だった。正直に言って、行きたくない。絶対に面倒なことになる。昔から、こういう時は面倒なことになっていた。今回もそうなることに違いがないだろう。

  それに、今は岬もいるし、ダシにするわけではないが、それを理由に断ろうとする。


「いや、今後輩と飯食った後だから今日は遠慮」

『ひなちゃん』


  言葉が出なかった。ブワッと、汗が吹き出る。嫌な予感しかしない。なんで、どうして。そんな言葉ばかりが、脳内を駆け巡る。


『ご飯食べてたんなら駅前方面?30分でこれるやん?じゃあ後でなー!』


  そう言って、一方的に電話は切られてしまった。何かもう手遅れな気がしてならないが、ここで行かなければ、もっとひどいことになってしまいそうだ。


「悪い岬、俺ちょっと行かないといけなくなった」

「先輩大丈夫っすか?顔青いっすよ?」

「大丈夫、大丈夫だから。じゃあな岬。また明日」


  心配する岬から逃げるように、俺は鈴宮の待つ居酒屋へと向かった。岬が何か言っていたようにも聞こえたが、それどころではなく、全然耳に入ってこなかった。

  居酒屋の場所は覚えていたので、迷わずにスムーズにこれた。店のドアを開けると、奥の席に鈴宮が見えた。月本の姿も見える。


「お!小日向くーん!こっちやでー!」


  店主への挨拶もそこそこに、呼ばれるがままに鈴宮の元へと向かう。

  席へとつくなり、目の前にビールが運ばれてくる。頼んでもいないのに出てきたそれを手渡される。きっと、俺が入った瞬間に作るように、あらかじめ言ってあったのだろう。俺は、一応ジョッキは受け取りながらも、鈴宮に話をつけようとする。


「鈴宮、あのな」

「いーからまず乾杯やん?」


  しかし俺の話は遮られ、強制的に乾杯をさせられる。

  横を見れば、ぐったりとした月本の姿が。


「悪いな、俺は止めたんだけど、無理だった。俺もう、ゴールしていいよな……」

「いやいやまって。せめて状況を説明してくれ。あいつの説明じゃ絶対に収拾がつかなくなる」


  そんな話をしている間にも、鈴宮はジョッキのビールを飲み干し、お代わりを頼んでいる。なんかもう、ベロンベロンだ。


「手短に言うとだな……鈴宮もあのゲームやってた。しかも、前に一緒に缶蹴りで遊んでた。以上。俺はもう疲れた」

「おい、待て、起きろ。説明が足りない。一緒に遊んでたって……」


  前に一緒に缶蹴りをした子といえば、高飛車なありすと、そのお付きのろぜったさん。後は関西弁の……。


「まさか……お前……」

「せやでー、うちがりんちゃんやでー」


  一瞬、世界が止まったようだった。終わった。最悪だ。

  がっくりと項垂れる俺を尻目に、鈴宮は話を続ける。


「なんだか態度というか、雰囲気?が、なんか君らにそっくりな気がしてなぁ?月本くんにふっかけてみたら簡単にバラしてくれてなぁ?」

「お前のせいじゃねぇかよ!」


  俺は半分寝ている月本に怒鳴った。月本は寝ぼけ眼で、目をこすりながらこう言った。


「お前な……仕事終わってすぐ呼ばれて、お前に電話が行くまでの時間、ずっと言わなかったんだから許せよ……。俺なんて、小日向くんのことも教えないと会社にバラす、って言われたんだぞ……」

「鈴宮……お前酷いな……」

「だってー。月本くんがなかなか話してくれないんやもん」


  だってー、じゃねぇよ。そんなんで社会的に脅すとか怖すぎるわ。

  とりあえず月本には悪いと一言伝えると、気にすんなとだけ言って、また壁にもたれかかって眠りだした。


「で、わざわざ呼び出して何のつもりだったんだよ」


  だんだんと逸れていく話題を、どうにか元に戻す。こうでもしないと、どんどんと話が明後日の方向に進んでいってしまう。


「えー?特につもりもなにもないで?ただ、せっかくまた一緒のゲームやるんだし、そのお話でもしよか、って思っただけで」


  そう言った鈴宮の顔は、何も考えていなさそうな、屈託のない笑顔だった。どうやら本当にゲームの話がしたいだけらしい。ゲームの話だけならいいんだけど、今回のこれはゲームがゲームだしなぁ。


「それならそうと、ちゃんと言ってくれ。しかも電話で後輩と一緒だって言っただろ」

「それの話も聞きたいやん?それって女の子なん?小日向くんにも春が来るん?」

「こねーよアホ。ただの後輩。今日は仕事量が多かったから、ちょっと飯を奢っただけだ。」

「……岬ちゃん可哀想になぁ」

「月本なんか言ったか?」

「何にも言ってねぇよ」


  その後も、鈴宮に後輩とのことをしつこく聞かれたが、実際に何もないので、話すこと自体がない。

  そんな調子で、3人で話をしながら、夜は更けていくのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ