18話:バレていた正体★
結果だけ言うと、失敗だった。
ラーメン屋に入った瞬間に、なんかもう雰囲気がヤバイ気がしたのだけれど。普通の注文をしたのに、大盛りみたいな量の野菜が乗ったラーメンがやってきた。つーか麺が見えなかった。ヤサイマシマシなんて頼んでない。全部食べたら吐きそうだった。岬が半分残して、それも食べた。限界だった。
「うぅ……もう無理……吐きそうっす……」
「お前残してただろうが……うぷ……」
2人でラーメン屋を出て、近場のベンチで休む。途中の自販機でスポーツドリンクを買って、それを飲んで一息つく。もちろん岬の分も買って渡してある。
「ふぅ……もう動きたくねぇな……」
「そうっすね……あと、あそこはもう行かないっす……」
「それは同感」
決して不味かった訳ではないのだけれど、量が多すぎる。やけ食い目的でもない限り、行くことはないだろう。
それにしたって、腹が重い。重すぎて、この後何かする気にならないな。今日はログインしないで、そのまま寝ようかな。仕事の疲れもあるし。
そんなことを考えながら、夜空をぼーっと見上げてみる。街明かりのせいで、星はほとんど見えない。
「あの……先輩……」
岬が何か言おうとしたところで、俺のケータイがけたたましく鳴った。
「悪い、岬何か言ったか?」
「あ、いえ、先に電話どうぞっす」
岬に手でゴメンと謝り、電話に出る。着信の表示は月本だったが、電話に出たのは鈴宮だった。
『あー!小日向くーん!今いつもの店で飲んでるやんかー!おいでーなー!』
電話の向こうから聞こえる鈴宮の声は酔っ払いのそれであり、完全に絡み酒だった。正直に言って、行きたくない。絶対に面倒なことになる。昔から、こういう時は面倒なことになっていた。今回もそうなることに違いがないだろう。
それに、今は岬もいるし、ダシにするわけではないが、それを理由に断ろうとする。
「いや、今後輩と飯食った後だから今日は遠慮」
『ひなちゃん』
言葉が出なかった。ブワッと、汗が吹き出る。嫌な予感しかしない。なんで、どうして。そんな言葉ばかりが、脳内を駆け巡る。
『ご飯食べてたんなら駅前方面?30分でこれるやん?じゃあ後でなー!』
そう言って、一方的に電話は切られてしまった。何かもう手遅れな気がしてならないが、ここで行かなければ、もっとひどいことになってしまいそうだ。
「悪い岬、俺ちょっと行かないといけなくなった」
「先輩大丈夫っすか?顔青いっすよ?」
「大丈夫、大丈夫だから。じゃあな岬。また明日」
心配する岬から逃げるように、俺は鈴宮の待つ居酒屋へと向かった。岬が何か言っていたようにも聞こえたが、それどころではなく、全然耳に入ってこなかった。
居酒屋の場所は覚えていたので、迷わずにスムーズにこれた。店のドアを開けると、奥の席に鈴宮が見えた。月本の姿も見える。
「お!小日向くーん!こっちやでー!」
店主への挨拶もそこそこに、呼ばれるがままに鈴宮の元へと向かう。
席へとつくなり、目の前にビールが運ばれてくる。頼んでもいないのに出てきたそれを手渡される。きっと、俺が入った瞬間に作るように、あらかじめ言ってあったのだろう。俺は、一応ジョッキは受け取りながらも、鈴宮に話をつけようとする。
「鈴宮、あのな」
「いーからまず乾杯やん?」
しかし俺の話は遮られ、強制的に乾杯をさせられる。
横を見れば、ぐったりとした月本の姿が。
「悪いな、俺は止めたんだけど、無理だった。俺もう、ゴールしていいよな……」
「いやいやまって。せめて状況を説明してくれ。あいつの説明じゃ絶対に収拾がつかなくなる」
そんな話をしている間にも、鈴宮はジョッキのビールを飲み干し、お代わりを頼んでいる。なんかもう、ベロンベロンだ。
「手短に言うとだな……鈴宮もあのゲームやってた。しかも、前に一緒に缶蹴りで遊んでた。以上。俺はもう疲れた」
「おい、待て、起きろ。説明が足りない。一緒に遊んでたって……」
前に一緒に缶蹴りをした子といえば、高飛車なありすと、そのお付きのろぜったさん。後は関西弁の……。
「まさか……お前……」
「せやでー、うちがりんちゃんやでー」
一瞬、世界が止まったようだった。終わった。最悪だ。
がっくりと項垂れる俺を尻目に、鈴宮は話を続ける。
「なんだか態度というか、雰囲気?が、なんか君らにそっくりな気がしてなぁ?月本くんにふっかけてみたら簡単にバラしてくれてなぁ?」
「お前のせいじゃねぇかよ!」
俺は半分寝ている月本に怒鳴った。月本は寝ぼけ眼で、目をこすりながらこう言った。
「お前な……仕事終わってすぐ呼ばれて、お前に電話が行くまでの時間、ずっと言わなかったんだから許せよ……。俺なんて、小日向くんのことも教えないと会社にバラす、って言われたんだぞ……」
「鈴宮……お前酷いな……」
「だってー。月本くんがなかなか話してくれないんやもん」
だってー、じゃねぇよ。そんなんで社会的に脅すとか怖すぎるわ。
とりあえず月本には悪いと一言伝えると、気にすんなとだけ言って、また壁にもたれかかって眠りだした。
「で、わざわざ呼び出して何のつもりだったんだよ」
だんだんと逸れていく話題を、どうにか元に戻す。こうでもしないと、どんどんと話が明後日の方向に進んでいってしまう。
「えー?特につもりもなにもないで?ただ、せっかくまた一緒のゲームやるんだし、そのお話でもしよか、って思っただけで」
そう言った鈴宮の顔は、何も考えていなさそうな、屈託のない笑顔だった。どうやら本当にゲームの話がしたいだけらしい。ゲームの話だけならいいんだけど、今回のこれはゲームがゲームだしなぁ。
「それならそうと、ちゃんと言ってくれ。しかも電話で後輩と一緒だって言っただろ」
「それの話も聞きたいやん?それって女の子なん?小日向くんにも春が来るん?」
「こねーよアホ。ただの後輩。今日は仕事量が多かったから、ちょっと飯を奢っただけだ。」
「……岬ちゃん可哀想になぁ」
「月本なんか言ったか?」
「何にも言ってねぇよ」
その後も、鈴宮に後輩とのことをしつこく聞かれたが、実際に何もないので、話すこと自体がない。
そんな調子で、3人で話をしながら、夜は更けていくのだった。