16話:けんかのあとはなかなおり?
結局のところ、その日は缶蹴りで遊んだことで満足して、全員がログアウトした。公園の占拠とははたして……。
そんでもって、翌日にログインをして、いつもの様にみづきとぎゅぎゅーして、お魚に餌をやってから外へ出てみると。
「まってましたわ!」
ばばーん、とありすが現れた。ピンクの髪をツインテールにした取り巻きの子も一緒にいる。ありすは相変わらず、悪役令嬢みたいに高笑いをして、実に偉そうにしている。
こっちとしては、特に用もないのでうえぇ、って感じなのだが。今はるなもいないし。みづきもすっかり俺の後ろに隠れてしまっている。俺も、できることならどこかに隠れたい。
しかし、そんなわけにもいかないので、どうやって逃げようかと考えて1歩後ずさると、取り巻きの1人であるピンクの髪の子が近づいてきた。
「おねがいします!ありすさんのはなしをきいてあげてくださいぃ!」
そう言うと同時に、その場に跪いて懇願するピンクツインテール。ジャパニーズ土下座であった。……一連の流れに隙がなく、中の人は営業職なのかと考えてしまった自分が恨めしい。
「ちょっと!なにやってますの!」
流石のありすも、これには予想外だったらしい。あわあわと大慌てだ。どうにかピンクの髪の子を立たせようとしているが、どうにもビクともしないようだ。
もちろん、こっちだって大慌てなのだけど。周りの視線が痛すぎてヤバい。
「……はやくかおあげて」
「あ、はい」
みづきが俺の背中から顔を出してそう言うと、ピンクツインテールはあっさりと立ち上がった。本当になんなんだ。
「あなた!いったいどういうつもりですの!」
「どういうつもりもなにも、こうでもしないと、ひなちゃんとみづきちゃん、にげちゃいますよ?」
そうでなくても、逃げるつもりなのだけれど。
というか気になっていることが一つ。
「ぴんくさん、はなしかたきのうとちがうよね?」
「ぴんくさんって……わたしはろぜったといいます。どうかおみしりおきを」
そう言うとピンクの髪の子、ろぜったさんは深々と礼をした。スカートの裾を持ち上げ、カーテシーをしながら。なんだかいつもありすに付き添って、本職のメイドさんのようだった。動きや立ち振る舞いまでそれっぽい。何者なんだろうか。
「はぁ……それで、はなしかたは?」
「あのばでは、あーいうしゃべりかたのほうがいいかとおもいましたので」
ろぜったさんは、どうやらとんだ演技派だったようだ。この立ち振る舞いでさえも、何かの演技なのだろうか。
そんな演技派なろぜったさんが、どうしてこんなお転婆ありすについていってたのかというと。ろぜったさんはVRに限らずMMO自体を、興味はあったけれど今までやったことがなく、ひょんなことから『ようじょ・はーと・おんらいん』のβテスターに当たり、右も左も分からないまま一人で遊んでいたところをありすに話しかけてもらい、一緒に遊ぶようになったらしい。
ありす、素直じゃないだけで根はいい子なんじゃないか……。
「ありすさんは、いいこなんですよ。あのえぷろんどれすも、せっせと『おてつだい』をこなして、ようやくかえたばっかりのもので……」
「きゃああああ!よけいなことはいわなくていいのですわ!」
若干キャラ崩壊を起こしつつあるありす。
きっと、ツンデレお嬢様とか悪役令嬢みたいなキャラを演じたかったんだろうけれど、そんな彼女がお皿拭きやお使いに行っている姿を想像すると、それだけでもうキャラ崩壊だ。なんというか、背伸びしたお子様というか、そんな印象が与えられる。
アリスを見てみれば、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっている。その様子に、みづきが子どもを見るような――ここにいる全員子どもの姿なんだけれど――優しい目でありすを見ている。
「……あーちゃ、かわいいね」
「うん、かわいいね」
「きゃあああぁぁぁ!」
かわいいを連呼して、口撃してみる。必殺のかわいい口撃だ。アリスは悶え始めた。顔から、もう火でも出てしまいそうなほどに真っ赤にして身悶えている。
そこに、ろぜったさんが割って入ってくる。
「やめてあげてください!そりゃあ、ありすさんはいつもいっしょうけんめいで、『おてつだい』も、もんくひとついわずにやって、ひとりであそんでいたわたしのめんどうもみてくれるいいひとなんですけど!あんまりかわいいかわいいっていうのは、ありすさんがはずかしくてしんでしまいます!」
「いやいや、ろぜったがいちばんいってるよ」
ありすはいよいよもって、悶絶して死にそうだ。アリスのライフはもう0よ!もうやめて!
「……あーちゃは、かわいいね」
「みづき、もうやめたげて」
ありすはこれ以上言うと、逆に泣き出してしまいそうだ。みづきはもうわざと言っているようにしか見えない。
そんなありすを、ろぜったさんが支えながら立ち上がらせる。
「とりあえず、ありすさんがげんかいなので、きょうはもうこれでしつれいしますね。またきかいがあれば、あそんでくださいな」
「うん、またあそぼうね」
「……ばいばい」
そう言って、ありすとろぜったさんは、どこかへといなくなっていった。
みづきはしばらく手を振っていたが、見えなくなってからポツリと呟いた。
「……さわがしかった」
「そうだね」
騒がしかった後には、シンとした寂しさが残っている。
まるで、門限が近づいてもう遊ぶのが終わりだと言われて、でも、まだ遊びたい気持ちが残っているような、そんな寂しさだ。
そんな寂しさを感じさせてもらえるのも、幼女体験ならではなのかもしれない。
まぁ、その後すぐるなと合流して普通に遊んだんですけどね!