15話:ようじょたちのきっく・うぉー あと
改めて缶を蹴り直し、缶蹴りが始まった。あの後、もう一回すっ転んだので、結局るなが缶を蹴り飛ばしてスタートした。最初っからそうしてくれればよかったのに。
とててててーと、散り散りに走っていく。ちらっと後ろを見れば、ありす達が大きな声で、いーち、にー、と数を数えている。なんだか見ていて微笑ましくなるが、ずっと見ていては俺が捕まってしまう。
俺は一先ずトンネルの中へと逃げ込んだ。
しかし入ってから、逃げ場がないことに気がついた。すぐさま脱出を図るべく、入ってきた方とは反対の出口に駆けて行った。
急いで走っていると、後ろからとててててーと追いかける音。
後ろを振り返ると、ローズゴールドの長い髪と、青と白の可愛いデザインのエプロンドレス。悪役令嬢みたいな話し方の幼女、ありすが走ってきていた。ドレスのスカートが走りにくいのか、スカートの裾を持ち上げながら走ってくる。……なんでこの遊びを選んだのだろうか。
「おまちなさーい!」
「まてといわれて、まつひとはいないー!」
とててててー。
とててててー。
他から見れば、微笑ましくかけっこをしているように見えるのだろうが、こっちはかなり真剣にやっている。心の中でうおおおぉぉ!!と叫びながら走る。走る。全力で走り抜けていく。
まぁ、実際には。
「おまちなさいー!」とててててー。
「きゃー!」とててててー。
なのだが。
どうやら、俺とありすの足の速さは同じらしく、一向に向こうが追いつく気配はない。振り切れる気配もないのだけれど。
逃げ惑っていると、視界にブランコが入る。
そこには、ぽけ〜っと座っているみづきが……ってえぇ!?
「ちょっとみづきー!なんでつかまってるのー!」
「……どじった。へるぷ」
ヘルプじゃねっつの!捕まるのがあっさりとしすぎて早すぎだ!
「にゃっははは。うちにかかればこんなもんやー!」
見ればみづきのすぐ側で、りんが腕を腰に当てて、すごくドヤ顔をしていた。なんか、すっごく腹がたつなあれ。
「あの……ここはわたしがみてるので、あとのこたちをつかまえにいってほしいんですけど……」
ピンクの髪の子が、少しおろおろとしながら、りんに捕まえに行くように言っている。そりゃそうだ。どう考えても、るなを捕まえに行くべきだろう。
「まーまーええやん。すこしやすませたってーな」
「はぁ……」
りんは不遜な態度でその場を離れようとはしなかった。ピンクの髪の子はすでに諦めた様子だ。元々即興で組んだチームだし、チームワークがないのは仕方がないのかもしれない。
どうにかしてありすを振り切り、缶を守っているピンクの髪の子を掻い潜って、缶を蹴る。これをどうにかして実行しなければならない。
子どもの遊びだからと言って、負けるのはやっぱり悔しい。
「まちなさいですわー!」
ぜーぜー言いながら他のことには目もくれず、俺だけを追いかけるありす。他のことに気を取られてくれないから、逃げ切れる隙が全然ない。
ピンクの髪の子も、俺が缶の方に来ないように、じっとこちらの様子を見続けている。全く隙がない。
そんな時だった。
「たあぁぁぁ!」
俺たちが追いかけっこしている後ろから、るなが全力で走ってきた。
「やっぱしきたな!まってたでぇぇぇ!」
しかし、りんは最初からそれが狙いだったようで、るなの前に立ちふさがる。というか、こっちも逃げて走っているから、見てる余裕がない。
なにやら攻防があった末に、りんを掻い潜って、るなが缶を蹴ったようだ。
「ほら、にげるよ!」
「……るーちゃ、ありがと」
缶が蹴られたので、みづきが解放されて、とててててーと走っていく。
「ちょっと!なにしてますのー!」
ありすがこちらを追いかけながら、守り役のピンクの髪の子に檄を飛ばす。
りんは、「るなちゃん……やるな……」とか呟いている。
「いまだ!」
ありすの気が一瞬それた隙に、全力で走って逃げた。
「まちなさ、あっ!」
ありすが、石にでも躓いてしまったのか転んでしまった。顔から転んだから痛そうであるが、勝負は非情である。俺はその隙に、ありすからかなり距離をとった。
「さて、どうしようか」
全員がそれぞれ逃げて、土管の蔭に合流する。
敵チームは守りを固めたようで、全員が缶の周りから離れようとしない。
「このまま、じかんぎれでもいいけど、それはおもしろくないよね」
るながそう言った。俺もみづきもこくこくと頷いて肯定する。
「のこりじかんもすくないし、さんにんでとっこうしようか」
るなはにっこりと、死刑宣告でもするかのように、笑いながらそう言った。
俺とみづきは、その笑顔に怯えながらぎゅーっと抱きつき、るなの作戦を聞いた。
「なーなー、かまってんかー」
「うるさいですわ!このえせかんさいべん!」
「ありすはけちんぼさんやなー」
「だまってまってなさいな!」
見ればりんとありすが漫才(?)をしている。なんだかありすは、全力で生きてるって感じがするなぁ。公園の占拠なんかしてなかったら、もっと好印象だったはずだ。
そんなところに、俺はみづきと2人で猛ダッシュした。
とててててーとまっすぐ走って近づいた。
「なーなー」
「なによ!」
「向こうから、ひなちゃんとみづきちゃんきてるで?」
「なっ!?あなたたち!いきますわよ!」
ピンクの髪の子以外の2人が、こちらに向かって走ってくる。このままだと2対1だ!何故なら、みづきはすぐに捕まってしまうだろうから。
それでも構わずに、俺はまっすぐ突っ切った!みづきはすぐに捕まっていた!完全に予想通りだ!
「……むねん」
「みづきちゃん、まーたつかまってもうたなぁ」
そう言って、りんに捕まったまま、がくりと項垂れている。
その一方で、俺はありすに追いかけられていた。
「ひーなー!まちなさいってば!」
「だから、またないってば!」
「ぜったいにつかまえますわ!……あっ!」
ありすがまたしても転んだ。転び癖でもあるのだろうか。
俺はその一瞬の隙を逃さず、缶のある場所に突っ込んだ!
「わああぁぁぁ!」
「させない!」
どてん。ずさー。
俺は、ピンクの髪の子の目の前で転んだ。派手に転んだ。それはもう、ダイナミックな転び方をした。
缶までは、もう手を伸ばせばすぐだったのに。
「……ひーちゃ、ぱんつまるみえだった」
「かわいいおぱんつだったなぁ」
周りのみんなに温かい目線を向けられて、俺はピンクの髪の子にタッチされた。
その一瞬の隙をついた出来事だ。
「ひなちゃん、がんばったね」
カーンっ!
いつの間にか現れたるなが、缶を蹴り飛ばした。
その時点で、30分が経ち、タイムアップとなった。
缶蹴りは俺たちの大勝利だった。