14話:ようじょたちのきっく・うぉー まえ
缶コーヒーを飲み干したみづきが、缶をゴミ箱に捨てようとする。うん、みづき偉い子。
「ちょ、ちょちょ!すとーっぷですわ!」
「……?ごみは、ごみばこに」
「そうなんですけれど!」
ありすが、ぎゃーぎゃーと騒いでいる。取り巻きの子達は大変そうだなぁ。ありすをどうどうと宥めている。すーはーと深呼吸して落ち着いたありすは、高らかに宣言する。
「このこうえんであそぶけんりをかけて、かんけりでしょうぶ!ですわ!」
缶蹴り。
かくれんぼと鬼ごっこの、ハイブリットとでも言うべき遊びだろうか。鬼側は缶を守りながら、逃げるプレーヤーを全員捕まえれば勝ち。逃げる方は、鬼に捕まらないように逃げ切れば勝ち。ただし捕まっても、缶を蹴飛ばせば、捕まった子を逃がすことができる。その他、地方ルールもあったりするけれど、大元になるルールはこんな感じだろう。
まぁ、遊びで決着をつけるということであればこちらは特に構わない。そもそも俺たちはこの公園に遊びに来ているわけであって、缶蹴りで遊んだ時点でこちらの目的は達成されているのだから。ありすはアホなのか気がついていないっぽいが。
だけれど、
「こっち3人で、そっち2人だけどどうするの?こっちがおに?」
るながありすに問いかける。
「あ……どうしよう……」
どうやら何も考えていなかったようである。とても、おろおろとしだした。どうしようどうしようと、頭を抱えてしゃがんで呟いている。
そんな時であった。
「なんやこまってるなら、うちにまかしとき!」
何処からともなく声が聞こえる。が、姿が見えない。不気味。不気味すぎる。
ありすたちはその声に、4人でがたがたとくっついて震えている。
俺もみづきとぎゅーっと抱き合った。るなは、俺たちを守るように前に立っていてくれている。
「る、るにゃぁ、なにこのこえぇ……」
「……さぁ?」
この場で唯一、るなだけが平気そうな顔をしていた。そういえば、こいつホラーとか平気なんだっけ。一応周りを警戒はしてくれているけど、怯えたりとか、そういった様子は一切見せていない。
俺はそういうのは苦手だ。幼女になったからじゃなくて、元から苦手だ。
みづきも、そういったのは苦手そうだ。俺の腕の中で、ぷるぷると震えている。
「たぶんどこかにかくれているんでしょ。はやくでておいでー」
呑気な声で、謎の声の主を呼ぶるな。
公園には、公園全体を覆う塀、横向きの土管、トンネルのような遊具、ブランコ、滑り台、ジャングルジムなど、様々な遊具がある。
声はすれども、目に見えるところには姿が見えない。つまりは、どこかに隠れている。隠れられそうなのは、土管かトンネルの中。
「そ、そこにいるんでしょう!」
と、ありすが土管の中を指差した。全員の視線が土管に集まる。しかし……
「えーっと、ごめんな?」
と言って彼女が現れたのは、トンネルの中だった。
全員の視線がありすの方を向いた。彼女の顔は、これでもかというくらい、真っ赤になっていた。甲高い声を発し、きーきーと騒ぎ出す。あまりにもうるさいので、全員でそれを宥めた。
発狂したありすが落ち着いてから、その微妙な関西弁の、キャラメル色の茶髪をサイドテールにまとめた幼女が話し始めた。
「いやな?このこうえんのとんねるのなか、ひんやりしてきもちいーわーおもて、おひるねしてたら、なんやこえがきこえてきたからな?うちもまぜてー、っておもてな?」
にゃははと笑いながら話す幼女は、底抜けに明るかった。
「ところで、おなまえはなんていうの?」
「うち?うちは、りん、っていうんよ」
「……りーちゃ、おぼえた」
りん、と名乗ったその幼女は、あっという間に俺たちの輪の中に溶け込んできた。人付き合いがうまいタイプなのだろうなと思う。そういう知り合いがいたけれど、まさか彼女だなんてことは、ないよな……。あいつもゲームが好きだったけれど、まさかこんなゲームのβテスターに当たってはいないだろう。こんな姿をこれ以上知り合いに見られたくなかったし、そう思うことにする。
ふと見れば、るながりんのことをじーっと見ている。
「るな?どうかしたの?」
「……いや、なんでもないわ。ありす、ちょっといいかしら」
明らかに何かありそうな様子だったけれど、俺はそれ以上聞かないことにした。こうなった時の|るな《月本
》は、絶対に話そうとしないことを、短くない付き合いの中で知っていたからだ。それに、るなの顔は、困ったような顔ながら、どこか嬉しそうな顔をしていた。きっとそんなに悪いことではないはずだ。
「まぁ、これで3たい3だから、ちょうどいいんじゃない?」
「えぇ、こちらもよくってよ」
るなとありすが人数の確認をして、それが終わったようだった。どうやらりんを加えた3対3で決まったようだ。りんもそれで異存はなさそうだ。
ルールは、俺、るな、みづきの3人が逃げるチーム。ありすとピンクの髪の子、それからりんを加えた3人が鬼役。
缶を守る役は1人。その人は、缶を中心におおよそ半径1,5メートル程の、円を書いた中から出ることはできない。そのほかの鬼は、その円の中には入ることはできない。捕まったら、ブランコを囲う手すりの中から出られない。公園の中から、出てはいけない。30分、誰か一人でも逃げ切ったら、逃げるチームの勝ち。全員が捕まったら、鬼チームの勝ち。
と、いった内容になった。
今は、チームごとに作戦会議をしている。
「あんまり、かくれるところはないから、きほんてきに、おにごっこだとおもったほうがいいね」
「うん。だから、いかににげきれるかがしょうぶになるわね」
俺とるながそうこのゲームを評価した。
「……がんばる」
みづきはやる気満々な様子で、両手をぐっと握って力を込めた。かわいいから、頭をなでなでして、ぎゅーってする。
「そろそろいいかしら?」
ありすのチームも、作戦が決まったようだった。いよいよ、缶蹴りが始まる。
思えばこのゲーム、『ようじょ・はーと・おんらいん』で、こんなに人数を多くして遊んだことはなかった。……と言っても6人だけど。
とはいえ、ドキドキして、楽しみになってきた。
「じゃあひなちゃん。さいしょに、かんをけるのはまかせた!」
「ふぇっ!?」
ナンデ!?最初に缶を蹴るのは俺なの!?ナンデ!?こういうのって、リーダーっぽいるなの役目じゃないの!?
「……ひーちゃ、がんばれ」
「ひなちゃーん、がんばりやー」
やめて!あんまりプレッシャーかけないで!緊張して絶対に失敗するから!
「じゃあ、そっちのちーむがかんをけったら、すたーとですわ。そのあと、30かぞえたらおいかけますので」
「ん、おーけー。ひなちゃん、まかせたわ!」
グッと、親指を立てサムズアップをするるな。みづきも真似して、親指をグッとする。
こうなったらもうやるしかない訳で。
「……いきます!」
勢いよく駆け出して、振りかぶった足は、缶には当たらずに宙を舞って。俺の頭を、地面に叩きつけたのだった。