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9話:おはなばたけに★

「そうだっ。どこか、いってみる?」

「……ひーちゃといっしょだったら、いいよ」


  せっかくお友達になったので、ずっと絵本を見ているだけではもったいない。どこかに、一緒に行ってみたいと思う。一緒にお出かけすることで、もっと仲を深められるはずだ。……なんて、安直な考えかもしれないけれど。

  2人で靴を履いて、てくてくとことこ歩いて進む。あんまり遠くに行くのは大変かもしれないけど、せっかくだし、どこか遠くへ行ってみようと思う。

  前に、るなと2人でお使いに来た道を歩いていく。

  いつもは、るなが前に立って歩いてくれるけれど、今日はるなはいない。だから、俺が先頭に立って歩いていく。

  いつもの調子で、てくてくとことこ。

  ふと後ろを見れば、みづきが少し後ろを歩いている。どうせだったら、一緒に並んで歩けばいいのにと思う。そういうことは、まだ恥ずかしいのかな?ずっと、1人で遊んでいたみたいだし。

  けれど、そうじゃなかった。


「……ひーちゃ、まって」


  みづきがボソッと。聞こえるか聞こえないかという、とても小さな声で呟いた。

  俺は、それでようやく気がついた。俺はいつもの調子で歩いている――それでも、普段の俺が歩くよりも何倍も遅い――のだけど、みづきはそんな俺よりも歩幅が小さいから、俺がいつも調子だと、みづきよりもちょっと早く歩いているのだ。

  よくよく見れば、俺についてくるために小走りだったのか、ちょっとだけ息が上がっている。そんなことにも気がつけないなんて、どれだけ俺はアホなんだろうか。


「みづき。て、つなご?」


  俺は、とててとみづきのそばへと戻り、手を差し伸べた。疲れて、膝に手をついているみづきに、手を伸ばす。みづきが手をつなぎやすいように、ニッコリと、笑顔で。

  俺のことを見上げたみづきは、少し照れながらも、俺の手を取ってくれた。

  2人で手をつないで、並んで歩く。みづきの歩幅に気を使いながら。てくてくとことこ。

  なんというか、まるで手のかかる妹みたいだ。守ってあげなくちゃいけないと思ってしまう。これから、ログインするときはなるべく一緒にいてあげよう。そんな風に思った。

  保育園の裏山を、ぐるっと回って進んだ先にそこはあった。


「わぁ……」


  思わず、感嘆の声を上げてしまう。

  目の前には、色とりどりの花が、床一面に咲き誇っている。まるで、どこまでもどこまでも、花畑が広がっているようだ。赤に黄色、ピンクに白など、本当にたくさんの花が咲いている。さすがに花の種類まではわからないけれど、これを綺麗だと思う気持ちは俺だって持っている。

  花畑の周りには、ひらひらと舞うように蝶々がたくさん飛んでいる。蝶々も、それぞれカラフルな模様をしており、それがまた花畑に映えて鮮やかだ。


「……ふわぁぁ」


  みづきも、花々や蝶々の美しさに、言葉にならないほどに感動しているようだった。あまり動きの多いタイプではないであろうみづきが、身を乗り出すように、食い入るように花々を見ている。

  かくいう俺も、これには圧巻されている。言葉どころか、ため息すら出ないほどだ。それほどまでに、美しいと思える光景だった。

  その光景のあまりの素晴らしさに、しばし傍観していると、みづきがつないでいた手を離し、花畑目掛けて駆け出していた。俺も慌てて、その後についていく。


「みづき!まって!」

「……こっちだよ」


  花畑の中へと入ってみてわかったが、花々自体が大きく成長しており、今のこの身長だと、背丈の半分に迫ろうとするぐらいの大きさの花々が行く手を阻む。追いかけるのも、一苦労だ。

  そんな花々の中を、みづきはどんどん走っていく。両手を広げて、全身に風や、日の光を感じるようにして、花畑の中を駆け出していく。俺自身も追いかけながらそれを感じており、なんだかとても気持ち良くなってきた。

  追いかけて、追いかけて、やっとみづきに追いついた。みづきの足はそう早くはなかったけれど、スタートダッシュが遅れて、やっと追いついた。


「……んーっ。きもち、いいね」


  みづきが両手を合わせ、手のひらを上にして伸びをしながら言う。

  俺もそれを真似してみる。前にも感じたことだけれど、ゲーム世界だというのに、現実世界のそれと変わらない、いや、この身体のせいなのか、実際のそれよりも、なんだかすごく気持ちがいい。

  みづきが、その場にしゃがみこんで、いそいそと何かを作っている。お花同士を編み合わせて、お花の冠が出来上がった。

  それを、俺の頭の上にそっと乗せる。


「……ひーちゃに、あげる」


  みづきはそう言うと、にっこりと、はにかんだ笑顔を見せた。

  その笑顔だけで、俺は、ここに一緒に来れて良かったと思う。ずっと半眼で、表情だけ見たらつまらなさそうにしているから、あんまり楽しくないのかもと思ってしまったが、そんなことはなかったようだ。だってそうだったら、あんな素敵な笑顔にはならないはずだから。


「……どうかしたの?」


  俺が1人で満足していると、みづきが顔を覗き込んできた。その顔はさっきの笑顔じゃなく、元の半眼に戻ってしまっているけど。俺は、なんでもないという風に答えながら、みづきの頭をくしゃりと撫でた。


「べつに。さっきのみづきのえがおが、かわいいなぁっておもってただけだよ」


  その瞬間に、みづきの顔が、ボッと赤くなる。目は半眼のままだけど、おろおろして、照れているようだ。今までは感情がわかりずらかったけど、こうしてみると、思っているよりも感情豊かな子なんじゃないかと思う。

  意外な一面が見れて、さらに仲良くなれた。そんな気がしていた。

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