X’masPresent
生まれた時には、婚約が決められていたです。
相手は隣に住む、1歳年上のジョナス・プルーア。
子供の頃に婚約者を決るのがこの国では一般的だったので、婚約者がいることに不満はなかったです。
しかし、両親も相手の親も、何故私たちを婚約させたのかは理解不能です。
それと言うのも物心ついた時には、1歳上の姉、ティチェルがジョナスを好きだと気付いたから。
格好良く剣術の腕前も秀でていた彼は、女子にとても優しく甘い言葉をささやいていたです。
私以外の女子には、ですけれど。
私が婚約の意味を知った頃には、ジョナスは常に女子に囲まれていて、その中には常にお姉ちゃんがいたのです。
「よう、チビ。久しぶりだな、元気にしていたか?」
ジョナスとお姉ちゃんが4月から通い始めた、エストレイア学園の冬休み。
お姉ちゃんと一緒に帰ってきたジョナスは、自宅に帰らず、そのまま我が家に上がり込んでいました。
「はい。ジョナスがいないと静かだったので、心穏やかに過ごせました。暫くうるさくなるのかと思うと気が滅入るです」
「そうか。そんなに俺がいないと静かで寂しかったんだな」
にやりと笑い、ジョナスは私の頭を撫でる。
ジョナスの手の動きに合わせて、私のストロベリーブロンドの髪がサラサラと揺れ動く。
まるで、今の私の心の動きのように。
「誰がそんな事を言ったですか! それに、髪に触れるなです」
「おいおい。女のヒステリーはかわいくないぞ」
「かわいいは、お姉ちゃんの担当だからいいんです」
プイっと横を向いた。
「やれやれ。せめて、ティチェルの1/10位のかわいさが、チビにもあったらいいのにな」
その言葉に、私は乱暴にジョナスの手を払う。
「そう思うなら、さっさと私の部屋から出て行くです」
私はジョナスの相手を止めて、机に向かう。
横目に、困った様子で頭をかくジョナスが見えた。
私はイスに座ると参考書を取り出す。
来年の4月には、私もエストレイア学園に入学することが決まっていた。
「全く、今だけだからな」
ジョナスは私の後ろにやってきて、何かを取り出したようだ。
「何をやって……これは?」
私の首元に、ハートの形をした濃いピンク色の石が付いたペンダントが見える。
「クリスマスプレゼントだ。一日遅れて、すまない」
「こ、これは気に入ったので、もらってやるです」
髪の色に合わせられた濃いピンク色がきらりと輝いて、とても綺麗です。
ジョナスのセンスがいいのも、モテる要因なんですよね、きっと。
私がしばらくペンダントに気を取られている間に、机の上にあるプレゼントの包みをジョナスが取った。
「これは、俺へのプレゼントか?」
「あ。違うです。それはお姉ちゃんへのプレゼントです。返せです!」
手を伸ばしても届かない高さで、プレゼントの包みをジョナスが開けてしまう。
「ふーん。ティチェルに男物のマフラーをプレゼントするのか」
「なんだっていいじゃないですか」
「仕方ないな。ティチェルへのプレゼントは、明日俺が一緒に選んでやる。これは、俺が使ってやるよ」
勝手にマフラーを首に巻き付けていく。
「お姉ちゃんなら、例え男物でも喜んで使ってくれるです! ジョナス、返すです!」
嘘。
お姉ちゃんへのクリスマスプレゼントは花をモチーフにした髪飾りをベッドの枕元に置いてある。
「お? 俺に似合うんじゃないか? 明日9時半に迎えに行くから、ちゃんと用意して待っていろよ」
「勝手に予定を決めるなです! 明日は剣術の試合が近いので1日、猛稽古するんです!」
「わかった、わかった。買い物が終わったら特訓してやる。俺がいなかった間にどれだけ上達したか、見てやるよ」
そう言うと、ジョナスは私の部屋から出て行った。
「絶対、行かないですから!」
翌日。
9時半ピッタリにやってきたジョナスに連れ出され、私は一緒に街へと繰り出していた。
「そういう格好も嫌いじゃないが、たまにはチビのスカート姿も見てみたいな」
ジョナスはジーンズにハイネック、その上にダウンジャケット、首には昨日持って行ったマフラーを巻いていた。
私はショートパンツにやや首回りが広めのセーターにダッフルコート、首元にはピンク色のハートが付いたペンダント。
「なんで、ジョナスと出掛けるためにおしゃれをしないといけないですか。この後、剣の稽古をするのにスカートは履かないです」
「フッ。そうだったな」
お姉ちゃんへの2個目のプレゼントを選び終わり、店から出た。
結局、マフラーはジョナスへのプレゼントだと言っていない。
「そういえば、この近くにパンケーキの店があったんだ。行くぞ、メリッサ」
私の手を掴み、引っ張るようにジョナスが先に行く。
「引っ張るなです!」
私の声に、ジョナスはゆっくりと歩きだした。
握られた手を握り返す。
「痛いです、ジョナス」
「わ、悪い」
ほんの少し緩められたが、放されはしない。
ジョナスを見上げると、ほんのりと頬が赤かった。
「なんだよ? 俺のカッコ良さに思わず見惚れてしまうのは無理もないか。ようやく、チビにも俺の魅力がわかったようだな」
「起きている時に寝言を言うのは恥ずかしいですよ」
「まだ子供のチビには難しかったか」
「子供じゃないです!」
「フッ。それはそれで、楽しみなんだが」
にやにやと笑うジョナスを見て、私は握った手に力を込めて握る。
「後で、剣の錆にしてやるですから」
「やれるものならな」
ジョナスも握った手を握り返してきた。
いつか。
いつか、私も自分の気持ちを素直に言える日が来るのでしょうか?
来年は同じ学園で、素直な気持ちでクリスマスを過ごせたらいいな。
短いですが、クリスマスということでそれっぽいお話しを書いてみました。
お読みいただきありがとうございます♪