原初03 ~試練~
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◆来援
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【創世歴42億7746万年】
【人類歴225万年】
後に岩盤橋と呼ばれるようになる地で、大鬼の群れに追い詰められたアールヴ一行。その前に、一つの人影が現れた。
落ち窪んだ眼窩に鋭い眼差し。頭部から突き出した、闘牛と見紛う2本の角。大きな口から覗く鋭い牙。2m超の長身で、振り向くと腰のあたりに竜のような長い尾があった。
「お待たせ致した、ユウナギ殿」
「助かった。アキュレイユ」
アキュレイユと呼ばれた男は、ユウナギに軽く会釈をした。
「あれは、竜亜人!? いや、しかし」
村長のノースが呻いた。彼は以前ノグアードを見たことがある。だが今目の前にいる竜亜人は、この時代に生きるノグアードとは少し印象が違った。
強力な助っ人の登場で、にわかに活気づいたアールブだが、安心するのはまだ早い。あれほどの攻撃を食らったというのに、群れのボスである大角のガウロはまだ生きていた。他のガウロたちも我に返り、わめき声とともに攻撃を再開した。
「おっと。そうはいかないよ」
水色の髪をショートカットにした、少年のような少女がガウロの目の前に立つ。身体にピッタリフィットする服を着た、元気の塊のような快活な少女だ。
頼もしいセリフとは裏腹に、その少女はガウロの振り下ろした棍棒の直撃をあっさり食らってしまった。アールヴから悲鳴が上がる。にも関わらず、少女は平気な顔をしてその場に立ち続けた。ガウロの棍棒は彼女に突き刺さったまま、煙を上げて溶け始めた。彼女の身体は酸に似た性質を持つ液体からなっており、様々なものを溶かしてしまうのだ。
「液状亜人!? は、初めて見た」
好奇心に目を輝かせてアルが言った。
エミルスラの横で、さらに数体のガウロが次々と倒れた。苦悶の表情でのたうちまわる。群れをなして飛び回っている、蜂に似た虫に刺されたのだ。ひとしきりガウロを刺した後、虫は寄り集まって1人の人の形を作り上げた。
「あ、あれは、話に聞く群虫亜人族か!?」
様々な亜人種の登場に戸惑いつつ、ノースが言う。
「ユウナギ。何をもたもたしているのです。この隙にお行きなさい」
グバ族の女が言った。長髪の巻き毛に、瞳は真紅の複眼。黒地に金で装飾された豪奢な服を着ている。グバ族を1人と呼ぶのは正確ではない。彼女は女王を中心とした小さな虫の集まり、つまり1つの群れであり、ある種の集合知生体なのだ。グバ族が女だけなのは、群れの中心が女王だからだ。ちなみに彼女の服も虫でできている。
のたうっていたガウロは、やがて泡を吹いて動かなくなった。彼女の毒にやられたのだ。
「助かった。プニラ、テネローハ」
この機を逃さずアールヴ達は、谷にかかる橋状の岩盤を渡りきって体勢を立て直した。弱いものを後背に回し、戦えるものが敵の正面に立つ。正面のグループには助っ人の3人も加わった。神威を封じているユウナギは特に戦力にならないので、ノースの側でサポートに徹していた。
「か、彼等は、知り合いなのか?」
「ああ。僕の仲間だ。まさかこんなところで会うとは。いやー、ぐうぜんってあるんだナー」
ノースの疑問に、ユウナギが白々しく答えた。
対するガウロの群れは、再びボスと合流してアールヴ一行に突撃を開始した。だが、橋の幅がそれほど広くないので、一度に大勢で攻めることは出来なくなった。
「我らも負けていられないぞ」
ノース率いるアールヴの男達が腕を突き出して一斉に呪文を唱えた。
「エーリフ!」
橋の上に殺到したガウロの小集団の先頭に、数条の炎の矢が降り注ぐ。直撃を受けたガウロはその予想外の威力に驚き、あるいは橋から転げ落ち、あるいは後方に吹っ飛び、半ばパニックになって後退した。
ユウナギの教えが功を奏し、彼等は初めて敵に大ダメージを与えることに成功したのだ。自らの戦果に歓声が上がった。
これまでの戦いから見て、どうやらガウロには魔法攻撃を半減させる特殊能力があるようだ。だがそれも、強化された魔法の前ではさして意味はなかった。
戦いの最中、ナナが秘匿回線をつかってユウナギに話しかけた。
「いつの間に神使を呼んだのですか」
「気になることがあってね。念のためさっき呼んでおいた」
「これは制約違反ギリギリです」
「ああ。わかってる」
助っ人の3人は、もちろんユウナギの神使である。彼らは正体を隠し、天眷の力を封じてこの地に来た。地上への必要以上の干渉を避けるための措置だ。ただ、生来の力だけでも彼らの力は強大だった。それぞれが元々英雄クラスの力を持っているのだ。ユウナギは秘匿回線で彼らにあまりやり過ぎないようにと釘をさした。
神使達の凄まじい戦闘力に、アルは目を奪われていた。中でも竜亜人アキュレイユの戦いは別格だ。それもそのはず。アキュレイユは現時点において、2足歩行生物のなかで歴史上最強の部類に入る戦士だった。
「オレだって!」
負けじとアルも奮戦する。アキュレイユの戦い方に何か感じるものがあったらしく、見て、模倣し、自らの力に変えていった。その様子に感心したように、アキュレイユも目を細めた。
戦いつつ、アルの脳裏には育ての親であるディージの姿が浮かんでいた。村が襲われた時、かすかに聞こえた彼の最後の言葉。
――命を繋げ――
ディージの死はもちろん悲しかったが、決定的な損失ではないように、アルは感じていた。彼自身、うまく言葉に出来なかったし、考えもまとまらなかった。それでも漠然と、本能的に解っていた。自分達が生きている限り、ディージや他の死者たちの命はまだ繋がっていると。本当に恐ろしいのは、一族が――種が絶えてしまう事なのだと。
戦いは激しさを増していった。双方の力は一時的に拮抗し、一進一退を繰り返している。アールヴ側も守りやすくなったが、それはガウロも同じ。むしろ、数が多い分、防御陣に厚みが出来て、アールヴは攻めにくくなっていた。
決定的な何かが必要だった。戦いに不慣れなアールヴは打開策を見いだせずにいた。
「あの一番デカイ奴を倒せばいいんだ」
熾烈を極めた戦いの中でアルがつぶやいた。その一言は、はからずも核心をついていた。
ガウロという魔獣には、強いものに従う性質がある。故に、群れのボスである"大角"を倒せば、他の大部分の普通のガウロは退くはずだ。
問題は誰がその任を引き受けるかだった。アルが一歩進み出た。
「やれるのか?」
「まかせろ!」
ユウナギの問いに自信たっぷりで答え、アルは飛び出した。
「ノース兄、援護頼む!」
「おい、コラ!」
ノースが止める暇もあらばこそ。すでにアルは敵中だった。無謀とも思えるが、戦力が少ない分アールヴが不利な状況は変わらない。早めに決着をつける必要があった。
「アキュレイユ! テネローハ!」
ユウナギが2人に呼びかける。竜亜人と群虫亜人は頷いて、アルの両翼に付いた。強引に敵陣を切り裂いて3人が突き進む。ノース達は援護の魔法攻撃を行い、進行方向の障害を出来る限り排除した。
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◆大角
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アルが敵中を突破出来たのは、左右を2人の神使が守ったおかげではある。しかしそれだけではなく、アル自身の戦闘力が並外れて高かったのも事実だ。
「強化・防御・付与」
先日作った黒曜石のナイフを振りかざし、アルが3つの魔法を多重に唱えた。ナイフに炎のオーラが纏わり付き、身体を強化すると同時に防御力を高めて、さらに黒曜石の脆さをも補った。
これまでのアールヴの魔法に、そんなやり方は無かったはずだ。ディージやノースの魔法。神使達の戦い方。そこから色々なものを吸収し、アル自ら編み出したのだ。
「やるな」
ここへ来て、アルの才能が開花した。1体、また1体とガウロが血の池に倒れ行く。敵の防御を突破して、ついにアル達3人は大角のガウロの眼前に辿り着いた。アルとアキュレイユが敵と対峙し、テネローハは他の敵が近づくのを牽制する。
「(このバケモノはアルには荷が重いか)」
まずはアキュレイユが攻撃を仕掛けた。アルが戦う前に少し力を削いでおこうと考えたのだ。しかし、彼の思惑通りにはいかなかった。渾身の攻撃が"大角"の左手によって受け止められたからだ。
「何!?」
大角はどういうわけか力を増していた。様子も何かおかしい。目は血走り、息が荒くなり、体の表面が少しずつ黒ずんでいる。その上、両腕から湧き出した禍々しい瘴気が、獣のように蠢きながらアル達に襲いかかった。
「!!?」
数体のガウロが瘴気に巻き込まれて、瞬時に骨と化した。咄嗟にアキュレイユが口からイカヅチのブレスを吐き出し、瘴気を焼き払う。致命的なダメージは避けられたものの、そのせいで次の攻撃に対する対処が半歩遅れてしまった。大角が手にした棍棒をアキュレイユめがけて叩きつける。彼はそのまま対岸まで飛ばされ、壁面に激突し、ズリ落ちて膝をついた。
「バカな!?」
ユウナギは自らの目を疑った。いくらアキュレイユが天眷の力を封じているとはいえ、生来の能力だけでも地上最強クラスの力を持っているはずなのだ。
「今の攻撃は天眷によく似ています」
冷静にナナが言った。
確かに先ほどの瘴気は異常だ。ガウロが、いや地上の生物がそのような力を持っていて良いわけが無い。
「ただの魔獣がなんで!?」
ユウナギの脳裏に撤退の文字がよぎった時、アルが地面を蹴って大角に肉薄していた。ユウナギや神使達はそう簡単には死なないが、アルはそうではない。ユウナギは総毛立った
「よせ! そいつは普通じゃな――」
「くらえ!」
黒曜石ナイフの斬撃がガウロの喉元を急襲し、そして、音を立てて弾き返された。
「なっ……!」
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◆試練
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大角の眼前で、アルは完全に無防備な体勢を晒してしまった。ガウロの巨大な口から嗜虐的な笑みがこぼれ、命を蹂躙する愉悦に赤い目が揺らめいた。
――殺される――
圧倒的な死の恐怖にアルの身体がすくむ。ガウロの無慈悲な攻撃が彼を引き裂こうとした、正にその時。
「大・火炎槍!!」
いつの間について来たのか、近くにいたリリルがオリジナルの炎魔法を放った。ディージ達大人の魔法を凌ぐ威力だったが、大角を倒すには至らなかった。それでも、アルが回避する時間を作るのには十分だ。
「アルを・いじめるな!」
リリルが震える声で言った。その瞳には兄を守りたいという、強い意志の輝きがあった。だがしかし、彼女の行動は大角にとって全く取るに足らないもので、しかも悪いことに関心がリリルに移ってしまった。
「まずい!」
「リ――」
ユウナギとアルの顔から一挙に血の気が退いた。咄嗟に誰も反応出来ずにいる中、ガウロが棍棒を振りかぶり、水平になぎ払った。リリルの身体が宙を舞う。彼女の小さな身体がその衝撃に耐えられるはずもない。ほぼ即死だった。
「――――!!?」
アルが言葉を失って、立ち尽くした。顔は真っ青で、今起こった出来事が飲み込めないでいた。
「そんな!?」
ユウナギが茫然と自失したのはわずか0.2秒。すぐさま自制して声を張り上げる。
「アル! ボーっとすんな!!」
「!!」
妹に降りかかった悲劇から無理やり目をそらし、アルは猛然と地を蹴り、飛んだ。
「よくも!!」
我を忘れたように見えて、アルの頭の一部は冷静だった。先ほど弾かれた攻撃を通すにはどうするか。瞬時に決断し、実行する。
「強化・強化・強化・強化!!」
単純な発想だが効果的な方法だった。しかもこれにより新たな魔法の性質が判明した。同じ魔法の短時間の多重起動は、魔力の消費量を幾何級数的に増加させるものだったのだ。急激な魔力消費によりアルの胸が締め付けられ、苦悶の呻き声が漏れる。
その時起こった事は、ユウナギにも想定外だった。以前アルに渡した宝玉が光を放ち始めたのだ。
「集積結晶が開放された!? まさか」
ナイフの刃に埋め込まれた宝玉の輝きがさらに増し、その影でコアはナイフの侵食と最適化を行った。すなわち。刃は長剣の如く伸び、柄は頑丈になり手に馴染んだ。
アルの裂帛の気合が大気を震わせる。
生まれ変わったツルギを握りしめ、アルは大角めがけて弾丸のように突撃した。すれ違いざま剣を振りぬく。だが、その感触はあまりにも軽く、まるで手応えを感じなかった。
「だめか!?」
振り返ると、大角が平気な顔をしてアルを見下ろしていた。バカにしたような笑みを浮かべ、棍棒を振り上げる。
その時、大角の中心に一筋の亀裂が走った。
「!!!!?」
魔獣の表情が驚愕に歪む。
大角の肉体はゆっくりと左右に別れ、別々に地面に崩れ落ちて埃を巻き上げた。この時、ツルギは数10mにわたり地面を切り裂き、同時に空間をも切断していた。
後の世に伝説となる、火纏の聖剣誕生の瞬間だった。
「ユウナギ様……。なんてモノをアールヴに渡したのですか」
「いやー、まさかこんなことになるなんて」
戦いは終わった。
群れのボスが討たれたことにより、ガウロは引き返して行った。数は半分ほどに減りボスも失ったが、彼等も得るものは得ていた。アールヴの土地を奪い、そこに住む獲物を独占したのだ。深追いは無用と判断したのだろう。
遠ざかるガウロの群れを見送って、アールヴ達は胸をなでおろした。
戦いの結果、村人の約2/3が殺された。残酷な結果ではある。だがもしユウナギが手を貸さなかったら、それだけでは済まなかっただろう。
アルは小さな子供のように泣いていた。……もはや動かなくなった妹の身体をしっかりと抱きしめて。
**********
崖の上の、見晴らしの良い場所にいくつも穴が掘られた。ここに犠牲者を埋葬するのだ。特に、リリルの寝床には花がいっぱいに敷き詰められていた。アルが集めてきたものだった。
祈りの言葉や儀式等は無かったが、参列者の気持ちは旧世界と何ら変わりはない。厳かに作業は進み、幾つもの墓が出来上がった。
「僕が最初から全力で戦っていれば……なんてね。わかってる。それは禁止事項だ」
うつむき加減で、ユウナギはつぶやいた。こんなことになるならば、深く関わるのではなかった。――とは思わない。それは、彼らの生を蔑ろにすることになるからだ。遅かれ早かれ人は死ぬ。であれば、そのわずかの間に時間を共有できたことは、何事にも代えがたい体験だと、彼は思うのだ。
「アル……」
「どうしてこんなことに」
墓の前に座り込んだアルが下を向いたまま言った。
「ヒトはいつか死ぬ。この世界だって、いつか滅ぶ」
文学的表現力に乏しいユウナギの、それが精一杯の慰めの言葉だった。
「じゃあ、オレたちは何のために生まれたんだ」
アルの質問が一気に哲学的なものになり、ユウナギは答えに窮した。彼の話の持って行き方がわるかったのだから、自業自得ではある。
「まあ、僕もよくわからないけど……。その意味を探すために生まれたんじゃないかな」
「……なんだよ、それ」
日が暮れて、その日は近くで野宿をすることになった。アールヴ達が寝静まった後、神使がユウナギの元に集まる。
「終わったようですな」
「ああ。って、アキュレイユ、怪我は無いのか?」
「無論」
"大角"に吹っ飛ばされたアキュレイユだったが、何食わぬ顔で立っていた。ダメージもほとんど無い。あの後、戦いに戻ろうとしたらしいが、直ぐに決着がついたので最後の戦いに参加しそこねたそうだ。
「いいとこ無かったね。アキュレイユ」
半笑いで、液状亜人が竜亜人をからかった。こう見えて、プニラのほうがアキュレイユより年上だ。
「無礼な。水たまり如きが何を偉そうに」
「なんだとー!? 爬虫類のくせにー」
「我らは竜族だ!!」
「お止しなさいプニラ、アキュレイユ」
群虫亜人族のテネローハが2人をたしなめる。種族としてグバが最も恐れるのがエミルスラとノグアードだ。しかしなぜか、プニラとアキュレイユはテネローハに頭が上がらなかった。性格的なものだろうか。
「それではユウナギ。わたくし達はお先に失礼しますわ」
「ああ。ごくろうさん」
3人はひっそりと次元の扉を開き、カクリヨに戻って行った。
「……にしても、一体何だったんだろうな。あのガウロは? どうして天眷クラスの力を……」
「私には分かりかねます」
ナナがぶっきらぼうに言う。ユウナギには彼女が何か言いたそうに見えたが、何を言われるか予想がついたのであえて聞かない事にした。
なお、ユウナギがずっと感じていた奇妙な違和感は、大角を倒した事で消えていた。とはいえ、それ以上のことは分からなかったので、この件は一旦保留することになった。
「神であるこの僕が知らないことが、この世界にあるなんて」
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アールヴ達が去った後、残された大角のガウロの骸を見下ろす人影があった。フードを目深にかぶり、マントにくるまっている。姿形はよくわからないが、ヒト種であることは間違いないようだ。ただ、その人物には片方の目が無かった。
「やはり、模造品は模造品か」
そう呟くと、片目の男は姿を消した。ガウロの骸と共に。
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◆神使
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光と闇の狭間。現実世界ではないどこかにリリルの魂は漂っていた。熱も、音も光も、何もない。そこにあるのはただ闇と、絶望だけだった。
その絶望の中に、一筋の希望の光が差し込んだ。暖かな声が彼女の耳に囁きかける。
「やあ、リリル」
彼女にはその声の主が誰か、すぐにわかった。
「……ゆー?」
リリルの目の前にユウナギが現れ、手をとって引き寄せる。彼が合図をすると周辺に明かりが灯り、白亜の大理石で出来た神殿のような円形の広間が現れた。その外側には真っ白い雲が敷き詰められている。
ここは、狭間の地。冥府へ赴く死者が最初に訪れる選択の地。
「わたし・しんだ?」
なんとなく事態を察してリリルは言った。
「ああ。残念ながら」
ユウナギが答える。
「あーは?」
「無事だ。皆と新天地に向かったよ」
「かえる!」
泣きそうな顔をしてリリルは駈け出した。
「ごめん。無理なんだ」
ユウナギの言葉に、彼女は足を止めた。
「死んだ者は生き返らない。たとえ神でもそのルールは曲げられない。いや、神だからこそルールを守らなきゃいけないんだ」
少し困った顔でユウナギは続けた。
「キミは選ばなきゃならない。このまま"冥府"へ行って生まれ変わる準備をするか、それとも、神使になって僕達と一緒に来るか」
「じんし?」
「神の使い。僕の仲間たちだ」
広間に他の神使達が現れた。竜亜人のアキュレイユ、液状亜人のプニラ、群虫亜人のテネローハ、他数人。ナナも一応神使扱いだ。
「怖い顔のヤツもいるけど、いいやつばっかりだよ」
戸惑うリリルに、ユウナギは説明を始めた。自分の事。天界の事。神使の事。そして、その上で彼女自身に選ばせる。生まれ変わるのか、神使になるのか、を。
「…………」
目をまんまるにして、リリルは暫く固まっていた。
悩むのも仕方がない。ユウナギはそう思ってあまり急かさないようにしたが、この時、すでに彼女の心の天秤は一方に傾いていた。
後ろを振り返って、前を向き、また後ろを見る。そのまま少しの間虚空を見つめていたリリルは、やがて、何かを振り切るようにして、正面を向いた。
「神使に・なる」
あまり表情には出なかったが、彼女の頬は少しだけ上気していた。
【続く】
20170826 以下の文章を修正。
修正:ノース率いるアールヴの男達が~中略~半ばパニックになって後退した。
×:両腕から禍々しい瘴気が立ち上り、次の瞬間、獣のようにアル達に襲いかかった。
○:両腕から湧き出した禍々しい瘴気が、獣のように蠢きながらアル達に襲いかかった。




