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創リ世ノ記(ツクリヨノシルシ)  作者: 右藤 秕(ウトウ シイナ)
02 原初
6/25

原初01 ~新人類アールヴ誕生~

―――――――――――――――――――

◆新人類誕生

―――――――――――――――――――


【主なる神は、水と草木を混ぜて人型とし、自らの血を与えて(アールヴ)を創った】

―― 創世記(ヘシュリエ・アムネ)――



【創世歴42億7746万年】

【人類歴225万年】


 この年代を旧世界で例えると、21世紀の世より約25万年前辺りに相当するだろうか。旧世界の人類、ホモ・サピエンスが現れたと考えられている年代だ。


 新世界の神となったユウナギは、合成天使のナナを伴って第4惑星の地上に降りていた。


 双子惑星の片割れが、地平線の彼方に顔を出す。旧世界の月と比べると約4倍の大きさだ。


 ゆったりと流れる川の側に大きな森が広がっていた。少し歩くと獣道があり、奥へと続いている。何か動物の群れでもいるのだろう。


 森に分け入ると、100mはあろうかというバオバブに似た巨木が立ち並び、さながら緑の摩天楼といった様相を呈していた。巨木には等間隔に大きな穴が開いており、中心の空洞とつながって小動物の格好の住処になっていた。


 またある場所では、粘菌とキノコの中間のような菌類がゆっくりと動きまわっていた。小さな家ほどの大きさだ。さらにその遠方には、ビルと見紛う巨獣が蠢いているのが見えた。


「ひさしぶりだな。地上は」

「約3万年ぶりですねケガラワシイ」


 珍しい動植物に目を見張りながら、ユウナギが言い、いつもの調子でナナが応じた。


「いやー、最近は月日のたつのが早いこと早いこと。今じゃ1万年が高校時代の1年分ぐらいに感じるよ」

「そんな、年寄り臭いことは言わないで下さい。見た目は17才のままなのですからシネバイイノニ」


 この頃。ユウナギは直接地上に降りることをあまりしなくなっていた。人類が生まれて喜んだのもつかの間。いつまでも「旧人」の域を出ない彼らに飽き始めていた。細かな調査は地上に常駐している神使(ジンシ)達に任せ、代わりに天界(カクリヨ)の拡充に夢中になっていたのだ。


 カクリヨでは神使達が中心となって旧世界の科学の継承が行われていた。書庫(アカシックレコード)を検索することでいくらでも知識を得ることが出来たのだ。現時点でその科学力は滅亡前の旧世界を遥かに凌ぐ。


「まあでも、やはり本物の地上はいいな」


 久しぶりに地上に降りたのは、単なる気まぐれだった。特に何をするでもなく周辺を散策する。暫くうろついていると、川岸近くに一本の木を発見した。周りの巨木と比べるとひどく小さく感じられる。見ると、赤みがかった果実が実っていた。


「旧世界のりんごの原種に似た果実です。食べられます」

「ほんとか!?」


 ナナが天眷(アポステリオリ)の力で分析し、報告した。ユウナギが早速飛びついて一口かじる。


「まっず……」


 品種改良された旧世界のりんごや、カクリヨのものと比べるのも酷な話だ。実はパサパサで水分も少なく、かなり酸っぱい。それでも彼は、その果実を綺麗に平らげた。それがカクリヨのマホウの産物ではなく、地上で育った本物だからだ。


 以前にも地上の食べ物を食べたことはあるが、これはまた格別だった。ほんの少しだけ、旧世界に戻ったような感覚が彼の内に蘇った。


「この辺にはこの1本のみのようですね。報告によれば、もっと南へいけばたくさんあるそうです」


 もう一つ食べようと、ユウナギが果樹に手を伸ばした時だった。川面を叩くかすかな音が彼の耳に届いた。振り向くと、川岸に何か動くものがあった。


 ナナが警戒態勢をとる。もっとも、もしそれが危険な魔獣や猛獣だったとしても、不老不死不滅不敗であるユウナギには何の問題もないのだが。


「まて、ナナ!」


 従者の動きを彼は制した。目を見開いて、口をパクパクと動かしている。

 神となって42億年。無限とも思える時間の牢獄の中で孤独や無為に耐え、悟りに似た境地に達し、何事にも動じない精神力を手に入れた彼が取り乱していた。


「あ、あああ。あれは……」


 ユウナギは真っ直ぐ川岸に駆けつけた。


「ああ、なんてこった。不意打ちだ」


 久方ぶりに地上に降りた彼が目にしたものは、長い間、彼が待ち焦がれていたものだった。


「ま、間違いない……。『ヒト』だ!!!!」


 川岸には小さな女の子が倒れていた。どうやら溺れて流されて来たらしい。すぐにナナに治療させる。大きな怪我はなさそうだ。


「ついに! ついに!! ついに……!!!!」


 声にならない想い。魂を絞りだすような叫び。42億年ぶりに、彼は人間らしい人間と再会を果たした。後に「アールヴ」と呼ばれる事になる、旧世界の人類と同等の能力を持った新しい人類だ。


 この時点から41万年前【人類歴184万年】に出現した古代型アールブとは異なり、原始的な形質は失われ、少女の外見はすっかり垢抜けていた。髪型を整え旧世界の服を着せれば、旧人類と区別はつかないだろう。


 少し水を飲んでいたようだが、ナナの人工呼吸により少女はすぐに回復した。ゆっくり目を開けて、身体を起こす。


「おい、大丈夫か!?」


 ユウナギが問いかけると、少女は慌てて飛び起き物陰に隠れた。だが、逃げることはせず、半分顔を出してユウナギ達の方をじっと見ている。どうやら人見知りな性格のようだ。



―――――――――――――――――――

◆ファーストコンタクト

―――――――――――――――――――


 ユウナギはゆっくりと「少女」に近寄って、手に持った果実を差し出した。少女が咄嗟に頭を引っ込める。彼女の警戒心を解くために、別の1個を自分でかじってみせる。恐る恐る、少女が物陰から外に出てきた。


「ホモサピエンスに匹敵。あるいはそれ以上と推測。その個体はメスのようです」

「見ればわかる。しかも、すげー美少女だ!」


 少し日に焼けた肌と碧玉の瞳。顔にまとわりつくような、胸まで伸びたボサボサの金髪。見た目からすると12、3才といったところか。体つきはやや細身。裸足で、毛皮を腰にまとっている。上半身は裸のままだった。


「人類は元々裸で暮らしていた。変に隠したり目を背けるほうがおかしいと思わないか?」


 誰も何も言っていないのに言い訳を始めたユウナギを、ナナは完全に無視した。


 少女はゆっくりと近寄ってきて、彼の差し出した果物を受け取った。匂いを嗅いだり、表面をこすったりしている。どうやら初めて見るようだ。ユウナギに促されて、少女は一口かじりついた。花が咲いたような笑顔がこぼれ、一気に食べ尽くした。それを見ていたユウナギの表情はだらしなく緩んでいた。42億年も人間に会っていないのだ。弾けるような生命力にあふれるあどけない少女の笑顔は、彼の心の芯を痛烈に撃ちぬいた。 呼吸が乱れ、胸を押さえ妙な汗をかいているが、顔はこの上なく幸せそうだ。


「おまわりさんを呼びましょうか」

「あのさ、42億年ぶりの美少女だぞ? ちょっと眺めるぐらい、いいだろ」

「我々には地上の生きものを保護する義務があります。いくら神とはいえ、いたいけな少女を毒牙にかけるなど、見過ごせません。キモインデスケド」

「何もしないよ! キミは僕のこと何だと思ってんの? はっ! それともまさか、嫉妬!?」


 口元だけに張り付いた微笑みとは相反する、無感動なナナの目が、汚物を見るようにユウナギを見下ろした。いたたまれなくなった彼はここで無理やり話題を変えた。


「し、しかし、言葉がわからないな。翻訳できないか?」

「情報が少なすぎます。もう少しサンプルがあればバカナノ?」


 少女が何事か喋りながら、ユウナギの手をひいた。空いている方の手で森を指差す。どうやらついて来いという事らしい。デレデレで溶けそうになりながら、ユウナギはされるがままに従った。


「あ、ナナ、悪いけど、そこの果物出来るだけ採ってついて来てくれ」

「…………」


 ナナの冷たい視線が絶対零度を下回り、空気を凍らせる音を、ユウナギは聞いた。



**********



 暫く行くと、森の中の少し開けた場所に出た。毛皮や木の枝、大きめの葉で作られた天幕(テント)が幾つか建っている。葉はどれもまだ緑で、天幕は作られたばかりのようだ。そこには少女の仲間たちがいた。大人と子供、全部で40~50人ほどだろうか。みな毛皮をまとっている。少女を見た時は髪に隠れて気付かなかったが、村人は全員耳が長かった。


 少女が笑顔でかけ出した。それに気づいた村人たちが驚いて声を上げる。たちまち全員が集まって少女の無事を喜びあった。


 ややあって、少女はユウナギ達を指差した。村人は感謝の笑顔をそちらに向けたが、少しだけマユをひそめた。ユウナギ達の容貌が彼らとは随分違うことに気づいたのだ。


 その間も、ナナはデータの収集を行っていた。村人たちの会話を記録し、解析する。彼女は合成天使であり人間ではない。その成り立ちはコンピュータや機械に近いものだった。

 数分で初歩的な解析は終了した。ナナがユウナギに目で合図する。


「よし、じゃあ僕の言葉を翻訳して伝えてくれ」

「分かりましたウザイ」

「えー、はじめまして。僕の名はハイムラユウナギだ」


 ナナが翻訳して村人に伝える。

 イントネーションや文法がまだ完全ではないようで、村人は最初のうち少し戸惑っていた。とは言え今は、意味が通じればそれでいい。

 敵意がないことを示すために、ユウナギはおみやげを渡すことにした。


「おみやげだ。食ってくれ」


 先ほどナナに採らせた果物を袋ごと彼らに渡す。村人たちもこの果実は初めて見るようで、ユウナギと果物を何度も見比べた。ただしそれも、少女が1個を手にとって美味しそうに頬張るのを見るまでだった。最年長の長老らしき人物が果物を齧って、目を見張り、静かに頷いた。


「わるく・ない」


 つまり、良いということだ。かくしてユウナギとナナは、客人としてこの村に迎え入れられる事となった。


 たちまち人だかりが出来た。村人達は奇心を隠そうともしない。珍しそうに、黒い髪を撫で回す者。小さく丸い耳を引っ張る者。見たこともない2人の服の素材に理解が及ばない者。ユウナギは、見た目を偽装すべきだったと少し後悔した。


 その時、中学生ぐらいの少年が1人、村の外から戻ってきた。金髪に近い他の村人たちからすると珍しい赤髪だ。


 少年は、少女を見ると持っていた道具を取り落とし、しばらく茫然とした後、顔をクシャクシャにして少女を抱き上げた。少女も泣きそうになって、しかし嬉しそうに少年にしがみついた。傍らの村人にナナが聞く。その2人は兄妹だという答えが返ってきた。



―――――――――――――――――――

◆原始の生活

―――――――――――――――――――


 見たところこの村の人たちは、ごく初歩的な狩猟採取生活を送っているようだった。その性質上、定住することはなく、獲物を追っての移動生活なのだろう。ゆえに、洞窟や簡単な天幕に住む事になる。人口は全部で48人で、そのうち子供が11人だ。


「やっぱりこの村はまだ新しいな」

「ええ。彼らはここに来て間もないようです」

「だからあの果物を知らなかったんだな」


 女達の仕事は主に、木の実の採取、食料の管理、毛皮の服作り、子守などのようだ。男達は狩りにいったり、石や骨で簡単な道具を作ったりしている。


 最初こそぎこちなかったものの、村人たちはすっかりユウナギに気を許していた。素朴で裏表のない愛すべき人々。他人を疑うという事をまだ知らないのだろう。今はまだ。


 狩りから数人が帰って来た。手にした武器は石斧や長い棒。獲物を木の棒に括りつけ、前後を2人で担いでいる。イノシシに似た動物だ。

 皆の動きが一気に活気づいた。保存食を取り出す者。飲み物を用意する者。石のナイフで獲物を解体する者。どうやらこれから宴が始まるらしい。車座になって座らされる。

 どんどん食べ物が運ばれてくる。土器や皿はまだ無いようなので、ひょうたんに似た植物から作った茶碗や、大きめの葉っぱを食器代わりにしていた。食材は木の実、干した肉、魚等、なかなか豊富なようだ。


 年寄りを筆頭に、手の空いたものから少しずつ座っていく。先ほどの少女がユウナギの隣にちょこんと陣取った。

 彼が話をしようと顔を向けると、少女は恥ずかしそうに目をそむけた。こういう時、無理に話しかけると嫌われる。

 少女は手にしたおもちゃで一人遊びを始めた。どんぐりと木の枝を組み合わせた人形っぽい何かだ。小声でなにごとかつぶやいている。ユウナギを挟んで少女の反対側に座っているナナに通訳してもらう。


「きのみ・あげる」

「わたし・たべる」


 2つの人形を両手に持って、少女が一人二役を演じている。片方がもう片方に何かを渡すしぐさをして、受け取ったほうはそれを食べるマネをした。


「きのみ・おいし」


 そこでユウナギはピンと来た。これは先程の自分と少女の出会いのシーンではないか、と。

 少女がちらりとユウナギを見る。どうやら、ユウナギに話しかけて貰いたいようだ。


「いい人形だな。おまえが作ったのか?」


 こちらを見ないように少し顔を隠しながら、少女が口を開く。


「……あー・つくった」

「あー?」


 少女は、忙しく食事の準備を手伝っている少年を指さした。


「あー・かぞく」


 「あー」とは、彼女の兄で、名前はアルという。年齢は14、5才に見えるが、17才の体のままのユウナギと同じぐらいの身長だ。旧世界の人間と比べるとがっしりした体つきをしている。華奢な少女とは対照的だ。


「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。僕の名はハイムラ・ユウナギ」

「はい……ゆ……ぎ」


 とても言いにくそうに、彼女は言った。


「キミの名前は?」

「わたし・リリル」


 ユウナギはそばに落ちていたどんぐりと爪楊枝サイズの小さな枝を拾った。どんぐりに枝をさしてコマを作り、回してみせる。


「!」


 リリルは目を丸めて一瞬固まった。動きを止めたコマを拾い上げ、ユウナギがリリルに手渡す。


「やるよ」


 リリルの顔が輝いた。



―――――――――――――――――――

◆火

―――――――――――――――――――


「それにしても、おかしいな」

「そうですね」


 宴の準備は着々と進んでいたが、いつまでたっても火を起こす様子はない。日は傾きつつある。この時代、火をつけるのは一仕事のはずだ。早めに火を起こさなくてよいのだろうかとユウナギはヤキモキしていた。


「まさか、火の起こし方を知らないのか? いや、中心に薪を積み上げてあるから焚き火をする予定ではあるはず」

「周辺をサーチした所、どの天幕にも種火らしきものは保管されていません。火打ち石等の道具も見つかりません」


 彼らは、人類学的にいうと旧世界の現代人とほとんど変わりがない。火打ち石ぐらいは使いこなしているはずなのだが。しかし、ここの村人たちにはそんな様子が無い。


「……やはり火を知らないのか? ならば」


 ユウナギは立ち上がった。リリルが不思議そうに見上げる。


「待って下さい。どうするつもりですか? ケガラワシイ」


 薄い笑顔を崩さずにナナが問う。


「どうって、火の使い方を教えてやろうかと」

「あまり干渉するのは良くないのでは?」


 彼には神として地上の文明を見守り導く使命がある。しかしそれには、細心の注意を払ってあたる必要があった。旧世界のSF作品にプライム・ディレクティブという概念が存在するが、未発達の知性体に不相応な技術を与えると、あまり良いことは起こらない、と言われているのだ。


「古ノグアードの事をお忘れですか?」

「忘れちゃいないよ。でも、知らないほうがいいことなんて、無いと思うんだ。もちろん、知った上でどうするかは彼ら次第だけど」


 何事も程度問題だとユウナギは思う。今の彼らに銃火器や核兵器を与えたりすれば流石に大問題だろうが、火の使い方ぐらいなら、彼らにとっても有用なはずだ。


「旧世界の人類はこの頃には火の起こし方を知っていた。新しい人類にもより良い進化をして欲しいじゃないか。旧人類よりも」

「おこがましい。神にでもなったつもりですか?」

「いや、僕は神だろ?」

「そうでした」


 ユウナギはおもむろに輪の中心に歩み出た。そこには一見して焚き火用と思われる薪が積まれている。白い髭を蓄えた長老に断って、薪の一部を手に取ると、火溝式発火法をやってみせる。火溝式発火法は、木の板に木の棒を何度も激しくこすりつけ、摩擦により発火させるやり方だ。有名なキリモミ式等のやり方もあるのだが、まず最初はこういった単純なほうが良いだろうと考えたのだ。


 約10分。彼が人間のままの灰村ユウナギならもっと時間はかかったであろう。しかし、今の彼は神威(アプリオリ)の力を会得した、この太陽系の神なのだ。火溝式発火法で火を起こすくらい造作も無いことだった。村人たちの前で小さな火が生まれた。燃えやすいものに火を移し、人々にかざす。ざわめきが村人たちの間を走り抜けた。


「いまの・なに?」

「どういう・こと?」


 戸惑う村人たちに、得意気にユウナギが説明する。リリルの兄、赤毛のアルもやって来て不思議そうにユウナギを見た。


「これで皆自由に火を使えるぞ」

「おまえ・ものしり。でも・これ・もっとかんたん」


 そういうと、アルは指を前につきだして大声を出した。少年の指先から、野球ボール大の火球が飛び出し、薪の山にぶつかって真っ赤に燃え上がった。


「な!!!!?」


 ユウナギの顔が、得意顔のまま音を立てて凍りついた。全身を滝のように汗が滴り落ちる。


――今のは何だ!? まさか、魔法だとでもいうのか!?――


「魔法ですね」


 彼の心を読んだナナが、データを解析して答えた。

 さっそうと火を起こしてみせたユウナギだが、これはとんだ赤っ恥を掻いた形となった。気の弱い人間ならば恥ずかしさのあまり気死してしまうほどの不名誉だ。


 ナナがじっとユウナギを見つめている。閉じかけの眠そうな目が、心なしか楽しそうに彼には見えた。


 しかし。


「なるほど」


 涼しい顔をしてユウナギは言った。

 驚くべきことに、あれだけの失態を演じておきながら、彼の心は全くのノーダメージだった。何事も無かったかのように元の席につく。想像を絶する強靭な精神力だ。伊達に42億年以上を生きているわけではない。


「僕の早とちりだったようだな。まさか魔法が使えるとは」

「……タフですね。シネバイイノニ」


 どこかガッカリしたようにナナが言った。

 幸いにも、村人たちはさほど気にしていなかった。その後、何事も無かったように宴が始まった。


「アールヴ」

「はい?」

「彼らはまるでアールヴみたいだ」


 ユウナギが誰にともなく言った。

 アールヴとは、旧世界の言葉で最初期のエルフをさす。多少の日焼けはあるものの色白の肌。金やプラチナ色の髪。尖った耳。切れ長の目。魔法。どれをとっても、物語の中のエルフにそっくりだ。


「あーるぶ」


 ユウナギの言葉を聞いていたリリルが小さくつぶやいた。数日後、彼らは自らをアールヴと名乗っていた。



【続く】



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