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創リ世ノ記(ツクリヨノシルシ)  作者: 右藤 秕(ウトウ シイナ)
01 序章
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序章01

―――――――――――――――――――

◆序章

―――――――――――――――――――


【初めに、神は古き世を滅ぼした】

―― 創世記(ヘシュリエ・アムネ)――



 腐ったトマトのようなドス赤い太陽が空の半分を覆いつつあった。世界中のあらゆるものが燃え始め、煙となって霧散する。


 呆然と立ち尽くす灰村夕凪(ハイムラユウナギ)の目の前で幼なじみの少女が燃えていた。町が、人が、山や川、大地そのものも燃えた。人々は逃げることもかなわず、ただ、ジリジリと焼かれていった。


 ユウナギは絶望とともに天を仰いだ。太陽はますます巨大化し、空一面を覆い尽くした。



**********



 酷い頭痛と喉の渇きを感じてユウナギは目を覚ました。微かに白く、淡く揺蕩う空気が彼の視界の中で輝いている。体を起こしてあたりを見回す。何もないだだっ広い空間に光が溢れ、彼を包んでいた。


「ええと」


 ユウナギは頭を振って、頬を軽くはたいた。彼の中で現在の状況と過去の記憶が繋がらない。寝起きだからなのか、頭がまだぼやけているようだ。


 天井には一面暗い星空が広がり、ガラス張りの床の下には延々と(もや)が広がっていた。光は近くにあった照明器具のものだ。ここは彼の知らない場所だった。


 高校の制服が少し焼け焦げていた。怪我はない。別に生まれ変わったわけでもなさそうだ。


「あ、気が付きましたかクソヤロウ」


 背後からの声に振り返ると、1人の少女が彼を見つめていた。

 どこか無機質な印象で、色素が無いかと思われるほどに白い肌。細い首筋。腰まである銀髪を首の後ろで括り、背中に垂らしている。


――まるで人形のようだ――


 ユウナギは彼女から目が離せなくなった。

 伏し目がちの半眼。口元には微笑みをたたえているが、目は笑っていない。彼よりは1つ2つ年上に見える。


「ご気分はいかがですか? 私は合成天使の名称未定と申しますシネバイイノニ」

「…………え」


 一度に3箇所突っ込めるほど彼は器用ではなかった。ファンタジックな単語に、いきなりの暴言。しかも名前が無いと言う。咄嗟にどう返してよいかわからず、ともかく会話をする上で最低限必要な一点について、彼は質問をした。


「名称未定って、あんた、名前はないのか?」

「はい。ございません。よろしければ、私に名前をつけて下さいニドトハナシカケンナ!」


 丁寧なのか失礼なのか判断のつかない彼女の態度に戸惑いつつも、しかし敵意は感じなかったので、彼はとりあえず気にしない事に決めた。


「じゃあ、名無しだからナナで」

「……了解しました。今後、私はナナと名乗りますウザイ」

「あ、僕は灰村夕凪。高2男子だ」

「よろしくお願いします。ユウナギ様ハナシカケンナ」

「…………」



―――――――――――――――――――

◆絶望

―――――――――――――――――――


 この果てのない何もない空間に、ユウナギとナナだけが立っていた。物音もなく、暑くも寒くもなく、太陽さえもない。

 訳がわからずに混乱を極める彼を気にもとめず、彼女は出し抜けに解説を始めた。


「色々気になる事はあるかと存じますが、まずはざっくりと説明致します。単刀直入に申しますと、地球は滅びましたクソヤロウ」

「……地球が……滅びた?」

「西暦でいうところの20XX年、突如太陽が膨張し大爆発を起こしました。地球他全ての惑星は爆発に巻き込まれて蒸発し、太陽系全体がガスや宇宙塵からなる分子雲に還ったのです」


 足下に広がる靄の海を、ナナは指差した。それこそが、かつて太陽系だったもの。その成れの果てだった。


「……いったいなんで、こんな……」

「爆発の原因はわかっていません。太陽の寿命はまだはるか先のはずでした」


 太陽が赤色巨星となるのは遥か先の未来の予定であった。ましてや超新星爆発を起こす可能性など無いと考えられていた。


「そしてもちろん、人類も滅びました。あなたを残して」

「!!」


 事実は時として、ナイフよりも鋭く人の心を抉る。容赦のない現実を突き付けられたユウナギは、軽い目眩を覚えてよろめた。

 よみがえる最後の記憶。あれは夢ではなかったのだ。


 家族や友達、仲の良かった幼なじみの事が彼の頭をよぎる。つい数刻前まで、それらは彼の目の前にあった。そしてその先も、ずっとあり続けるものだと思っていた。


 何かが彼の心の領域を大きく抉り取った。途方も無い喪失感と絶望がその後に残された。


 力のない笑みが浮かぶ。


 ユウナギは泣き叫んだり、当たり散らしたりはしなかった。魂が抜けたように座り込んで、渇いた笑い声を漏らすのみだ。数人が死んだのならばともかく、綺麗さっぱり全人類が絶滅したのだから、かえって諦めもつくというものだ。

 だが、それならば尚の事、納得がいかない事もある。


――何故、自分も一緒に死ななかったのか。


「なんで僕だけがこんな所に……」

「あなたは新世界の神に選ばれました」

「はぁ!?」


 平時に聞けば笑い飛ばすようなナナのセリフに面食らって、ユウナギは彼女を見返した。彼の反応を全く意に介さず、ナナは淡々と説明を続ける。


「これから新たな太陽系と新しい地球を作り出し、その成長と発展を見守っていただくことになりますキモイ」


 何もかもが、彼にとって理解の範疇を大幅に超えていた。目の前の人物は一体何を言っているのか。何故こんなことになってしまったのか。様々な考えが彼の頭のなかで駆け巡り混線した。


 しかし、一つだけ彼にもわかったことがある。ナナのセリフにちょくちょく含まれる暴言は、どうやらアニメキャラ等がよく使う「語尾」の類らしい。「~するッス」や「~するニョロ」といったものの仲間だ。



―――――――――――――――――――

◆崩壊

―――――――――――――――――――


 期せずして、灰村夕凪は神となった。


 ナナの説明によると彼は、神威(アプリオリ)と呼ばれる人知を超える力と、不老不死不滅不敗の肉体を手に入れた、との事だった。全知全能とはいかなくても、それに近い力を得たのだ。

 全ては、新たな太陽系と地球を生み出し、それを見守り導くために必要なのだ。


 ナナにより事前の準備は全て整っていた。後はユウナギが、作業に着手するだけだ。だが、そう簡単に事は進まなかった。


 神になるという事は、数十億年という時間の牢獄の中で死ぬことも許されず、永遠とも呼べる時間を生きていかなくてはならない。ユウナギはすぐにその恐ろしさに気づいた。その事が、地球滅亡という残酷な事実に追い打ちをかける形で、彼の心をさらに引き裂いた。


 これほどの悲劇を受けて、はいそうですかと次へ進める人間がいたとすれば、それは確かに、神にふさわしいかもしれないが。


 全てに絶望したユウナギは、神の責務を果たそうとしなかった。何もせず、日がな一日ぼーっと過ごした。ナナの言葉も彼の心には届かない。


 昼と夜の失われたこの世界で、そのまま時だけが過ぎ去っていった。


 当初彼は、少なくとも理性は保っていた。だがそれも数年が限度で、徐々に綻びが現れ始めた。

 心に根を張った絶望が毒となり、彼の精神を蝕んでいった。


「――――!!!!」


 何もないこの場所に絶叫が響き渡る。魂を引き裂くような、金属の塊を引きちぎるような叫び。


 絶望に支配され、耐え切れなくなった彼はついに発狂し、精神崩壊の直前まで追い詰められた。目は血走り、冷たい汗が体中から吹き出す。呼吸が早く浅くなり、血が出るほどに頭を掻きむしる。


 しかし、不老不死不滅不敗となった彼の心は完全に破綻する事はない。やがて回復し理性を取り戻すのだが、それもつかの間。程なく再び絶望に襲われる。


 そんなことが何十年と繰り返された。

 その悪夢フルコースの無限ループの日々の中で、ついに彼はある境地に達した。



 百数十年後。



 死んだようにうずくまっていたユウナギが不意にムクリと身体を起こした。何度も目を瞬かせ、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。しばらくそれを繰り返した後、彼は久しぶりに言葉を口にした。


「……ま、なるようになるさ」


 悟りと書いてアキラメと読む。彼は真剣に考えるのをやめた。


「正気に戻られましたか。意外と早かったですねシネバイイノニ」


 いつの間にか現れたナナが彼のそばに立っていた。


「あー、うん」


 ユウナギが立ち上がって大きく伸びをする。


「うだうだ悩むのにももう飽きた。せっかくの永遠の命だ。楽しんだもの勝ちってことに気付いたんだ」


 要するに彼は、開き直ったのだ。そう思えるようになるほどに、時間が経過したということなのかもしれなかった。



【続く】


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