魔王編03 ~魔導革命~
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◆星動脈
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「なんじゃ、ここは?」
中央山脈の地下約1000mの地点に、黒いマントと三角帽子姿のロロクルオスが立っていた。等間隔に薄明かりの灯る、どこまでも続く巨大なトンネル状建造物。神使になって、カクリヨの未来都市にも慣れてきた彼女だが、まだまだ驚くことは山ほどあるらしい。
「この星の星動脈だよ」
彼女の側を歩くユウナギが答える。
「星動脈……?」
「正確には星動脈に沿って配置された"環境管理システム"だな。惑星の内部には人間の血液のように絶えずエネルギーが巡っていて、流れが悪くなると自然災害が起こったり砂漠化したりするんだ。地脈とも言うな」
「ほう……」
「この星を作ったばかりの頃は特に星動脈が安定しなくて、色々手を加える必要があった。だから、この調整用トンネルを作って星中に張り巡らせたってわけだ」
ユウナギがこの星系を作ったという話は彼女も聞いている。疑っていたわけではないが、こういう話を聞くとその途方もなさに改めて圧倒される。
「この中を"人工精霊体"が白血球のように漂い、この星の"自然"の手に余る問題を見つけては自動的に修復するんだ。今も現役だぞ」
神使になったことで彼女も秘匿回線とその脳内インターフェースである天眷ブラウザを使用することが出来るようになっていた。ブラウザの機能により、わからない単語や関連情報が自動的に脳内に表示される。
【精霊】星動脈に生きるエネルギー生命体。成り立ちは情報に似ている。
【人工精霊体】精霊の性質を利用しカクリヨで人工的に作り出された精霊。プログラムされた魔法生命体の事。
暫く歩くと神殿めいた空間に出た。中央に台座があり、その上に竜に似た小さな生き物が眠っていた。
「星竜の仔だ。システムの中心になる人工精霊体のひとつだ」
その神秘的な存在感に圧倒され、しばしロロクルオスは言葉を失った。星竜も他の人工精霊体と同様、光と物質の中間的な素材で構成されている。なまじヒトガタのユウナギよりも神々しく見えた。
「ド……ドラ……ゴ?」
「ドラゴン。竜種って意味だ」
基本的に、カクリヨ由来のものの名前には地球の言語が使われる事が多い。このシステムが作られた時、アールヴ語はまだ存在しなかったのだから。
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◆魔王
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【アールヴ暦23万4027年】
【帝国暦1136年】
千年戦争終結後の長くはない平和に影が落ちる。
その年の冬。南の大陸北部ダオラエスローノ地方各所に、計13万を超える魔獣の群れが大挙して押し寄せた。大鬼系人型魔獣、巨人、亜竜種、不死者、大怪鳥他多数。しかも驚くべきことに、本来群れるはずのない別種の魔獣同士が、まるで軍隊のように整然と組織されていたのだ。
これには、間違いなく知性を持った何者かの意図が働いており、その意図の帰結する先がアールヴへの侵略行為であろうことは、誰の目にも明らかであった。
北の大陸から中央山脈を経て南の大陸へ至る侵攻ルートは、陸路のみでいうと主に3つある。
西海岸沿いのなだらかな平野が続くドナルサーグ。低湿地帯が多いリーダティカ。そして迷路のような断崖が立ちはだかる東岸のエウルローフ。エウルローフの南部には深い森とレイドークの迷宮がある。
この内、エウルローフは迷路のような地形の上、一部に結界が張ってあり通り抜けることが出来ない。リーダティカにはルーヴ達のテスエローフ千士隊と帝国軍枢機兵団第6軍がおり、現状ではなんとか持ちこたえている。
一方で、甚大な被害を出したのは西海岸ドナルサーグの町である。こちらには魔軍約4万が押し寄せ、圧倒的な破壊力と突進力によって瞬く間に蹂躙された。この町にも守備隊はいたが物の数ではなく、手も足も出ずたちまち全滅の憂き目を見た。住民の殆どは雑草のように踏み潰され、為す術もなく殺された。
やや遅れてドナルサーグに到着した枢機兵団第4軍軍団長のドルノークは破壊された町を見て絶句した。
「なんと酷いことを……!!」
ドルノークといえば第6軍軍団長ヒューゼル・ロイヒとともに千年戦争の英雄の一人だ。万夫不当を絵に描いたような根っからの武人で、その実力はヒューゼルをも唸らせるものだった。
怒り心頭に発したドルノークは尚も破壊を続ける魔獣の軍勢に突進し、魔導斧の一撃で密集隊形の敵部隊を真っ二つに切り裂いた。魔軍は動揺し浮足立つかと見えたが、その前に、ドルノークの進撃がにわかに止まった。いや、止められたのだ。
マユをひそめた第4軍軍団長の前には一人の男が悠然と立っていた。
薄い緑色の肌にはよく見ると一部に鱗のような模様があり、表情少なく無機質な印象で、頭部に見事な角がある。
「竜亜人!?」
ドルノークがうめいた。
竜に近い顔をした"古"ノグアードと違い、この時代のノグアードの顔はヒトに似ている。彼等も一億年の間に進化したのだ。身長は約2mほどで長い尾を持ち、アールヴから見た異国風の、ゆったりとした服を纏っている。
「貴様、何者だ!?」
全身から冷や汗が滴り落ちるのを感じながら、ドルノークは声を絞り出した。彼は本能的に感じ取っていた。この敵は尋常のものではない、と。
「我は魔王レフィキュル――」
禍々しい瘴気を纏う大剣を構え直しながら、魔王と名乗った男は一歩踏み出す。闇色のマントが風にはためき、大きく翻った。
「――アールヴに死をもたらす者なり」
千年戦争の時でさえ感じたことのない戦慄が、ドルノークの脳髄を駆け巡る。その瞬間彼は死を覚悟した。
「――だが、退けぬ!!」
大斧を振りかぶりドルノークは大地を蹴った。
彼には魔王の動きが見えなかった。何が起こったのかさえわからないまま、全身に熱が走る。魔王は大剣を鞘に収め、背を向けた。その背中を見据えながら、ドルノークは崩れ落ちた。彼は全身数十箇所を切り裂かれており、二度と起き上がることは無かった。
アールヴが魔獣を殺す時ためらわない。同様に、魔王レフィキュルもアールヴを殺す時ためらわなかった。
「この程度か。アールヴの力は」
失望したように魔王は呟いた。
感情を読み取りにくい表情は亜竜人特有のものだが、彼の瞳には静かな怒りが沈殿しているように見えた。
将を失ったネウ・ゼーフェン第4軍は、上官の仇を打つべくすぐさま行動した。幾百の流星が一点に引きつけられるように、魔王めがけて無数の雷撃魔法が撃ち込まれた。空間が歪むほどのエネルギーが叩きつけられたはずだった。しかしその魔法は、それ以上の力を持った魔王の魔法によってかき消された。
「目障りだ。消えろ」
天と地を貫く劫火の柱が立ち現れた。アールヴの誰も見たことのない、圧倒的な魔力の激流。史上最強クラスの究極魔法。雲が割れ、大地は引き裂かれ、数分に渡って地面が揺れ続けた。
劫火の柱と揺れは、遠く離れた帝都レプラローフからも観測出来たという。
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ドナルサーグ平野の戦況はすみやかに帝都レプラローフに届けられた。
知らせを聞いたアールヴ帝国第13代皇帝ローレプエム4世は怒り狂い、手にした酒盃を伝令に投げつけたと言う。
「おのれ、下賤な魔獣共めが! 貴様らの血と肉でダオラエスローノの平原を真っ赤に染め上げてくれる!!」
伝説によると、帝国皇帝はアル・ユーシアの末裔と言われている。神話時代から続く英雄ユーシアの血が彼の統治の正当性の裏付けなのだ。とは言え、彼にその素養があるのかどうなのか、皆黙して語らなかった。
勅命によりただちに部隊が招集され、反撃の準備が進められた。
「それと、1つ気になることが……」
年老いた帝国丞相が皇帝に耳打ちする。
「申せ」
「は、報告によりますと、敵の将は自らを"オウマ"と名乗ったそうです」
「魔王!? まさか、あの予言の!?」
予言とは、ルーヴ達がレイドークの迷宮で発見した、レリーフに刻まれた一文だ。
【千年紀終はりて、七つの星くず落ち來たり。
理破れ世は惑い、僞りの神、黒き封印を解き給う。
然して終末の鐘は鳴り、七魔王顯現せり。】
とたんに皇帝の顔が青ざめた。
後に、セフィラの黙示録と呼ばれるようになるこの予言は、レイドークの冒険譚とともにアールヴ世界に広まり、信心深いものたちを震え上がらせた。皇帝もその一人だった。
時を経ずして、魔王出現の噂は帝都中に広まった。人々は怯え慄き、あるものは固くドアを閉ざし、あるものは荷物をまとめて帝都を去った。
いささか大げさすぎると思うかもしれないが、アールヴにとって予言とはただのオカルトではない。魔法による予言にはある程度の信頼性があり、政や戦に用いられることもしばしばだ。実際、戦国時代には予言能力を持った敵国に枢機兵団が苦しめられたという資料も残っている。
故に、七魔王の予言を大勢のアールヴが信じていたし、さらに、今回魔王が現れたという事実がそれを大きく後押しした。帝国国民の動揺は無理からぬものであった。
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天界。天上の城の執務室では、ユウナギが神使達から報告を受けていた。北の大陸に魔王が立ったという。
合成天使のナナが報告書のデータをスクリーンに映し出す。
「竜亜人の魔王か」
魔王とはいえ、ダンジョンの奥深くで敵の到着をのんびり待っているタイプではない。魔獣達の軍を組織し、自ら指揮を執って戦場を駆け巡る。ヒト種の王達と何ら変わりはない。むしろ、滅びかけの種族を立て直した、才能豊かな男だ。
「…………」
ユウナギはノグアードに対して大きな借りがあった。彼等は遥か昔に滅びかけており、その原因のひとつがユウナギにあったのだ。
歴史の表舞台から遠ざかった竜亜人が、再び勢力を取り戻しつつあるのはユウナギにとっても喜ばしいことではある。……あるのだが、よりによってアールヴに戦いを仕掛けてくるとは。しかも。
「問題は、魔軍の中に"良くないモノ"が混じっていることだな」
「まさか」
「ああ。ヤツが動き出した……」
ユウナギの脳裏に、かつてレイドークで戦った片目の男の姿が思い起こされた。
「ナナ。アキュレイユを呼んでくれ」
「はい」
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◆つかの間の休息
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魔軍と遭遇したルーヴ達テスエローフ千士隊がリーダティカ砦に退避してから約半日。
物見の報告によると、敵は3kmほど後退して陣を張ったらしい。枢機兵団も戻ってきた。乱戦の中、常に先頭にいたはずの第6軍軍団長ヒューゼル・ロイヒは傷一つ受けていなかった。
「一体どんな反射神経してやがんだ」
シアと一緒に出迎えたルーヴが呆れ顔で呟いた。先程のヒューゼルは巨人種と戦っていた。あの勝負の結末はどうなったのだろうか。
「ご苦労様です。私はこのリーダティカを任されているシア・テスエローフと申します」
責任者であるシアと参謀バルレットがヒューゼルの前に出て挨拶をした。千年戦争の英雄を前に、シアは少し緊張しているようだ。
「おお。おぬしがテスエローフ家の。お父上は壮健で?」
「え、ええ。お陰様で……父をご存知で?」
「いや、知らん」
「(ええー)」
豪快に高笑いしながらヒューゼルは奥へ進み、シアが脳内でツッコミを入れた。
ぎこちないシアを、少し離れてルーヴとレイドが見守る。その2人の後ろに、いつの間にか立つ人物があった。
「いやー。千士隊だけでよく持ちこたえたねえ」
「!!?」
ビクリとして振り返ると、そこには第6軍副団長ニーア・ジーテラセタがいた。
「ほう。これが弓矢と傷薬か。じつに興味深い」
レイドの持ち物からいつの間にか取り出して、ニーアが言った。一見爽やかなのだが、どうにもとらえどころが無い。
「(なんだこの人、胡散臭いな)」
そんな目でルーヴがニーアを見る。
「今、私のことを胡散臭いと思ったね?」
「なぜわかった!?」
弓と薬をレイドに返すと、ニーアはニヤリと唇を歪めヒューゼルに続いて歩き去った。
「あの人はカマをかけただけだよ。でも、図星だったみたいだね」
あっさりひっかかったルーヴにレイドが説明をした。人の心を読む魔法も無いことはないが、今のはただ見抜かれただけだろう。副団長も只者ではないということだ。
見張りを厳にし負傷者の治療を急がせ、他の者は休憩を取るようシアは命令を下した。枢機兵団にも場所と食料等を提供し休んでもらう。今のところ敵に動きはなく、その間に、できるだけ皆の体力を回復させる必要があった。
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砦の一角にある食堂では多くの兵が食事をとっていた。疲れて部屋に引っ込んだ者も多い中で、ここにいる者達にはまだ幾分余裕があるようだ。ルーヴやレイドの他に、ガーネリク、ロラッカ、クックルといった顔も見られた。
古代麦酒を飲み干してようやく一息ついたルーヴ達を、珍しい人物が訪れた。
「よー。久しぶり!」
「ラギ!?」
そこにいたのはラギと名乗るユウナギだった。側にナナとリリルもいる。カクリヨで報告を受けたユウナギは、急いで地上に降りて来たのだ。
「久しぶりだなぁルーヴ、レイド。レイドーク以来か?」
「だな。もう18年ぐらい経つかな?」
ユウナギとルーヴが互いにバシバシと肩を叩き合う。叩きながら、ふと、ルーヴが首をかしげた。
「にしては、あまり変わってないな。短命種なのに?」
「そうか? 気のせいだろー」
軽やかに笑って強引にごまかしたユウナギだが、内心では冷や汗をかいていた。急いで来たので、そのあたりの準備を忘れていたのだ。ナナが冷ややかな微笑を主であるユウナギに向けた。
食堂にシアが入ってきた。ヒューゼル達との打ち合わせが済んだのだろう。彼女の目にリリルが映る。
「キャー! リリル、久しぶりー」
「シア・ひさ」
シアとリリルが手を取り合って再会を喜んだ。リリルの表情は変わらなかったが、喜んではいるようだ。最初の頃はリリルを警戒していたシアも、今ではすっかり打ち解けている。どうやらこの2人は波長があうらしい。
「にしても、リリル成長してないわね」
長命のアールヴとはいえ、子供時代の成長速度は比較的早い。リリルぐらいの年齢だと、もう成人していてもおかしくないはずである。しかし、神使である彼女はこれ以上年を取らない。シア達はそれを知らなかった。
「そんなこと・ない」
ぷるぷると足を震わせながらつま先立ちして、リリルが言った。頬が少し膨らんでいる。自分が子供のままである事を、彼女は少し気にしているのだ。
「まあ気にすんな。ともかく座って。食ってくれ。大したものはないけど」
「おお。すまないな」
ルーヴに勧められ、席についたユウナギ達に食事が運ばれてきた。ルーヴも古代麦酒のおかわりを頼んでいる。
「で、なんでまたこんな戦場へ?」
「そうだよ。よりによってこんな時期に」
ルーヴの言葉を受けて、レイドが心配そうに続けた。
「せっかく来てもらったのにアレだけど、逃げたほうがいいと思うよ? 今リーダティカは大変な事になってるんだ」
2人の言いたい事もよくわかる。しかし、ユウナギはこんな時期だからこそわざわざやって来たのだ。
「実は君たちに用があって来たんだ」
「用?」
「んー。大変言い難いことなんだけど」
「構わねーよ。なんでも言ってくれ」
胸を叩いてルーヴが言う。こういうところはいかにも頼もしい。
パンに似た食べ物を食べようとして、ユウナギは手を止めた。ものを食べながら気軽にする話ではないなと思ったのだ。咳払いをし、姿勢を正して彼は口を開いた。
「このままではアールヴは滅ぶ」
食堂中がシンと静まり返った。
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◆魔導革命
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「このままじゃアールヴは滅ぶ」
「!? いや、聞こえてるよ!」
同じセリフを2回言ったユウナギに対してルーヴが言った。意味はわかるが理解は出来ない、という事だ。
不信顔のアールヴ達に構わずユウナギは話を続けた。
「なので、君たちには1段階……いや、3段階ほど文明のレベルを上げてもらう」
「?」
「?」
ルーヴ、シアをはじめ、皆が困惑の表情で首をかしげた。
「ええと……つまりどういうこと?」
レイドでさえ戸惑って、申し訳なさそうに聞き返す。
「技術だけで言うと、アールヴはノグアードに比べて300年は遅れている。その差を3年で埋めてもらう。――要するに、君たちで"魔導技術革命"を始めるんだ!」
大きく手を広げ、ユウナギは大げさに言い放った。
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天界。大会議室。
神であるユウナギや神使には自ら課した"制約"があった。地上の出来事に不用意に手を出すべきではない、というものだ。しかし、そんな事を言っていられない場合もある。それを判断するためにカクリヨ議会が開かれた。
「しつこいようですが、私は反対ですシネバイイノニ」
議会の冒頭、合成天使のナナはそう言った。相変わらず、ユウナギに対しては語尾が悪口になる。
「でも今回は大義名分がある。敵が禁忌の力"混沌"を使用している」
ユウナギが反論する。魔軍の中には明らかに地上の者たちが持つべきではない力を持っている者がいたのだ。
「そいつらをユウナギがこっそり倒せばいいんじゃないの?」
半分液状化してくつろいでいる古液状亜人のプニラが何の気なしに言った。
「それでもいいんだけど、でも、地上の問題は地上の者たちが解決しなきゃならない。我々はそれに力を貸すだけ。……だけなんだけど、今回は彼等の手に余る部分を、僕達が大々的にサポートする必要があるってことだ。"制約"を超えてね」
ユウナギの意を受けてしばらく様々な意見が飛び交い、さらに専門の神使による難解な話し合いが続いた。結果、今回の件についてカクリヨは地上に介入する事となった。ある条件付きで。
一応の結論が出たところで、古・竜亜人のアキュレイユが手を上げて発言した。
「竜亜人のことは拙者に任せてもらえぬだろうか」
今回の事件の首謀者がノグアードであった事に、同じ種族としてアキュレイユは多少責任を感じていたのだ。ユウナギはその提案を受け入れ、アキュレイユは魔王の国へと向かった。
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「魔導技術革命……?」
ユウナギの言葉を、訝しげにレイドが繰り返した。
「だからわかんないよ。もうちょっと具体的に言ってくれないかな?」
さすがのレイドも理解が追いついていないようだった。だがこれはユウナギの説明不足が悪い。
「そうだな。1つずつ説明しよう」
少し事を急ぎすぎたと反省しつつ、ユウナギが解説を始めた。
「実は、ここから西へ行ったところにあるドナルサーグの町が少し前に消滅した」
「は!!?」
「消滅!? い、いったいどうやって!!?」
シアとルーヴが大きな声を出した。
「魔王の戦略級極限魔法だ。かつて、古ノグアードを絶滅寸前に追い込んだ地上最強最悪の禁忌の魔法」
「そ、そんな話、聞いたこともない」
顔を引きつらせてレイドが言う。
「だろうね(アールヴが生まれる遥か昔のことだし)。……だが事実だ」
「そんな魔法がもし本当に存在して、それを敵の魔王が使えるとしたら……」
ユウナギが最初に言った言葉を思い出し、ルーヴは生唾を飲み込んだ。
「で、魔王の極限魔法に対抗するには、同じ極限魔法を持ってするしかない。アールヴにも戦略級極限魔法を習得してもらう」
「そのための魔導革命……?」
「そうだ。こう言ってはアレだが、今の君たちの魔法は効率が非常に悪い。魔法技術を根本から見直して、その効率を10倍……いや100倍にも1000倍にもしてもらう」
「…………」
「そのための講師を呼んである。もう来るころだと思うけど……」
仕組まれたかのようなタイミングで、ふらりと何者かが現れた。黒い三角帽子とマントを羽織った女だ。ルーヴ達には見覚えがあった。
「あ、あんたは……ロロクルオス!?」
現れたのは大魔法使いロロクルオスだった。レイドークでの出来事も今となっては懐かしい。
「久しぶりじゃのー、若者よ」
出し抜けにロロクルオスはルーヴにセクハラをしようとしたのだが、引きつった笑顔のシアに阻止された。
「相変わらずね。あんた」
「じょ、ジョーダンじゃ」
神使になったロロクルオスは、カクリヨの知識を得てさらにレベルアップをしていた。
「彼女は魔法のスペシャリストだ。色々教えてもらうといい」
魔導革命のため、こなすべき課題は山のようにある。
・人工精霊系を使った魔導書の作成。
・それに伴う、超長文魔法のショートカット起動システム。
・さらにそれらを応用した反重力魔法の開発。飛行部隊の創設。
・そして、その先にある究極攻撃魔法、極限魔法。
・その他
それらを、ユウナギのプランだと3年でやらねばならなかった。期間の短さもそうだが、大きな問題は……。
「その間に、敵がおとなしくしててくれるとは思えねーけどな」
ルーヴが呟いた。もっともな疑問だ。いくら枢機兵団が来たからといって、あれだけの魔獣を相手に3年も持ちこたえられるのだろうか?
「もたせましょう?」
いつの間にか現れた第6軍副団長のニーアが言って、皆がビクリと肩を震わせた。
「(いつの間に!?)……ですが、ニーア副団長。いくらあなた方とは言え、あの数を相手にするのは……」
シアが心配そうに言った。彼女の考えが、一般的なアールヴの思考だろう。
「我々を誰だと思ってるんですか、千年戦争を終結させた英雄ですよ」
「自分でいうのか……」
ニーアの態度に感心してルーヴが言った。
「まあそれでも、ここリーダティカはいずれ放棄せざるをえないでしょうけども」
「ええ!? それじゃもってないじゃん」
思わずルーヴが突っ込む。
「私がもたせると言ったのは、アールヴの命脈だよ?」
そう言って微笑んだニーアの顔を見て、ルーヴはなぜか寒気を覚えた。ニーアという男が、"目的のためには手段を選ばないタイプの人間"に、見えた気がしたのだ。
そこへ、話を聞いていた者たちが集まってきた。
「わたしたちもきょーりょくします!」
「武具の生産は任せろ!」
武器屋ナジーラガンの公亜人族2人、フワルとディーベルがテーブルの上に飛び乗って言った。
「俺達も手伝うぜ」
「わ、わたしもー」
「ヤレヤレだな」
ガーネリクとクックルが興奮気味に言った。ロラッカは落ち着いていたが、やる気はありそうだ。
「お前ら……」
「皆……」
ルーヴとシアが少し涙ぐむ。
「よーし、話は決まったな! 皆でアールヴの平和を守り抜くぞ!!」
ユウナギのチープなセリフにナナやリリルは閉口したものだが、純粋なアールヴ達の心には突き刺さったようだ。食堂の中に大歓声がこだました。
そんな中、一人レイドは考え込んでいた。ラギことユウナギの、その異様な知識量は普通ではない。
「(……ラギ。君は一体何者なんだ……!?)」
意気込んで食堂を出ようとするルーヴをユウナギが引き止めた。
「ああそうだ。ルーヴ、キミにも重要な役割があったんだ」
「?」
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数刻後。どういう訳かルーヴは武器を持って練兵場に立っていた。彼の前にはあの英雄ヒューゼルが身構えている。
「ええと……」
困惑するルーヴに涼し気な顔をしたユウナギが声をかける。
「アールヴを滅びから救うため、キミには是非ヒューゼルよりも強くなってもらいたい」
「……ハァ!!?」
「試合開始!!」
【続く】
20161231 修正
・「(なんだこの人、胡散臭いな)」
そんな目でルーヴがニーアを見る。追加。
・「・その他」追加。
・ルーヴはなぜか寒気を覚えた~ 修正。




