中世06 ~胎動~
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◆冒険の終わり
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クロロの時の記録は、肉体の時間をセーブした時点まで巻き戻すことが出来る魔法だ。これにより、シアとレイドの傷はたちまち以前の健康な状態にまで巻き戻され、完全に元通りになった。ただ、セーブ時点には亜竜も健在だったため、同じく魔法の影響で復活させてしまった。
全員で再度亜竜種と闘い、苦戦の末、なんとかこれを撃退することに成功した。
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当面の脅威は排除された。その後改めて、クロロの処遇をどうするかの話になった。
「さあ、殺すなりなんなり好きにせい」
クロロが座り込んで言う。頭をひねるルーヴ達の前に出てユウナギが口を開いた。
「ルーヴ、この人は僕に預けてくれないか?」
「え? いや、でも……」
「まあ、怪我も治ったし、私はいいけど」
「僕も」
気楽な調子でシアとレイドが言った。実害が無かったとはいえ、普通はそう簡単に許せるものではない。
「いいのかよ。……まあ、2人がいいって言うなら」
ルーヴの言葉を受けて、ユウナギがクロロに向き直った。
「そういうことだ。あんたの身柄は僕達"鉄器商会"が預かることにする。いいかな? クロロさん。……いや、大魔法使いロロクルオスと呼んだほうがよさそうだ」
「ええ!!?」
「海に沈んだ古代魔法王国を作ったという、伝説の!?」
ルーヴとシアは驚いた顔をしたが、レイドは薄々気付いていたようだ。先ほど本人も言っていた、約3万年前に海に沈んだ国といえばアディアクルアしかない。
「……うむ。その通りじゃ」
開き直って彼女は頷いた。
〈そんなわけだ。しばらくは僕に付き合ってもらうよ〉
〈な、どうなってる!? 頭の中に声が!?〉
ユウナギは、クロロに無理やり秘匿回線をつないで話しかけた。
〈いいのか? ワシのような悪人を簡単に許して?〉
〈そうは言うけど、最初からルーヴ達を殺すつもりは無かったんだろ?〉
〈手加減・してた〉
ユウナギの言葉をリリルが補足し、クレスレブが頷いた。ウサコは目を泳がせた後、クレスレブのマネをした。
闘いの初期の時点でユウナギ達はそれを見抜いていた。その時は手加減の理由まではわからなかったが、今ならわかる。
〈つまりあんたは、ルーヴ達を殺すふりをして、僕達の実力を見定めようとしたんだろ? 賢者を見つけて自分を殺してもらうために。……まったく。迷惑極まりない話だ〉
〈お、おぬしらに何がわかる!〉
少しだけ語気を粗めてクロロは言った。
〈3万年も孤独に耐え、死ぬことも出来ぬ苦痛が……! 誰にも、ワシの気持ちは……!!〉
涙さえ浮かべて声を絞り出す彼女に対して、ユウナギは人の悪い笑みを返した。
〈フン。たかだか3万才ぐらいで何を甘っちょろいことを。いいか、よく聞け! こっちのリリルは23万才。僕なんか42億才だぞ。お嬢ちゃん〉
〈42億……お嬢……!?〉
目を剥いて硬直した後、肩を落としクロロは力なく笑った。そしてユウナギ達の正体に気付く。
〈やはりあなたが賢者だったか〉
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亜竜は死に、クロロは無抵抗で縛り上げられ、全ての問題は片付いた。その結果、一行は莫大な戦利品を手に入れていた。亜竜の牙やウロコ、金銀財宝、各種伝説級の武器、一級の歴史資料の数々。とても持ち帰れる量ではない。
「わー! これで大金持ちよー!!」
シアがキャッキャ言ってはしゃいでいた。旅に出る前の自分を忘れたように、もはや彼女が一番楽しんでいる。レイドは宝物庫の中を駆けまわり、貴重な巻物や書物を集めて回った。ルーヴは聖剣を掲げてウットリと見つめたまま微動だにしない。
レイドが改めて見回すと、宝物庫の壁面には綺麗に彩色されたレリーフが刻まれていた。その技術レベルから推し量るに、レイドーク文明中期から後期にかけて作られたものだろう。いつの間にかシアも隣にいる。
大きな角をもった魔獣との戦いの様子。神々の空中戦。神の敵。神のシモベ達。文字は古代アールヴ文字で、この時代のものとは多少異なっていた。しかし、レイドの知識でどうにか読めなくもない。
これらのレリーフは創世記の元になったものらしい。概要はレイド達の知るこの時代の創世記と変わらないが、細かな点で様々な違いが見られた。
「……大発見だ」
「しんじらんない」
積み重ねられた歴史の重さにレイドが圧倒され、シアも目を奪われた。
「最初期から時代は下って……ここが最後か」
ここへ来てからレイドはずっと疑問に思っていたことがある。
「当時何があったのか。どうしてレイドークからアールヴがいなくなったのか? おそらく疫病か、あるいは神々の怒りに触れて滅ぼされたか……」
しかし、レリーフにはそれらしい答えは刻まれていなかった。落胆しかけたレイドにシアが駆け寄る。手には羊皮紙の束を持っていた。どうやら当時の様々な住人の手紙のようなものらしい。曰く。
「とうとうウチの息子も村を出て行ってしまった。何が都会に出たい、だ」
「小学校の生徒がついにゼロになってしまった。なんと寂しい事か」
「村おこしのために何かイベントを……」
どうやらこの場所が無人になったのは、疫病や神の怒りのせいでは無さそうだ。
「……まさか、ただの過疎!!?」
何らかの歴史ミステリー的展開を期待していたレイドは肩を落とした。
この場所は南の大陸の東の外れに位置している。ここで繁栄したアールヴ達の子孫は、やがて大陸中に広がった。文明の中心は東から大陸の中央に移動していったのだ。レイドークの人口はその過程で減っていき、やがて誰からも忘れ去られた場所となった。大陸全体を活動範囲とした彼らにとって、この地はもはや辺境に過ぎない。要するに、過疎ったのだ。
歴史がいつもドラマチックであるとは限らない。現実はこんな他愛もないものなのかもしれなかった。
レイドーク最大の謎の答えに失望したレイドは、放心しつつ惰性でレリーフを眺めた。レリーフの最後の最後。部屋の隅に記された一文に目が止まる。
――千年紀の終はり、七つの星、落ち來たり。
禁忌の古書に記されし、答へ無き罪、世を惑はさん。
天の攝理破綻し、僞りの神、黒き檻の封を解き放つ。
然して終末の鐘は鳴り、七魔王顯現せり――
「七魔王……!?」
「なんだこれ。どういう意味だろう……」
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旅は終わった。
ユウナギ、クレスレブ、リリル、ウサコらカクリヨの住人は、ロロクルオスを連れて故郷へ帰る事になった。
「また会おうぜ!」
「気をつけて」
「ま、まあ来たければ、くれば?」
ルーヴ、レイド、シアがそれぞれに別れの言葉を口にした。終始ユウナギに冷たかったシアの態度も幾分和らいでいた。旅を通じて、少なくとも彼が敵ではないとわかったのだろう。
「面白かったよ。また近いうちに!」
大きく手を振って、ユウナギは背を向けた。クレスレブとウサコがそれに続く。
1人残ったリリルがじっとルーヴを見つめていた。抱きつこうとしたが、その前にシアの方を見る。シアは仕方なしに頷いた。彼女も分かっていたのだ。リリルの気持ちが家族のそれに近いものだということに。リリルにかつて兄がいたことをシアはユウナギから聞いていた。それになにより、旅を通じてシアとリリルに友情らしきものが芽生えつつあったのも、気持ちの変化の理由だったろう。
「ルー。またくる」
「おう。元気でな」
リリルがルーヴにしがみつき、ルーヴがリリルの頭をワシワシと撫でくりまわした。最後にシアをちらりと見て、リリルはユウナギの後を追った。
峠を超えて彼等の姿が見えなくなるまで、ルーヴ達は彼等を見送っていた。太陽がジリジリと肌を焼き、セミのように鳴くクァェルと言う名のキノコの出す音がうるさく木霊する。地上はすっかり夏になっていた。
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◆新参者
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天をつく巨大な白亜の城が、カクリヨを訪れたロロクルオスを出迎えた。彼女の国もオーパーツめいた高度な文明を築いていたが、ここはさらに次元が違う。
「…………」
紙に書いたラクガキのような顔をして、ロロクルオスは気を失いかけた。
「……これが天界」
ユウナギは簡単にこの場所の説明をした。神と神使の暮らす国。旧世界の科学を継承発展させた超巨大未来都市。そして、自分がここの主であるということ。
「え? アルジ? おぬしは賢者なのじゃろ……? え? 神? ……賢者。神。……え!!?」
初めてカクリヨに来た者の反応には、ユウナギは慣れていた。いちいち付き合うのも面倒なので、話を先に進める。
「さあ、決めてくれ。神使になるか、それとも最初の望み通りにするのか」
「…………!!」
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「おかえりー」
地上から戻ったクレスレブ、ウサコ、リリルの3人をプニラの陽気な声が迎えた。テネローハ、アキュレイユもいる。
「はあー、つかれましたー」
ウサコがテーブルに突っ伏した。
ここは天上の城にあるフードコートである。旧世界の様々な食べ物や飲み物を堪能できるようになっており、神使達のくつろぎの空間でもあった。同じフロアにはゲームセンターや本屋など様々な設備もある。
「ねーねー、オミヤゲはー?」
「ああ、わすれた……」
クレスレブが申し訳無さそうに言う。旅先でのゴタゴタを考えると、無理も無いことなのだが。
「ええー? なんだよそれ、ひどくなーい? やっぱりボクもついて行けばよかったよー」
抗議するプニラの前に、リリルが小さな魔法のバックを差し出した。
「おお、さすがリリル! ありがとー」
プニラがバッグを開けてみると、中には時間凍結された新鮮な野草や果物が大量に入っていた。ユウナギ達と合流する前に集めたものらしい。果物は皆に配り、野草はリリルとプニラで分ける。
プニラはさっそく解凍して野草を口に運んだ。とはいえ、スライムから進化した液状亜人の口はただの飾りであり、体のどこからでも食べ物を摂取することが可能だった。
「うめー! 草うめー!」
不定形に体を波打たせ、プニラは夢中で野草を頬張った。
「お行儀が悪いですわよ。プニラ」
続いてリリルはテネローハに花を差し出した。一抱えもある鉢植えのものだ。
「まあ珍しい花。大儀であった。ほめてつかわす」
さっそく体から働き蜂のような虫型の分身を飛ばして、テネローハは花粉を採集し始めた。群虫亜人族にとって花粉採集は食料調達手段であり、趣味でもあるのだ。
その様子を見つめる、ゆらゆらと揺らめく細長い2本の影があった。怪しく目を光らせた2匹の"どうもう"なヘビだ。彼等はどんなものでも捕食する。
神使達の談笑の中にテネローハの悲鳴が短く轟いた。2匹のヘビにより、せっかくの花が食べられてしまったのだ。花の残骸の周りを所在なく彼女の分身が旋回している。
「キャー、なにやってるの、ヘビ吉! ウロボロス!」
2匹の粗相に気付いたウサコが、顔色を失って起き上がった。彼女は鉢植えを挟んでちょうどテネローハの向かいの席に突っ伏していたのだ。
「はわわ。わたしみたいなド底辺が、テネローハさんのゴハンを台無しにするなんて、どどど、どうかお許しをー」
平伏して額を床にこすりつける。
蛇髪族である彼女の頭部には2匹のヘビが生えている。彼女とヘビの意識はそれぞれ独立しているので、ウサコには直接罪はないのだが、管理責任というものがある。ヘビたちはよほど腹が減っていたのだろう。
ゆっくりと立ち上がったテネローハが穏やかな笑みをたたえて言った。
「どうやらお仕置きが必要なようですわね。ウサコ」
「ひ、ひー!!」
ウサコの断末魔の悲鳴がフロアに轟いた。
「帰って来るなり、騒がしいことよ」
「全くです……」
テーブルの一角ではアキュレイユとクレスレブが将棋を始めていた。2人の実力は伯仲しており、今日もいい勝負になりそうだ。
いつの間にか、対局を見学するギャラリーがあった。リリルが目を輝かせて盤面を凝視している。勝負はやがて、アキュレイユの勝利で幕を閉じた。
「次・わたし・やる」
「お、おう」
実は彼女はゲーム全般が好きで、よく皆と遊ぶようになっていた。リリルの勝負を受けたものの、アキュレイユのひたいには汗が滲んだ。彼と比べて、リリルは恐ろしく将棋が強かったのだ。
そこへ、ユウナギに連れられたロロクルオスが現れた。泡を吹いて気絶しているウサコにちらりと目をやり、敢然とスルーする。
「おーい皆。新入りだ。面倒見てやってくれ」
ユウナギが手を上げて言った。双方に軽く紹介を済ませてロロクルオスに向き直る。
「ここにいる者達のほとんどがキミより年上だ。いろいろ教えてもらうといいよ」
「……このワシが下っ端とはの」
新入社員のようにしゃちほこばって、ロロクルオスは呟いた。
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◆胎動
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アールヴ帝国、帝都レプラローフでは巨大な塔の建設が進められていた。
後に観光名所となる聖塔あるいはベルバの塔である。後の世ではその来歴由来は失われ、皇帝の墓だとか宇宙人の秘密基地だとか、まことしやかに囁かれることとなる。しかしその実体は、ただの公共事業の産物であった。当時から豊かで平和と暇を持て余していた帝国の皇帝が、国民に仕事を与えるために始めたと、カクリヨの記録には残っている。
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合成天使のナナが、天上の城にあるユウナギの執務室を訪れた。カクリヨにいる時の最近の彼女は、事務員風の服を着ていることが多かった。事務的で無感動な笑みを浮かべて言う。
「ナンデイキテルノ?」
悪口のように聞こえるかもしれないが、これはユウナギに対する彼女の挨拶だった。
「ユウナギ様、これをご覧ください」
ナナが手をかざし、地上の画像を空中に表示させた。
「ああ。聖塔だっけ。アールヴの建築技術もここまで来たか」
「いえ。その塔は今回関係ありません。問題はあの建物の地下です」
聖塔の地下をスキャンした画像に切り替わる。そこには、黒い大きな星形二重正四面体が埋まっていた。2階建ての建物ほどもある。自然に出来たものではなさそうだが、アールヴが作ったとも考えにくい。しかも、その内部は透視出来ないという。
「これは一体……? なんで僕の知らないものがこの世界にある?」
神として、ユウナギは常にこの世界を見守ってきた。砕け散った旧世界の残骸から新しい太陽系を作り出し、生命の誕生を手助けして、アールヴを導いてきた。
……いや、本当にそうだろうか? 毎日欠かさず、地上をくまなく見張っていたわけではない。
一方で、地上の出来事は全て書庫に記録されている。もう少し具体的に書くと、書庫とは、この第4惑星全体をカバーするフレームレート600fps、解像度1原子単位のリアルタイムスキャン動画だ。記録は42億年前から連綿と続けられている。
この動画を仮想空間に展開し、任意の"時間"にダイブすれば擬似タイムスリップが可能である。もちろん、ただの動画なので過去を変えたりすることは出来ないし、また、ユウナギが記憶を失った例の"空白の時代"のデータも残っていない。
ただもし地上で殺人事件が起こった場合、書庫の時間を巻き戻して見れば、犯人はたちまち判明する。今回の件も同様に調べた結果、この黒い星形が生まれた時代を知ることができた。
「創世歴2~3億年代……!? バカな。第4惑星が出来てすぐじゃないか」
「しかもコレは数十億年をかけて今の大きさまで成長しています」
「一体何なんだこれは。……どうやら、実際に行って見るしかなさそうだな」
しかし、この計画は一旦保留されることとなった。地上で別の異変が生じたためである。
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4つの大陸が交わる地"中央"を禍々しい瘴気が覆っていた。天を埋め尽くす黒雲の海に稲妻の竜が遊び、地を走る津波は木々をなぎ倒し、山を削り取り、谷を埋めた。
だがよく見ると、空を覆う黒雲も大地を削る津波も大小様々な魔獣の群れであった。大鬼、小鬼、狗頭鬼、巨人、亜竜種、蟷甲虫、不死者、大怪鳥他、その数約13万。
それだけでも十分な脅威だったが、さらに"良くないもの"がその中に幾つか混じっていた。
空は光の加護を失い、大地は闇の眷属の支配下に落ちた。アールヴにとって、いやこの第4惑星にとって最悪の、暗く厳しい冬の時代の到来であった。
【続く】
20160928 アルヴ・ナ・ドゥーネ× → アルヴ・ナ・ディール○




