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創リ世ノ記(ツクリヨノシルシ)  作者: 右藤 秕(ウトウ シイナ)
02 原初
10/25

原初05 ~カクリヨ~

―――――――――――――――――――

◆カクリヨ

―――――――――――――――――――


【神は幽世(カクリヨ)に城を作り、神使とともにそこで暮らした】

―― 創世記(ヘシュリエ・アムネ)――



 話は数年前に遡る。


 シャワーを浴びて髪を整え服をカクリヨの物に変えると、リリルはすぐに"現代人"と見分けがつかなくなった。岩盤橋(コルデーベ)の戦いで命を落とし、神使(ジンシ)となった彼女は今、天界(カクリヨ)にある"天上の城"にいた。


 カクリヨが生まれてからすでに41億年。旧世界から引き継ぎ、発展させたその科学力は、もはや魔法の域にまで達していた。カクリヨはユウナギが最初に連れて来られた亜空間にあり、カクリヨ、冥府、狭間の地、その他の空間から成っている。


 この長い年月の間に、カクリヨは目覚ましい発展を遂げていた。神の居城たる天上の城を中心に、同心円状に広がる巨大都市。その都市が、旧世界の月ほどもある半球形の人工天体の上に乗っていた。


 街には旧世界に存在したあらゆる施設があったが、その巨大さに対して住民の数は少なく、この時点で約3000人程度にしか過ぎなかった。内訳は、神使が約1200人。人工的に作られたサポート用のNP天使が約1800人だった。


 神使の種類は主に竜亜人(ノグアード)液状亜人(エミルスラ)群虫亜人(グバ)の3種で、ヒト種ではリリルが最初の1人だった。


 始めのうちリリルは、原始時代と未来都市の差にただただ呆然としていた。見る物・聞く事すべてが彼女の想像を超えており、瞬きも忘れ、口は半開きになって人形のように立ち尽くしていた。


 それでも、しばらくすると落ち着いてきたのか、彼女はようやく我にかえった。


「ここ・どこ?」

「ここはカクリヨだよ」


 質問をしておいて、リリルはユウナギの返答を聞いていなかった。今更ながら、彼女は自分の服装が変わっているのに気づいたのだ。毛皮の腰巻きに慣れた身体には、現代風の服装はどうやら不快らしい。彼女はすぐにすべての服を脱ぎ捨てた。


「な、なんで脱ぐの!?」


 慌てて服を拾い、もう一度着せようとするのだが、リリルは嫌がって逃げまわった。服を持ってユウナギが追いかける。タイミング悪く、そこへナナと数人の神使が現れた。


 冷静に手際よく、ナナがユウナギを取り押さえた。口元に張り付いた微笑と相反する、汚物を見るような彼女の視線がユウナギに突き刺さる。


「いや、ご、誤解だってば」

「ケガラワシイ。シネバイイノニ」


 ナナの下で、ユウナギはジタバタともがいた。


 ただ、他の神使達の反応はナナとは少し違った。皆一様に、「幼体に対する不純な感情」の害悪について、理解できなかったのだ。


「人間の生態は全く意味不明でござるな。子も成せぬ幼生にそのような感情を抱くとは」

「いだいてないから!」


 竜亜人(ノグアード)のアキュレイユが理解不能といった顔をした。


 液状亜人(エミルスラ)群虫亜人(グバ)に至っては、そもそも人の生殖行為が理解出来なかった。スライムから進化したエミルスラは分裂によって子孫を増やすものだし、女だけのグバは人間体の時はそういった行為をしない。

 そもそも神使は原則として子孫を残せない。


 ともかく、カクリヨでは服を着ないというのは少しよろしくない。ナナの1時間にわたる説得で、ようやくリリルは首を縦に振った。



**********



 なんとかナナの誤解を解いたユウナギは、リリルを連れてカクリヨを案内することにした。何が心配なのか彼にはさっぱりわからなかったが、ナナもついて来ることになった。


「まず、僕達が今いるのが"天上の城"。まあ、僕の家だな」

「おー」


 ベランダに出て見上げると、天をつく巨大な塔がいくつもリリルの目に入った。中世ヨーロッパ風でありながらSFテイストを持つ白亜の城。増改築を繰り返し、今では高さ30kmを誇る。今日は天気が良いので頂上までよく見えた。


 次に訪れたのは城内の娯楽室ならぬ娯楽フロア。旧世界製の各種ゲーム機。テレビ、オーディオシステム、本、プラモ等、様々なアイテムがデパートのようにひしめいていた。


「中でもオススメは、カクリヨ製最新式バーチャルゲームシステムだ。いわゆるフルダイブ方式でゲームの世界に入ることが出来るぞ!」


 ユウナギは自慢気に披露したが、リリルは全く興味を示さなかった。代わりに、彼女は隅にある箱型の機械に目を留めた。


「これ・なに?」

「ああ、それは」


 それは旧世界のパーキングエリアにあった自動販売機だ。飲み物はもちろん、うどん、ハンバーガー、カレー、アイス、なんでもある。


「何か食べてみるか?」


 まずユウナギは定番のカレーを勧めてみた。食べ慣れていないせいか、味の濃いものは不評だった。かわりに彼女は(少し冷ました)うどんを気に入ったらしい。素朴な味が受けたのだろう。ただ、箸を使うのが難しいようで、割り箸をグーで握って口にかき込んでいた。


「ああ、ほら、こぼしてる」


 リリルの世話を焼くユウナギの様子は、父親を通り越して、孫の子守をする祖父の域に達しているように、ナナには思えた。


「そうだ。リリル、お小遣いをあげよう」


 財布から1000円札を取り出してリリルに渡す。カクリヨには甚だ形式的ではあるが通貨の概念があった。


「おじいちゃんですか」


 ナナが生暖かいツッコミを入れた。


「…………」


 札を受け取ったリリルは、しばらくそれを眺めたり匂いを嗅いだりしていたが、すぐに興味をなくしてポイと捨てた。



**********



 ユウナギ、ナナ、リリルの3人は小型飛行ユニットに乗って城の外に出た。眼下にはカクリヨの巨大な街が広がっている。


 リリルが目を回しそうだったので、遊覧飛行はすぐに中止となった。カクリヨ最大の湖の近くに着陸し、付近を散策する。これほどの大きさの湖は見たことがないらしく、リリルには大好評だった。もっとも、彼女の表情はあまり変わらなかったが。


 湖には大きな港が有り、しばらくそこで船を眺めた。水辺にはエミルスラ、ノグアードら神使がくつろいでいた。


「リリルー」


 元気よくリリルを呼ぶ声が聞こえた。ジョギングをしていた液状亜人(エミルスラ)のプニラだ。彼女は運動するのが趣味らしく、ヒマさえあれば身体を動かしていた。


「どう? ちっとは慣れた?」


 プニラの問いに対して、恥ずかしいのか、リリルはナナの後ろに隠れてしまった。


「人見知りだな。リリルは。プニラ、今日のところは挨拶だけに……って、プニラ?」


 すでにプニラはいなかった。見渡すと走り去る後ろ姿だけが見えた。ユウナギが軽くため息をつく。


「忙しいやつだな」


 その後、街の中を見て回ったが、リリルはますます「なにがなんだかわからない」という顔になっていった。原始時代と未来都市とのギャップは、そう簡単には埋まるものではないということなのだろう。


 3人は休憩をとることにして、近くの森林公園に立ち寄った。やはり森のなかは落ち着くようで、リリルの表情がしだいに柔らかくなってきた。しかしその反面、故郷を思い出すのか時折寂しそうな顔を見せた。


「これをお食べなさい」


 いつの間に現れたのか、群虫亜人(グバ)族のテネローハがリリルの側に立っていた。差し出したのは彼女特製のハチミツだった。虫の集合体であるグバ族は体内にハチミツ(厳密には蜂の物ではないが)を蓄えており、その甘さは、知る人ぞ知る一品として、後に名産品になるほどだった。

 ナナの後ろに隠れたリリルが、手だけを出してハチミツを受け取り、口に運ぶ。


「……んまい」


 リリルは満足気に目を細くして頬を上気させた。


「いいとこあるじゃないか。テネローハ」

「当たり前です。女王たるもの臣下の健康にも留意して然るべきですわ」

「女王だったのか!?」


 言いたいことを言って、上品に笑いながらテネローハは去っていった。


 次に立ち寄ったのは地下にある宇宙港だ。そこには何隻かの宇宙船が停泊していた。ユウナギは何度か太陽系外苑まで遠征したこともあるのだが、今のところ宇宙人との接触はなかった。ここにある物はあまり使われることの無い無用の長物だ。はっきり言ってしまえば、宇宙船はただのユウナギの趣味である。


 最後に3人は研究施設に立ち寄った。ここの責任者はトゥ・マ・ハーヴァと言う名の最古の竜種(ノグアドラ)だ。彼は最初の神使でもある。


「(ユウナギ。よく来た)」


 秘匿回線を使って、トゥ・マ・ハーヴァはゆっくりと言った。

 もともと竜種は、知能は高いが喋れなかった。しかも、ヒト種や亜人種のように街を作ったり文化を持ったりすることも無い。その竜が、会話したり、研究室の長となるほどの知能を得ることが出来たのは、神使になった後だった。


 普段人見知りのリリルも、彼に対しては恥ずかしがったりしなかった。竜に対して動物と同じような感覚を持ったのだろう。もちろん彼女に悪気はないし、トゥ・マ・ハーヴァも気にしていないようだ。


 トゥ・マ・ハーヴァはアキュレイユと将棋を指していた。竜亜人(ノグアード)であるアキュレイユも竜種の仲間ではあるが、彼とトゥ・マ・ハーヴァでは、人とクジラぐらいの違いがあった。


 アキュレイユは盤面を睨みつけたままピクリとも動かなかった。頭からは湯気が立ち上っている。ユウナギが来たことにも気づいていない。


「例のアレはどうなった?」

「(そこを見てみろ)」


 フロアの一角に鉄くずが積み上げられていた。


「苦労しているようだな」

「(ユウナギの言うスペックを満たすには、まだまだ時間がかかるだろう)」

「時間はたっぷりある。引き続きたのむよ」


 3人は研究室を後にした。ナナがユウナギに質問をする。


「一体何を作ろうというのですか?」

「それは後のお楽しみ」

「……ウザイ」



**********



 日が暮れて、リリルは新しい自分の部屋に案内された。天上の城にある神使達の宿舎の一角だ。この区画には女性型の神使だけが住んでいる。


「今日からここが、君の部屋だ」

「…………」


 部屋には、彼女の兄アルが作ったどんぐりの人形や、地上での写真が飾ってあった。ユウナギは良かれと思って用意したのだが、リリルに皆のことを思い出させるだけだったかも知れない。


「……やっぱり片付けようか?」


 心配してユウナギが聞く。リリルは黙って、首をフルフルと振った。



―――――――――――――――――――

◆地上へ

―――――――――――――――――――


 数年後、リリルがカクリヨにも神使という立場にも慣れたころ、彼女はユウナギとナナに連れられて地上に降りていた。


 本来ならば、神使になったばかりの者がすぐに地上に降りる事は禁止である。少なくとも、知り合いが生きている間はそうだ。ただ今回は、知人と接触しないことを条件に特別に許された。まだ幼いリリルに対するユウナギの配慮だった。


 見つからないように、3人は姿を消した。ユウナギとナナは神威と天眷の力で。リリルは魔法の力を使っていた。ちなみに、リリルの透明化の魔法は彼女のオリジナルだった。生前から、彼女はその魔法を習得していたらしい。


 姿を消したまま、アールヴが新しく住み着いたレイドークの村を空から眺める。村では、皆が忙しそうに働いていた。村人は落ち着きを取り戻し、生活は軌道に乗り始めていた。


 先の戦いで片腕を失ったアルだったが、今ではすっかり体調も戻り、もとの暮らしを取り戻していた。片手で器用に獲ったばかりの獲物をさばいている。

 元気そうなアルを見て、リリルは安心したように大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。


「……いこう」

「もういいのか?」

「ん」


 背中を向けたまま、リリルは小さく頷いた。


 3人がカクリヨに戻ろうとした時、ナナが小さな生命反応を検知した。レイドークから徒歩で1週間程の場所をゆっくりと移動している。確認してみると、それは1人のアールヴの少女だった。周りに他のアールヴはいない。


「リリルの村の者じゃないな」

「おそらく、魔獣に追われて逃げて来たのでしょう」

「他の仲間は……」


 言いかけて、ユウナギは途中で口をつぐんだ。


 こっそり近づいて様子を見ると、少女は随分とやつれていた。リリルよりは少し年上らしいが、1人で生きていけるほどたくましくはなさそうだ。


「"ゆー"」


 物言いたげにリリルはユウナギを見上げた。懇願するような彼女の瞳に込められた願いを、無下にできるだけの強さは彼には無かった。ユウナギは恐る恐るナナの様子を伺う。しばらくナナは無言で彼を見下ろしていたが、やがて、ため息混じりに頷いた。

 神威の力で食べ物を創り出しリリルに持たせる。


「あー、その、天眷(アポステリオリ)は使わないように」


 リリルの表情が明るく輝いた。

 早速地上に降りて透明化魔法を解除し、偶然を装ってリリルは少女の前に出た。そのままさっそうと駆けつけて少女に手を差し伸べる……のかと思いきや、彼女は大きな木の後ろに隠れてしまった。木の横から半分顔をだして少女を見る。


「――って、人見知りかよ!」


 ユウナギのツッコミにもまけず、リリルは木の後ろから出ることができずにいた。

 しかしすぐにそれどころでは無くなる。空腹のあまり、少女が倒れてしまったのだ。慌てて今度こそ駆けつけたリリルは、食べ物を取り出して少女の目の前に突きつけた。


「……ご、ごはん!?」


 食べ物に飛びついた少女は、10分後すっかり息を吹き返した。顔色も良くなっている。


「ありがとう。ほんとにもう死ぬかと思ったよー」


 少女がリリルに抱きつき、抱きつかれた方は目を見開いて身体を硬直させた。


「私はエフィル。よろしくね」


 流れるプラチナブロンドに、空のように蒼い瞳の儚げな印象の少女だった。


「しかし困ったな。こんなところに1人で置いて行くわけにもいかないし」

「そうですが、我々があまり手を出すのは……」


 隠れて様子を伺っていたユウナギとナナの、秘匿回線での会話がリリルにも聞こえた。

 リリルは無言で立ち上がるとエフィルの白く細い手をとった。


「いこう」


 彼女は指をピンと伸ばして、南の方角を指差した。その指の先には、山腹に大きな穴の空いたイールニック山がそびえていた。



―――――――――――――――――――

◆議会

―――――――――――――――――――


 天界(カクリヨ)、天上の城。


 リリルもカクリヨに馴染みはじめて心配が要らなくなった頃、ユウナギは長年の懸案に少し手を付けてみる事にした。すなわち、神の仕事と制約について、だ。

 ユウナギはナナを執務室に呼び出した。


 ユウナギ達カクリヨの住人には、「不用意に地上に干渉してはならない」という自ら課した制約があった。古ノグアードの事件の反省から自然発生的に生まれた、暗黙の制約だ。


 だが同時に、神として地上の生き物を「見守り導く」使命もあった。生命を創り出そうとこの星に色々手を加えたのも、様々な知識をアールヴに教えたのもそのためだ。最終的な目的である「新たな知性体と文明を誕生させる」には必要な事なのだ。


 ここで問題となるのが制約と導きの矛盾である。なるべく干渉しないようにしつつも、より良い文明となるように導かなければならない。この相反する命題を解決するためにどうするか。


「そこで、今後僕達がどう地上の者達に向き合っていくか、基本方針を考えてみた」



1) ユウナギ以下数名で議会を作り、これをカクリヨの最高意思決定機関とする。


2) 地上での神威、天眷の使用は原則禁止。ただし、神威天眷同等の力を不正に使用する者に対処する場合は例外とする。


3) 地上の者達を導くための指針をカクリヨ議会で作り、それに沿った知識を与える。ただし、地上の様子を見て柔軟に対応すること。


4) 困ったときは全神使による総会を開き、神民投票を行い、可否を問う。



「いろいろと問題があるとは思うけど、そのへんはテk……臨機応変に。でもまあ、いままでみたいに僕とナナだけで決めるよりかはいいと思うんだ。どうかな?」

「……では、4)を試してみれば良いのでは?」



**********



 数日後。ユウナギの呼びかけにより、第1回目のカクリヨ総会が開かれた。


 どうしても外せない任務のある者、会場に物理的に入らない竜種のトゥ・マ・ハーヴァを除いた、アキュレイユ、テネローハ、プニラ、リリル他の約1200名、神使のほぼ全員が、天上の城の大広間に集結した。中々壮観な眺めであった。


 総会では、神使全員が1人1票を持って投票し、多数決によって物事を決定する。直接民主制というよりも、町内会や学級会に近いものだ。


 神民投票には秘匿回線用のカクリヨネットワークを使用する。これにより、どんなに遠くにいても接続ができ、匿名投票と即時集計が可能となる。不正対策も万全だ。これだけのシステムがあるのだから、実は、今回のように実際に集まる必要は、必ずしもなかった。


「それじゃみんな、僕の案に賛成か反対か、投票してくれ!」


 天眷の脳内インターフェースを使った投票は滞り無く行われ、瞬時に集計後、得票数が正面の巨大モニターに映しだされた。


 結果、賛成多数により本案は可決された。



【続く】



20170826 以下の一文を追加。

 天界(カクリヨ)、天上の城。


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