破壊神の創作レシピ
本来SFサイバーパンク系しか書けない作者が送る、魔界日常系ファンタジー!
チリヌルは現在17歳。魔王位継承権第7位のやんごとなき身分を持て余し気味の最近ではあるが、王族だからといってダラケていていいなどと、寝言を言っていられないのが現実なのである。彼は魔王立魔法大学校への入試を目前とし、まさに机に齧りつく日々なのであった!
「……はあ。もうやだ。数識の勉強超辛い。魔粒子の働きなんて知らなくても実際、魔法使えるんだからいいじゃん。」
ノートブックに突っ伏すようにしてチリヌルは泣き言をあげる。やらなきゃやらなきゃと思うほど、どうしても集中力が途切れてしまうのだ。デビルイヤーが三千里も離れたリビングからテレビの音を拾ってくる。午前中からお昼までをカヴァーするNEWSバラエティ番組のそれだ。
「今週の“破壊神の創作レシピ”のコーナーでは、お手軽パーティー料理“プリプリ人間マッコウクジラ詰め地獄蒸し”をご紹介致します。大勢でつまんで頂けますし、あまり油を使わないお料理なのでダイエット中の方にもいいと思いますよ〜。お料理はCMの後で!」
なかなか唆るタイトルだ。女性アナウンサーの明るい発声の後は、聞き飽きたCMが続く。それでも教科書にのめり込もうと多少は努力をしたチリヌルだったが、結局誘惑に負け部屋のテレビを点けた。
「からだ。こころ。いきち。」
「内側から送ろう♪ 健やかヴァンパイア生活♪」
チャラッチャラー♪
CMに引き続いて始まった料理コーナーでは、いつもと違ってスタジオが騒然としていた。コメンテーターが慌てて状況を説明する。
「おっとっと! スタジオでハプニングが! ディスプレイ具材用の人間達が何匹か逃げ出そうとしてますね。冷凍じゃないのが混ざったんですかね、スタッフさん?」
ドっとスタジオが湧いた。カメラがアシスタントの女の子を大写しにするが、発言することは控えるように言われているのであろう、恥ずかしそうに会釈をしながら、顔の前で手を振っているのが好感を持てる。照れながら、彼女はなんとかチビ人間達をかき集めた。
「はい。それじゃあ、改めて今週の具材とレシピをご案内致しましょう。スタジオにはお馴染み料理研究家の周・司馬神さまに来て頂いております。周さんお願いしま〜す。」
「ハイ、皆さんオハヨウか? コンニチワ、ネもう? 時間ないワタシどんどんいくヨ〜? ハイ、コレ人間!大体50匹ネ。ハーブにんにく死ぬまで食わしとくネ。今日何ピキか生キテたでも死んでる構わナイ! 生きてたら首のとこでポキッ! ネ、簡単ネ? 毛が邪魔だから皮膚全部ハグよ〜。」
「うわ〜手際がイイ! 今回はこちらに調理に使う分の仕込済みのもの、ご用意しておりまーす。」
すかさずコメンテーターが合いの手を入れると、カメラが大皿一杯の人々にぐぐっと寄った。全員綺麗さっぱり剥かれていた。
「ハイハイ、そしたらマッコウクジラいくネ! コレ一匹皮剥いでお腹捌いて中のモン全部掻きだすシ・タ・ラ〜さっきの人間! コレクジラに詰めたらアルミホイルまいてくネ〜。」
デスシックルで丁寧にマッコウクジラの内蔵を取ると、料理人は鷲掴みにした人間達をおもむろにその腹腔内に詰め込みはじめた。
「このオスクジラ活きがイイネ! 深海採れたてヨ〜。」
「いや〜見てて、すでに美味しそうですね!」コメンテーターの感嘆の声。
「ハイハイハイアルミ巻いたね〜、したら、中華鍋〜。ナイこれ人は深めのお鍋でもイイヨ〜。五徳を中に置いて、丁度浸る位お水貼ってネ〜、イイヨ〜。で、五徳にアルミまいたクジラ寝かせるヨ! ハイ見てネ! ココで火山から持ってきた熱ッ熱の溶岩ぶち込むヨ! ンデ即フタ!!」
ジュワワッワワワワワワッシュウゴゴゴゴゴゴ〜!!!
灼熱の岩石と水が作り出す蒸気が、蓋の隙間から難なく溢れ、スタジオを満たした。さながら閻魔の地獄鍋のような様相だ!
「ハイもう出来たヨ〜コレ一瞬で終わるイイトコロ!」
彼は鍋からまな板へ取り出したアルミホイルの包みをカメラの前でゆっくりと銀箔を解いていく。中からバラ色に染まった肉塊がまろびでるとスタジオのあちこちから歓声が上がった。それを丁寧に大皿に盛り付けると、クジラのお腹の綻びから溢れだした人間をいくつか縁に飾り付け、アルミホイルに溜まっていた汁でお皿の底を満たした。
「お肉美味しそー!」「食べたーい!」「いい香り〜♪」
チリヌルはここまで見ると生唾を飲み込み電源をOFFにした。ここから先は人が食べるのを見ているだけで自分が食べられるわけではないのだ。さあ、ここから先は本当に頑張らなきゃいけないぞ。彼は思い直しペンを片手にまた机に向かうのだった。
当初は、冴えない俺が召喚された異界で大活躍!?系を僕も書いてみようと思ったんですが、タイトルの語感くらいしか内容に対して理解がないので、かわりに異界の住人達そのものの1コマを描いてみました。
また、やってしまいました。……という感慨がなきにしもあらずでございます。
読了ありがとうございます!光栄値MAX!!