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ディラックドライヴ読み切り版

作者: 神谷なつき

赤い月を、見たことがあるか?

燃えるような、赤い月を。


退屈だ。

リアルなんてバランス崩壊したゲームで。

僕はただただ、退屈していた。

そんな時、彼女と出会った。


燃えるような赤い月。

漆黒の世界。

僕と彼女を遮るものはない。

「こんにちは」

彼女は優雅に一礼した。

「貴方は選ばれた……」

僕は疑問符を浮かべながら、選ばれた、と口の中で反すうする。

「赤と青の戦いへようこそ」

彼女はそう言って、手を差し出した。

その手には細い金属の鎖が巻きついており、僕が彼女の手を握ると……。

「なっ!?」

鎖が勝手に動き出し、僕の手に巻きつく。

そして、文字通り、皮膚にのめり込んだ。

「契約。完了ね」



ピピピ。

アラームの音で今日も俺は起きた。

両親は先に家を出ている。

「またあの夢か……」

赤い月の夢。

最近よく見るのだ。

あまり詳しくは思い出せないが、誰かと出会った気がする。

「ラノベ主人公なら能力覚醒パターンなんだが、生憎僕は妄想癖で根暗な高校生だ」

根暗。

それが僕が自分に下した決断だ。

親譲りの黒髪に、日光にあまり当たらないため真っ白な肌。

「まるで、吸血鬼だな」

はははっ!

笑えない。


学校。

「おはよー」

「おはよう」

友達同士であいさつしているリア充共を尻目に僕は今日も孤高に生きる。

先生はよく、友達を作りなさい、と言うけれど、僕からすれば、友達なんか面倒くさいだけ。

そう。

いらないのだ。

友情なんて。

だから、僕は絶対に主人公にはなれない。

けれど、主人公になりたい。

女の子にちやほやされて、男友達がいて、夏祭りとか文化祭とかではしゃぎたい。

本音と建前。

僕は、今日も自分に嘘を吐く。


「ねえ? 知ってる?」

そのウワサが流れたのはいつからだろう?


こっくりさんの裏ルール。


こっくりさんとは、机の上に「はい、いいえ、鳥居、男、女、五十音表」を記入した紙を置く。

そして、その紙の上に十円を置いて参加者全員の人差し指を添えていく。

全員が力を抜いて「コックリさん、コックリさん、おいでください。」と呼びかけると硬貨が動き、質問に答える。


そのこっくりさんに、裏ルールがあるらしいのだ。

最初の紙に、追加で十字、つまり教会を書き、こっくりさんに「こっくりさん。こっくりさん。ゲームをしましょう」と言うらしいのだ。


硬貨が十字に行けばゲーム開始。

ルールはこっくりさんが決めるらしい。


まあ、一人ぼっちの僕には関係ない話だが。

九重ここのえくん」

考え事をしていると、いきなり女の子に名前を呼ばれる。

突然すぎたことと、最近声を出していないため、声が出ない。

「……と、なに?」

枯れた声を発する。

「こっくりさん。一緒にしない?」


こっくりさん。

しかも、ウワサの裏ルールでやるらしい。

僕は人数合わせのため、呼ばれたらしい。

二人より三人。三人より四人の方が成功する確率が高いのだそうだ。

僕を含めた四人が席に座る。

「じゃあ、みんな十円に指を乗せて」

他の人はワイワイ。ガヤガヤと十円に指を乗せる。

僕は無言だ。

「こっくりさん。こっくりさん。おいでください」

十円がスーッと移動する。

鳥居に移動した。

「こっくりさんが来ているか、一応確認しよ?」

「そうだな」

そう、隣りの席のモブキャラくんがつぶやく。

早く終われ。

僕は心の底からそう感じる。

「こっくりさん。今日私が食べたものはなんでしょう?」

十円が移動する。

「やきそばぱん。当たりだ」

「じゃあ、やろうか」

僕は、逃げれば良かった。

そう、感じた。

「こっくりさん。こっくりさん。ゲームをしましょう」

十円が十字の場所に移動する。

そして、慌ただしく五十音の表を移動する。

内容なこうだ。


ゲーム内容。

ゲームは、夢の中で行なう。

一週間逃げ切れたら勝ち。

もし、夢の中で死んだりしたら、罰ゲーム。

勝てば、望みの物を与える。


「面白そうな話だな」

誰かが言った。

「くだらない」

ならするなよ。

「私、お金がいいかも」

お前は金が一番か。


その日のこっくりさんはそれで終わった。


夜。

「ゲームか……」

寝るのが少し怖くなる。

「まあ、大丈夫だろ」

寝た。

つもりだった。


「ここは?」

学校だった。

昼間の、何の変哲もない学校。

そこに居た。

昼間のこっくりさんをした女の子たちと共に。

他の人は、いる……のか?


ピンポーンパンポーン。


脳に直接声が響く。

「裏ルールを試したみなさん。ようこそ、逆さま世界へ。ここでは、みなさんは王様です。他の王様を蹴落として、一週間でどんどん偉くなっちゃいましょう」

蹴落とす?

まて、こっくりさんの話では一週間逃げ切れたら勝ち、なんだよな?

「現在、王様の数は……人です」

数を告げる時にノイズが走る。

一体どういうことだ?

僕は頬をつねったり、手のひらを見たり、鏡を見たりしたが、夢が変わることはなかった。

既に明晰夢か。

夢、なんだよな?

なら。

「僕は、僕の王国を作る……」

ボソッと言ったセリフは、誰かに届いたのだろうか?


ピンポーンパンポーン。


「追加でルール説明をします。あなたたちには王様として、他の王様を殺すほど、王様としてのランクが上がっていきます。一週間後。生き残れた王様には、国を与えるか望みを一つ叶えます」


「ははっ。つまり殺し合いをする理由は合理的に考えて、無いな」

横のモブキャラくんが言った。


「いいえ。ランクアップするごとに、スペシャルなプレゼントをご用意しております。レッツキル! ですよ」


「だそうだ」

モブキャラくんがいきなり僕を殴る。

「ッ!?」

「悪いが、死ねよ」


フルボッコだった。

蹴られ、殴られ。

最悪だ。

こっくりさんに参加した三人のうち、女の子以外にリンチされている。

女の子はニヤニヤ笑っている。

お前ら、夢の中なら容赦ないのかよ。

正直。

この手は使いたくなかった。

「モブキャラ一号。佐藤健二……」

「あぁん?」

僕はボソッと囁いた。

実は盗撮マニアで盗撮した写真を自身のブログにアップロードしている、と。

途端に、佐藤健二は殴るのをやめた。

「なんでそれを? 夢の中だからか?」

バーカ。

僕はネットで調べてクラスのほとんどの弱みを握っているっつーの。

その隙を逃さず、僕は、佐藤健二の首すじに『常備しているカッターナイフ』で切りつけた。

骨を避け、動脈を狙い。

結果、水道管が破裂したかのように佐藤健二は苦悶の表情さえ浮かべる暇もなく、死んだ。

「九重。……お前」

「九重くんサイテー」

僕は返り血を服の袖で拭い、また常備している『サバゲー用のガスガン』を二人の顔めがけて撃った。

「痛っ!」

一応言うと、良い子はマネしちゃだめだよ?

二人を殺そうと思い、近付く。

「に、逃げるぞ!」

「ええ!」

だが、一瞬二人が早く。

僕は逃がしてしまった。

「夢の中でくらい、リア充を爆発させたい、よな」

一応言うと、伏線だ。


ピンポーンパンポーン。

九重ここのえくんのランクが一上がりました。素敵なプレゼント。ガチャチケットをお渡しします。現実世界で使ってね」


翌日。

「寝た気がしない」

僕はボソッとつぶやいた。

「カッターナイフ。催涙スプレー、スタンガン、ガスガン、ケプラージャケット。フラッシュグレネード。よし、全部ある」

僕は病的に被害者思想だ。

だから、自衛のための武器を常に持っていないと落ち着かない。


プルルル。

「ッ!?」

携帯電話が鳴る。

あり得ない。

僕の携帯電話のアドレス帳には両親のアドレスしか登録されておらず、また、両親は僕にメールや電話をしない。

メールを開く。

「件名は、ガチャチケット配布、か」

一瞬、昨日の夢を思い出す。

まさか、な?

「アドレスは、文字化けしてる。見たことないアドレスだ」

かろうじて@だけは分かるが、後はわからない。

返信するが、『このメールアドレスは現在使われておりません』とエラーが出る。

メールには本文は無く、諦めて、添付されていたファイルを開く。


ジャジャジャーン。

いきなり、スロットゲームが始まった。

あの、三つの七を揃えるタイプだ。

僕はこのタイプのゲームが苦手だ。

だから、ズルをする。

簡単に説明すると、携帯電話をパソコンに繋ぎ、画面をリンクさせる。

そして、画面の速度を二百倍落とした。

僕は止まったように動くスロットゲームで、当たり前のように七を揃えた。


メールがまた来た。

以前と同じ、いや、本文がある。

『おめでとうございます。あなたはラッキーセブンを揃えたので、以下の三つのうち、一個を選べます』

色が変わっているため、名前をクリックするとリンク先に飛ぶのだろう。

『透明化』

『隷属化』

『延命化』


「……悩む」

明らかにイタズラなメールに本気になってしまうあたり、僕はまだまだだ。

だが、毎日に退屈していた僕には丁度いい刺激になっている。

「透明化はおそらく一時的な不可視状態になる」

「隷属化はなにかを従える力」

「延命化はコンティニューコイン扱いか?」

ゲーマーなら、選ぶのは一択だ。

クリックする。

画面に『目的のアイテムはすぐに配送します』と現れた。

「さて、学校行くか」

僕は、本当に佐藤健二が死んでたら面白いなーと思いつつ、学校に急いだ。


学校。

学校には警察が来ていた。

それもたくさん。

僕は一瞬で危険を感じ、エアガンなどを道ばたに隠し、登校した。

校門には警官がおり、手にした紙と生徒を見比べている。

僕の予想では、

こっくりさんの裏ルールにより罰ゲームを受けた佐藤健二が失踪あるいは死亡しており、夢の中で顔を撃った二人が僕を犯人扱いして警察に話し、現在僕は警察に犯人扱いされている。

と、ここまで妄想した。

「で、実際はどうかな?」

警官が僕の顔を見る。

「九重くん、だね?」

僕は極めて不安そうな顔で、おどおどと怯えたフリをする。

「……はい」

警官が話す。

「佐藤健二くんの知り合いかな?」

「いえ。佐藤くんとは昨日初めて話しただけです。あの、佐藤くんがどうかしましたか?」

「あ、いや、続きは署でって言いたいんだけどね。君は学校があるだろう?」

当たり前だ。

バカかお前。

「だから、放課後に署まで来てくれないかな?」

「はい。分かりました」

僕は軽く身体を服の上から触られると、普通に通過できた。

「……ちょろいな」

あの夢がどう佐藤健二と関係あるか知らないが、佐藤健二に何かしらのイベントが起きたのは事実らしい。

正直、ボディーチェックがあったのは意外だったが、靴底に隠していたナイフまでばれなくて良かった。


教室に入ると、クラス中から視線を感じる。

「なんでしょうか?」

みんなはすぐに視線を逸らし他愛ない雑談をし始めた。

あのこっくりさんをした三人組、いや今日は佐藤健二がいないため二人組みも雑談をしている、が。

空気が重い。

通夜かと思うほどの重苦しい空気に、僕は息が詰まる。

まあ、顔には出さないけど。

教室に担任の先生が入ってきた。

「みなさんに悲しいお知らせがあります」

シーン。

クラスが静まりかえる。

お前ら、授業中もそのくらい静かにしろよ!

と、一人思う。

「佐藤くんが、昨日失踪しました。現在、警察が捜索しています」

死亡ではなく、失踪か。

こっくりさんのゲームを疑う要因は、九割ほどなくなったな。

「みなさん、佐藤くんに関して情報があったら先生にまで連絡をください」

ふわぁああ。

眠い。

早く終わらないかな?

僕は窓の外をじっと見つめていた。


それから、通常通りの授業があり、放課後。

校門には警察の車が停まっていた。

「まさか迎えに来てくれるとは思いませんでした」

警官が渋い顔で僕に告げた。

「先に言っておくと。あなたは重要参考人です」

「はあ?」

「わかりやすく説明……は、車の中で」

僕は車に乗った。


僕は車の中で最悪のシナリオを想定する。

ケース一。

ガチャのプレゼントが配送済みであり、警察に中身がバレること。

ケース二。

パソコン、携帯の中身を見られること。

ケース三。

家に隠してある護身用グッズが発見されること。


当然全てのケースに対策はしてある。

だが、用心に越したことはない。

「君のパソコンの中身を見てもいいかい?」

車の中で警官に言われた。

「いいですけど、僕も男の子なのでちょっと見られたくないファイルもあるというか……」

「大丈夫。そういうファイルは見ないよ。約束する」

「ありがとうございます」

言えないよな。

パソコンのログイン時にあるパスワード以外で入ると、自動的に裏ファイルが画像ファイル、つまりJPEG形式に変わるなんて。

まあ、見られてもいいように一見しただけでは学校の教材のように見えるんだけどね。


警察署。

そこには、あの夢の中で顔面を撃った二人が先にいた。

「こちらにどうぞ」

僕が通されたのは昼ドラマとかで警察署が犯人を尋問するあの部屋だった。

「カツ丼って出ます?」

出たら凶器にして警官の頭をかち割る妄想ができるんだけど。

「残念だけど出ないよ」

「そうですか」

警官の尋問が始まった。

話の内容はこうだ。

昨日、あの二人と佐藤健二と一緒にこっくりさんをした。

その後、夢で僕が突然発狂し佐藤健二を殺害した。

あのリンチについては一切語っていない。

「あの。夢を見たのは本当でも殺したのは僕じゃないんですけど」

「なんだって?」

「話は変わりますけど、夢の話を本当に信じるんですか?」

警官はどもる。

「そ、それは……」

「仮に全員が同じ夢を見たとして、夢の中で起きたことが本当に起こると?」

「それは……」

「仮に起こったとして、犯人を日本の法律で、裁けますか?」

「……」

「夢で殺されたから死ぬなんて、まさしく夢物語ですよ」

「……そう、だね」

「反論ないなら帰ります。では」

帰り支度を始めると、警官が僕に聞いた。

「佐藤くんを夢の中で殺したのは誰だ?」

「あの女の子、鈴木すずき未夏みなつさんですよ」


帰り道。

「何かしらの情報があれば、メールや電話で知らせてくれ」

警官にそう言われた。

車で送り迎えしてもらい、家に帰ると、父親が厳しい顔で待っていた。

「なに?」

まつり。話がある」

父がそう言った。

言い忘れていたが僕の名前は九重祭だ。


僕は後でね。と、告げ、二階に上がろうとした。

「今、話がある。大事な話だ」

「分かった。その前にトイレに行かせて」

「そのくらいなら」

僕はトイレに入った。

用を足すためではない。

右手には今さっき届いた小包みがある。

中身は……。


「お茶だよ」

父親にお茶を渡す。

「祭は飲まないのか?」

「警察署で飲んだから」

警察署。

その単語が出た瞬間、両親がビクッと震えた。

「祭。お前のことで会社に警察が来た」

「そう」

「なんでも、殺害も含めた容疑がかかっているらしい」

「そう」

「真面目に聞いているのか!」

真面目に、ねぇ……。

確かに僕が原因かもしれないが、僕が直接殺したわけでは、ない。

「だいたいお前は……」

僕はうつむいてひたすら、待つ。


「だからお……ま……えは……」

父親がこくりこくりと船を漕いだ。

「ようやく眠ったか」

睡眠薬をお茶に混ぜたのだ。

正確には睡眠導入剤を。

普段は家に帰宅するなり疲れて寝ている父親だ。

睡眠導入剤を飲ませただけで寝てしまう。

「あとは、この首輪を……」


箱に書いてあった取り扱い説明書を読む。


隷属化『隷属の首輪』

この首輪は付けた相手をメールにより操る能力があります。

首輪が付いている時だけ効果を発揮します。

メールに相手の行動を書き、以下のアドレスに送れば相手はその行動をします。


エロゲ系のアイテムだが、僕はそんな使い方はまだしない。

寝ている父親の首に首輪をはめ、メールを送る。

あとは、母親が帰ってくれば……。


母親が帰ってきた。

「あら、お父さん。珍しくお酒飲んでいるわね」

うつむいて頷く。

「……うん」

「祭。どうかした?」

「実は僕……なんか事件の関係者らしくて、それでお父さんに叱られてた」

「そう? 祭はいい子だから叱られることなんかないのにね」

「そう……だといいな」

父親が吠える。

「酒! 酒持ってこい!」

「はいはい」


それから数十分が経った。

酒が尽き、父親は酒瓶で母親を殴り始めた。

僕は頃合いを見計らって警察に電話した。

「警官さん助けてください! 父が!」


数分後。

警官がやって来た。

状況としては、

血まみれの母親。

酒瓶の破片で所々傷だらけの僕。

父親を説得しようとする警官。

の図だ。

「九重さん落ち着いて!」

「うるさい! 祭。祭さえいなければ!」

「仕方ない。……確保します」

警官が確保に向かう。

と、父親が警官の頭を殴り、警官がよろめく。

その隙に父親は自分の首筋を酒瓶の破片で切り裂いた。

吹き出る血。

僕は父親に駆け寄り、警官に叫んだ。

「救急車を!」

「分かった」


と、ここまで全て計画通り。

メールした内容を父親が演じきった。

もちろん、父親の死には意味がある。

後は首輪を回収して終わりだ。

今日は眠いから、首輪を回収したら、寝よう。


あの後、父親は死んだ。

事件では、僕があの後すぐに寝たため。

家の中で見つかった睡眠導入剤を父親が僕に飲ませ、殺害しようとしたことになった。

母親はしばらく入院だ。

僕は佐藤くん事件の容疑者から一転、悲劇のヒロインになった。

「父親をこんなに追い詰めてしまったのは、夢の話で父親に重圧を掛けた警察、そして、あんな夢を見てしまった僕にも責任があります」

と、まあこんなものだ。

昨日の夢では以前として学校だったが、女の子やモブキャラ2の姿は見当たらなかった。

「隠れているのかな?」

そう感じる。

「なーにが?」

ビクッ!?

いきなり声をかけられて驚く。

以前としてクラスではいい意味でも悪い意味でも腫れ物扱いだ。

「はろはろ。小鳥遊っていいます。最近引っ越してきました。よろしく」

ピンク髪が似合いそうなその女の子は根暗な僕とは非対称に笑った。

だが……。

「小鳥遊さん。ちょっと手伝ってくれる?」

「なに?」

「僕、先生に教材持って来るように頼まれちゃって。ほら、クラスメイトがあんなだから他の人に頼めないんだ」

「いいよー」

僕は小鳥遊さんを人がいなさそうな場所まで誘うと、にらんだ。

「なんのつもりか知らないが、あんなバレバレの接触をしたらバレるだろうが!」

「なんの話?」

「とぼけるつもりか?」

「はあー」

小鳥遊さんはため息をつき、一瞬で氷のような冷たい顔になる。

「それが素顔か?」

「なんでバレたの?」

「質問に質問で返すな。バレるに決まってる。顔の筋肉の何割が自我だけで動かせるか考えたことはあるか?」

つまり、作り笑顔。

よく、口元が笑っていないとか、まあそんな感じだ。

「さて、話を進めようか。お前もこっくりさんの裏ルールを?」

「ええ」

「何人で?」

「二人でやったわ。おそらくあなたと同じ日に。その日の夢で殺した」

「ニュースになっていないが?」

「相手が引きこもり、つまり、不登校児だからよ」

「そいつの両親はどうした?」

「あなたと同じく、アイテムで解決したわ」

小鳥遊はピンク色の小瓶を見せた。

「忘我の香水。いわゆる記憶を消す薬よ」

「どこまで知っている?」

「あなたがスロットでラッキーセブンを出し、おそらく人を操るタイプのアイテムを手に入れたことまで」

「そうか、残念ながら、あれは一回限定みたいでな」

僕はポケットから指輪を出す。

「隷属の指輪。付けた相手が付けた人の言う事をきくアイテムだ。僕に付けてみろ」

渡す。

「いいの? あなたを操るかもよ?」

「すでに試した」

小鳥遊が指輪を僕の指につける。

「小鳥遊さまと言って足の爪でも舐めなさい」

……。

「いくら効果がすでにないとはいえ、真顔で言うなよ」

指輪を外す。

そして、小鳥遊に渡した。

「じゃないと、あなた、従ったフリして寝首をかきそうだったから」

指輪をクルクルともて遊ぶ。

「この指輪どうする?」

「あげる。僕にはもういらないものだから」

「そう」


トイレに入り、襟で隠していた首輪を外す。

こんなこともあろうかと常に肌身離さず持っている。

「隷属の首輪。行動がここまで細部に渡って設定できるとはな」


メール画面。

『「隷属の指輪。付けた相手が付けた人の言う事をきくアイテムだ。僕に付けてみろ」と限りなく本当のように発言し、小鳥遊にもう用無しだとでも言うかのような表情で渡す。』

小鳥遊と人がいなさそうな場所まで移動している間に打ち込み、メールしたのだ。

僕はまた首輪を付け直すとトイレから出た。


その夜。

僕はあのこっくりさん裏ルールについて調べていた。

結果、分かったのは。

少なくとも数名は無事にクリアしている。ということだった。

ただ、クリアした人物のブログは鍵がかかって見れなかった。

「あと、数日のうちに、あの二人を殺した方がいいかな?」

コーヒー片手に考える。

そうだ。

いいこと思いついた。


数日後。

「小鳥遊さん。借りてたノート」

「あ、どうだった?」

「字が綺麗だった」

「にゃはは。照れますなー」

小鳥遊にはノートなんて借りてない。

中身は今日の夢についてだ。


夜。

小鳥遊が遊びに来た。

小鳥遊は先に寝て、僕が後から寝て起きると(というのも変な例えだが)、小鳥遊がいた。

「やっぱり、前回最後にいた夢の地点から再スタートみたいね」

つまり小鳥遊には先に一回寝てもらい、学校の、この教室で起きてもらった。

起きてもらったというのは変だな。

正確には起きるタイミングは選べない。

気付いたら起きている。

「さて、サクッとキルしましょう」

小鳥遊は僕の指示通り、あの短時間でボウガンやガスガンを近くの店から取ってきていた。

「弾は二万発。カートリッジも予備がある。ガスもある。僕はガスガンを使うよ」

手にしたのはサブマシンガンだ。

「私はボウガンね」

小鳥遊はボウガンを手にした。

「約束通り一人一キルだぞ」

「そして私は君のアリバイを作る」

獲物を渡す代わり、疑われた場合に安全を保証する。

そういう取り引きだ。

「二人の居場所は分かる?」

「ああ。だいたいはな」

僕は近くの車の販売店に行くと、車を一台奪った。

「赤が好きなんだ」

「燃料が一番残っている車だからだよ」

車で向かうのは、警察署。

あそこに二人は居る。


警察署。

僕は車で警察署に突っ込んだ。

ガラス張りのフロントが大破し、警報が鳴り響く。

僕は指差しで小鳥遊に指示した。

「小鳥遊は上から」

「君は下から」

二手に分かれ、小鳥遊はエレベーターで最上階から。

僕は下から二人を探す。

警察署にいるという確証は前からあった。

様々な理由があるが、最も大きな理由は『夢の話が警察沙汰になったことだ』。

おそらく、あの二人のどちらかが、警察と仲がいいという可能性がある。

また、警察署なら武器の備蓄があるため籠城しやすいという点もある。

まあ、全て憶測に過ぎないが。

そうこうしているうちに四階まで到達した。

その時。

「舐めるな!」

ガンッ。

音と共に意識が飛ぶ。

鈍器で殴られたのだと気付く前に意識がブラックアウトした。


「大丈夫?」

気付いたら小鳥遊が介抱してくれていた。

「大丈夫。ではないね」

何で生きているのか?

答えは明らかだ。

小鳥遊の手には返り血が付いている。

「警察の武器は殆んど鍵や安全装置がかかってる。だから鈍器にしたようね」

「僕はその鈍器で殴られたわけか」

次は僕の番か。

小鳥遊はモブキャラ2を殺し、残るは女の子だけだ。

「もう一人は?」

「地下でバリケード組んでる」

「そう」


地下。

「見事なまでにバリケードだね。モブキャラ2が協力して作ったのかな?」

「どうする?」

僕はやれやれといったポーズをする。

「突破は諦めよう。さあ、帰り支度をしよう」


僕はあることをして、モブキャラ2くんから奪った携帯(今時珍しいガラケーだった)を地下に置いてから車で外に出た。

そして、しばらく走ってからモブキャラ2くんの携帯に電話をかける。

……。

ドゴォオオオオオン!!!!

警察署の地下から火柱が上がった。

「なにしたの?」

「別に。警察署にあった車用ガソリンを地下に巻いて携帯を置いただけだよ」

ガラケーのLEDランプでも、気化したガソリンを着火させるには充分すぎる。

まあ、失敗したときのために保険もあったんだけどね。


ピンポーンパンポーン。


「九重くん、小鳥遊さん。ランクが一上がりました。ガチャチケットか王国強化チケットを貰えます」


「私はガチャチケット」

「じゃあ僕は王国強化チケットを」


ピンポーンパンポーン。


「一週間過ぎました。長い戦いでしたね。よく頑張りました。あなたたちは今からホンモノの王様です。シン世界で王国を築くか、望みを一つ叶えるか。好きな方を選んでください」


「王国だ」

「王国ね」


「では、ゲームスタート」


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