シチューが食いてぇ……
同じような材料を使い、同じような工程で出来上がる。
これは市販のルーを使ったらの話だがな。
何の話かと言うと、カレーとシチューの話だ。
突然俺が何の主張をしているのか気になると思うだろうが、カレーとシチューは作り方や材料が似ているのだ。
同じ事しか言ってないな。
つまり、作り手の好みがどちらかに偏った時、どちらかは作られる可能性が極端に低くなる、そんな危険性があると言う事を強く強く伝えたい。
例えば、カレーが大好きな嫁さんを貰うと、シチューを食べる機会がとても少ないんだ。 おれはカレーも好きだけど、シチューも好きだと言うのに、ひどい話だ。
もちろん、夫婦間の問題は話し合いで解決するのがベストだと思っている。
だから話し合った。
壮絶な二人だけの家族会議になった。
結果だけ言わせて貰おう。
妻が泣き叫びながらカレーの良い所を語っていたり、俺が土下座しながらシチューの良い所を語っていた事なんて、みなが知る必要は無い。
だから、結果だけ言うぞ。
カレーを四回作ったら、シチューを一回作ってくれる。
これが俺達夫婦の新ルールになった。
さて、長い長い、前置きだったが、今日はシチューの日のはずだったんだ。
だけれども、出てきたのはカレーだった。
そんな訳で、俺は夜の街へと繰り出したわけだ。
しかし、カレー屋さんはあっても、シチューってどこに行けば食べられるのか俺にはわからなかった。
グラタンなら、あの有名なフライドチキンのチェーン店にあった気がするのだが……。
シチュー?
どこだ?
どこで食える?
「どこに行けば良い?」
と困り果てた俺は電話で聞いてみた。
相手は妻だ。
「家に帰ってくれば良いと思うよ。
あなたがいないと晩御飯食べられないニャン。
寂しいニャン」
ニャンと言っていたが、妻はもう二十六歳だ。
ニャンとか言って良い年ではない。
それでも俺は負けた。惚れ直した。
「直ぐ帰るワン!」
妻につられてワンと言ってみたが、前を歩いていた女子高生が一瞬振り返り、大笑いされた。
聞こえる距離とは思っていなかった。
結構ショックだった。
今日も俺はシチューを食べられない。
多分、この先の人生で殆ど食べられない気がする。
それでも、幸せだワン。
まず、家に帰ったらそう言ってみようと思う。
そうすれば、今度こそシチューが食えるかもしれないし。
そして、実家に帰るときはシチューをリクエストしよう。
妻にマザコンだと罵られたとしてもこれだけは譲れないな、と思った。
シチューを食いてぇんだよ。