右も左も解らなかったので主になってもらいました。
始めまして、初投稿です。トリップ物が書きたくなって書いてみました。狼さんの名前は決めたのですが主人公の名前が決まらず、名乗るタイミングを逸しました。あるじ様は鉄板のイキモノです。
そんな主さまに要約「かわいい子には旅をさせろ」みたいなこと偉そうに言われていきなり世界にほっぽり出されてしまいました。主さま、これは「獅子千尋の谷に子を突き落とす」ってやつです意味は同じなのでしょうけど出来れば「蝶よ花よ」という感じがよかったです。涙。
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さておき、艱難辛苦の果て、右も左も言葉も常識もわからない私は運よく気のいい商隊に拾われて、中継区で開いている店テントの店番のお仕事をさせてもらって今に至っているわけです。
そんな私の名前は、、、
『おい』
と、声が聞こえたので呼ばれたと反射的に理解して、品物の整理をしつつ現状を反すうしていた私は「ハイッ」と勢いよく返事を返して振り向いた。
振り向いて弱冠腰が引けていたのは、仕方ない。理由は二つある。ひとつは振り向いた先にいたのが狼の顔だったからだ。体も毛むくじゃらの動物人間、所謂、獣人というファンタジー名称の付く人種。あ、毛並みは濃紺というか黒。光の加減で紺色が見えるという感じ。左目に傷があって目が閉じている。開いている目は琥珀色。
自分が生まれて生きた世界には空想上のイキモノと称されるソレが、今、目の前に存在する違和感にはまだ慣れない。
しかも、イヌ科といえどその中でも孤高と名高き狼種であればその存在に飛びつけるのは無類の動物好きか犬好き、でなければ欲望に忠実な空気読めないヤツくらいだ。目を輝かせるなどという芸当は自分には無理、できない。
ちなみに自分は犬派猫派でいうなら、猫派だったりする。まあ、どうでもいい主張ですね。
『いきなり売り子を食ったりしねぇから、そんなに怯えるな 』
自分の容姿が相手にどう捉えられるか自覚があるのか、振りむいたままカチコチに固まってしまった私に狼さんはやれやれと言葉をかけた。
ちなみに、腰が引けている理由の二つ目がコレ。
何がしか話しかけてきた狼の言葉を私は理解できていない。
狼さんの言語がこの世界共通語なのかすら皆目見当がつかない。そう、私にはこの世界の言葉がわからないし、しゃべれないのだ。異世界ですもの、日本でもなければアメリカでもない。元いた世界共通らしい英語だって私には…まあ、察してくださいってレベル。…日本にいれば英語なんて生きるのに必要なかったんですよ!
で、まあ、狼さんの言った言葉で聞き取れたのは「売る、子、食う、した、ない、?? 前へ出ろ」的な意味合い。
脂汗が出るよ。前へ出ろって何?!誰かタスケテ。
私はぐるぐると脳内暗号を解読しなければという意識と、相手に伝えるべきことを伝えて時間を稼がなければという意識で無駄に手を振り慌ててカンペを探す。カンペは肌身離さず落とさないように紐をつけて着ている服にくくりつけている。こないだズボンのポケットに入れていて落としたから懐に入れるところを変えたんだった!あわあわと入れていたところを変えたせいで手間取りつつ紙の束を連ねたものを取り出してペラペラとめくる。
「あの、えっと『ご、んめ』じゃない『ごめんなさい、ことば、下手、ゆっくり、おねかいします。ごにょう、”ご要望のものはなんでしょうか?”』」
あってる? あってる? 発音ちゃんと通じてる? 最後の『ご要望(以下略)』はテンプレをそのまま読んだからきっとここだけはちゃんとあってるはず。
『なんだ? 嬢ちゃん異国人か? 珍しい』
片言というのもおこがましい言葉を紙を見ながらなんとかひり出す私に狼さんはその片方しか開いていない目を丸くして顎に手をやってこちらを覗きこんできた。
ええ?! 何か間違った?!
もう、いっぱいいっぱいだ。逃げたい。逃げていいかな?
過呼吸に陥りかけていた私の脳みそは全力でこの場から撤退することを考えた。もう体も回れ右しそうな勢いだ。
その途端、前ぶれなくゴンッと私の脳天にジャムの入った小瓶(掌の半分くらいの大きさ)がイイところに落ちてきた。
「いっつっ?!」
小さいとはいえ中身の入った瓶に目の前が一瞬眩む。頭でバウンドした瓶は割れた音がしなかったからうまく転がったのだろう。割れてたら弁償せねば…つか、マジで痛いんですが!!
『おいおい、嬢ちゃん大丈夫か?』
「おぎゃ?!」
『…面白い鳴き声だな』
自分の頭を鷲掴みしてあまりある大きな手が頭に乗っかれば誰だって悲鳴の一つは、覚悟の一つもしてなけりゃ出るってもんですよ!
ジンジンする脳天を肉球のない、毛の生えた、それでいて鍛えたゴツゴツした掌がぐりぐりと撫でる。
やーめーてー、痛いんだから!って、あれ?
「痛くない?」
狼さんは私の頭から手を離した。私は恐る恐る自分の頭を触る。
出来たはずのたんこぶはなかった。なんで?
『ほらよ』
「あ、は…ありがとうございます」
目の前に落ちて転がっていると思っていたジャムの小瓶を翳されて思わず受け取る。キャッチしてくれたのかな?
この狼さん、いいヒト…じゃないや、いい狼さん?
『ありがと、ござます』
ひとまずパニックが落ち着いた御蔭でお礼をいうことはできた。
『買い物がしたんだがいいか?』
『・・・もう一回、ゆっくり、するます?「う、間違えた」お、おねがいします?』
たどたどしい言葉で、よく相手を不機嫌にさせてしまうが言わないわけには進まない言葉を言うとやはり狼さんにも溜息をつかれてしまった。
うう、ごめんなさい。
申し訳なくて胸が痛くなるがキレられないだけマシといつ殴られてもいいように心を構えつつ狼さんを見上げる。
狼さんは何か言おうとして止まり、何か考えて思いついたのかちょいちょいと指で手招きした。
広げていた品物を挟んで立っていた私は頭に「?マーク」を浮かべつつ恐る恐る近づく。指差す位置、動作にどうやら狼さんの真正面に立てということらしい?
狼さんの前に立つと狼さんは私の肩を掴んで、ちょっとビクついたのは根性無しだからです。はい、チキンですみません。自分が向いている方向を向かせて品物を指差してくれる。
「あ、なるほど、頭いい。というか親切だあ」
手取り足取り、文字通りそんな感じで思わず感嘆が洩れる。こんなに親切にしてもらえたのは初めてだ。
『軟膏と包帯を2揃え、燻製肉を10だ。わかるか?』
「ええと、それは、」
狼さんがモノを指差したあと指を二本立てて、別のモノを指差して片手を二回振った。慌てて品物のメモの頁をめくりながら確認する。
『回復軟膏、2つ、と燻製肉を10、欲しい? あってる? まちがい、ない?』
『ああ、それであってる』
頷いてくれて間違いがないとわかると嬉々として狼さんの傍を離れる。見本として並べられている(主に私のために)商品から離れたところにおいてある木箱に駆け寄る。『開いて』と教えられた言葉を唱えて木箱に掛けられているロックを外して注文の品を取り出した。数をちゃんと数えて間違いがないことを確認して木箱に蓋をする。『閉まれ』と離れ際に言葉をかけて狼さんのところに持っていく。
『”おまたせしました。品物を確認してください。間違いがなければ、お代金は”、銀貨、1枚、と銅貨・・・じゅ、10枚?”になります”』
硬貨がどれほどの価値なのか銅貨は何枚でクラスチェンジするのかいつかわかる日が来るんだろうか・・・。
自分の怪しいメモを見ながら、間違ってませんようにと天に祈る。
『どれどれ?』
「あ!」
にらめっこしていたメモを狼さんが上から持っていってしまった。ビーンと伸びる紐に腰が引っ張られる。バランスを崩しかけた私と紐に気づいて狼さんはちょっと笑って屈んでくれた。
『へえ、これが銀貨か?で、これが銅貨のしるしか、・・・間違っちゃいねぇみたいだが、嬢ちゃんはどんな辺境からこっちに出てきたんだ?こんな文字見たことがねぇ』
お互いにメモをのぞきこめる位置に、狼さんが独り言のように呟いていく、「銀貨」と「銅貨」と「しるし」は聞き取れた。頷いているということは金額は間違ってないということで自信を持っていいんだろう・・・か、いや、でも、首捻ってるしどうなんだろう? ああ、言葉が通じないって本当すごいストレスだよ。わが身に降りかかっているのが異世界トリップなら言語翻訳のチートくらい授けてもらっててもいいはずなのに!!故障なの?作動不良なの?ねえ神様ってば!責任者出て来い!
なんて心の呟き太郎をしていると狼さんがメモを返してくれて、代金を渡してくれた。私は『失礼します』と受け取って品物を並べた敷物の下から隠しておいた羊皮紙を引っ張り出す。なにやら不可思議な模様が刻まれたソレの上に硬貨を置いて反応がないことを確認して狼さんに頭を下げる。
『”まいどありがとうございました”』
『言葉がわからんなりにしっかりした売り子だな。まあ、頑張れよ嬢ちゃん』
『・・・がんばる、ます。”お客様またのお越しをお待ちしてます。”』
しっかり、売る、頑張る、ナントカ。うんたぶん褒められた、ハズ。笑顔で見送る。
よしよーし!初めて無事に接客できた。この調子だ私!
初めてお客さんに機嫌よく買い物をしてもらえて喜びつつ代金を木箱の中の金袋に入れてしまう。
なにやら外が何か騒がしいような気がするけれど、店番なのだからホイホイ出て行くことはしない。商人さんが出て行く前に引っ引っ繰り返した砂時計はだいぶ砂が落ちきっていた。これが落ちきるかぐらいで戻ってくるって教えてくれたから、もうしばらくすれば戻ってくるはずだ。
”・・・物騒な”
一人のお客様を無事に接客できた自信を持って次のお客様を待つ、・・・待とうとした私にあるじ様の声が聞えた。
呆れたような、心底面倒そうなあるじ様の声は近いような遠いような変な距離で聞えて、私は目を丸くした。
「へ?」
あるじ様の声の方向を探すようにあっちこっちに目を向けるがあるじ様の姿があるはずがない。
挙動不審に廻りをきょろきょろと見回す私。
『嬢ちゃん! やっぱり居たか! 逃げろ!!』
「エ?!」
行き成りさっき帰ったばかりの狼さんが入り口を跳ね開けて飛び込んできて仰天する。怒鳴り込んできた。
な、何?!私商品間違えた?!
商品を飛び越えて腕を掴まれた。凄い恐い。何か言ってるけど、わかんない。クレームなの?謝れって言ってるの?どこかに突き出されるの?
引かれることに抵抗するように足を踏ん張った。
『クソっいいから来い!ここに居たら潰されるぞッ死にたいのか!』
「え? あの、なんなんですか? 私ただの店番なんです。渡すモノの間違えたなら謝りますから、もうちょっとで商人さん戻ってこられますからその人に言って下さい!わからな、わかりません!私、店番なんですってば、もう!やだあ!」
許容量がいっぱいになって喚いた。狼さんが何か言う前に地面が大きく震動して、突風?風じゃなかったかもしれない。わからないけれど体感したことのない衝撃がドーンと体を突き抜けた。
ばふっと顔に固いクッションが押し付けられる。耳には轟々とした音とベキベキとかそういうなぎ払われるような音。目の前は真っ暗で頭の中は真っ白だ。
『あっぶねぇ・・・嬢ちゃん怪我はないか?』
ゴンっと間近で音がして、狼さんの声が上から降ってくる。どうやら固いクッションと思ったのは狼さんの胸に抱き込まれたからだったようです。
恐る恐る目を開けると覗き込んでいる狼さんの向こう側に空が見えた。
え?空?テントは?
『目をつけられると厄介だ。逃げるぞ』
「え?何々?何が起こってるの?」
狼さんが立ち上がるのととともに手を引かれて自分も立ち上がらせられる。そのまま手を引かれて引きずられるように走り出だして私は息を飲み込んだ。
周りはなぎ払われたようにテントを張っていた木と布が飛散し人が倒れてたり、ついさっきまであった長閑さはどこにもなかった。目をやればたぶん店番をしていただろうテントは見る影もない。この狼さんは私を助けてくれた?・・・たぶん・・・いや、懐疑的なのはしょうがない・・・じゃない言ってることがわからないんだもん。
手を引かれるまま走る私の後ろでまたドーンと音がして地面が揺れる。「わっ?!」震動に足を取られてつんのめりそうになった。そしてその拍子に後ろを見てしまった。こけるかもって思った時って割りと無駄に原因を目で探してしまうじゃないですか、アレですよ。そうして手を掴んでてくれてる狼さんが支えてくれてこけずに済んだ私は足を動かしたままソレから目を離せなくなってしまった。
「え?・・・あれ、ってオーガ?」
目に映ったのは頭部の寂しい腹の出た酔っ払い親父を三倍か四倍に大きくしたような巨大なニンゲンに似たナニかだった。手には丸太のような棍棒、腰に巻いた布だけが服装で、その姿は何年か前に熱中していたオンラインゲームのモンスターに良く似ている。出現場所は人里はなれた草原フィールドのボスだった。ダンジョンのボスを倒す練習にお世話になりました、なんてそんな記憶が懐かしい。
そんなCGのモンスターが今まさにリアルに目の前にいるとか、誰か夢だと言って、むしろ起こして!!
パニックと現実逃避のコンボで脳内はぐしゃぐしゃだ。狼さんがいなければ今頃テントと一緒に襤褸屑のように地面に這い蹲っていただろう。感謝はする。いままで、此方にやってきて遭遇したモンスターなんて兎に角が生えたようなレベルしか遭遇していないのにこんなのはあんまりだ神様。言葉も通じない、怪我をしたら痛い。トリップにありがちなチートを自分が持ってる気配がないのにどうすればいいんだ。
ゲームみたいに戦えると思って飛び出して死にました終わり。とか、ないと言い切れないし、それを今実践するとかマジない。
泣きたい、いやむしろ気絶して楽になりたい。起きたら全部夢でした。ソレが無理なら気がついたらモンスターは勇者に倒されてめでたしめでたしでもいい。
ストレスに追い詰められていく意識。力の抜ける体に狼さんが振り返って怒鳴る。ああこういうときに言う台詞ってたぶん「死にたいのかっ」とかきっとそんな――、
『――ぅあーん!』
『子供かっ!』
「――ッ子供?!」
耳に届いた幼い泣き声に同時に止まって同じ方向を見た。狼さんは私を見て大丈夫と判断したらしい。手を離すとオーガに向かって走り出していた。速い。
私はさっきまでのぐちゃぐちゃの頭がびっくりするほどクリアになって、今度は武器があれば援護くらいするのにと正反対の思考を思い浮かべていた。ネガティブのメーターを振り切った反動だろうか?
軽くバーサク状態の精神にあるじ様の声が響いた。
”ほう、武器があれば戦うのか?”
今度は意外と近い。そう思った時には目の前に信じられないモノが浮かんでいた。
「あたしの緑のグラディ!!」
刀身が綺麗なエメラルドに輝く、私が遊んでいたオンラインゲームで使っていた両刃剣。
柄を掴むとしっくりと手に馴染んでいる。色がただ好きで見かけるたびに買わずにいられない衝動に駆られるのでインベにも倉庫にも銀行にも何本も眠らせていたっけ。耐久が削れるのが嫌で新品のまま、、、まあその話はどうでもいいか。
盾があればなお(心身負担軽減共に)良しなのだが、念じてみてもあるじ様はこれ以上出してくれる気配はない。
やる気が前向きなおかげかグラディウスを手にして自信が付いたのか私は戦うために走り出した。
これはゲームの延長だと自己暗示にかかったように私は「できないかも」というネガティブに囚われずに魔法を思い浮かべて発動をイメージした。
スキルをセットしたキーボードのキーを押すと魔法を詠唱しだすキャラクター。しかし、今はキーボード、マウスなんてものはない。キャラクターに自分を投影するのではなく自分自身。難しく考えるのは止める。ここは一つシンプルに、
「アイス、ボルト」
翳す手のひらにほわほわと白い発光体が浮かぶ。ひんやりとした冷気を纏ったそれに喜色が広がる。
いける!
「アイスボルト!」
もう一つ発光体を生み出して速度を上げる。
狼さんは子供にたどり着いただろうか?自分の救援が間に合わないよりも無駄になればいいと心のどこかで祈る。しかし、その思いの向こうでオーガが動きを止め、棍棒を振り上げるモーションに入る。
その棍棒の叩きつけられる先にもし子供が居たら、と最悪の想像が過ぎった。アイスボルトの飛距離が届くのかという疑問やマウスで行うターゲッティングが視認でできているのかわからなかったけれど、ひやりと内臓を撫ぜた可能性に無意識の意思に応えて発光体の一つがオーガ目掛けて飛んだ。
カッキーン!
アイスボルトは無事にオーガに命中したようだが、金属を跳ね返す様な音が鳴り響いた。
「マズい。そういえばオーガってマジックガードをパッシブ(自動発動)で持ってたっけ? だいぶ昔で忘れてた。」
オーガに向かって走っていた地面を蹴って方向転換。ターゲットがこっちに向いたはず、なら被害が出ないところに移動しないと此処じゃ不利だ。視線、いやこれは殺気というものかもしれない。ズズンと揺れを感じて、此方に向いて近づいてくる。
人の目を避けるなんて芸当は念頭にない。ただ、自分が戦える空間に向かって走る。
途中で誰かが矢を放った。オーガは肩に刺さった矢を苛立たしそうに抜き放って進路を変えようとしたので仕方なく浮かべていたアイスボルトを撃って再びターゲットを取り戻す。
そうしてから頭を抱えた。
「しまった!今の弓の人、倒せるならそのままほっとけばよかったんじゃん!何律儀にタゲ取り返してんのよ私のバカ!」
やらかしたことを後悔しつつ凹んでる場合でもないと思考を切り替える。
「ファイアーボルト!」
今度は炎が浮かび上がる。白い発光体と同じく自分の周りをふよふよと浮かぶのを確かめて足を止めた。
商隊の集落から外れ、被害に遭いそうな物がない場所。
「ブランクがあるからって手加減してくれそうにないけど、やるしかない」
一撃でも当たれば死ぬかもしれない可能性に、時間はかかるがちくちくやりあう覚悟も決める。ようは当たらなければいいのだ。
ゲームのキーボードを押すタイミングでオーガの攻撃をかわす。ファイアーボルトで吹っ飛ばされたところを切り込み、体勢を立て直したオーガから距離を取り魔法を唱え備える。それをひたすら、延々と繰り返す。
どれくらい時間が経過しただろうか?それともそれほどでもなかったのか?
集中を切らたら終わりだという緊張感のなか重くなっていく体。
諦めたくなる前に、先にオーガの動きが鈍った。
「こ、れ、で、終われ! ファイアボルト!!」
魔法を撃ちこみながらオーガに向かってその巨体に飛び込む。右から袈裟斬りに、返す勢いで左から右に、そして少しの溜め、足の運び、2打の武器で3打目を生む動作。ゲームならキャラが一刀両断の動きで終るのだが、ゲームじゃないから頭に届かない、だから跳びあがった。渾身の力をこめて。
「やあああーーーーっ!!」
ズバッと一際生々しい感触に瞬間顔が引きつる。しかし柄から手は離さない。
満身創痍で地面に膝を付く目の前で、緑色の体液を撒き散らしながら巨体が倒れ落ちた。
「た、お、せた?」
はっはっと小刻みに呼吸を繰り返す私。手からガランと剣が落ちる。
”詰めが甘い”
放り出してからほったらかしだったあるじ様が今日だけで何度声を聞かせただろうか?
極度の緊張から解放された私のぼんやりとした目に、自分の影から緑の綺麗な鱗に覆われた巨大な尾がずるりと生えた。
・・・生えたの?伸びたの?どっち?
疑問に答えることもなく、無造作にぶるりとソレが辺りを一瞬でなぎ払った。
ベチベチというか、バンバチンというか、そういう音とともに「ギャン」だの「ガアアッ」だの叫びが響いて、そうして辺りは静かになった。
私は、自分の影をペチペチと叩いて地面の感触に理不尽を感じる。
「あるじ様! そんなとこにいたのか!いるんなら!もっと!ほら!色々あるでしょう?!てか契約したんだから言葉とかせめてわかるようにサービスしといてよ!!」
絶対聞えているはずだと影、いや地面を拳で叩く。
”何を言っているのかわからんな”
「うそこけぇぇぇこの緑おおとかげぇぇぇぇ!!」
右も左もわからない世界に突然居て、世に言う世界最強なイキモノに主になってもらったんですが、何この理不尽!
責任者出て来いや!!
拙い文章、ここまでお読みくださってありがとうございます。
文中のオンラインゲームですが、リアルに数年前まで遊んでいたゲームがモデルになってます。わかった方はふふっと笑っていただければそれだけで嬉しいです。
何が書きたかったと憤慨された方には申し訳ありませんが、自己満足で書かせていただきました。誹謗中傷は、ございましたら、勘弁してください。小心者なのです。
ありがとうございました。