表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は女友達  作者: 笠音
1/2

第1話


 ラベンダーカラーのオーバーサイズニットワンピース。黒色のショートジャケット。()()用のタイツを履いて、幾多もの動画で勉強し漁ったメイクを丁寧に施しミディアムヘアのウィッグを装着した姿を鏡で確認すれば、自分でも驚くほどの出来栄えに仕上がっていた。


「おおっ……普通に女子じゃね!?」


 男、天川宙斗(あまかわひろと)。人生初の女装は我ながら完璧なものだった。


 趣味というわけではない。俺がこの格好をするのには大きな理由がある。今日はこの格好で、超重要なミッションを果たす必要があるのだ。

 それにはまず第一に、見た目から男であることが絶対にバレてはいけないわけだが――俺は玄関にある姿見の前で笑みを作ってみせる。うっかり俺が俺に惚れそうになった。上等だ。


 振り返ってみれば俺には素質があった。

 幼少期の頃には女子達にプリンセスごっこに誘われることが多くて。

 小学生の頃には親戚のおじさんの妙な癖を目覚めさせてしまい。

 中学生の頃には同級生の女子に「天川は絶対ウケだよね~」などと言われ。(受けの意味は帰ってから調べた。知らない世界だった)

 高校に入学してからは痴漢被害に二度もあった。


 そうなんじゃないかとは薄々思っていたが……今日改めて確信する。

 俺は、可愛い。そう、可愛いのだ。

 もう一度言おう、とにかく可愛いのである。

 女装界でも相当上振れることは間違いないだろう。


「いや、浸ってる場合じゃない!」


 ハッと我に返り、目的地へ向かうべく外へ繰り出す。家から出るところを誰かに見られなくて良かった。これほどの完成度なら別に見られたとて俺は構わないのだが、もしかしたら家族が嫌な想いをするかもしれないから、念のため。


 駅へと向かう道すがら、少しずつ桜が咲きつつあるのが見えた。今日は少し肌寒くて、念のため春用のアウターを買っておいて良かったと思う。履き慣れないローヒールのブーツで歩を進めながら、これからの用事……今日会う約束をしている友人のことを考える。

 “彼女”と初めて会ってから、ちょうど一年くらいだ。あの頃はまだ桜が咲いていなかった。



 ***


 

 高校生になってから少しして、俺はとある趣味に興じていた。といってもそこまでのめり込んでいたわけではなくあくまで暇つぶし程度。

 それというのは“釣り”である。

 釣るのは魚じゃないし、前提として現実世界の話じゃない。

 『Beastrion(ビーストリオン)』というPCゲームの中の話だ。いわゆるMMORPGというやつで、オンライン上で知り合う誰かと交流しながら進めていくことができる。

 メインはビースト(一般的にわかりやすく言うとモンスター)を仲間にし育成して様々なミッションをこなしていくものなのだが、このゲームの特徴は非常に自由度が高いところだ。

 プレイヤー同士で組んでミッションを進めることは勿論、互いのビーストを戦わせることもできるし、ダンジョン内で宝探しをするも良し、あるいはビーストをペットのように愛でてバトルをせずのんびり過ごしたいユーザー向けのコンテンツも非常に充実している。

 マップも広大で街がいくつもあり、自分の拠点を登録することも可能だ。ゲーム内で職業に就くも無職のままでも皆それぞれに楽しめる作りになっている。

 プレイヤー同士がゲーム内で結婚した翌日には離婚していたり、自警団に所属していたかと思えば数日後に犯罪組織に移籍していたり、カフェの店長が実はバトルランキングのトップ層だったり……とにかく選択の幅が広い。

 「第二の人生のように楽しむ」ことが運営から示されている方針で、荒らし行為をする者は容赦なくBANされる――それも対応が凄まじく早い――ので、時に過激な層からはプチ炎上みたいに取り上げられることも少なくはないが、大した問題ではない。


 さて、そんなゲーム内で俺は無職のまま釣りを楽しんでいるわけで。魚じゃないのなら何を釣っているのかというと。


《こすもすちゃん、グリフォンの霊羽要る?》

『えええっ』

『本音を言えばほしいけど、さすがに受け取れないよ』


 俺自身は肉体も性自認も歴とした男だ。

 しかしゲーム内では“こすもす”という女性として振舞っている――つまりそう、ネカマだ。


《いやいいよw》

《雷属性は俺のところにいないし》

《売らなくても、今のとこ金には困ってないし( ・´-・`)》

『かっこよすぎw』

《www》

《せっかくだし、こすもすちゃん持っておきな》

『すっごい助かる~!!』

『ありがと!』


 ここで「表情」をウル目にして、っと……。

「レア素材ゲットあっつ~。さんきゅー《さすらいのオスカー》さん♪」


 これが俺の“釣り”だ。女性プレイヤーを装って男性からちやほやされるプレイスタイル。

 初めの頃は暇で仕方なかった時に、ネカマとして男が釣れるか試してみる程度だったしすぐに止めるつもりだったのだが……どうやら俺には才能があったらしい。

 可愛い可愛い「こすもすちゃん」はJKプレイヤーとして玄人の皆さんに面倒をみられ順調にレベルをあげていく、まあまあな“姫”となった。


「愉快愉快」

 ネカマ行為は荒らしではない。実際、俺以外のネカマに出会ったこともある。騙していて罪悪感は無いのかって? バレなければいいのだ。それに俺の方から何かをくれとねだったことは一度も無い。……匂わせたことは多少あった気がしなくもないけど、相手が好意で流してくれるものを断る方が失礼じゃないか。

 向こうは女の子と接点を持ててハッピー。俺は優しくされる上に楽に素材を入手できてラッキー。もちろん見返りだって忘れない。俺が狩りに出た時にドロップした素材を「この間のお礼です」と言って渡せばほら、筋は通してるだろ。


 そんな感じで、たまにログインしてはゆるりと遊んでいた中……高二に上がる前の春休みに出逢いはあった。



 日本を模した街の一つ、サクラシティで素材の売買を済ませた後のこと。

 初心者と思しきアバターが右へ左へ、どうもさ迷っているらしいのが見てとれた。俺が街についた時には立ち止まっていて、店に入って出てきてからも目的が無いようにぐるぐると行き来している。

 サクラシティはアジアサーバー使用者の初期スポーン地として選ばれることも多いし、十中八九初心者だろう。服装だって初期装備のものだ。

「……さっきから何してんだ?」

 店にも入らず誰かと交流するわけでもなく、上下左右に動いているのみだ。操作の確認か、それとも誰かと待ち合わせでもしているのか。ゲーム内の単調な動きでしかないが、落ち着きの無いその様子はなんだかそいつが困っているかのように見えた。


『こんにちは、ムラサキさん』


 だから俺は声をかけてみた。ユーザー名「ムラサキ」のそいつに。

 勘違いでも構わない。交流を主軸としたゲームだ。話しかけてみたって何も問題はないだろう。


[こんにちは。]


 少し間をあけてムラサキから返事がくる。入力はあまり早くないのかもしれない。あるいは人見知りなのか。とりあえず、チャット自体は出来るようで良かった。


『急にすみません!』

『もしかして、初めてですか?』


[大丈夫です。]

[はい。]


 やっぱり初心者か。チャットもたどたどしく感じられる。俺が初心者の頃はとりあえず動き回って色んな人に声をかけてゲームに慣れていったものだが、それを難しいと思う人も別に珍しくない。


『そうなんですね!』

『わからないことがあればぜひぜひ気軽に聞いてくださいね^^』


 初心者を見かけた時。そしてその人物が一人だった時。俺は積極的に「案内役のお姉さん」を買って出る。初期の頃は誰しもチュートリアル画面からスタートするし、基本的な操作説明もされるはずだが、それはそれとして経験者が傍にいるのは心強いものだと俺自身も過去に実感していた。


[ありがとうございます。]

[こすもすさん。]


 何より俺には別の楽しみ……初心者プレイヤーが男の場合、自分を女だと信じ込ませた上でその反応を楽しみたいというのもある。何を隠そう、そうして初心者から「こすもすちゃんの囲い」にまで仕立て上げた実績もあるのだ。

 パッと見では、ムラサキはどちらかわからない。初期装備自体は女のものだが髪型が……アフロだ。わざわざネタ枠を選ぶ奴は悪ふざけ好きな男の可能性もある。ネカマでなくても女アバターを選ぶ奴は結構いるし。


『ムラサキさんはこのゲームで何がしたいですか?』


 とりあえず笑顔を表示してみせて問いかける。悪戯心を抜きにしても、純粋に手助けはしたいと思ったから、親切にみえるよう振舞った。


 この出会いが一人の人生を変えるなんて、欠片も考えていなかった頃の話だ。


初投稿です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ