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鈴谷さん、噂話です

赤いまるばつの格子模様

掲載日:2026/03/07

 赤い線で、まるばつ…… 三目並べの格子が専攻教室のホワイトボードに描かれてあったらしい。

 それだけなら、それほど変な話ではない。

 しかし、それは消しても消しても何度でも描かれた。まるばつを遊んでいるようには思えなかった。格子だけで、〇も×も描かれてはいなかったからだ。

 そして、何度もそれが現れるうちに、近内という男生徒の様子がおかしくなっていったそうなのだ。青い顔、どことなく恐怖しているように見える。

 

 「……それで、何かの呪いじゃないかと思って相談しに来たの」

 

 大学の図書館。本棚に囲まれて、まるで部屋のようになっている場所。そこに彼女、黒宮咲はいる。もっとも、いるのは面倒なレポート課題が出た時くらいなのだけど。彼女はそこでレポートをよく書いているのだ。

 「あのねぇ、小牧さん」

 と、いかにも嫌そうな口調で彼女はわたしに言った。

 「前にも言ったと思うけど、私は別に呪いになんか詳しくないのよ。だから、そんな相談をされても困るわ」

 そして、それから、少しの間の後に、

 「そーいう相談なら、鈴谷さんにしなさいな。あいつ、詳しいでしょ、そーいうの」

 と、そう続けた。

 “鈴谷さん”と言うのは、民俗文化研究会というサークルに所属している女生徒で、そういった社会科学関係に造詣が深い。

 黒宮さんと鈴谷さんは仲が悪い…… という訳でもないようなのだけど、少しばかり複雑な関係らしい。だから、半ば嫌がらせのつもりで言ったのだろう。

 「もう相談した。でも、鈴谷さん、あまり乗り気じゃなくって」

 と、わたしはそれに返す。

 それを聞くと黒宮さんは「へぇ」と、つまらなそうに言った。

 「……で、あいつは何て言っていたの?」

 「“格子模様は魔除けに使われるし、赤には魔除けの意味があるから、少なくとも民俗学的な意味じゃ呪いじゃないと思う”って、言っていたわ」

 「それだけ?」

 「“赤には罰って意味もあるけど、それは考え過ぎだと思う”とも言っていた」

 「ふーん」と、そう言うと、それから彼女はこう尋ねて来た。

 「で、あいつはどうして乗り気じゃないの?」

 「近内君の昔からの知り合いが、“あまり詮索しないでそっとしておいてあげて”って言っていたって伝えたら、“それならもう少し様子を見た方が良いわね”って興味をなくしちゃったみたいで…… でも、放っておいていいようにも見えないって友達から相談されちゃってね」

 わたしは近内君の直接の知り合いではない。いわゆる、友達の友達である。

 そこで彼女は表情を変えた。面白そうに笑う。

 「なるほど。あいつらしいわね。情報を充分に集めてからじゃないと動かない。

 でも、その話が本当なら、やっぱり呪いなのかもしれないわね。でもって、それならやりようがある」

 「は?」とわたしはその言葉に驚く。

 「どーゆうこと? やりようがあるって?」

 「“人を呪わば穴二つ掘れ”よ。誰かを呪っているのが他人にバレると、それが自分に返って来る。近内君を呪っている奴も、それはきっと同じなのよ。だからきっとそんな遠回しな方法を執っているのじゃないかしら?

 なら、こう脅してやればいい。

 “これ以上やるのなら、お前の名前をネットに晒すぞ!”

 ってね」

 彼女は妙に確信に満ちた口調だった。わたしにはどうして彼女がそこまで言えるのかが分からなかった。

 がしかし、その方法を友達が実践してみると、それで嫌がらせの赤いまるばつは本当に描かれなくなったそうなのだ。

 

 「――どうして、あれで上手くいったの?」

 

 対策が成功した話を知ったわたしは、即座に黒宮さんを訪ねてそう質問した。黒宮さんは面倒くさそうだったが、それでも理由を教えてくれた。

 「だから、言ったじゃない。“人を呪わば穴二つ掘れ”よ。呪詛返しを恐れて、犯人は何にもできなくなったの」

 「呪詛返しって?」

 「私、呪いが使えるなんて変な噂を流されて、とても迷惑しているのだけどさ、その所為で呪いが何なのか大体理解しちゃっているのよ。

 呪いっていわばネガキャンなのよ。ネガティブキャンペーン。ネガティブキャンペーンって、やっている方にもダメージがあるでしょう? それがつまりは呪詛返し。その呪詛返しを避けようと思ったなら、正体がバレないようにやるしかない」

 「ああ、なるほど。でも、あんなハッタリをよく信じたわね、犯人は」

 「そりゃ、バレそうな要因があったからじゃない?」

 「バレそうな要因?」

 「よく思い出してみてよ。その昔からの知り合いは、察していた訳でしょう? その近内って人がその赤いまるばつに怯える理由を。

 って事は、近内って人の地元で何か事件があったと考えた方が良い。なら、この大学の生徒で同じ地元の人間でしょう。そんなに数はいないわ」

 そう言うと、黒宮さんはノートパソコンで何かを打ち込み始めた。わたしの方に画面を向けると、そこには検索結果だろう一覧が表示されていた。

 「……赤井さんを自殺に追い込んだ犯人?」

 そこには数年前に起こった事件がヒットしていて、全文は読めないが、SNSかBBSだろう記事のタイトルにはそのように書かれてあったのだ。

 「その近内って人の地元で起こった自殺よ。多分、その人が中学生の頃ね。ネットでは自殺に追い込んだ犯人が晒されているみたい。でも、“近内”の名前はなかったわ。きっとそこまで深く関わった訳ではなかったのでしょう。それで、お咎めなしだと判断されたのじゃないかしら?

 だけど、中には許せないと思っている人もいたのでしょうね」

 「ちょっと待って。なら、“赤いまるばつ”って……」

 「まるばつじゃなくて、“赤い井”。つまり“赤井”の意味だったのでしょうね。普通の人はきっとそうは思わない。でも、罪の意識が多少でもあるのなら、ピーンと来るのじゃないかしら? それで近内って人は誰かが自分を責めているのだと解釈して、体調がおかしくなってしまった……」

 そこまで聞いてわたしは感心してしまった。

 「それにしても、よく調べたわね。黒宮さん、やる気なさそうにしていたのに」

 「赤いまるばつが何なのか分かったのは偶然だけどね。

 私、“呪いが使える女”とかって変な噂の所為で迷惑しているから、誰かを呪ってやろうなんて奴が嫌いなのよ。だから、ちょっと呪ってやりたくなったの。

 自分が罰の線引きをしようだなんておこがましい。それに、もし正しいと思っているのなら、堂々と糾弾すれば良いだけ。それができないのは、後ろめたい気持ちがあるって事でしょう。鈴谷さんなら、そういうのも考慮した上で何かするのでしょうけど、私はそこまで考えてやるつもりはない。自分が嫌がらせをした犯人だってバレている不安を抱えたまま暮らすがいいわ」

 わたしは“なんか、矛盾した事を言っているなぁ”とは思ったが、それを口に出さなかった。気持ちはちょっと分かるし。

 どんな理由があるにせよ、やっぱり誰かを呪うのは控えるべきなのだろう……

本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

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