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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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98. 自分の中に無い答え

「強さかぁ。口ではいつもそればっか言ってきたけど、クロが言う通り求めてなかったんだな、俺は。自分でも薄々わかってはいた。けど、それ以外に何もなかったんだ。あいつに指摘されて。いきなり向き合わないといけなくなっちまったじゃねーか。あーあぁ、どうすりゃいいんだ」



「向こうの世界にいた時はこんな事考えもしなかったのに。ユウヤ達がいて、師匠がいて。俺より強いやつばっかなのはこっちと同じ。いつも色んなことに挑戦してた。今だってそうなのに。やってることは同じなのになんでこんなにつまんねーんだ?どうして、俺は満足出来ないんだ。この世界とあっちと、何が違うんだよ。誰か、だれか、頼むから教えてくれよ」


「ヒカル」

「クロ?勝手に入ってくんなよ」

「そうだね。ところで君がどうすべきか。そして向こうと何が違うのか。僕がその答えを持っている」

「お前が?」

「そう。僕だからわかる」

「じゃあ言ってみろよ」


「セツカだ」

「またあいつかよ」

「彼女が君を変えてしまっている。そうだろ?その異世界にはなくてこっちにはあるもの。君にとって大切な人」

「だったらなんなんだよ。どうしてそれが答えになるんだ」

「なぜならセツカが強さを求めていないからだ。君が強くなることを彼女が望んでいるわけでは無い。そうだろ?」

「まぁ、それはそうだろうけど、それこそどう関係があるんだよ。もっとはっきり言ってくんねーか?」

「わかった」


「君は彼女に依存している」

「俺が?」

「ああそうだ。こちらの世界に戻ってきてまもなくセツカに会った。念願の魔王討伐と引き換えに強さを失った。片腕を切られてね。そこで彼女の優しさに触れて君は強さを捨てたんだ。彼女が求めるものを目指そうとした」

「いや、強さを求めたからお前らと」

「あの時の君は自分の気持ちを理解出来ていなかった。だからだ」

「そ、そーだとして、じゃあどうすりゃいいんだよ」

「簡単さ」


「君は元々強さを求めていた。それは強くなる意義を探していたからだ」

「んで無いって気づいたから」

「違う。違うんだヒカル。セツカがいることで君はそう思うようになってしまっただけなんだ。本当は強さを求めているんだよ。だから魔獣化に踏み切った」

「どうかな。お前の話は筋が通ってるようでなんか嘘くさい」

「どう思うかは君次第ではある。よく考えてごらん。君の師は強くなることを目的としていた。何かのために。その何かがわからないからヒカルは迷っているんだ」

「たしかに」


「ヒカル。セツカなんだよ。君の成長を止めてしまったのは彼女なんだ」

「うーん、そうは」

「思えないかい?君はいつもそうやって判断を誤る。だから今の状況に陥っている」

「うるせー」

「決断するんだヒカル。強くなれという師匠の言葉を信じるんだ。君は信じるものがあれば突き進める」

「信じる、お前を?」

「違う。師匠を、だ」

「ヒースの言葉を、信じる」

「そうだよ。最も大切な人と聞かれて答えたのはその人じゃないか」

「師匠に出来なかったことをする。そうだ。だから俺は強さを求めた」

「そうだよヒカル。求めたものを追うんだ」

「わかった」


「具体的には?」

「彼女との縁を切るんだ」

「縁を切る?会わないようにするなら今のままでも」

「そうだね。そうなると今以上に関わりがなくなるようにしなくてはいけない」

「今以上って、会ってないのに。そしたら、あいつがいなくならなきゃいけない」

「いなくなるか。仕方がない。でもそれが出来たら君は決断力を手にする。間違いなく今よりも高みに登るだろう」

「高みに」

「そうだよヒカル。そうだ、ねぇヒカル。魔王になってみたらいいんじゃないかな。頂点を目指すんだ」

「頂点を目指す、俺が魔王に」

「そうだ。強さの象徴でもある魔王。君にこそふさわしい。そのためにセツカにはいなくなってもらわないと」

「あいつが、いなくなる方法」

「そうだよ。考えるんだ。さぁ今日はもう遅い。考えをまとめる時の秘訣はね、寝る前に整理しておいて起きてから決めるのがいい」

「起きたら、決める」

「うん。じゃあおやすみ。ヒカル」

「ああ。おやすみ。クロ」



「ふむ。上手くいったな」

「どうしたのですかクロ」

「ちょっとね。先日王国に入った時に見つけた論文を参考に催眠をかけてみたんだ」

「ヒカルにですか」

「そう。成果は上々だ。この幻惑魔法は中々便利かもしれない」

「クロ」

「なんだい?」

「あまりヒカルをいじらない方がいいと思いますよ」

「どうしてだい?いいじゃないか。彼は興味深いものを持っている。ヒカルを使って色々試したくてうずうずしているんだ」

「そうですか。止めはしませんが助けもしませんよ」

「大丈夫。一人でも問題ないさ」

「ではおやすみ」



「よう。おはようヒカル。出かけるのか?」

「ああ。マル、俺はしばらくここを空ける。俺は魔王になるんだ」

「はぁ?魔王っておい、おい何をするつもりだ」

「別に。それじゃ」

「あ、おい!」


「なぁマル、行かせてよかったのかよ。様子が変だったぞ」

「ふむ。構わんだろ」

「冷たいな。お前、なんかちょっと変わったな」

「以前からこうだったさ。ただ色々と思い出しただけ。安心しろ。ヒカルやお前達を見捨てるようなことはしないさ」

「ふーん、ならいいけどよ」

「ははは。よっこいせっと。じゃあご期待通り、心配だから見に行くかね」

「そうそう、そうこなくっちゃ!へへっ、さっすがマルだぜ」


「ユミ」

「何かしら」

「双子を頼む。特にクロ。ヒカルを使って何か企んでいる。警戒しておいてくれ」

「了解。うふふ」

「なんだ?」

「ゴリラを使った時はどうかと思ったけどこれはこれで中々。以前もステキだったけど、今はもっとダンディでいいわぁ」

「そ、そうか?ありがとう」

「ふふふー、いってらっしゃい」

「おう」

「仲がよろしいことで」



「じゃあね、ニーナちゃん」

「うん。またね」

「うん、うん。じゃあ、いくね」

「うん」

「またね」

「うん」

「じゃ、じゃあ」

「いいから早く行きなさい」

「だってー、寂しいんだもん」

「はいはい。今度は私の方が遊びに行くから」

「ほんと?よーし、待ってるからね」

「まったくもー。今生の別れじゃあるまいし」

「えへへ、だよね。じゃまたね、ニーナちゃん」

「うん。セツ、道中気をつけてね」

「はーい」



「もう。子供か」

「い、いた、ニーナ!」

「え?あ、ミサキ、あーいや、えーっと、こんにちは見知らぬお姉さん」

「セツカは!」

「セツ?さっき帰ったよ?」

「はぁはぁ、そん、そんな。引き返せないって、そういうことじゃないでしょうに」

「どうしたのよ」

「ニーナ、それは。いえ、いいの、なんでもないから。なんでもない。私がどうにかしてみせる!」

「あ、ちょっと。なんなのよもー」



「はぁー、ニーナちゃんとお別れはやっぱり辛い。ていうか、よく考えてみたら村に戻っても私やることないじゃない。査定なんてもう必要ないし。私もお城で働けないか聞いてみればよかったかなぁ。あーぁあー、帰ったら何しよう。もうほんとにテッペン目指して頑張っちゃおうかしら。ギルドに登録して、冒険の旅に出て。世界でも見て回っちゃおうかなぁ。最強の戦士、風のセツカ!なんちゃって。ふふっ。わたしの二つ名ってどんなだろ。村のみんなに聞いてみようかな。みんなか。わたしがいなくて寂しかったー、なんて待っててくれるといいなぁ。いやないか。帰ったら、そーだ。まずはターナさんのご飯をお腹いっぱいたーべよっと」


「やあ、セツカ」

「うわっ」

「会いたかったよ」

「えっと、誰?」

「そうか。ちょっと変わっちまったからな。ヒカルだ」

「えー!ヒカル?ほんとに?随分とまぁ、ちょっと見ない間に大人びちゃって。というか肌の色が変よ?」

「色々あってな」

「色々あって変色したの?相変わらずよくわからないことしてるわね」

「そうだな」


「えーっと、それで何?改心したいとか?」

「改心。そうだな、そうかもしれない。俺は魔王になるんだ」

「魔王って何言ってるの。ちょっと、ほんとにヒカルなの?妙に落ち着いてて、感情がないというか、別人に見えるわよ」

「別人になるのはこれからだ。だからセツカ」

「う、うん」

「死んでくれ」

「へ?」

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