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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
2−3.悪王一味の活動日誌

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96/124

96. 魔族となりて強さを示す

「ナミチさんいらっしゃいますか?」

「はーい、今行きますねー」

「こんにちは」

「あれ、カーバンさんじゃない。騎士団長がわざわざどうしたんですか?」

「交通課に協力いただきたい事がありまして」

「ふーん。とりあえずこちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


「それで?」

「最近騎士や戦士を狙う通り魔が現れるという話しはご存知ですか?」

「それなら知ってるよ。私らも会議開いたりパトロール強化したりで今忙しくなってる」

「そうでしたか。頼みというのはそのことで」

「騎士が襲われてますもんね、何か情報があるんですか」

「はい。ただ、あまり用をなさないものです」

「どういうこと?」


「襲ってきた人物は自らを魔族と名乗っているそうです」

「なんだそりゃ」

「私にもわかりません。その者は、その男は外見は人間なのですが、肌は灰がかった色をしているなど人間とは思えない様相なのだそうです」

「人間じゃないなら、モンスターか」

「いえ、その男の主張は、自分はモンスターではない。自分は魔族だ、と名乗ったそうです」

「さっぱりわからんね」

「ええ」


「断言できませんが、現時点でわかっていることは2つ。騎士を超える強さを持つこと。そしておそらく新手の勢力と思われること」

「厄介なのが出てきたか。わかった。調査に協力してほしいってことね」

「はい。襲われた騎士の中には上位に位置する者もいます。野放しには出来ません」

「具体的にはどうするんだい?」

「まずは情報の整理から。お互いに把握していることを提供しあいましょう」

「ふー、まぁそーだね。今はそれくらいか」

「ええ」


「まったく、最近は妙な手合が増えてきて手が足りません」

「同感だよ。人材不足はうちもだけど、騎士の募集でもしたらどうなんだい」

「検討中です」

「そっか。上手くいくことを祈ってるよ」

「ありがとうございます。それにしても今回の件は長引きそうですね」

「ちゃっちゃと済ませたいとこだけどそうもいかないか。仕方がない。じゃ、提供するものまとめておくから、また話しましょ」

「はい。では失礼します」

「ああ。道中お気をつけて」



「ねぇブルバラ」

「なんでしょう」

「さっきのお使いクエでもらったお菓子が美味しいよ」

「歩きながら食べるのははしたないですよ。それといいですかシユ。ギルドに報告に行くまで気を緩めてはいけません」

「いつも気張ってたら疲れちゃうでしょ」


「最近通り魔も出ると聞きます」

「大丈夫だよ。私が負けるようなら誰も対処出来ないでしょ」

「慢心は油断を生みます。勝てる勝負に勝てなくなることもあるものです」

「そんな相手、ろくに出会ったことないけどね」

「そうですか」

「言っとくけど、自慢じゃないからね?」

「わかっていますよ」

「ライバルがいないってつまらないものよ?」

「そうですね、弱くてごめんなさい」

「あー、ち、違うよ!そういう意味じゃ、もしかして怒ってる?」

「ふん」

「ごめん」

「ふふっ、冗談ですよ」

「もー」


「やっと見つけた」

「うわっ。びっくりした。どちらさま?」

「灰色の長身の男。シユ、噂の通り魔では」

「はぁ?俺が通り魔?」

「いきなり襲いかかっているそうじゃない」

「まー確かにそうか。ま、どっちでもいい。お前、強いよな」

「強いよ。あなたよりずっとね」

「黙れ。それを今から確かめてやるよ!」



「うわわ、何こいつ、かなり出来るわね」

「ははっ!どうした、その程度かよ!動きがわかる、相手をコントロール出来る!皆には感謝だな」

「みんな?」

「へっ、いちいち気にしてんじゃねーよ。てめーはここで終わりだぁ!」

「大きく出たわね。ブルバラ!ギルドに報告を。戻ってくるまでには終わらせておくつもりだけど」

「わかったわ!いいですか、油断してはいけませんよ!」

「はいはい大丈夫ですよ」

「まだ余裕があるってか、いい気になるのもそのくらいにしとけ!」

「あら、だったら本気で戦わせてくれるのかしら。すぐ終わっちゃいやよ」



「トラドさん!」

「お、おお。えーっと、ブルバラか。どうしたんだ慌てて」

「例の通り魔が出ました。現在シユが交戦中。増援をお願いします」

「それは構わないが、シユが手こずってるのか?」

「劣勢ではないですが、どうも相手は単独ではないようなのです」

「なるほど。よし、ちょうどポールがいる。元騎士同士なら連携も取りやすいだろ。連れて行ってくれ」

「わかりました」

「戦士が標的ならこっちにも来るかもしれん。俺は村周辺を警戒しておく」

「了解です」



「ポールさん、こちらです」

「これは、戦いの痕跡というには随分荒れているな」

「そうですね、シユは」

「ふむ、あっちでしょう。まだ戦闘を続けているようですね」

「シユと互角。想像以上の相手ですね、私では不足かもしれません」

「では援護に徹してください」

「承知しました」



「ねー君さぁ、前に会ったことあるよね」

「ああ、これで2度目だ!」

「だよね。その動きに覚えがある。以前よりいい動きするけど」

「そりゃ、どーもっ!」

「おっとっと。もう一つ聞いていい?」

「ちっ、まだ余裕かよ」

「そうでもない。君、悪王だよね?見た目といい、以前とかなり変わってる。何があったの」

「はっ、生まれ変わったんだよ。今の俺は、魔族だ!」

「何それ」

「新しい人類の名だ、覚えておけ」

「ふーん」



「シユ!」

「あ、ブルバラ。もう戻ってきたんだ」

「ぐっ、増援か」

「悪いわねぇ、私も同等の相手とはちゃんとやりたいんだけど、賞金かかってるから」

「金のが大事なのかよ!」

「だってー、今日は置いてきちゃったけど私の槍はとーっても高かったんだもん。なんせ未だにローン残ってるのよ」

「それ、ぼったくられたんじゃないのか?」

「ブルにも言われた。まさか?」

「はっ、強い割に間抜けかよ。その槍持ってこいよ。へし折ってやる!」

「そんなことしたら殺すわよ」

「うっ、今は殺す気がないとでも?こいつまさか、俺を生け捕りするつもりで」

「そうしないと、賞金減っちゃうから、ね!」

「うおっ。ふん。まだ馴染みきってないしな。しゃーねー。ここは引かせてもらうぜ」

「逃がすか!」


「ヒカル」

「クロ。タイミングいいな」

「危なそうだからね」

「引くぞ」

「わかった」

「待て!って、消えた?どうなってるの」



「シユ、大丈夫?」

「うん。大きな怪我はしてないよ」

「大きな怪我はないって、傷だらけじゃない!」

「あー、あはは。思ってたより強かった」

「ふむ。シユ殿がここまで傷を負うとは。厄介な連中のようですな」

「あれ悪王一味だよ」

「悪王?随分雰囲気が違っていたようだが」

「なんか生まれ変わったんだとか」

「生まれ変わる?どういう意味なんだ?」


「ポールさん。一度戻りましょう」

「そうですな。シユ殿はまだ動けますか?」

「うん。大丈夫。帰ろっか」

「はい。帰って治療しましょう」

「あのさ、村に入る前に身ぎれいにしておきたい。このまま入ると皆不安がるでしょ。私がここまで押されるなんてさ」

「そうですね。そうしましょう」

「ふむ。3人で固まって行きましょう。情報を早く伝えることは大事ですが、今襲われたら危険です」

「おっしゃる通りです。ポールさん、よろしくお願いします」

「はっはっはっ、今更そんなに改まらんでもよいでしょう。同じ戦士同士、対等ですよ」

「ふふっ、そうですね」

「そーそ、笑っておこうよ。緊張しっぱなしはよくないよ」

「あなたは少しくらい気を張りなさい。油断しているからそうなるのですよ」

「はーい」



「へっ、どうだ。遂にあいつらにも届くところまで来たんだ!」

「ヒカル」

「なんだよ」

「僕にはそうは思えないよ」

「どういうことだクロ。さっきの見てたんだろ?俺が劣ってるとでも言う気か」

「そうだね。あの女はまだ余力を残していた。確か槍を得意としていたはず」

「だが動きにはついていけていた!」

「それだけでは勝てない。僕でもわかる」

「じゃあまだ足りないってのか!ここまでやっても、まだ!」

「ごめんヒカル。さっき見た事実を言ったまでだ」

「く、くそっ、くそったれ!いや、まだ力が馴染んでないんだ。その内、きっと」



「おかえり。どうだった?」

「うるせーよ」

「おっと。上手く行かなかったか。ま、次があるさ」

「次、次なんて」

「ふむ。何があったんだ」

「マル、黙れよ」

「ふむ」


「クロ、説明してくれ」

「強者と渡り合えていた。でも勝てるほどじゃない。だから落ち込んでいるんだと思うよ」

「ははーん。なるほどな」

「僕がそれを指摘したらああなった」

「それはそうだろ。クロらしいが、言わない方がいいこともあるだろ」

「だけど事実だ。事実を把握せずにいることは過ちに繋がる」

「まぁ、そうだな」

「僕は研究室に行くよ。最近気になっていることがあるんだ」

「ああ、じゃあな。ははは、どっちもあいつららしいが、生まれ変わっても変わらないねぇ」



「やはりこの反応。人間のものが混じっているように見える」

「どうしたのですか、クロ」

「これを見てくれ」

「これは?」

「魔王の骨の成分を分析しているんだ。人間にしか反応しない溶液が反応している」

「これは、どういうことでしょう、魔王は人間だった?」

「いや。奴は人間の寿命とは思えない時を生きている」


「だとするなら、もしかすると魔王も半人半魔なのかもしれない」

「じゃあヒカルは半魔の半魔?」

「クォーターだね。だとしたらとても興味深い」

「ふふふ、どうなるか楽しみですね」

「うん。ヒカルに死なれると困る。僕は彼の力になろうと思う。もっと強くしてあげればいいんだよね」

「そうですが、クロ」

「なんだい?」

「ほどほどにしてくださいね」

「うん?さあ、どんな改造を施そうかな。こういう時は実に楽しい」

「わかってませんね、じゃあ私は寝ますね。おやすみなさい」

「うん」

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