95. 殺し屋イエティ
「魔族でどうだ?」
「ははは。いいんじゃないか?しかしそんなワードどこから出てくるんだ」
「前にいたとこだよ」
「ああ、異世界ね。そこに魔族がいたのか?」
「いたよ。なんか肌の色が血色悪かったり、変な姿の奴とか色々」
「へぇ」
「魔に属する者。魔の一族。魔族、決まりだな」
「皆がなんといいうかな。変える必要あるか?って言われたらどうする」
「はっ、お前らが言ったんだぜ?俺がリーダーだって」
「ははは。よしそれでいこう」
「お前が懐かしむなんてよっぽどいいところだったんだな」
「ああ。俺にとってあそこが帰る場所だったよ。師匠の知り合いの人の家でさ、そこのじーさんがめっちゃ強くて全然勝てんかった」
「ヒカルってなんだかんだで結構負けてるよな」
「負け癖がついてしまったのではないですか?」
「うるせーな」
「ったく、けどもうそれも終わりだ」
「ああ、そーだな」
「皆さんいいですか?一度使ったらもう元には戻れませんからね」
「僕はすでに改良済みだから問題ないよ」
「私も、これでいい」
「よし。じゃあ皆。俺達の未来に乾杯だ」
「セリーだけどな。魔獣化したら俺達は悪王一味あらため魔族と名乗る。ここまで来たんだ。強さを求めた者の末路をこの世界にしっかり刻んでやるぜ」
「私達は永遠を手に入れるため」
「そして僕は研究のため」
「俺はこの世界をもっと見ていたい」
「私はそんなマルを支えたい」
「おれは、おれはこの世界をかわいいでいっぱいにする。ヒカルは?」
「強くなるため。それだけだ」
「なーヒカル。ところでなんだが、なんでマゾクなんだ?」
「魔に属する者。魔の一族その名も」
「そもそも変える必要があるのですか?」
「俺がリーダーだ。お前らが」
「変な名前より悪王一味の方が私は好きよ」
「いや、その、だからー」
「ま、いいじゃないか。たまにはヒカルの言い分も通してやろう。な?」
「マルがそういうならいいけど」
「仕方がないわねぇ」
「僕は何でも構わないよ」
「やれやれですね」
「よし、決まったな。ん?どうしたヒカル。魔族で決まったんだぞ?」
「そーだけどよ、そーなんだけど」
「不服なのか?」
「別に。ぁんだよ、皆して」
「じゃあ、皆、いいな」
「お、おう」
「さすがに躊躇うわね。まるで自害する気になってくる」
「シロ、クロ。後は頼んだぞ」
「了解」
「シロちゃん。もし何かあったら、わかってるわね?」
「もちろんであります。シロ、任務を完遂してご覧にいれます」
「よろしい」
「ははは。なぁダグ。なんなんだこのやり取り」
「動けないことをいいことにいたずらすんなよ、ってこった」
「ああなるほど。大丈夫だろ、若いとはいえ双子は分別のある年なんだからだ。というかそんな大人げないことする奴がいるか?」
「まったくだな。悪魔でもやらねーだろ」
「まったくだな。はっはっはっ」
「じゃ、じゃあ今度こそ」
「覚悟が決まらないなら1人づつでもいいんだぞ?その方が何か起こった時に対処出来るし」
「い、いやいや。やるさ。やるぞーおれ、ふぁいと、おれ。ふぅー」
「俺は強くなりたい。お先」
「あ!ヒカルってほんと変なところで勢いあるっていうか」
「私は」
「ユミ。一緒に飲もう」
「うん」
「お、おれだってー!」
「自分で飲めないなら僕が飲ませてあげようか?抵抗出来ないように痺れさせて」
「もしくは手足をちょん切ってしまいますか」
「いらんいらん!おれは、やるぞ。かわいいのために!うおぉぉぉ」
「いいから早く飲んでください」
「やっと飲んだね」
「ダグは案外流されやすいですからね」
「そうだね」
「さて、皆さんが起きるまでのんびりしますか」
「僕は研究室に行くよ」
「はい。後は私がやっておきます」
「うん。じゃあよろしく。うん?なんだこれ。未開封のゼリー?」
「あ!そ、それは」
「これは、もしかしてユミアに使うつもりなのかい?」
「い、いやぁ、そんなまさか、ははは」
「後でどうなっても知らないよ」
「はい。やめておきます」
「う、俺は」
「目が覚めましたか」
「どのくらい経った?数日ってところか?」
「ええ。そうです」
「皆は」
「ダグが最初に目を覚ましました。最後に飲んだ割に適正が高かったようですね」
「ユミは?」
「まだ寝ています」
「そうか。ヒカルは」
「まだです。彼は時間がかかりそうです」
「そうか」
「気分はどうですか?」
「ふむ。悪くはない。だが、頭がぼーっとするな。そんなものか?」
「どうでしょう。個人差はあると思います。ただ私もダグもそういう症状はありませんでした」
「そうか。様子見かな」
「はい。以上を感じたら教えてください」
「わかった」
「やあ」
「マル?なの?えーと、おはよう」
「おはよ。気分はどうかな」
「ええ、悪くはないわ」
「そうか」
「あなたはどう?何かおかしなところはなかった?」
「大丈夫さ。それどころか調子がいい」
「あら、よかったわね」
「ははは。ああ、最高だ」
「上手くいったのね」
「ふっ。完璧だ。霞がかっていた記憶が鮮明になってきたんだ」
「おめでとう」
「ああ」
「あとは、ヒカルだけね」
「そうだ」
「ダグは?」
「それが一度も姿を見せていない。双子に聞いても何も教えてくれないんだ」
「何かあったのかしら」
「どうもダグが口止めしているらしい」
「ふーん。まいいけど」
「オレは、オレは、う、うぅ」
「うなされてるわね」
「夢でも見てるのかもしれませんね」
「悪夢のようだけどね」
「そうですね」
「ところでシロちゃん」
「はい。なんでありましょうか」
「クロが言っていたのを偶然きいてしまったのだけど」
「グロがでありますか。何をいったのでしょうか」
「私が眠りについてから手元に別のゼリーを持っていたとか」
「そのようなことは決して」
「本当に?」
「そ、そんな間近で凝視しなくとも」
「ふーん。まあいいわ。もし何か企んでいたなら、ね?」
「あはは、何もありませんでしたよ。もちろん」
「ならいいのよ」
「う、ぐっ、お、俺は、お前をっ!」
「ヒカルも目覚めたようです」
「はぁ、はぁ」
「大丈夫ですか?眠ている間ずっとうなされていましたよ」
「ああ。ずっと夢を見ていた。あまり覚えてないけど」
「どこか違和感はありますか?」
「特に、ないかな。まだなんとも言えん」
「何かあったらすぐに知らせてください」
「わかった」
「皆は?」
「あなたが最後です。皆起きてますよ」
「そっか。なんだよじっと見て」
「いえ、雰囲気がかわったなぁ、と思いまして」
「そうかな?自分ではわからん」
「大人っぽく見えます」
「ふーん」
「お、ヒカルも起きたみたいだな」
「えーと、マル?」
「そうだ」
「なんか、なんというか」
「すごくかっこよくなったわよね!」
「あ、ああそうだな。別人に見えなくもないほどに」
「ステキよね。いいわよねぇ。うふふ」
「あんたがそれでいいならいいと思うけど。ゴリラと人間が混ざるとこうなるのか。不思議だ」
「なあダグは?」
「それがいないんだよ」
「おいシロ」
「はい」
「ダグは」
「もふもふさんはどこかに行きました」
「もふもふさん?」
「あらヒカル、起きたのね」
「ああ。ダグがいないみたいなんだが」
「そうなのよ」
「はぁーはっはっはっはっ」
「ダグだな」
「無視しようかしら」
「私は片付けして引っ越しの準備してきます」
「皆揃ったよ、ようだな。つい、ぶへ、ついにこの時が」
「いいから姿を見せろよ」
「ふっふっふっ。とう!」
「ん?」
「なんだ?白い、毛の塊?」
「どーだ。このもふもふ。触りたいだろう!」
「え?ダグ?この毛の塊が?」
「ははは、恥ずかしくてでてこれなかったのか」
「ちがーう!満を持して登場ってことだ」
「もふもふっていうかイエティじゃねーか、ぎゃはははは、何だその姿!ははははは。は、はらいてー」
「ははは。くくっ、あはははははは」
「お、お前ら笑うなよ!」
「ぐっ、ご、ごめん。私無理。あはははははは」
「かわいいだろ!わらうな、わらうなぁー!」
「シロ、皆起きたみたいだね。そして随分と騒がしい」
「ふっ。ダグの姿を見て笑わない者などいないでしょう」
「ダグが眠っている間にシロもすごく笑ったからね」
「だって、あれはないでしょう」
「珍獣としての価値なら相当なものだ」
「ぷぷっ。クロのそれが一番ひどいですよ」
「そうかな?事実を言ったまでなんだけど」
「だからですよ」
「ま、まぁ無事に皆で魔獣化を果たせたんだ。まずは祝おうか」
「そうね、でもダグは視界に入らないでほ、ほしい。くくくっ」
「もういい。切ってくる」
「え?ああ、あーいっちゃった」
「すぐ戻ってくるだろう」
「じゃあ今度はちゃんと乾杯だな」
「ああ。だがすぐにここを出るからな。その後はしばらく忙しくなるぞ」
「早く力を試したいな」
「焦るな。まず自分に出来ることを確認しろよ」
「わかってる」
「俺が今やらなきゃいけないこと、か」




